人的資源管理(HRM)とは?4つのモデルと事例をわかりやすく解説
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目次
人的資源管理(HRM)とは?
人的資源管理とは「Human Resource Management」を日本語にした言葉で、企業が経営目的を達成するために働く人々(人的資源)を管理するための一連の活動を指します。
「基本的に企業組織において労働者の自律性と他律性を組織目的に向けて統合しようとする諸制度」と定義され、諸制度には以下が含まれます。
- 雇用
- キャリア開発
- 人事考課
- 報酬
- 福利厚生
- 労使関係
(参考)奥林康司 - 『入門人的資源管理』
人的資源管理と人事労務管理との違い
人事労務管理(Personal Management:PM)と人的資源管理(HRM)は、一般的に以下に区別されます。
人事労務管理(Personal Management:PM) | 集団としての労働者を重視し、労働組合との関係や労働条件、社会保障の維持向上など、企業と社会とのつながりに注目 |
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人的資源管理(HRM) | 個人としての労働者の能力開発や評価に注目し、経営戦略の実現に向けて人材を効果的に活用することを重視 |
明治大学経営学部の山崎氏は、現代の人的資源管理が企業内部の効率性を重視しすぎた結果、中核業務に携わる人材とほかの人材の処遇格差拡大や、外部委託業務を担う人材の労働条件の低下といった課題が生じていると指摘。これからの人的資源管理には、企業の効率性だけでなく、社会全体への影響も考慮する視点が必要だと述べています。
(参照)山崎 憲「人事労務管理と人的資源管理におけるinternalとexternal
人的資源管理の目的
人的資源管理の最大の目的は、経営目標の達成です。そのために大きく以下が実施されます。
- 戦略の実現に必要な人材の確保
- 従業員、組織の生産性向上
- 企業戦略と従業員業務の整合性確保
(参考)上林憲雄, 厨子直之, 森田雅也 - 『経験から学ぶ人的資源管理 (有斐閣ブックス)』
人的資源管理のモデル・理論
人的資源管理には、4つの代表的なモデル・理論があります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
ミシガンモデル
1980年代、アメリカのミシガン大学を中心に行われた研究をベースとしたモデルです。人的資源管理は戦略的マネジメントの一部を構成する前提のもと、以下の4つの機能を経営戦略と結びつけて実行することで、組織と個人のパフォーマンスを向上させる考え方です。
- 採用と選抜
- 人材評価
- 人材開発
- 報酬
ハーバードモデル
1980年代のハーバード大学での研究をベースとしたモデルです。人的資源管理は「状況的要因」と「ステークホルダーの利害」から影響を受けるとする考えです。
状況的要因:
- 経営戦略
- 労働市場
- 従業員の特性…など
ステークホルダーの利害:
- 株主
- 経営者
- 従業員…など
そのうえで「従業員にもたらす影響」「人的資源のフロー」「報酬システム」「職務システム」の4つの領域を効果的に機能させることで、短期・長期的な成果がもたらされるとしています。
短期的な人事の成果:
- コミットメント
- 能力
- 整合性
- コスト効果
長期的な成果:
- 従業員の満足度
- 組織の効果性
- 社会への貢献
AMO理論
AMOモデルでは、以下の3要素を人的資源管理が維持・向上させることで、組織の持続的競争優位が高められるとしています。
- 能力(Ability)
- モチベーション(Motivation)
- 機会(Opportunity)
とくに2012年に発表されたJiang etalのメタ分析では、人的資源管理施策を3つに分類。それらによって構成される高業績人的資源管理システムが組織内の従業員モチベーションや人的資本(human capital)および企業の成果指標に影響を与えるメカニズムを明らかにしています。
- 能力向上 HR 施策(ability-enhancing HR practices)
