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読む、 #ウェンホリ No.22「イノベーションは、普通の外側からやってくる」

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ラジオ書き起こし職人・みやーんZZさんによるPodcast「WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)」書き起こしシリーズ。通称「読む、#ウェンホリ」。

第22回では、アナウンサーの堀井美香さんと研究者・中邑賢龍 さんが、「働くの“当たり前”って?」をテーマに語り合いました。

今の社会では、小学校の頃から「明るく、仲良く、元気よく」と教えられ、すべてにおいて“均質さ”が求められていると中邑さん。たしかに組織をまとめるうえで、その方が統率は取れるでしょう。しかし、イノベーションを起こすとなったら? もしかしたら、コミュニケーションは得意じゃないけれど、夢中になったら特別な能力を発揮する子供がいるかもしれません。

それは企業でも同じ。世の中には、さまざまな働くの“当たり前”がありますが、その枠を取り払って考えることで、イノベーションは生まれるのではないでしょうか。といった切り口から、本当の意味での「多様性理解」について考えていきます。

ゲスト中邑賢龍(なかむら けんりゅう)

1956年、山口県生まれ。東京大学先端科学技術研究センター・シニアリサーチフェロー(寄付研究部門「個別最適な学び研究」)。専門は心理学。不登校や自殺など子どもを追い詰める背景には硬直化した教育があると考えている。そこで、実践でインクルーシブな教育プロジェクトLEARNを立ち上げ、新しい教育の在り方を探っている。

笑顔でなければいけない? 「働くの“当たり前”」とは

堀井

中邑さんと一緒に「働くの”当たり前”」ということについて考えていきたいなと思ってるんですが。どうでしょうか? 働くの当たり前……中邑さんの周りにも、やはりありますか?

中邑

ありますね。私も昔はそうでしたよ。「挨拶はきちんと、気持ち良くした方がいい」とか、「遅刻はしちゃいけない」とか。これが当たり前だと思ってました。ですけど、働けない人の相談をいろいろ受けているうちに「ああ、やっぱりそういうのが苦手なんだ」っていうことに気づいたんですよ。

今はそういう人たちを「発達障害」っていう風に診断して、治療しようということをやっている。でも、これって真っ当なんだろうか? 人の目を見て、気持ちよく話すのが苦手な人たちって本当にいるんですよね。

で、訓練を受けて「ちょっとやってみて」って言ったら「お、お、おはようございます……」って言うけど、ぎこちない。で、「これをずっと続けてたら、しんどいだろう?」って言ったら「もう、ヘトヘトです」って。

なんかその「挨拶しなきゃいけない」っていうことに注意を集中してると、それだけでもう働くのが疲れてしまうっていう。「ああ、どのタイミングで挨拶をすればいいんだろうか?」とかね。でも、もうこういうことをしなくたっていいんじゃないか?って思うようになってきたんですよ。そうすると、その人たちが変わっていきますよね。

堀井

そうですね。なんか昔、たとえばいわゆる工場ですとか、会社のお部屋に社訓みたいなのが貼ってあって。「笑顔で」とか。ありましたものね。

中邑

小学校もそうですよ。「明るく仲良く元気よく」って書いてあるでしょう? 「暗くひとりでおとなしく」っていうスローガンを掲げた教室って、ないんですよ。それはなぜか?っていうと、会社にそういうスローガンがあるから。だから「それがいいことだ」っていう……それがもう、日本の多くの人たちの当たり前になってるんですよ。そうしないと就職できない。

だけどそれができない人はもう本当に自己否定されてるようなもんですよ。「僕、苦手だ。ひとりが好きなのに、みんなと一緒にやらなきゃいけない。『笑顔を出せ』って言われたって、そんなの自分では作れない」っていう人たちって、いるわけじゃないですか。もう、それはかわいそうですよね。

