労務未経験で迎えたコロナ禍。テレワーク時代の鍵を握る信頼関係構築のヒント
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コロナ禍によりテレワークが一気に普及した今、人事労務業務の見直しだけでなく、従業員の新しい働き方に対応した管理体制の整備も必要となりました。紙の業務が多く、ただでさえテレワーク体制をとりづらい人事労務業務ですが、うまくHRテクノロジーを活用しながら業務効率化を図り、社内コミュニケーションの課題にも取り組んできた企業があります。
株式会社カケハシの井上さんは、2020年3月末に未経験で労務業務を引き継いで、コロナ禍のテレワークを乗り越えてきました。人事労務のミートアップ「PARK」の座談会に登壇し、テレワーク時のコミュニケーションについてもお話いただいた井上さんに、今、人事労務にはどのような役割が求められるのかを伺いました。
HRテクノロジーを活用し、労務未経験の中テレワークを推進。
未経験で労務業務を担当することになったとのことですが、ちょうどコロナ禍の時期と重なっていたんですよね。
井上さん
はい。緊急事態宣言が出る直前でした。弊社は2020年4月1日からITS(関東ITソフトウェア健康保険組合)へ編入したため、あの状況の中で保険証を従業員全員に配布しなければならず、私の中では異様な緊張感が続いていました。緊急事態宣言の間は業務上必要な場合のみ許可を取って出社し、ほぼ人がいないオフィスで一人黙々と各種書類の対応をしていました。さらに6月には各市区町村から続々と届く住民税決定通知書の対応もあり、初めての労務は戸惑いと不安だらけでした。
不安を抱える中で、どのように業務を進めたのでしょうか?
井上さん
4月から5月にかけては入社者が多く、初めて行う業務と相まって負担が大きかったのですが、SmartHRを活用し、手順に沿って進めることで手続き関連は漏れなく完了できました。入退社手続きをオンラインで効率化できたのは非常に助かりました。
そのほか、テレワーク環境下において役立っているツールはありますか?
井上さん
給与計算ソフトはマネーフォワード クラウド給与を使用しているのですが、SmartHRと連携できているので助かっています。また社内申請関連はジョブカンWFで申請をしてもらえるようにしていますので、自宅からも各種申請の量や案件の状況を確認できます。それにより出社日にどのくらいの業務量があるのかが推測できるので、「自宅でできること」と「オフィスでしかできないこと」をうまく分けながら業務を進めています。
例えば、「就労証明書などは自宅で作成しておいて、会社に行ったらハンコを押すだけ」という形にすることで、出社が必要な業務を絞れるため、無駄になりません。テレワークとオフィスでの仕事を両立させ、さらに効率化するためには、HRテクノロジーの活用が欠かせないと考えています。
入社手続きや研修はオンライン化。社員の声を聞きながら、オフラインとのバランスを意識。
緊急事態宣言が出ていた時期からは時間が経ちましたが、当時試みていた施策で10月現在も続けていることはありますか?
井上さん
ほとんどそのまま続けていますね。今でも新入社員のオンライン環境での受入れを継続しており、入社日当日も出社せず、ご自宅から入社オリエンテーションが受講できます。オリエンテーションはほぼ全てオンライン化していますが、全てをオンライン化することが良いとは思っていません。弊社のサービスは薬局がお客さまになるため、以前は薬局の環境を理解するために薬局訪問をオリエンテーションに組み込んでいたのですが、コロナ禍の現在では実施が難しくなってしまいました。
そこで少しでも近い状態を体験してもらおうと、今は社内の薬剤師によって弊社サービスの「Musubi」を利用した服薬指導を行い、薬局でどのように使われているのか疑似体験をしてもらっています。
ほぼ全てオンラインというのはすごいですね。実際にオリエンテーションを受けた従業員の方からはどんな反応がありますか?
井上さん
賛否両論ありますね。この状況下ですので、「オンラインで完結できて良かった」と安心する人もいますし、「最初は会社に行きたかった」という人もいます。VTRや資料でのオリエンテーションは、「業務の合間に観ることで効率的に受講できる」という方もいますし、「飽きる」という方もいます。
みなさんからの声をいただきながら、オンライン上で行うオリエンテーションの時間配分や頻度を変えてみたり、ロールプレイングの形にしたりと試行錯誤を続けています。
「何気ないコミュニケーション」をどう生み出すかが今の課題
先日のユーザーイベント「PARK」ではテレワーク時の社内コミュニケーションについてお話しいただきましたが、社内コミュニケーションについてはその後変化はありましたか?
井上さん
それも緊急事態宣言が出ていた頃から変わらず、むしろなじんできています。現在は出社も可としていますが、以前よりずっと少ないですね。もともと弊社は在宅ワークも可能でしたが、それでもコロナ以前はオフィスがいっぱいになるほどオフィスで業務をする社員がいました。今の出社率は、多くても全社員の20%いかないくらいです。
今後、テレワークがメインになることも考えられますが、社内コミュニケーションについてはどう考えていますか?