- モチベーション向上 HR 施策(motivation-enhancing HR practices)
- 機会向上 HR 施策(opportunity-enhancing HR practices)
(参考)竹内 規彦 - 戦略的人的資源管理研究における従業員モチベーション ─文献レビューと将来展望
(参考)竹内 倫和 - 人的資源管理と組織及び個人成果との関係についての理論と実証
PIRKモデル
PIRKモデルでは、競争力の高い人的資源管理施策には、従業員の参加を高める4つの要素が含まれる必要性を指摘しています。
- 権限委譲(Power)
- 情報共有(Information)
- 公平な報酬(Reward)
- 従業員に帰属する知識(Knowledge)
人的資源管理のメリット・デメリット
メリット(1)生産性向上とイノベーション促進
従業員のモチベーションが向上し、生産性が上がります。個人と組織の目標が連動することで、従業員の自発的な業務改善も期待できます。また、高いモチベーションは職場の活性化につながり、組織全体の生産性向上にも寄与します。
メリット(2)人材定着とノウハウの蓄積
企業や業務への満足度が向上し、離職率が下がります。とくに優秀な人材の定着率向上は、採用コストの削減にもつながります。さらに、長期的な人材育成が可能になることで、組織のナレッジやノウハウの蓄積も促進されます。
メリット(3)戦略実現に必要な人材配置・育成
企業の経営戦略と従業員の日々の業務活動を効果的に結びつけることができます。戦略目標の従業員への浸透が進み、組織全体として一貫性のある行動が可能になります。また、戦略実現に必要な人材要件の明確化により、効果的な人材配置や育成が実現できます。
メリット(4)人材育成を通じた競争力強化
従業員の成長を促進し、組織の競争力が高まります。計画的な人材育成により、将来の経営人材の確保にもつながります。また、従業員のスキル向上は、企業の技術力や顧客サービスの質の向上にも直結し、市場での競争優位性を高められます。
メリット(5)個人の能力最大化による組織力向上
個人の能力を最大限に引き出すことができます。適材適所の配置や、個人の強みを活かした職務設計により、従業員のパフォーマンスが向上します。さらに、個々の能力を活かした柔軟な組織運営が可能になり、環境変化への対応力も高まります。
デメリット(1)成果測定の困難さ
施策の業績寄与を測りづらい面があります。人材育成の効果は長期的になりがちで、短期的な投資対効果の説明が困難です。また、人材育成の成果は数値化しにくく、経営層や株主への説明責任を果たすことが難しい場合があります。
デメリット(2)労使関係のパワーバランス課題
企業と従業員が対等な立場を保つことが難しい場合があります。評価や処遇に関する決定権は最終的に企業側にあり、パワーバランスの不均衡が生じやすいです。この不均衡は、従業員の不満や不信感につながる可能性があり、モチベーション低下の要因となることもあります。
デメリット(3)個人主義がもたらす組織への影響
個人に焦点を当てすぎると、組織全体の調和が損なわれる可能性があります。過度な成果主義は、部門間の協力や情報共有を妨げる要因となるだけでなく、個人の成果を重視しすぎることで、チームワークや組織文化の醸成が疎かになるリスクもあります。
デメリット(4)運用コストと体制整備の負担
制度の構築や運用に時間とコストがかかります。人事制度の設計から導入、定着までには相当な工数とコストが必要で、中小企業では負担が大きくなります。さらに、制度の運用には専門知識をもった人材が必要となり、人事部門の体制強化も求められるように、制度の見直しや改善にも継続的なコストが発生します。
人的資源管理で具体的に実践すること
(1)経営戦略と人事戦略の連動
経営目標の達成に必要な人材要件を定義し、それにもとづいた人事戦略を策定します。この際、定量的・定性的なKPIを設定し、施策の効果測定ができる形にすることが重要です。
(2)タレントマネジメントの基盤整備
評価・報酬制度の設計・運用を通じて、公平で納得性の高い人事施策の基盤をつくります。また、人材情報の可視化を進め、データにもとづく意思決定を可能にします。これらの基盤は、ほかの施策の効果を高めるために不可欠な要素となります。
