【第4回 人材像WG 速報】「リフレクション/内省」が人生100年時代キャリアのカギ
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AIやIoTといった次世代テクノロジーを中心に、第四次産業革命が到来していると言われる中、産業構造の変化はもちろん人の働き方も大きな転換点を迎えています。
「人材力」こそが企業競争力の源泉たる要素として注目され始め、「一億総活躍プラン」の流れの中で「働き方改革」とともに「人づくり革命」などの議論が活発化しています。2017年9月に発足し、HR業界をはじめ各所で話題になっている「人生100年時代構想会議」も、まさに同様の文脈に端を発しています。
その流れを受け、経済産業省主導のもと「我が国産業における人材力強化に向けた研究会(人材力研究会)」が設置され、それに紐づくワーキンググループのひとつ「必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキング・グループ(人材像WG)」が、2017年10月16日より始動しました。
12月6日に開催された第4回「人材像WG」を聴講してまいりましたので、速報レポートをお送りいたします。
なお背景となる要旨、及びこれまでの展開は第1回 / 第2回 / 第3回 のレポート記事をそれぞれご覧ください。
第4回 人材像WGのテーマ
前回のテーマは、ゲストスピーカーのデジタルハリウッド大学大学院教授の佐藤 昌宏氏が「人生100年時代における社会人の学びの新潮流 ―スキル転換― 」というテーマでプレゼンし、社会人になっても学び続けることを紐解く以前に、そもそも何故学ぶ必要があるのか、何を実現するために学ぶのかといった根本課題についての議論が盛り上がりました。
そして、第4回となる今回は「人生100年時代の社会人基礎力」と教育のあり方、企業のあり方を深掘りするため、有識者ゲストスピーカーとして、昭和女子大学ダイバーシティ推進機構キャリアカレッジ 熊平美香 学院長と、株式会社デジタルハーツ第二創業推進室 河野亮 副室長が出席。
ゲストスピーカーのプレゼンは、それぞれ下記のようなテーマ・要旨でした。
- 熊平氏・・・学びと主体性の質の転換
- 河野氏・・・株式会社デジタルハーツの人材活用、戦力化事例
熊平氏「教育は社会の映し鏡。経済界から21世紀型の指導にシフトしていく必要がある」
昭和女子大学ダイバーシティ推進機構キャリアカレッジ 学院長の熊平氏は、「学びと主体性の質の転換」というテーマのもとで発表しました。
具体的提案内容としては、4つの軸とそれに紐づく14の項目に分かれます。
(1)「学び」の質の転換
・学校教育に社会人基礎力が含まれる
・地位や年齢に関係なく、誰もが学ぶ
(2)VUCAワールドの「学び」が求めること
・変化に前向きに対処する
・主体性を再定義する
・多様性を活かす対話力を持つ
・民主的で参画型なコミュニティを作る
・システムとして物事を捉える
・テクノロジーを道具にする
・ソーシャルとビジネスを融合する
・高い倫理観を持つ・正しい選択をする
・学びを再定義する
(3)「学び」が求める環境
・学ぶ環境を創る
(4)リフレクション(現実をみること)から始めよう!
・世界と同期する社会を創る
・社会人基礎力の改定 ⇔ 経済と教育の対話
中でも、画一的に学ぶことが当たり前だったこれまでの教育は、21世紀に求められる“主体性”と“社会人基礎力”を育むことが困難であることを社会全体が直視し、経済と教育の対話が不可欠であり、“教育は社会の映し鏡である”ことを認識し、経済界主導で21世紀型にシフトしていく必要があると主張しています。
「反省」ではなく「内省」が必要なワケ
熊平氏の提案項目について、垣見氏が「 “学びへの意識” や “環境” を変えるうえで、どの要素が最も重要になるか? また社会人になってから注力すべきポイントはどれか?」と質問。
熊平氏は「全部大切です」とした上で、「主体性は誰もが本来持っている。しかし、社会や組織では個人の主体性を眠らせておく(主体性を出すことなく、おとなしておく)ことのほうが得であるという意識が根づいてしまっている。“主体性を開花したほうがイイ”ということを気づかせ、意識を変えていく必要がある」と補足。また、「リフレクション(内省)」の重要性についても強調し、日本では「反省」という言葉のほうが広く使われているが、ネガティブな印象があることについて言及しています。
