事業成果を高めるパーパスやバリューの決め方と浸透のためのサーベイ活用
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こんにちは、SmartHRでプロダクトマーケティングマネージャーを務めている埜村(のむら)です。
組織においてダイバーシティ(多様性)の重要性を耳にする機会が増えていますが、同時に多様化した組織や従業員をインクルージョン(統合)するために、パーパスやミッションなどを軸にした経営があらためて注目されています。
今回は、「パーパス・ミッション・ビジョン・バリュー」について、それらを活用して事業成果を高めるにはどうしたらいいのか、それらを浸透させるためのエンゲージメントサーベイの活用方法について解説していきます。
パーパス・ミッション・ビジョン・バリューの定義とメリット
パーパス・ミッション・ビジョン・バリューはこのように定義されます。
- パーパス:存在意義
- なぜ会社が存在するのか
- (Whyを示す言葉)
- ミッション:使命
- 何をするのか・何に命を使うのか
- (Whatを示す言葉)
- ビジョン:映像
- 目指す姿・ミッションを実現した先の世界観
- バリュー:価値観
- パーパス・ミッション・ビジョンを実現する際に大事にしたい考え方や行動
パーパス・ミッション・ビジョン・バリューのメリット
このようなパーパス・ミッション・ビジョン・バリューを企業が定義するメリットはなんでしょうか。
日本では、労働力人口と労働力率の低下により人材獲得競争が激化しています。
企業は業績を伸ばすために生産性を向上させるのはもちろん、従業員も増やしていきたいと考える一方で、採用の難易度は近年どんどん高くなっています。
実際に自社に面接に来て「採用したい!」と思った方や、周りの転職活動中の方を見ると、特定の1社だけを受けている方はあまりおらず、複数の内定をもらっているケースの方が多いのではないでしょうか。
このように人材獲得競争が激化するなかで、採用競合に負けずに欲しい人材に入社してもらう、もしくは優秀な人材に自社で働き続けてもらうために重要になるのが、今回のテーマでもあるパーパスやミッションです。
社会心理学では、人が組織に感じる魅力因子をこのような4つに分類をしています。
この4つの魅力因子のなかでも、特に会社が向かう目標や目標設定の背景、組織風土は他社との違いを出しやすいですが、事業内容や仕事内容に関して「うちだけでしかできません!」と言い切れるものはなかなか多くないでしょう。
そのため、会社が向かう目標、つまりパーパス・ミッション・ビジョン・バリューが魅力的であり、従業員に浸透している状態だと、人材獲得競争が激化するなかでも優位に立てる可能性が高くなります。
また、事業・組織・個人視点ではこのようなメリットがあるといえます。
まず事業視点では、さまざまな事業部をまたいだ会社全体(もしくは複数法人のグループ全体)として、お客さまに提供したい価値や解決したい課題を定義・浸透させることで、組織が同じ方向に向かい、事業シナジーが生まれやすくなります。
また、組織においては、会社にとっての良い行動や判断軸がバリューという形で浸透することによって、従業員をマネジメントする際に一から背景を説明をせずともバリューによってすぐに理解がされたり、メンバークラスの従業員でもバリューをもとに現場で適切な意思決定ができるようになります。
さらに、従業員個人の視点では、働くモチベーションが高まるメリットもあります。
中長期的な明確な目標を持って会社に所属したり仕事をしている人の割合は2割程度といわれており、大半の人は中長期的な明確な目標を持てずに日々の仕事を積み上げながらキャリアを築いています。
しかし、目標があることでモチベーションは高まります。会社のパーパスやミッションへの共感度を高めることで、そのような人たちの働くうえでの目標を会社が生み出すことができ、従業員の働くうえでのモチベーションを高めることができます。
パーパス・ミッション・ビジョン・バリューを決めるポイント
では、パーパス・ミッション・ビジョン・バリューを決める際にはどのようなポイントを押さえたらいいのでしょうか。まずはパタゴニアという会社のミッションの変化をみながら考えてみたいと思います。
パタゴニアのミッションは2018年にこのように変更されています。単に短くなっただけではなく、どのような変化があるといえるでしょうか。
