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人生の納得解の見つけ方。キャリアの“割り切り”と“踏ん張り”——NTTドコモ・ベンチャーズ CEO 笹原優子 × 堀井美香 対談

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目次

さまざまな業界で道を切り拓いてきた女性リーダーたちの姿勢や哲学の源泉をたどり、次世代が自分らしいキャリアを描くヒントを探るシリーズ「女性リーダー列伝」。

記念すべき第1回のゲストは、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ代表取締役CEO&CCOの笹原優子さんです。前編では「抵抗を乗り越え、イノベーションを生む巻き込み力」をテーマに、人の心を動かす「巻き込み力」について伺いました。

後編のテーマは「自分らしい人生のデザイン力」。歩みを止めることなくキャリアを重ねてきた笹原さんは、人生の転機にどう向き合い、選択してきたのでしょうか。約26年にわたる「遠距離結婚生活」の決断や留学、副業への挑戦──。葛藤しながらも「自分だけの正解」を形づくってきた笹原さんの、しなやかで力強い生き方に迫ります。

インタビュアーは、アナウンサーの堀井美香さん。SmartHRの配信するポッドキャスト番組『WEDNESDAY HOLIDAY』でパーソナリティを務められています。50歳でTBSを退社し、自らも新たな道を切り拓き続ける堀井さんが、同世代としてのリアリティと、働く女性への深い共感とともに、笹原さんの言葉を丁寧に紐解いていきます。

本対談は動画でもご覧いただけます。お二人の弾むやりとりは動画で、おさまりきらなかったエピソードや「人生デザイン力」のポイントはここからの記事で。ぜひお楽しみください!

笹原さんのキャリア年表

1995年NTTドコモ入社から2025年NTTドコモ・ベンチャーズ代表取締役CEO&CCOまでの笹原さんのキャリア年表

遠距離結婚という、人生のイノベーション

堀井さん

笹原さんは、結婚されてから26年間、遠距離結婚生活を続けてこられたそうですね。どのような経緯で始められたのでしょうか。

笹原さん

もともと私が東京、パートナーが大阪で働いていて、遠距離でお付き合いしていたんです。27歳のときに結婚したい気持ちが高まったのですが、当時は女性が男性のいる場所に行くのが当たり前のような空気がありました。私も「大阪に移るか、仕事を辞めるか」という二択しかないと思い込んでいました。

とはいえ、当時担当していたiモードの仕事が本当に楽しくて、どちらかを手放さなければならないことにモヤモヤしていました。でもある日の残業中、自販機の前で「結婚と同居は別のことだ」とふと気づいたんです。住所が違っていても結婚できるじゃんって。

対談中笑顔でお話する笹原さん

(笹原さん)

笹原さん

その瞬間に気持ちがすごく軽くなりました。仕事が落ち着いたタイミングで住む場所を考えればいいと思えるようになったんです。そうして遠距離結婚生活が自然とスタートしました。今思うと、これは一つの「人生のイノベーション」でした。

堀井さん

素晴らしいひらめきですね! 実際に生活をはじめてみて、いかがでしたか。

対談中の堀井さん、興味深そうに話を聞いている様子

(堀井さん)

笹原さん

当時はリモートワークもなかったので、金曜夜に大阪へ向かい、月曜日の朝に東京に戻る生活を続けていました。体力的なしんどさはありましたが、それ以外はそこまで負荷は感じていませんでした。

当時は「大きな決断」をしたつもりでしたが、今振り返ると、自分たちだけが特別だったわけではないんだな、と感じます。月曜朝の新幹線にはスーツ姿の男性がたくさん乗っていました。「もしかしたら単身赴任の方も多いのかな」と思いを巡らせたとき、「男性なら当たり前の選択肢」がそこにはあった、と気づいたんです。「女性だから」という理由で、私自身が勝手にハードルを上げていただけなのかもしれない、と感じています。

「人生デザイン」のポイント(1)
世間の当たり前に合わせるのではなく、自分が大切にしたいものを追求する。

将来への不安を、成長の原動力に変える

堀井さん

30代で女性7人のコンサルティング会社を起業されましたね。当時はまだ珍しい選択だったのではないでしょうか。

笹原さん

転勤や出産、介護など、いつ働き方を変えざるを得なくなるかわからない。
だからこそ、いつでも転職できる人材でいよう」と考えていました。そんな折に、異業種の女性同士でコンサルティング会社を立ち上げようとしている方と知り合い、そのプロジェクトに関わらせてもらうことになったんです。

堀井さん

社外での挑戦はいかがでしたか?