堀井

採用の面接から始まってますもんね。その「ニコニコしてる」とか「ハキハキしてる」とか。

中邑

たしかにね、その方が気持ちいいっていえば、気持ちがいいんですけど。

だけど今だったら、たとえば文字でチャットをするっていう時に、別に笑顔なんかなくたっていいじゃないですか。スタンプ押せばいいとかね。なんか、そういう感じでもコミュニケーションができるようになってきてるわけだから。もっと社会の働き方の中にも、そういうものを取り入れればいいと思うんですよ。

変なことを言うからイノベーションが起きる

堀井

職人さんなんかでいうと、なんでしょう? お座敷にみんな、色を塗っていたりとかするとね、本当に無口で。1日に何もしゃべらないような職人さんたちがいい仕事をしたりっていうパターンもあるから。その仕事というのと、挨拶・コミュニケーションというのはまた、切り離されたり。

中邑

そうです、そうです。だけどそれが何か、今までの社会の中では難しかったところがあるんだろうなと思うんですよね。それはやっぱり全体で動いていかなきゃいけない中で、そういう人間がいると士気が下がるとか。要するに、ペースが合わないとか。

堀井

「なんでムッとしてるの? あなた」って。

中邑

で、また場に沿わない発言をするとか。

堀井

ああ、よく聞きます。

中邑

ねえ。こういう人はダメだって。

堀井

「あの人って、なんか時々変なこと言うよね」とか。

中邑

だけど、その「変なこと」を言うから、イノベーションが起きるんですけどね。もうみんな、均質で、明るく仲良く元気のいい人たちの中でイノベーションなんか起きるわけないじゃないですか(笑)。だって、考えないんですから。

堀井

「考えない」?

中邑

そう。だって、そういう安定ができてしまうんですよ。「明るく仲良く元気よく」っていう組織っていうのは、その中で安定ができる。時々、そういう変な人がボコンと変なことを言わないとね。ドカーンとやらないと。うん。

堀井

なんかそのモデルが……なんとなく、みんなの間で共通のモデルができてしまうと、もうそこに向かっていくしかないっていうのは、ありますね。

「隣にいる人は自分とは違う」という認識はあるか?

中邑

そうですね。だけど、人間はもっと多様なんだっていうことです。この多様性理解……「ダイバーシティ、ダイバーシティ」って言うけども。

これは性の問題とか、あるいは障害の問題とか、人種の問題ってよく言われるんですよね。だけど「隣にいる人は自分とは違う」っていう認識がどれだけあるか?っていうことですよ。

今の教育っていうのは、人間の均質化を図ることを目標にしてきた。また会社も、そういう風な均質で優秀な人材を採るということに注力してきたから、そこにいる人間はみんな、均質だと思うんですよ。

だけど、どんなにセレクトして、どんなに優秀な大学から人を採ったとしても、そこにいる人間は均質じゃない。そのことを知っていかないと、ハラスメントに発展していきますよね?

堀井

そうですね。型にはめて「修正」をしようとするわけですからね。

中邑

そうです。

組織に振り回されず、個人にチャンスが生まれる時代へ

堀井

個人のさまざまな特性を活かして働くためには、どういう環境が必要だと思われますか?

中邑

緩やかな……やっぱり余裕のある環境がいるんだろうなって思うんですよね。

今、これだけ国際競争が激しくなってくると、もうとにかく効率重視っていうことになるけど。だけど、こうやっていくとなんか最後まで働ける人間ってどれだけいるんだろうか? どんどんどんどんロボットやAIに取って代わられて。「はい。君はもう辞めてください」って。まあ、今は辞めてもまた、高度人材は別のベンチャーに行って吸収されてるけど。

だけどこれを繰り返していくと、結局あぶれていく人って絶対に出てくるわけですよ。

堀井

いや、本当になんか最近のニュースを見てると、どんどん……早いですよね。

中邑

早いですよね。もう早く、即断即決しないとなんか会社がダメになってしまうみたいなね。そういうような流れの中で、働き方っていうのがやっぱり変わっていかなきゃいけないんだろうなって思うんですよね。

だけどWeb2.0からWeb3へと移行する時代。DAOなんていう考えが出てきて。そうなってくると「自律分散型組織」っていうね。これって、実はある意味、いろんな人にチャンスが生まれるんだろうと思うんですよね。