最も大きな変化は、変更前のミッションでは「何をやるか」(How)が語られているのに対し、変更後は「何のために」(Why)が語られていることです。変更後のミッションは、冒頭の言葉の定義でいうところのパーパスに相当するものといえます。
この変更によるメリットを、当時のパタゴニア元日本支社長の辻野氏は「”How”から”Why”に思いっきり舵を切ったことで、大きい軸足は変わらないものの、浸透のスピードは一気に変わってきたな、ということを当時個人的には感じました」と言っています。
(出典:パタゴニアのミッションが「How」から「Why」に変わった理由 元日本支社長・辻井隆行氏が語る、意志の変遷)
また、パーパスやミッション・ビジョンを実現するための指針となるバリューを決める際は、自社の事業に沿って考えることも重要です。
たとえば、こちらのフレームワークの左側にある「商品(サービス)やそれを提供する仕組み」がお客さまにとっての価値の源泉である会社は、「商品をよくしたい」とすべての従業員が思っているような愛着の強い組織や、商品をよくするための仕組みを作りそれをしっかりと実行する組織を目指すことが効果的です。
反対に、右側の「個人力」がお客さまにとっての価値の源泉になっている会社では、従業員の専門性を高めるような評価制度や成果に報いる報酬制度などが重要になり、そのためにあえて従業員同士の関係性を犠牲にしてでも競争を生み出すことが効果的なケースもあります。
実際に、大きなプラットフォームを持ち、そのプラットフォームの価値が高まることが重要な楽天グループと、コンサルタント一人ひとりの専門性がお客さまへの価値に直結するコンサルティング会社であるデロイトトーマツグループのバリューをみてみると、下記のようになっています。
楽天グループは「仕組みを作り改善しながらその仕組みを早く回していくこと」、デロイトトーマツグループでは、「一人ひとりがプロとして高い能力を発揮し高品質な仕事をすること」が求められており、まさに事業の価値にあったバリューが設定されているといえます。
なお、事業の価値にあったミッションやバリューを決めることはとても重要ですが、できている会社はなかなか多くありません。
経済産業省が出している未来人材ビジョンでは、日本企業の人材マネジメントの課題は「経営戦略と人事戦略の紐付け」といわれており、この観点を強く意識することはとても重要だといえます。
パーパス・ミッション・ビジョン・バリュー浸透のポイント
ここからは、パーパス・ミッション・ビジョン・バリューの浸透についてお伝えします。そもそも、「パーパス・ミッション・ビジョン・バリューが浸透している」とはどのような状態でしょうか。
パーパス・ミッション・ビジョン・バリューの浸透で目指すのは、従業員が言葉を知っている状態でも、自社のパーパスが好きな状態でもなく、「事業成果が出ていること」と「従業員が働きがいを感じていること」の両立であるべきです。
人材獲得競争が激化するなかで、「従業員の働きがい」の観点を無視することはできません。一方で、事業成果が出ていなければ単なる仲良し組織になってしまい、その結果、従業員に報酬を還元することも難しくなり、結果的に人が離れていってしまいます。
そのため、従業員がパーパス・ミッション・ビジョン・バリューに沿った行動をしており、さらにそれによって従業員が活力高く働いていることがとても重要です(ただし、事業インパクトがあるパーパスなどが定義されていることが前提)。
では、そのためにはどのようなことを意識すればいいのか、いくつかポイントをお伝えします。
日々の業務やコミュニケーションの中心にする
最も重要なことは、経営陣やマネージャーがパーパスやバリューを体現し、日々業務内でその言葉を意図的に使うことです。
浸透に悩む会社の多くは、「現場の声を聞くと上司や経営陣が体現していない」「言行一致の経営ができていない」という声が多く挙がります。そのため、まずは経営陣やマネージャーがしっかりと体現し、日々の意思決定の軸としてパーパスやバリューを使っているところを見せていきましょう。
また、経営幹部やマネージャーなど組織の結節点になる人材にどれだけ浸透しているのかを確認し、改善することも重要です。
現代のように情報の流通スピードが早いと、競合は似たような戦略を採ることも増え、事業戦略だけで勝ち残ることはとても難しくなっています。
しかしそれでも業績に差が出る1つの大きな要因に、「組織の実行力」があります。
同じ100の戦略を描き伝えても、左のように50%しか受け取らず50%しか伝えられないマネジメント層の会社と、右のように80%の純度で受け取り伝えられる会社では、同じ戦略でも実行力(=成果)に約2.5倍もの差が出ます。