また、オブザーバーの宮島氏は、「反省」という言葉だけでなく「学び」という言葉にも、ネガティブなイメージが根づいてしまっており、このイメージを変える必要があるのではないかとコメント。
これに対し熊平氏は、「学び」という言葉が素敵なものであると認識されていないのではという仮説のもと、深い学びを得るために、
- 目的:何のために理解するのか。
- 知識:その知識/情報は何で、お互いどういう関係にあるか。
- 方法:どう理解を進めるか。
- 形式:理解の表現の形。
という4つの軸を捉えることで「理解の質」を高めることの重要性を解説したほか、感情が思考に与える影響を知るために有効な手段として、
- 意見:私はこう考える。
- 経験:その背景にはどのような知識や経験があるか。
- 価値観:その考えの背景にはどのような価値観があるか。
- 感情:その経験と価値観はどのような感情と紐づいているか。
というフレームワークを紹介しています。
河野氏「多様な潜在労働力をプロフェッショナル人材として戦力化」
続いて、株式会社デジタルハーツ第二創業推進室 副室長の河野氏は、人材活用や戦力化事例について紹介。
同社は、家庭用ゲームソフトをはじめとしたデバッグサービスを提供するなかで「不具合を検出し、報告するところまで」をサービス範囲とし、求めるコンピテンシーも明確化し、下記のように定義しています。
- 開発工程を知らない「ユーザー」である。
- バグの検出と報告までをサービス範囲としており、専門的な開発技術は不要。
- ソフトウェア製品に慣れ親しんだ、ITリテラシーが高い人材。
これらの要件を満たす人材として、いわゆる「ニート」「フリーター」に着目。仮に社会経験が乏しくとも、高いITリテラシーを活かすことで、デバッグサービスで活躍できるのではないかと考え、スタッフとして採用していったようです。
その戦力化における取り組みの行程として、下記3点に注力しています。
- 導入研修、朝礼の実施・・・社会性の向上
- チーム制・・・コミュニケーションを引き出す
- キャリアパス・・・キャリアを積み社内外での活躍
これにより、潜在労働力をプロフェッショナル人材として戦力化し、“三方良し”となる社会貢献性の高い事業モデルを確立しています。
「社外へ旅立っていく人材は“卒業生”」
河野氏のプレゼンテーションを受け、米田氏が「キャリアを駆け上がっていく人材は、そこに至らなかった人材と比べどのような違いがあるのか?」という質問。
これに対し河野氏は「上にあがっていく人材に共通しているのは、自分が必要な人材であると“認められる”ことで“居場所”を見つけ、キャリアを駆け上がっていく」と回答しています。更に、株式会社デジタルハーツ 社長補佐の武林氏が、表彰制度について補足。
具体的には、大企業などでよくあるテンプレ化された文言に代表取締役の名が入った表彰状ではなく、ひとりひとりにあわせた「認められていることを実感できる」表彰状を渡すことで、自己肯定感の触発を促しているようです。
また、オブザーバーの宇佐川氏(リクルートジョブズ ジョブズリサーチセンター長)の「朝礼を省く会社も増えているが、何故重視しているのか?」という質問に対しては、「今日やってほしいことは何か、何故その業務が必要なのかを1日1日認識をすり合わせることが目的」とし、上記同様自己肯定感の触発に一役買っているようです。
印象的だったのは、宮島氏による「戦力化した人材が社外へ流出するのは痛手ではないのか?」という質問に対する河野氏の回答。
「これまで“ニート”と呼ばれていた方々が社外で活躍するのは素直に嬉しい。また、そういった人材が転職・起業し、弊社へ発注いただくことで新たな仕事・取り組みが増えるケースもある。そういった観点も踏まえ、弊社から旅立っていく人材を“卒業生”と呼んでいる」とコメント。働く個人はもちろん、自社・顧客、そして社会と様々な面で好影響を生む仕組みになっているようです。
「人生100年時代」の企業の在り方とは?