今まではテストをして、組織に吸収することによって外から見ても「この人はこの大きな会社にいるから信頼できる人間だ」っていうことになっていて。で、個人でやってる人っていうのはなかなか、その信頼を得るっていうのは難しかったわけじゃないですか。

とくにゼロから個人でやってる人は大変でしたよね。大きな会社からスピンアウトした人はまだ、信頼があるかもしれないけど。こういう人たちがお互いの仕事を見つめ合うっていう仕組みができて。

それで「この人はしっかり納期を守る人だ。いい仕事をしている」っていう情報をお互いが交換し合えるようになることによって、個人にチャンスが生まれてくるわけじゃないですか。

そうなった時に、なんか今までのようなね、組織に振り回されるような働き方っていうのはそんなに考えなくてもいいんじゃないか?って。だからそっちの方を向いて動き出していく人たちも出てきてるし。もっとそれに向けての教育もあっていいんじゃないかな?って思ってるところなんですよね。

堀井

うんうん。今までは社長がいて、取締役がいて。上から縦でっていうトータルの形ができていましたけど。その他方、一人ひとりがリーダーというか……。

中邑

そうです。みんなが社長。

いま、教育現場に求められること

堀井

そういうことになってくると、その教育の現場ではそこに行き着くためにどういうことを子供たちにさせたらいいんですか?

中邑

ほっとけばいいですよね。まあ少なくとも「明るく仲良く元気よくじゃなくていい」っていう(笑)。それで大丈夫だっていうことになるわけですよ。

ただ、ほっとけばいいっていうわけじゃなくて。やっぱり基礎学力っていうのはしっかり身につけなきゃいけないですよね。今はなんか「もうこんな学校、嫌だ」って言って不登校になる子も増えている。

不登校になってフリースクールとかね、適応指導教室に通う子も増えてるわけですけど。だけど、ちゃんとした学習が保障されてるか?っていうと、必ずしもそうじゃない。

いや、好きなことをやってれば、どうにかなるんだ」っていう、こういう幻想が独り歩きしても怖いなと思うんですよ。実際にはどうにもならない子をたくさん見てきていますので。

やっぱりそこにはね、学校の教育ではないけど。「働くってどういうことだろうか?」とか、「コミュニケーションってどういうことだろうか?」っていう。

その、好きなことをやると同時に、社会を見据えた上で生きていくっていう教育は間違いなく必要だなと思ってるんですよ。その中で、やっぱり基礎学力ですよね。

やっぱりこの社会の情勢をいろんな情報源から吸収して理解をし、ある程度は知識をもってないと1人で働くことは難しいことは教えておくべきだと思うんですよね。あるいは、それが難しければ、親と組むとか、友達と組むっていうことでもいいと思うんですけどね。

堀井

たとえばその、地域社会ですとか、それぞれの企業。いろんな……束になってやるためにはどういう動きをしたらいいか? 何か、ありますか?

中邑

そうですよね。まあ、学校だけじゃ変わらない。親の意識も変えなきゃいけない。地域の人たちの意識も変えなきゃいけないっていう。

「どこから手をつけていいか?」っていうのが一番難しいところだろうと思うんですよ。それで僕たちは今、少なくとも学校に適応できないとか。行っているけども違和感を感じてるとか。そういう人たちを対象にプログラムをスタートしてるんですよ。

そうすると、「もうこのまま、家の中にずっといるのはいけない」っていう子供たちが出てくる。ただ、面白いこともあって、それって多くの人たちが多かれ少なかれ持ってることで。

実は昨年、渋谷区の子供たちに「徹夜で虫を取ろうぜ」っていうプログラムをやったんです。小中学生を対象にして。まあ「非常識だ!」ってだいぶ怒られましたけど。「小学生に徹夜をさせるのか?」って。いや、別にいいじゃないですか。ねえ。「したい」って言うんだから。

保護者を巻き込み、地域の中でお互いを結んでいく

堀井

そうですよね。昔はね、ありましたけど。なんでダメになっちゃったんですかね?

