リモート時代の「あるある労働トラブル」を社労士・弁護士が斬る【行列のできるしごと相談所 vol.1レポート 前編】

2021.04.21 ライター:大久保志朗

働き方を巡るたくさんの変化が起こっているコロナ禍。リモートワークの導入にともなって安全性を保ちながら働ける環境が整いましたが、他方で新たな労働トラブルも生まれています。

本稿では、SmartHR主催のオンラインカンファレンス「WORK and FES」のセッションレポートをお届けします。

企業の働き方を社会保険労務士、弁護士の立場から支える3名が、リモートワーク時代の「あるある」な労働トラブルに斬り込みました。

スピーカー

倉重 公太朗さん 倉重・近衛・森田法律事務所 代表弁護士
成澤 紀美さん 社会保険労務士法人スマイング 代表社員 特定社会保険労務士
榊 裕葵さん ポライト社会保険労務士法人 マネージングパートナー

モデレーター

副島 智子(そえじま ともこ) 執行役員・SmartHR 人事労務 研究所 所長

 

後編は以下のリンクからどうぞ。

社労士×弁護士。リモート環境のハラスメント対策のポイントとは?【行列のできるしごと相談所 vol.1レポート 後編】

リモートワークにおける「あるある」な労働問題に物申す

副島:セッションのモデレーターを務めます、SmartHR 人事労務 研究所の副島です。こちらのセッションでは、リモートワークを導入している架空の会社の映像を見ていただいて、この会社の働き方のどこに問題があるのかを、社労士・弁護士の3名の先生にフリップで解説していただきます。

それでは、最初のVTRです。

VTRパート

女性従業員:我が社でもコロナ禍をうけてリモートワークが導入されました。しかし、まだまだ課題は山積み。メリハリがつかなくて、ついつい働きすぎちゃうんだよなぁ……。一旦打刻しよっと。

女性従業員:そういえば、リモートワークに入ってから社内の残業増えていますよねー。

男性上司:たしかに、増えていますね。こないだも役員から、残業増えているからなんとかしてほしいって言われたばかりなのに。

女性従業員:私たち人事からなんとかしなきゃですね!

男性上司:そうですね。でも勤怠管理ってなかなか難しくて、一人ひとりの意識の問題でもあるんですよね。こないだも体調崩しちゃった方もいましたし。

女性従業員:あぁ〜。(たしかに私も腰がツライし、不眠気味かも……。)

男性上司:そういう須磨さん(女性従業員)も、最近残業増えているので気をつけてくださいね。頼みますよ。

女性従業員:はい!がんばります!(でも、従業員の労務管理、徹底しようにもうまくやる方法なんてあるのかな?う~ん……。一体どうしたらいいの~!

VTR終了。

副島:リモートワークに関する映像でしたが、「ここを気をつけないとダメだ」というポイントはどこにあるでしょうか? みなさま、フリップをお願いいたします。

副島:倉重先生が「この会社はやばい。危機感を持つべき」。成澤先生が 「仕組み」。そして榊先生が「残業増の背景は」

では、倉重先生から解説をお願いいたします。

労働環境整備、労働時間管理をおこたると労災になる可能性も

倉重さん:はい。まず、従業員の方が床に座って仕事をしてましたよね。まともなデスクや椅子もなく働いていたら、腰や肩も痛くなってもなんらおかしくない。これでは労災になりかねません。

副島:ありがとうございます。中には「床に座って働くと労災になるの!?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

倉重さん:業務上の原因があればそれは労災になりえます。そもそも床はちょっと論外ですし。たとえばダイニングテーブルとかでも、2、3時間座るようにしか設計されていないんですね。

でも日本のホワイトカラーの場合って、大体6時間以上座るという統計もありますから、やっぱりリモートワーク用の労働環境を整える必要があります。あと、「労働時間を減らせ」といった旨の発言も非常に気になりましたね。

副島:労働時間を減らせ減らせと言われても、じゃあメンバーはどうすればいいのかをきちんと考えていかないといけないですよね。昨年から、残業時間の上限規制の法律もできましたが、リモート環境で残業時間をいかに管理していくかってすごく難しい問題だと思います。

倉重先生はどのような点に特に気をつけるとよいとお考えですか?

