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テレワーク、スーパーフレックス、ピル服用支援。エムティーアイが多様な選択肢を設ける理由

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働き方の多様化が進む今、「オフィスか、家か」「仕事か、プライベートか」といった二元論で考えを巡らしても、一律の答えは出てきません。タイミングに応じてどちらの選択肢も取れるようにする。そんな柔軟性のある発想が個人にも企業にも求められています。そこでこの特集「働く&」では、「A or B」ではなく「A and B」を実現するための両立支援制度にフォーカス。実際にどのような効果を引き出しているのかを探ります。

第1回目に登場するのは、女性の健康情報サービス『ルナルナ』の提供をはじめ、多様な事業を展開する株式会社エムティーアイです。同社では、コロナ禍を機にテレワーク制度・スーパーフレックス制度を採用。また、女性従業員の生理によって生じる負担を軽減することを目的にした『オンライン婦人科受診と低用量ピル服薬支援制度』も導入しました。

それらの制度を取り入れることで、企業や従業員にどのようなメリット・変化があったのでしょうか。制度設計に関わった人事部長の岩渕由希さんと人事担当者の岩田沙樹さん、そして『オンライン婦人科受診と低用量ピル服薬支援』を実際に利用する従業員の相川恵里菜さんに話を伺いました。

お役立ち資料

働く& 〜両立を考える〜

生産性向上のため、複数の選択肢を設ける

エムティーアイでは、どのような背景があって『テレワーク制度』や『スーパーフレックス制度』を導入されたのでしょうか。

岩渕

大きなきっかけになったのは、新型コロナウイルスの流行です。弊社では以前から介護や育児を事由に月10日を上限とした『在宅勤務制度』を導入していたのですが、コロナ禍で出社を前提にしない働き方への切り替えを余儀なくされたことで、2020年3月から全従業員を対象としたテレワークの導入に踏み切りました。

その際、オフィス以外の環境でも十分に業務を進められるという気づきがあったんですね。そこで同年10月、自宅をはじめ情報セキュリティが担保されている場所であればどこでも働けるように制度化しました。

また、これを機に10時〜15時をコアタイムにしたフレックス制度を、コアタイムのないスーパーフレックス制度に変更しました。現在は7時〜22時までを就業可能時間とし、その間であれば自由に働くことができます。

それらの制度を立ち上げるにあたり、工夫されたことや苦労されたことはありますか?

岩渕

テレワークにおいては、自宅以外の勤務場所をどこまで許容するか、その場合の条件をどう設定するかという細かいルール設計について、経営層へのヒアリングや全社アンケートの結果を参考にして、人事部内や担当役員と話し合いを繰り返して検討を進めました。

従業員のなかには、毎日出社することでパフォーマンスを発揮できる方もいれば、在宅で仕事をする方が生産性高く働ける方もいます。家庭の事情や働く環境の事情もありますし、どのような働き方であればより高いパフォーマンスが発揮できるかは人それぞれなので、制限をかけすぎず、「お互いに生産性が高くなる落としどころを考えていきましょう」というスタンスで制度を設計しました。出社条件も、目安としては月に1〜2回というメッセージは出してはいますが、必須ではありません。

机に手を置き、椅子に座って話す人事部長 岩渕由希さん

人事部長 岩渕由希さん

勤務時間や場所が自由になることは、従業員の働きやすさに繋がる一方で、管理職からすると部下の動きが把握しづらくなったり、業務時間とプライベートの時間の切り替えが曖昧になってしまったりといった悩みも出てくるのではないかと思います。

岩渕

確かに、当初は部下の動きが見えづらいという悩みを抱えている管理職も少なからずいました。その点に関しては、各部署内で月に1度はタイミングを合わせて出社する日を決めたり、オンラインで頻度高く顔を合わせる機会をつくったりといった工夫を自主的にしてもらうことで解消を図っています。

また、スーパーフレックスだと従業員の稼働時間がばらばらなので、人によっては業務開始前や退勤後にも関わらず業務の連絡がくる、といったことも起きてしまいます。そこはお互いに気を遣い合い、急用でなければ出勤前・退勤後の方にチャットを送るのはやめましょう、という発信もあわせて実施しているところです。

テレワーク制度・スーパーフレックス制度においては、「複数の選択肢を設けるので、自分の生産性が高まる働き方を選んでください」という基本方針があります。どれかひとつの形に偏るのではなく、お互いに選んだ選択肢のなかで寄り添い合って働いていきましょう、と。この方針は従業員の自律的な働き方によって実現できていると思います。