笹原さん

当時の私は、多少なりに仕事への自信をもっていたのですが、他のメンバーは専門性が高く、独自の価値観ももっていて、実力差に圧倒されました。
クライアントとの会議でも、私の発言はなかなか響かないのに、他のメンバーの意見には熱心に耳が傾けられていて……。そうした場面に直面するたび、自分には何も強みがないように感じてしまい、「私はいったい何ができるんだろう」と落ち込む日々でした。

堀井さん

そこからどうやって力をつけていったのでしょうか?

笹原さん

力をつけたというよりは、取り組み方を変えたというほうが近いかもしれません。会議中の内容を丁寧に整理し、レポートとしてまとめると評価してもらえると気づいたんです。そこからは、自分が得意な領域でしっかり成果物をつくることに集中しました。そうした積み重ねのなかで、自分の強みも少しずつ見えてきたんです。もちろん、発言が届かなかったり、注目されなかったりと、かっこ悪い思いもたくさんしました。でも、その“みっともなさ”を経験したことで一皮むけたというか、余計なプライドを手放せたんですよね。今振り返ると、あの時間は本当にいい経験だったと思っています。

対談中の笹原さんと堀井さん、笑顔の堀井さんと笹原さんの後ろ姿

「人生デザイン」のポイント(2)
ライフイベントへの不安を、個人で立つ力を養う機会に。あえて組織の外で揉まれる経験が、自分の強みを見極めるきっかけになる。

ロールモデルは一人じゃなくていい。“パッチワーク”で自分だけの人生を編む

堀井さん

これから先、働く女性が自分らしくキャリアを築いたり、人生の選択をしたりするためには、何が必要だと思いますか?

笹原さん

難しい質問ですね……。堀井さんはどう思いますか?

堀井さん

私は、ロールモデルが増えて、社会がその姿に「慣れていく」ことが重要だと思っています。SmartHRのポッドキャスト番組「WEDNESDAY HOLIDAY」で、みうらじゅんさんが「まずは数が揃うことが大事」というお話をされていたのが印象的でした。

「特別な成功例」として語られるうちは、どこか自分とは違う世界の話に見えてしまいがちです。笹原さんのような多様な選択をされる方が増え、その姿が「数」として可視化されれば、社会の豊かな「スタイル」の一つとして当たり前に受け入れられていく。
だからこそ、笹原さんのような方がメディアで発信してくださることや、このような場があることに、大きな意味があると感じています。

笹原さん

今のお話、本当にそのとおりだと思います。私は「ロールモデル」という言葉に、誰か一人が模範になるというイメージをあまりもっていなくて。男女問わず、さまざまな人のいいところを少しずつ取り入れて、自分なりに組み合わせていく。そんなパッチワーク型のキャリア形成がもっと広がればいいなと思っています。

対談中の笹原さんと堀井さん、両手を10cmほど小さく広げるジェスチャーをする笹原さんと堀井さんの後ろ姿

堀井さん

私も先輩たちの姿を見て、「女性も頑張らなきゃ」と気を張っていた時期がありましたが、今はもっと多様なあり方が認められ始めていますよね。

笹原さん

身近な当たり前が変わっていけば、女性がもっと自分らしい選択を自然にできるようになると思うんですよね。たとえば、女性がキャリアや仕事の話をするときだけ、「結婚しているのか」「子供がいるのか」といったバックグラウンドを語ることが求められる場面が多いじゃないですか。男性は、プライベートな情報をあえて聞かれることは少ないのに。こうしたカルチャーそのものが変わっていくことが大切だと思います。

「人生デザイン」のポイント(3)
キャリアや人生の選択において、完璧なロールモデルを見つける必要はない。多様な人の「いいところ」をつなぎ合わせ、オリジナルをつくる。

キャリアに迷ったとき、支えてくれた上司の言葉

堀井さん

制度や環境も大切ですが、周囲からの何気ない言葉で、キャリアへの意識がふと変わることもありますよね。私の場合は、子供が産まれてから思うように仕事ができずに悩んでいた時期がありました。そのとき上司に「今は子育てに専念しなさい。子供が手を離れたら仕事に集中すればいい。人生で帳尻が合えばいいんだから」と言われて、すごく気持ちが軽くなったんです。

対談中、笑顔の堀井さん

笹原さん

「最後につじつまを合わせる」という考え方、いいですね。

堀井さん

私のキャリアは、長距離を一定のペースで走り続けるというより、ダッシュしたりゆっくり休んだりを繰り返しながら進んできた感覚です。でも、それでいいんだと納得できました。笹原さんは、これまでのキャリアのなかでグッときた言葉や、これで頑張れたという経験はありますか?