(3)人材の確保・育成・配置
採用から育成、配置まで一貫した視点でタレントマネジメントを行います。とくに、従業員の成長とキャリア開発を支援する仕組みづくりが重要です。教育研修は、戦略的な人材育成の視点から体系的に整備する必要があります。
(4)組織・風土づくり
従業員のエンゲージメント向上と、それを支える職場環境の整備を進めます。組織の活性化には、部門を越えたコミュニケーションの促進や、従業員の主体的な参画を促す仕組みが効果的です。
実践における重要ポイント
実践にあたっては、各施策の相互関連性を考慮した統合的なアプローチが必要です。また、経営層のコミットメントと現場管理職の協力を得ながら、継続的な改善サイクルを回していくことが成功の鍵となります。
とくに重要なのは、短期的な成果と中長期的な組織力の向上のバランスを取ることです。データにもとづく効果検証を進めながら、環境変化に応じて柔軟に施策を見直していく姿勢が求められます。
このように、人的資源管理の実践は、複数の要素を総合的にマネジメントしていく取り組みといえます。
人的資源管理の実践事例
三井化学の人的資源管理
三井化学では、経営戦略とタレントマネジメントを効果的に結びつけ、組織と個人の持続的な成長を実現しています。
1. 長期的視点での戦略的人材マネジメント
- 10年先を見据えた長期経営計画(VISION 2025/2030)の策定
- 環境変化に応じて戦略をアジャイルに見直し
- 経営戦略と人的資本の連動を重視
2. 3つの優先課題
- 多様性に富む経営者候補の戦略的獲得・育成・リテンション
- 自主・自立・協働の体現
- グループ全体での人材ポートフォリオの構築
3. 実効性の高い推進体制
- HRBP(人事ビジネスパートナー)制度の導入
- 経営会議での定期的な人材戦略の審議(年4-5回)
- データにもとづいたPDCAサイクルの実施
4. 具体的な施策
- グローバルレベルでのタレントマネジメント
- 後継者育成計画の策定と実行
- エンゲージメントサーベイによる組織状態の可視化
- キータレントマネジメントの導入
5. 成功のポイント
- 経営陣と現場の効果的な巻き込み
- 施策と人事担当者の目標の紐付け
- オフィシャルな意思決定プロセスへの組み込み
- 継続的な改善活動とフォローアップ
SmartHRでデータを活かしたタレントマネジメントを実現
こうした人的資源管理における具体的なアプローチの1つがタレントマネジメントです。タレントマネジメントとは、従業員の能力や素質(タレント)を活用するマネジメント手法です。従業員のタレントを情報収集・分析して、人材の獲得、開発、配置といったあらゆる人事施策に活用することで、企業のパフォーマンスを高め、経営目標の達成を実現します。
SmartHRを使うと、従業員サーベイはもちろん、従業員データの管理や人事評価、配置シミュレーションも1つのツールで完結できます。最新の従業員データを収集・蓄積し、組織や従業員の状態を把握し、人的資源管理の実施に活かせます。
なかでもHRアナリティクス機能では部署・役職・雇用形態などのデータだけでなく、人事評価やスキル管理機能など幅広いデータを横断して分析可能。離職分析やハイパフォーマーの特定など、組織力強化に向けた示唆を得られます。
HRアナリティクス機能について詳しく知りたい方は、以下の資料をご覧ください。
Q1. 人的資源管理とは何ですか?
人的資源管理は、従業員の能力や可能性を最大限に引き出し、組織の目標達成に活かすための総合的な管理システムです。雇用、育成、評価、報酬など、さまざまな施策を通じて実現します。
Q2. 人的資源管理のモデルにはどのようなものがありますか?
主な理論モデルとして、ミシガンモデル、ハーバードモデル、AMO理論、PIRK理論の4つがあります。それぞれ特徴的なアプローチで人材活用を図ります。
Q3. 人的資源管理の目的は?
企業の経営目標達成のために、従業員の能力を最大限に引き出し、活用することです。個人の成長と組織の発展を両立させながら、持続的な競争優位性を確立することを目指します。