テレワーク制度・スーパーフレックス制度を通して、会社として得られたメリットを教えてください。

岩渕

第一に従業員が生産性の向上を実感している点が挙げられます。生産性を測るための指標として、エンゲージメントの定点観測のほか、業務を通して挑戦・成長する機会がどのくらいあったか、残業時間が長くなっていないかといった項目を従業員自身にチェックしてもらっているのですが、そういった統計から見ても、テレワークとスーパーフレックスは生産性の向上に結びついていると判断しています。

また、従業員の雇用リスクを軽減できたことも大きなメリットだと感じています。出社が当たり前だと、従業員やその家族のライフスタイルに変化が生じた場合、本意ではない離職が発生してしまうことがあります。そういった離職を防げるようになったことで、新規採用にかかるコストも削減できていると考えています。

椅子に座り、インタビュアーに向かって話す人事担当 岩田沙樹さん

人事担当 岩田沙樹さん

『ピル服用支援制度』で、女性従業員の業務パフォーマンスが大きく向上した

エムティーアイ社では『オンライン婦人科受診と低用量ピル服薬支援制度』も導入されているそうですね。これはどういった制度なのでしょうか。

岩田

エムティーアイのグループ会社(LIFEM社)で提供している『ルナルナ オフィス』を活用した福利厚生です。生理痛やPMSなどの症状に悩む女性従業員を対象に、オンライン診療の受診とピルの処方にかかる費用を会社で負担しています。女性の健康課題を改善し、より働きやすい職場づくりを目指すものとしてスタートしました。

導入のきっかけは、社内で毎年実施する健康意識調査で、女性従業員の約8割が生理痛やPMSなどの生理関連の悩みを抱えていると回答したことです。ヘルスケア事業に取り組んでいる企業として、当社らしい健康支援の取り組みがアピールになるのではないかと考えました。現在は、女性従業員の約1割にあたる35名が制度を利用しています。

椅子に座ってインタビュアーに話す岩田さん

オンライン婦人科受診と低用量ピル服薬支援制度の立ち上げにあたって意識したことはありますか?

岩田

生理関連の悩みはとてもセンシティブなものなので、情報の機密性には特に気をつけました。利用者情報は制度運用に関わる担当者だけが把握しており、周囲の同僚はもちろん、自部門の上長にも知られないように配慮しています。

加えて女性優遇の制度ではないと従業員に理解してもらうことが重要だと考え、制度開始前には女性の体に関する知識講座や、生理関連の不調に関する啓発教育も実施しました。そういった取り組みもあってか、本制度の導入についてアンケートを取ったところ、女性従業員より男性従業員から賛成意見が多く集まったんですね。非常に印象的な出来事でした。

また、導入時は『ルナルナ オフィス』のサービス自体がスタートしたばかりだったこともあり、どの程度の効果が見込めるか社内でも未知数でした。そのため、プログラムの開始前と初診後、ピル服用開始後……と複数回に分けて制度利用者へアンケートを取り、プレゼンティーズムがどのように変化するかという効果検証もセットで行なっています。

制度利用者からはどのような反響がありましたか?

岩田

「体調が改善した」「仕事に集中できるようになった」「生理による休みも減った」という声を多くもらっています。制度利用者を対象としたアンケートでも、通常時を100%とした際の生理中の業務パフォーマンスが平均54.6%から76.4%に向上したり、生理前や生理中の症状によって日常生活へ影響が出る日数が月平均3.9日から1.9日に減少したりと、多大な効果が生まれていることを確認しています。

相川

私はオンライン婦人科受診と低用量ピル服薬支援制度を利用するようになったことで、パフォーマンスが大きく向上したと感じています。制度を利用する前は、生理の際に下腹部の痛みや頭痛などの症状に悩まされて、症状が重いときは市販薬を服用して無理に仕事をせざるをえない状態でした。それが現在は、メンタル面においても体調面においても大きな波がなくなったので、落ち着いて仕事に取り組めています。

インタビュアーに向かって話す相川さん

相川さん

ピルの服用に対する不安はありませんでしたか?

相川

制度利用開始直後はピルの副作用が出て少し不安を感じましたが、再診の際に医師が丁寧に相談に乗ってくれたので、徐々に身体的症状・精神的症状ともに改善していきました。現在は安心して利用できています。

このような制度があることで、相川さんの会社に対する印象や、会社で働くことへの意識はどう変わりましたか?