パーパス・ミッション・ビジョン・バリューの浸透をさせたいときには、結節点になるマネージャーがどれだけ理解をしているか、どれだけ伝えられているのかをしっかりと確認しましょう。
人事評価と結びつける
また、パーパス・ミッション・ビジョン・バリューの浸透には、コミュニケーションによる訴求だけではなく、人事評価との連動も重要です。
コミュニケーションのみで浸透させようとすると、従業員個人の関心の高さや意欲に依存してしまい、全体に浸透させることが難しくなります。
そのため人事評価との連動、つまりパーパスへの共感やバリューに紐づく行動を評価し報酬に反映するという「仕組み」を整えることも効果的です。
人事評価項目は業績評価・能力評価・情意評価に分けられますが、このなかでは情意評価に相当する内容になります。
SmartHR社でも、下記のように「価値観マッチ」という項目を比較的高い係数で評価する制度にしており、仕組みによる価値観の浸透を行っています。
さらに、先ほど結節点について記載しましたが、「誰を結節点として登用するのか」もとても重要です。
次のようなフレームワークを用いて検討し、ふさわしい人物を登用しましょう。特に危険なのは「成果は出している」けれど、「会社への共感度が低い」人をマネジメントに登用することです。
特に、営業職など数字で評価しやすい職種では、成果のみで昇格の判断をしてしまいがちです。成果を出している人の発言はとても影響力を持つので、その影響力のある人の発言が会社の方向性に合っていなかったり、ネガティブなものであったりする場合、会社への悪影響もとても大きくなってしまいます。
誰を結節点として登用するかを考える際は、「会社への共感」という軸も重視し、成果はまだ出ていないが共感度が高い人物にも目を向け、成果が出るように育成することなども検討しましょう。
社「外」にも発信する
理念浸透などの言葉を聞くと、ほとんどの方が「社内」向けの施策をイメージすると思いますが、自社が大事にしたい考え方や風土を「社外」に発信することもとても重要です。
そうすることで、新たに採用した従業員が自社のことを理解・共感した状態で入社するので、パーパスやミッション・ビジョン・バリューの浸透がしやすくなり、そもそも価値観が異なる人を採用してしまう懸念も少なくなります。
リクルート、ファーストリテイリング、赤城乳業など、CMなどで見るような有名企業の社名を見た時に、なんとなく「こういう会社だろうな」「ここはこんな社風だよね」と思い浮かぶ会社もあるのではないでしょうか。
このようなイメージで、自社の価値観や文化を社外にも発信していくこともぜひ考えてみてください。
エンゲージメントサーベイを活用し、PDCAを回す
ここまでお伝えしてきた浸透のコツですが、マネージャーのコミュニケーションも、マネージャーや昇格対象者の会社への共感度の高さも、人事評価制度の運用も、発信する自社の文化の定義も、すべて感覚で判断してしまうと効果を出すことが難しくなります。
人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0 ~ では、人的資本経営を行うための3つの視点の1つに、現状と理想の差を定量把握する重要性が語られています。
今回のテーマである、パーパス・ミッション・ビジョン・バリューの設定や浸透においても、まずは自社の組織の状態を定量的に把握して、事業と照らしてどのような価値観を大事にすべきなのか、どのような文化の組織を作るべきなのかを考え、施策を実行し、定量的にその効果を測定できるようにしましょう。
SmartHR「従業員サーベイ」機能の活用
SmartHRの従業員サーベイ機能には、パーパス・ミッション・ビジョン・バリューの浸透度合いや、浸透していない要因を把握できる機能があります。
エンゲージメントサーベイのプリセット質問には組織状態を網羅的に把握できる45問の質問があります。これに自社のパーパスやバリューに関する質問を加えることで、パーパスや特定のバリューがどの階層や属性の人に浸透していないのかを把握できます。
また、エンゲージメントサーベイと、組織状態を把握するためのさまざまなプリセットサーベイを組み合わせることで、浸透していない要因まで深ぼって調査することも可能です。
たとえば、エンゲージメントサーベイを定期的に実施し浸透度合いを定量的に振り返りつつ、評価制度にパーパスなどを組み込んでいる場合は、評価制度の理解度を測るサーベイを実施するなどが効果的です。ぜひ活用をご検討ください。