中邑

そうそう。「もう早く寝なさい」とか「そんなムダなことはしなさんな」みたいな話があるんだけど。これを募集したら、実は160名の応募があったんですよ。

普段、「学校に違和感を感じている子」っていうことで募集をすると大体2、30名なんですけども、こんなにたくさん来るっていう。で、そこに僕たちは必ず「親の相談会」っていうのを入れているんですよ。

そうすると応募してきた160名中、半分の80名の親御さんから申し込みがあった。ということは、どういうことか?っていうと、みんな子育てとか、学校での生活に親も悩んでるんだなっていう。

だからそういう切り口でいくと、実は多くの人たちを巻き込んでいけるなっていうことがわかってきたんですよ。で、その中でも「相談会」って言うと、なんか暗いじゃないですか。だから最近、僕たちは「作戦会議」っていう風に言っているんですよね。

堀井

ああ、素敵! 参加したい(笑)。

中邑

「相談会」って言ったらなんか、マンツーマンでね、個別に話を伺いますみたいな。それだと緊張するし。だけど「作戦会議」ですから。「ちょっとみんなで今、困ってることを共有しましょう」って言ったら「ゲームをやめない」とかね、「夜、寝ない」とか、「お風呂に入らない」とか。

そしたら他のお母さんが「ああ、私もそうよ」とか。お父さんが「ああ、俺のところもそうだ」っていう話が出てくるんですよ。で、「こんな風にしたら、よくなったよ」とか「こういう工夫したらどうなった」っていうようなアイディアを共有する場なんですよ。

そうすると、なんかね、もうワクワクしてくるんですよ。子育てが。「ああ、怒るばっかりじゃなくて、ちょっと子供を騙してみよう」とかね。「こうやって試してみよう」っていうような、こういう雰囲気っていうのが生まれてくる。

で、この他の子のためにアドバイスをするっていうのは、まさにもう地域の中でお互いが結ばれていくっていうことでもあるわけですよね。

そういうところから変わると、親が学校にあまりクレームを言わなくなるんじゃないかなと思うんですよ。そうすると、先生はもう少しのびのびと教育ができるようになる。

それで学校で「徹夜で昆虫採集の会をやる」って言ったら、もう今は「できません」って言いますよね? で、そういう時に大学っていうのが、便利なんですよ。「これは研究ですから」って言えば、もう大体何でも許されるので(笑)。

堀井

フフフ(笑)。なるほど!

中邑

だから我々が、やっぱりパイロットスタディというかね。挑戦的なことをやらないことの方がおかしいなと思ってるんですよ。

好きなことに集中する力は、才能

堀井

たとえばその子供たちと徹夜で昆虫を取りに行ったりっていうその研究の中で、見えてきたことはなんでしょうか?

中邑

「研究で見えてくる」っていうか、そういう募集をするとやっぱり「親が行かせたんだな」っていう子供も含まれてくるんですよ。自ら「行きたい」っていうことで応募書類書いてくるけど。実際に集めて「さあ、虫を取るぞ!」ってなったら3人が手を挙げて。「すみません。僕たち、虫が嫌いなんです。虫が怖いんです」って(笑)。

「じゃあ、もう帰るか?」「ううん。でも、徹夜はしたい」「じゃあ、みんな徹夜しよう」って言ってね。もう、なんか夜中の1時頃にカップヌードルをみんなですするとか、もう最高ですよね。

堀井

最高の経験ですね。

中邑

小学生がね。だけど、それを食べたらみんな、眠たくなって寝るみたいなね(笑)。だけど、それでも起きてる子はいる。ずっと徹夜して、虫を見ている子がいる。「大したもんだな。お母さん、こういうことを褒めてやってください。それぐらい、好きなんですよ。この集中力っていうのは、才能ですよ。これを潰さないようにしましょうね」っていう。そういうアドバイスができるということですよね。

<書き起こし終わり>

文:みやーんZZ

Podcast「WEDNESDAY HOLIDAY」#22の視聴はこちらから​

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