相川

従業員を大切にしてくれているのだなと強く感じました。オンライン婦人科受診と低用量ピル服薬支援制度は全国的に見ても導入している事例が多くないので、場合によっては足踏みする可能性も十分にあると思います。

こういった制度を取り入れてくれる会社なら、従業員が働きやすくなるような新しい制度を今度もどんどん取り入れてくれるのではないかという期待感があり、自分自身の働くモチベーションも高まりました。

ヒアリングと効果検証を重ねて、納得度の高い制度を設計していく

新しい制度や福利厚生を会社で取り入れるにあたって、現場のニーズや課題をどのようにリサーチしているのでしょうか。

岩渕

従業員へのヒアリングやアンケートは頻繁に実施しています。また、当社らしい取り組みとして、健康意識調査を年に一度実施したり、保健師を招いたオンライン講話の時間を設けたりもしています。そういった場で話題に出た健康課題にフォーカスし、時期やニーズに応じて強化月間的に歯科検診の費用補助や低アルコール飲料の購入補助を実施することもあります。

オンライン婦人科受診と低用量ピル服薬支援制度を導入する際、効果検証もセットで行なったという話がさきほどありました。なかには、大きな効果が見られず導入をとりやめた制度もあるのでしょうか。

岩渕

導入をとりやめた制度はないのですが、現状の利用者数や使われ方に合わせて制度をブラッシュアップしたり、複数の制度を統合したりするケースは多々あります。ただ、一度決めたルールをコロコロ変えてしまうと利用のハードルがかえって高くなってしまうこともあるので、制度をあらためる際は慎重にしています。

インタビュアーに向かって話す岩渕さん

制度を利用する従業員と利用しない従業員との間に温度差が生まれてしまうことはありますか。ある場合、どのようにそのギャップを解消するのでしょうか。

岩田

オンライン婦人科受診と低用量ピル服薬支援制度などがその筆頭ですが、従業員はそれぞれ前提条件やバックグラウンドが異なるため、福利厚生であっても利用できる制度とそうでないものがあるのは当たり前だと考えています。ですから、その制度の意義や必要性を知ってもらったうえで、従業員同士が相互にコミュニケーションできる場を設計することが、制度への納得度を高めるうえで必要だと考えています。

岩渕

どんな制度であっても、利用する人としない人の差は必ず生まれると思うんですね。だからこそ、制度導入前に関係各所へ欠かさずヒアリングし、必要であれば説明会や関連講座を開いて従業員の理解を少しでも得られるようにしています。また制度導入にあたっては、役員や経営層と積極的に話し、多くの人にとって納得感のある制度になるように設計していくことを人事部の方針として決めています。

制度導入に際しては、経営層はどのような関わり方をしているのでしょうか。

岩渕

決まったことだけを人事から伝えるのではなく、初期段階から経営層に意見をもらい、方向性にズレがないように努めています。経営層からは「従業員は実際にどう言ってるの?」と聞かれることが多いので、事前にアンケートを取って生の声を集めておくなど、こちらができる準備はきちんとしてから話し合うようにしています。

また経営層と話す際は、特定の人物の意見だけを拾いあげる形にならないように、多様な意見にじっくり耳を傾けることも意識しています。

左から相川さん、岩渕さん、岩田さんが笑顔で話している様子

場合によっては、現場の従業員と経営層で制度に対する意見が異なることもあるのでは?

岩渕

そうですね、お互いが譲らずに議論が長引くこともあります。そういったときは安易にどちらか一方の意見に寄せるのではなく、もう一段階踏み込んだ、0か100かではない落とし所を見つけることが重要なポイントではないかと思います。これは骨の折れる作業ではあるのですが、そこで諦めてしまったら従業員の思いを無下にしてしまうことにもなるので、できるかぎり力を尽くしたいと考えています。

新たな制度導入による効果は長期スパンで見ていくべきものなので、なんらかの制度を導入したことで即座に目に見えて効果が上がるということは残念ながらほぼないんですよね。丁寧なヒアリングを重ねたうえで、まずは導入してみて、自分たちが立てた仮説が合っているかどうかの答え合わせと制度のブラッシュアップを地道に繰り返していくしかないのではないかと思います。

取材・文:生湯葉シホ
撮影:池田大介

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