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「有給休暇5日取得義務」の実務対応、6つの疑問を専門家が解説!

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こんにちは、アクシス社会保険労務士事務所の大山敏和です。

2019年4月1日から施行された年次有給休暇の5日付与義務について、運用状況はいかがでしょうか? 施行から半年が経過した現時点で、各企業特有の状況を踏まえた運用上の疑問点などが明らかになってきています。

今回は、Q&A形式でこれらの疑問に答えたいと思います。

【前提】法改正の趣旨

政府が取り組んでいる「働き方改革」は、働く人がそれぞれの事情に応じた柔軟な働き方を選択できる社会を実現することがその主要眼目です。

そして、その一翼を担う「年5日の年次有給休暇の取得」は、年次有給休暇がその年の基準日(*1)から10日以上付与された労働者は、上司や同僚への気兼ねやためらいなく、自発的な有給休暇と、必要であれば会社による計画付与の有給休暇を合わせて、年に5日は有給休暇を取得することで心身のリフレッシュを図ってもらいたいという趣旨に基づいています。
(ここでいう「労働者」とは管理監督者を含み、非正規・正規の労働形態を問いません。)

以下では、これまでに聞かれた疑問点と回答をQ&A形式で示します。なお、年5日の有給休暇を取得させなかった場合については、QE(最後のQ)で解説する処置になります。

(*1:年10日以上の年次有給休暇を新たに付与する日)

働き方改革関連法については、以下の資料に内容をまとめていますので、あわせてご確認ください。

働き方改革関連法 必見コラム特集

【Q1】 産休や育休に入る社員が有休を5日間取得していない場合どうなる?

産休(産前産後休業)は、基準日からの1年間のいずれかの日から98日間(場合によっては、154日間)が休業できる日ですから、基準日から1年間すべてについて産休を理由に休業することはありません。

したがって、この場合は、基準日から産前休業に入る前、または産後休業が明けてから次の基準日の前日までに、産休とは別に有給休暇5日間の付与義務が生じます。

育休(育児休業)も育休期間の開始日が基準日の後、あるいは育休期間の最終日が次の基準日の前日までの場合、取るべき有給休暇は産休の考え方に準じます。一方で、基準日からの1年間がすべて育休の期間という場合は、有給休暇5日間の付与義務の対象にはなりません。

【Q2】退職が決まっている社員が5日間取得していない場合どうなる?

法改正の趣旨から当然、退職の日までに5日間の有給休暇を与えます。基準日から5日間の有給休暇を取得していない状況で、退職日まで就業させることのないようにしなければなりません。

昨今では、残っている有給休暇日数を逆算し、退職予定者が時季指定をして退職日まで休業することも多くなっています。

【Q3】長期入院中の社員あるいは、休職予定の社員が5日間取得していない場合どうなる?

この場合も、Q1、Q2の回答から類推できる通り、基準日からの1年間に入院中の休業または休職期間とは別に5日の有給休暇を取得させなければなりません

また、入院期間または休職期間が基準日から1年間以上にわたる場合は、有給休暇5日付与義務の対象にはなりません。

【Q4】時間単位の休暇を許容している場合の5日間の付与義務はどうなる?

時間単位の休暇時間は、会社による有給休暇5日付与義務の対象にはなりません。

例えば、ひと月の時間単位の休暇時間の合計が2時間であっても40時間(1日の所定労働時間を8時間とした場合の時間単位休暇の上限時間)であっても、この時間以外に有給休暇を5日取得させなければなりません

義務付けられる有給休暇とは、1日単位が原則であり、労働者が半日単位を希望するのであれば、この場合は、0.5日として有給休暇5日間の付与義務の対象にして差し支えありません。

【Q5】法定上有給休暇が10日未満の労働者に、10日以上与えた場合どうなる?

法定上有給休暇の付与日数が10日未満の労働者に、10日以上の有給休暇を与えても、会社による有給休暇5日間の付与義務の対象になりません

このことから、前年の残日数に新たに10日未満の有給休暇を付与して合計で10日以上になっても、会社による有給休暇5日間の付与義務は生じないことになります。また、新入社員など入社後半年たたずに、10日未満の有給休暇を付与した場合も会社による有給休暇5日間の付与義務は生じません。

ただし、例えば入社時に5日、3ヶ月後に5日と与えた場合は、入社3ヶ月後に合計10日間の有給休暇を付与したことになるので、その日(この日が基準日)からの1年間で有給休暇5日間の付与義務が発生します。

【Q6】年次有給休暇の付与日数が少ない者の扱いはどうする?

年次有給休暇の5日付与義務は、基準日に10日以上の有給休暇を与えられた労働者に対する義務です。したがって、この義務を果たすために会社は、労使協定を結んで時季指定による有給休暇を会社が計画的に付与できます(*2)。

この計画的付与により、例えば平日のある日を一斉付与日として協定し、事業所全体が休業となる場合、その日に5日を超える有給休暇がない者の扱いは、以下のような対応が必要になります。

・その休業日は、有給の特別休暇とする
・その休業日は、休業手当(平均賃金の60%以上)を支払う

また、産休・育休・子の看護休業・介護休業・休職・計画年休などの最中の労働者は、協定であらかじめ対象者から外しておきます。

(*2:労使協定を結ぶことで、有給休暇のうち5日を超える部分について、協定の定めに従って会社が計画的に有給休暇を割り振れる制度。有給休暇の5日付与義務は、基準日に10日以上の有給休暇を与えられた者が対象で、有給休暇の計画的付与は、計画的付与日に5日を超える有給休暇がある者が対象です。)

【QE】年5日の有給休暇を取得させなかった場合どうなる?

労働者が自発的に有給休暇を年5日以上取得した場合を除き、会社による時季指定で年5日の有給休暇を取得させなかった場合、労働基準法第120条の罰則規定により30万円以下の罰金です。また、労働者の請求する時季に所定の有給休暇を与えなかった場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金です。

これら罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われる厳しいものです。

労働基準監督署の監督指導においては 、原則としてその是正に向けて会社を丁寧に指導し、改善を図らせるとのことですが、この監督指導方針に甘えることなく正しい実務を心がけなければなりません。

お役立ち資料

【2023年版】人事・労務向け 法改正&政策&ガイドラインまるごと解説

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