倉重さん:まず、会社側がきちんと従業員の労働時間管理の義務があることを認識するべきですね。「勤怠管理は一人ひとりの意識の問題でもある」なんて発言がありましたが、論外です。

また、働き方改革法と一緒に労働安全衛生法というのも変わって、労働時間の客観的状況を記録しなくちゃいけない。PCなどの起動時間をとる必要があるので、個人任せにしちゃまず駄目なんですよ。そういう意識がないのが問題ですね。経営陣の意識を変えないと、労基署に入られてしまってもおかしくありません。

副島:倉重先生、ありがとうございます。それでは続いて、成澤先生、よろしくお願いいたします。

リモートワークの働き方の仕組みはアップデートが不可欠

成澤さん:私は「仕組み」と書きました。倉重先生がおっしゃったように、労働時間の客観的管理をするクラウドサービスや、Web会議サービスなどの「ハード面」での仕組みはテクノロジーの発達によって整ってきていると考えます。

しかし、この会社は「残業が多いなら、どうすればいいか」といった、従業員の働き方にアプローチする仕組みが追いついていないのだと思いました。

副島:実際に、2020年4月の緊急事態宣言によって一旦リモート移行はしたものの、まだまだ残業管理などに苦労している会社は多そうですよね……。

成澤さん:「とりあえずリモートワーク始めちゃった」会社が多かったので、今、どんな働き方の課題があるのかを紐解く必要があるのでしょうね。その中で、ブラック度を判別して、何から優先的に着手すればいいかを考えるべきだと思います。

副島:緊急事態宣言直後に、突貫で作った仕組みをアップデートせずにそのまま運用している会社もありそうですね。

成澤さん:多いと思います。今は第3波と騒いでいますけど、また落ち着いて、次は第4波がきて……という繰り返しでだんだん落ち着いていって、ワクチンができてからようやく人が動けるようになってくると思うんです。

一過性のものではないという前提で、どういったリモートワークの仕組みが良いかを考えるのがこれからのポイントなんじゃないかと思います。

副島:成澤先生、ありがとうございます。続いて、榊先生、よろしくお願いいたします。

残業は根拠を持って対策すべし

榊さん:私は「残業増の背景は?」と書きました。まず、VTRの中に出てきた上司の方の残業に対する軽い捉え方が気になりましたね。

残業は「増えていますね」「がんばって減らします!」「よろしく!」で減らせる簡単な問題ではありません。このままでは、改善されず、問題は残り続けるでしょう。だからこそ、残業時間増加の背景を探る必要があります。

副島:まずはどうして残業が増えているのかの原因を探るところからスタートするということですね。

榊さん:はい。たとえば、私のお客様だと、リモートに移行したことでオフィスで使用していたディスプレイが自宅にはないため、能率が落ちた。だからこそ、ディスプレイを買うための手当を支給したといった話がありました。

打刻システムなどによって労働時間を見える化するのはもちろん、なぜ残業が増えたのか、経営陣が従業員に向き合って、根拠をもって対策するのが重要です。

副島:さっき倉重先生がおっしゃってたように、床で仕事をするようになって生産性が落ちたのが残業増加の要因になってることもありそうですよね。

倉重さん:このVTRの会社って上司のマネジメントが全然うまくできていないんでしょうね。1on1での話し合いや定例MTGなどで顔を合わせれば従業員の労働環境について、上司は自ずと関心を持つはずです。

副島:そうですよね。リモート移行した今こそ、マネジメントの本質が問われているように思います。

倉重さん:この会社の場合、実は残業自体は以前からあって、リモートワークによってそれが見えやすくなっただけなのかもしれません。このように、今のリモートワーク環境は、今まで騙し騙しでやってきた仕組みを抜本的に見直すチャンスなのかもしれませんね。