続いて、経済産業省 産業人材政策室の藤岡補佐より、「『人生100年時代』の企業の在り方 〜従業員のキャリア自律の促進〜」というテーマでのプレゼンが行われました。
その中で、起業が従業員に向けて取り組むべきポイントを紹介。
(1)キャリア開発支援
■企業にとって
・エンゲージメント・生産性の向上
・事業環境変化に強い人材の育成
■産業/社会にとって
・個企業の状況に依らず働ける人材の創出
(2)リテンションの強化
■企業にとって
・労働力不足のフォロー
・後継者の育成/技術・ノウハウの社内継承
■産業/社会にとって
・労働力不足のフォロー
・働き手の不安解消
(3)新たな関係性の構築
■企業にとって
・社外転進者を巻き込んだ広いネットワーク形成による事業拡大
・「囲い込む企業」のリピュテーションリスク回避
■産業/社会にとって
・社会全体での人材の最適配置の実現
・産業全体での知見共有・成長
これら大きく分けて3つのポイントについて、各企業での取り組みや成果の事例も紹介。
例えば、高島屋では「リテンションの強化」のための施策として、能力・意思に合わせた多様な再雇用コースを用意する一方、セミナーで働き手に再雇用時のマインドシェンジの必要性理解を促進。
具体的には、「多様なポジションの用意」→「ダイバーシティマネジメントの浸透」→「マインドセット変革に向けた面接/研修」→「多様なポジションの用意」…といった形で循環させることにより、1,400名以上の再雇用(全体の約15%)という成果に繋がったようです。対象者の約8割がこれらの制度を活用しているようで、一過性のものではなく、再現性あるシステムとして根づいていることがわかります。
その他、職務・役割ベースの等級制度/報酬制度を導入している企業を対象とした「賃金制度改革に関する企業向けアンケート調査」の結果についても速報として紹介。
職務・役割ベースの人事制度を導入したことによるメリット・効果として、
- 「職務・役割に応じた報酬水準に適正化できた」(73.86%)
- 「年功に依らない人材の抜擢・適正配置ができた」(60.13%)
- 「優秀人材のモチベーション向上ができた」(34.64%)
といった回答結果が出ており、このような人事制度が、能力・スキルアップへ向けたインセンティブとして有効であるという示唆が得られています(注・速報値であり、最終調査結果とは内容が異なる場合があります)。
意見交換のハイライト
次に、ここまでのプレゼン内容をもとに各委員・オブザーバー・ゲストスピーカーによって自由討論形式で意見が交換されました。
垣見氏は、日本型雇用形態のデメリットを踏まえた上で、定期的に自分のキャリアを棚卸しし、リフレクションする必要があることについて言及。それと同時に評価制度も見直す必要があることも挙げています。具体的には、日本の面談では減点主義の中でネガティブフィードバックの時間配分が長く、自己肯定感を削いでしまっている側面があり、一方海外ではポジティブフィードバックの割合のほうが高く、加点主義の中で社員の自己肯定感を育んでいると考えられそうです。
続いて西村氏も、「自社の社員を信頼しているのか、心配しているのかで企業と個人の関係性が変わってくる。具体的には、性善説運用なのか性悪説運用なのか。前者ではメンバーのWILL(意志)が後押しされるが、後者では学びのモチベーションが生まれない」とコメント。
また、宇佐川氏も「自身の市場価値はどれくらいなのか」と、客観的に自分の現在地を知ることの重要性について触れています。
これらの意見に共通するキーワードとしては、「リフレクション(内省)」「自己肯定感」が挙げられるでしょう。
つまり、人生100年時代において「自律的キャリア形成」が求められる中で必要な社会人基礎力のひとつが「リフレクション」であり、これを紐解くと、
- 自身のスキルやキャリア・成果、市場価値といった客観的な値・事実にもとづき内省する
- これによりキャリアの棚卸しとプランの再構築を繰り返す
- その実現に求められるスキルを習得するために学び続ける
- そのモチベーションを促す要素のひとつが「自己肯定感」である
といったように、考えられそうです。
一方、武林氏が「学び続けることを推奨する一方で、その一部を企業が“研修”として担うのであればこれは業務時間にあたる。つまり残業を削減し、長時間労働を削減しようという潮流とは相容れないのではないか」と発言。長時間労働の是正等を踏まえ、企業における研修をどのように捉え、対策していくかは、経済産業省のみならず厚生労働省を含めた今後の動きに注目です。
続いて、諏訪座長も「社内研修では労働時間・残業時間になる、では個人の主体的な学びをメインで考えると、その“個人の主体的な学び”の意欲をどのように促すのか、という課題が出てくる」としています。
仕組みづくりと同時に「モチベーション」面での懸念点を解消していく必要があり、そのヒントのひとつが「リフレクション」と「自己肯定感」であるのかもしれません。
(詳細なる議事要旨や配布資料は、順次、経済産業省ホームページより公開される予定ですので、是非そちらをご参考ください。)
【参考】人材像WG委員名簿(敬称略)
■ 「必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキング・グループ」委員
垣見 俊之 伊藤忠商事株式会社 人事・総務部長
諏訪 康雄 法政大学 名誉教授【座長】
西村 創一朗 株式会社HARES 代表取締役
米田 瑛紀 エッセンス株式会社 代表取締役
■ 「中小企業・小規模事業者・スタートアップ等における中核人材の確保・活用促進に向けた検討ワーキング・グループ」より参加
宇佐川 邦子 株式会社リクルートジョブズ ジョブズリサーチセンター長
宮島 忠文 株式会社社会人材コミュニケーションズ 代表取締役社長
■ ゲストスピーカー
熊平 美香 昭和女子大学ダイバーシティ推進機構キャリアカレッジ 学院長
河野 亮 株式会社デジタルハーツ第二創業推進室 副室長
武林 聡 株式会社デジタルハーツ 社長補佐