笹原さん

私も上司に恵まれていました。新入社員の頃は意識もそこまで高くなかったので、困りごとがあったら言われたとおりに動けばいいと思っていたんです。でもあるとき、トラブルが起きて上司に報告したら、当然のように片付けてくれるのかと思いきや「ササはどうしたい?」と聞かれて。

堀井さん

「やってくれるんじゃないの?」と思いますよね。

笹原さん

そうなんです。最初は「私が決めるの?」と驚きましたし、正直なことを言えば、私は18時に帰りたいと思っていました(笑)。でも、そういう問いかけが何度も続くうちにきちんと考えるようになり、次第に自分の意見を言うようになりました。どんなときも「お前はどうしたいんだ」と問い続けられた。その繰り返しのなかで、自分の意思で仕事をする楽しさに目覚めていきました。

男性だから、女性だから、という前に一人の社員として期待してくれる。それが当たり前の組織にいたことは、本当に恵まれていたと思います。そして今は、私自身がそういう組織づくりをしていきたいと考えています。

SmartHRのロゴを背景に対談中の笹原さんと堀井さん

「人生デザイン」のポイント(4)
「人生で帳尻が合えばいい」と長い目で捉え、自分なりのペースを肯定する。「自分はどうしたいか」を問い、決断する習慣が、自律したキャリアの土台になる。

人生に「伏線」を、仕事に「遊び」を仕込む

堀井さん

笹原さんは、この先の夢みたいなものはありますか?

笹原さん

いつか「通訳案内士」をやってみたいなと思っています。留学中、日本の文化を伝えるとみんなが喜んでくれた経験が原点にあって。会社を辞めたとしても、できることはたくさんあるんだなと感じています。

仕事も自分を構成する一つの「パーツ」にすぎないと考えたときに、仕事以外に「いつかやってみたいこと」として人生の伏線を用意しておくと、気持ちが軽くなりますよね。選択肢が一つしかないと思うと、しんどくなってしまうのかなって。回りまわって、今いる場所でのパフォーマンスも変わってくる気がします。

堀井さん

「ここしかない」と思うと、がんじがらめになりますよね。一方で、会社員の場合、与えられた環境に対してどう折り合いをつけていくかは、多くの人が悩むポイントだと思います。笹原さんは、どう考えていましたか?

笹原さん

すぐに折り合いつくものとつかないものがありますが、目の前の仕事はちゃんとやっていました。そのうえで、私は年に一度は「自分らしい何か」をすると決めていました。有志を集めてワークショップをしたり、オリジナルの企画を立てたり。唯一のルールは「自分にしかできないこと」。

対談中の笹原さんと堀井さん、手のひらを地面に向けるジェスチャーをしてお話する笹原さんと後ろ姿の堀井さん

堀井さん

なるほど、自分で仕事を面白くしていらっしゃる。私の場合は、出産や子育てでキャリアが一度「ゼロ」に戻ることが多々ありました。せっかくレギュラー番組が増えたのに、半年休むと、戻ったときにはまたゼロからのスタート。でもいつしか、その状況が快感になっていて。

笹原さん

それはどういう感覚ですか?

堀井さん

何もないところから一つずつ積み上げて大きくしていく、階段を上っていく感覚がたまらなく気持ちいいな、とマインドセットが変わりました。
私が10年、20年と「続けたい人」というのもあるのですが、成長実感をすぐに得られなくても、「今、私はやり込んでいる」という納得感で、満たされますね。

笹原さん

自分が今、充実しているかどうか。その感覚を大切にできると、本当に強いですよね。過程そのものを楽しめるって、理想的だと思います。

「人生デザイン」のポイント(5)
仕事を人生の一パーツと捉え、仕事以外の道を用意する。組織に委ねる部分があっても、年に一度は「自分にしかできないこと」を企て、主体的に仕事を面白くする。

選ばなかった人生を羨まない。選んだ道を正解にする

堀井さん

最後に、お二人のように自分らしいキャリアを歩みたいと悩む20代、30代に、何かアドバイスはありますか?