井上さん
横のつながりの強化が必要だと感じています。これまで、業務で直接関わらない人同士のコミュニケーションは、オフィスにいる何気ない時間で生まれていたんですよね。今はそのオフィスでの時間がなくなってしまっているので、意識的に機会を作ろうと考えています。
また、オフラインかオンラインかは個々人が選択できるようにしないといけないと思っています。例えば、会議メンバーの多くがオフィスで参加するとしても、全員がビデオ会議に接続し、オンラインで参加する人が疎外感をもたないなどの工夫を日常にしていく必要があると思います。
どの会社さんもすごく悩まれるところですよね。ちなみに、横のつながりがないことによって「これはマズいんじゃないか」と思ったできごとはありますか?
井上さん
そこまで深刻な事例は出ていませんが、ランチなどのカジュアルな場だからこそできる雑談が生まれないことへの懸念はあります。「こういうのはどうにかならない?」という話題に対し、「いや、実はそれ、頑張ってるけど難しいんだよ」とか「全然気づかなかった。ありがとう」とか、何気ないコミュニケーションの中で大きな問題になる前に解決していたことがあったと思うのですが、今はそういった機会をなかなか得られないことが気になっています。特に些細なことはテキストでの確認やミーティングの設定を、少し重たく感じますよね。
分かります。「これってどうなんですか?」とテキストで打つ自分が怖い人に感じられてしまったりしますよね。
井上さん
はい。私自身もテキストにする間に冷静になってしまい、「まあいいか」と思ってしまうこともあります。オフィスであれば気軽に「そういえば、ちょっと聞きたいんだけど」って話しかけられるのに。ここはいい手段を取っている会社様がいらっしゃればぜひ教えてほしいです。
常に中立の立場で。テレワーク環境だからこそ、話しやすい人でありたい。
そのような課題も踏まえ、人事労務担当として、今後どういう役割を果たしていきたいですか?
井上さん
常に“中立の立場”でいたいと思っています。私が一番大切にしているのは、カケハシで働くみなさんが働きやすい環境を作ることです。どんなに小さいことでも、何かあれば教えてもらいたいと思っています。そのためには私自身が中立で平等である必要があって、それが従業員のみなさんとの信頼関係につながるのではないかと考えています。
現場のみなさんが声を上げやすくするために、中立でありたいということなんですね。
井上さん
そうですね。あとは人事から面談の予定を入れられると、ドキドキする方が多いと思います。私も逆の立場だったら絶対身構えてしまいます。そういった時にあまり気にせず、ちょっとした雑談も含めて話してもらえるような人になれたら良いなと思っています。どんな些細なことでも聞かせてもらいたいですね。
たしかに、すごく大事な役割ですね。人数が増えてくると、自分のチームで言えない悩みなども出てくると思うので、気軽にお話しできる人がいるのはありがたいだろうと思います。
井上さん
特にコロナ禍で入社した人はテレワーク中心で、業務以外の人間関係を作りづらい状況なので、そこは気をつけていきたいと思います。
入社からその後まで幅広く関われることが労務業務の魅力
最後に、今後人事労務担当としてどのようなキャリアを歩んでいきたいですか?
井上さん
あと5年ぐらいは、がっつり労務を極めたいなと思っています。前職では採用を担当していたのですが、入口部分だけにしか関われないことに物足りなさを感じていました。採用業務も経験したうえで労務を担当することで、かなり視野が広くなりました。私個人としては身近な人のためにコツコツと物事を進めていく労務の方が、自身に合っていると思います。
先程おっしゃっていたように、「信頼関係構築をするために中立でありたい」というスタンスも、身近な人のためだからなんでしょうか。
井上さん
そうですね。私自身、小さいことがいつまでも気になってしまったり、色々考え過ぎてしまったりするのですが、仕事をしていれば誰にでもあり得ることではないかと思います。そういった時にもし私の顔が浮かんだら、悩まず声をかけてほしいですね。私も変化に気づけるようにアンテナを張っていきたいと思っています。
井上さん、今日はありがとうございました!
【編集後記】カケハシ井上さんの素敵だと思ったポイント
最後に、今回の取材を受けて、カケハシ井上さんの素敵だと思ったポイントをまとめます。
- 働き方の価値観が多様化することを踏まえ、オンライン派・オフライン派双方の選択肢を用意している
- 目の前の業務にとどまらず、社内のコミュニケーションの課題にもアンテナを立てている
- 経営に寄りすぎず、現場の声をちゃんと拾いたいと考えている
「従業員みなさんのためになることを、労務業務を通して行っていきたい」そんな井上さんの想いを感じ取れました。手続きをはじめ労務業務そのものは地道にコツコツと積み上げていくものが多いかもしれません。
ですが、現場従業員の声をしっかりと聞いて、それを元に働きがいのある会社作りを牽引できるのは、労務ならではの魅力だと思いました。さらにパワーアップしていく、カケハシさん、井上さんのこれからがとても楽しみです。