成澤さん:そのためにも、上司には1on1などで相手の気持ちを汲み取るマネジメントが求められますよね。従業員にとっても自分の意図を伝える能力が必要になる。

榊さん:オフィスだと気軽に雑談してとっていたようなコミュニケーションが、リモートだとできなくなった分、信頼関係を築く工夫が重要ですよね。

たとえば、最近は同僚に感謝の気持ちをポイントで送って、ポイントが貯まれば福利厚生と交換できるサービスなんかもあります。こういった仕組みをいかに作るかが問われそうですね。

経営者は、従業員が気持ちよく働ける会社づくりに投資する勇気を。

倉重さん:この会社は多分ですけど、人事の権限というか立場が弱いんじゃないかなと思いました。Excel管理のような、自分から見にいかないと労働時間が増えていることがわからないようなシステムしか入っていない。

多分こういう会社の経営者って、「人事は賃金を計算して、勤怠管理して、社会保険をやって」みたいなオペレーティブな部署だと思っているんじゃないかなと思います。

でも、今働き方ががらっと変わる中で、本来であれば戦略的にそれをどう後押しするかとか、社内にどう浸透させるかみたいな、クリエイティブな側面がすごく大事なので、人事に対する役割の重要性を経営層には認識してほしいですね。

成澤さん:やっぱりそこに力を使うべきですよね。

副島:たとえば「人事労務」と言われる仕事がありますけど、仕事内容をこの先どんどん変えていかないと、世間の状況に追いついていけない気がしますね。

倉重さん:よく「AIに仕事を奪われる」とか言うじゃないですか。それは正しくなくて。要するにAIとかテクノロジーを使って、人が人でしかできない仕事をやっていくべきなので、副島さんがおっしゃった通り効率化できるところはして、人が人に対して気づくとか、褒めるとか、感謝の言葉を述べるとか、そういうところに注力するとこの会社は良くなるなと思います。

榊さん:経営者の方の中には「これをやったら売上がいくら伸びるのか」みたいな目先の費用対効果だけを見てシステム導入を否定するケースを見かけます。そうではでなく、「これから働き方を変えていくんだ」「従業員が気持ちよく働ける会社をつくるために必要なコストなんだ」と理解していただいて、投資する勇気を持っていただきたいですね

そういった、もっと気持ちよく働ける会社をつくるためにの積極的な投資をしていく経営判断を後押ししていきたいと、社労士として思っています。

リモートワーク環境では心身の労災に注意

副島:私からひとつ先生方にご質問があるんですけど、「リモートワークでの労災でこんなことがあった」という先生がたのご相談で、何かお話しできることってございますか?

成澤さん:さきほど、床で仕事をすることで腰痛になるという話がありましたが、実際に腰痛による労災は増えていますね

倉重さん:かつてこれほどまで床について議論する人事関連の集まりがあっただろうか(笑)

副島:たしかに(笑)。床で働いていたことで生じた腰痛って、実際に労災申請して認定されるものなんですか?

成澤さん:腰痛って一番認定が下りづらいと言われるんですよ。要は、持病なのか、本当に業務起因性があったのかという話になるんですけども、ただ最近はちゃんと業務起因性が証明できるのであれば、そこは腰痛でも労災の認定がおりますね。

倉重さん:最近よく聞く話でいえば、コロナ禍の影響で精神的な疾患になって労災認定される場合もありますね。これも業務起因性証明によりますけど、そういったケースもあります。

副島:このあたりのテーマで悩んでいらっしゃる人事の方は多いかと思いますが、テーマ1はここまでとさせていただきますね。リモートワークは会社の業種・職種によって環境が 本当にさまざまなので、悩むポイントがとてもが多いと思います。今日の議論をぜひヒントにしていただければ幸いです。

 

後編は以下のリンクからどうぞ。

社労士×弁護士。リモート環境のハラスメント対策のポイントとは?【行列のできるしごと相談所 vol.1レポート 後編】

大久保志朗

SmartHRガイドの兄弟メディア「SmartHR Mag.」の編集長。リラクゼーションサロン運営会社、デジタルマーケティング支援会社、フリーランスの編集者・ライターを経て2019年SmartHRにジョイン。最近はSmartHRユーザー会「PARK mini」の企画・運営も担当しています。
他の執筆記事はこちら

イベントの関連記事

SmartHR ガイド の新着記事

SmartHRお役立ち資料集