笹原さん

難しいですね。私は気がついたら、こんな感じになっていたので(笑)。

堀井さん

わかります。私も会社を辞めてフリーになってからは、会社員でもなく、母親でもなく、個人としての自分がいました。その横におまけのようにキャリアがついてきているような感覚なんです。
若い頃は、どうしても同じ土俵にいる人と比較して「このままでいいのか」と不安になりましたが、今になると「キャリアって思いどおりに進まないものだな」と、むしろ面白く感じています。

笹原さん

比べますよね。私も若い頃は、転職した人生もあっただろうし、もし子供がいたらどうだったんだろうと考えたこともあります。でも、今はそれぞれに違う人生があって、それぞれに素敵だなと思えるようになりました。それに選ばなかった人生のことは誰にもわからないので、選んだ道を正解にしていくだけなんですよね。

対談中、笑顔でお話する笹原さん

笹原さん

いわゆる“コネクティング・ザ・ドッツ”というか、これまでやってきたことを振り返ると全部どこかでつながっているんですよね。失敗や苦しさ、痛みもあるけれど、それも次の糧になる。だからこそ、人生という旅路そのものを楽しんでほしいなと思います。

堀井さんのお話を聞きながら、「苦しみながらも楽しむ」というキャリアのつくり方は、実はみんな同じなんだなと感じました。ずっと苦しいままだと続かないけれど、苦しさの先に見たことのない景色が広がっていると、また挑戦したくなるんですよね。だからこそ、恐れずにいろんなことに挑戦してみてほしいと思います。

堀井さん

今日のお話を聞いていて、私も「リーダーになってみたい」と思える瞬間がありました。トップを目指したいという女性がもっと増えるといいですよね。

笹原さん

本当にそうですね。ただ、リーダーになることがすべてではないので、それを好まない人は実務で力を発揮して、頑張っていくのもいいと思っていて。大事なのは、自分で選んだ道を楽しめるかどうか。工夫次第でもっと面白くできます。ぜひ個性を出して楽しんでください。

「人生デザイン」のポイント(6)
失敗や痛みも、いつか自分を支える「糧」になる。大切なのは、自分の選択に集中し、面白がる工夫を忘れないこと。

笑顔で並んで立つ笹原さんと堀井さん

編集後記

「選んだ道を正解にする」──お二人の対話から見えてきたのは、自らの選択に集中し、楽しむ姿勢でした。その背景には、「自分にとって何が大切なのか」を問い続ける強さがあります。自分自身に問いを立て、内なる声に耳を澄ませる。そのプロセスがあるからこそ、周囲の声に左右されることなく、自分だけの納得解を選び取れるのでしょう。選択への確信は、誰かから与えられるものではなく、自分への問いかけから育っていくものなのかもしれません。
過去の失敗も、現在の葛藤も、未来への不安も、すべてをまるごと引き受けて歩みを進める姿は、正解のない時代を生きる私たちに、何よりの勇気を届けてくれます。

篠原さんと堀井さんに学ぶ「人生デザイン」のポイントが6つ紹介されている図

動画では、お二人の熱量をよりダイレクトに感じていただけます。お二人のリアルな掛け合いをぜひ動画でお楽しみください。

働き方やキャリアをもっと考えたい方へ:ポッドキャスト番組「WEDNESDAY HOLIDAY」もぜひ

本企画のインタビュアーである堀井さんが、パーソナリティを務めるポッドキャスト番組「WEDNESDAY HOLIDAY」。毎回さまざまなゲストを迎えて、「よく働くってなんだろう?」を問いのテーマに、個人の働き方や、組織やチームのあり方、仕事を通じた社会との関わり方に至るまでをゆるやかに語る約30分のトークプログラムです。

配信は、毎週水曜日午後5時頃。配信中のエピソードは、各種音声プラットフォームにて、無料でお聴きいただけます。お時間のある時に、こちらもぜひお聴きください。

(取材・文・編集協力: 村上広大、撮影: 鈴木 渉)

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