「脳・心臓疾患の労災認定基準が明確化」労働時間だけでない判断ポイントとは

こんにちは、株式会社Flucle代表取締役 社会保険労務士の三田です。

2021年9月15日、脳・心臓疾患の労災認定基準が改正されました。これは実に20年ぶりのことです。

改正の背景には、働き方の多様化や職場環境の変化があります。それらに対応するため、「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」において医学的な部分も含め検証がなされていました。

その結果、認定基準が具体化、明確化し、脳・心臓疾患の労災認定の基準が客観的かつ総合的に判断できるよう、改正されたということです。企業の担当者はこの改正を正しく理解し、企業と従業員双方のリスクを回避できるよう、対応が求められます。

今回は、脳・心臓疾患の労災認定基準の改定ポイントや企業に求められる対応について解説いたします。

(参考)脳・心臓疾患の労災補償について- 厚生労働省

なぜ脳・心臓疾患が労災になるのか

脳・心臓疾患と労災は一見関係がなさそうですが、脳・心臓疾患の大きな原因の1つに長時間労働があります。ILO(国際労働機関)とWHO(世界保健機関)は「長時間労働が脳・心臓疾患の死亡者を増加させる可能性がある」と発表しており、労働時間が週55時間を上回ると発症のリスクが高まるとしています。

脳・心臓疾患は、その発症の基礎となる血管病変などが、加齢、食生活、生活環境などの日常生活や遺伝子等のさまざまな要因より徐々に増悪して発症すると考えられています。

しかし、長時間労働や業務にかかわる過重なストレスなどが原因で血管病変などが著しく悪化し発症することもあります。その場合、業務と発症との間に有力な関連性があると判断されると、労災として認定されます。

(参考) 長時間労働が心臓病と脳卒中による死亡者を増加させる可能性をILOとWHOが指摘 – 国際労働機関

労災保険の補償は手厚い

労災認定されると、労災保険の補償が受けられます。

労災保険で受けられる補償は、治療費だけではありません。労災保険の補償は手厚く、安心して治療に専念できるよう休業補償を受け取ることもできます。また脳・心臓疾患を発症し、障害が残ったり、死亡したときは年金や一時金が支給されます。

【労災保険の給付の種類】

  • 療養補償等給付
    • 疾病の治療にかかる医療費の給付
  • 休業補償等給付
    • 休業中の生活補償としての給付
  • 傷病補償等年金
    • 治療から1年6ヶ月経過しても疾病が治癒しないときに年金の給付
  • 障害補償等給付
    • 障害が残ったときに年金または一時金の給付
  • 介護補償等給付
    • 障害が残り介護が必要なときに介護費用の給付
  • 遺族補償等給付
    • 死亡したときに遺族に年金または一時金の給付
  • 葬祭料等
    • 葬祭の費用として給付

(参考) 労災保険給付の一覧 – 厚生労働省 東京労働局

対策するべき「安全配慮義務」

当たり前ですが、企業はそもそも労災が起きないように予防する必要があります。

脳・心臓疾患は、従業員の人生に大きな影響を及ぼします。そのため企業は、従業員に安全に働いてもらう上でどのような対策を取っていたか、改善していたかが問われます。

長時間労働や勤務間インターバル(終業時刻から次の始業時間までの休息時間)の不足、連続勤務などが常態化しており、その結果、脳・心臓疾患に発症につながったと判断されると、民事訴訟を起こされる可能性もでてくるでしょう。

企業にはそもそも安全配慮義務があります。長時間労働など心身に負担がかかる状態を企業が把握していたにもかかわらず、改善等を行わなかったときは、安全配慮義務違反に問われ損害賠償請求をされるケースもあります。

(関連記事) 気づかなかったでは済まされない「安全配慮義務違反」3つのケース

改正された認定基準のポイント3つ

今回の認定基準の大きな改正のポイント3つを、カンタンに解説します。

1.時間外労働以外の要因での認定

改正前は発症前の期間や時間外労働の時間数が定まっており、それに沿って労災かどうか判断がされていました。

しかし改正後は、発症前の一定期間における時間外労働以外の負荷要因の状況がプラスされ、判断がなされます。

(出典)厚生労働省サイト『脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント』

2.期間や労働時間以外の負荷要因が追加

改正では、新たに「休日のない連続勤務」や「勤務間インターバル」などが追加されました。

勤務間インターバルの目安は11時間です。労災認定審査時には、勤務インターバルが11時間未満の勤務の有無、時間数、頻度、連続性などが確認されます。

(出典)厚生労働省サイト『脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント』

3.業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化

業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強いと判断できるできごとが例示されました。労働時間だけではなく、「異常なできごと」も発症との関連性が強いとされます。

「異常なできごと」の例

  • 極度の緊張、興奮、恐怖、驚がくなどの強度の精神的負荷を引き起こす事態
  • 急激で著しい身体的負荷を強いられる事態
  • 急激で著しい作業環境の変化

(参考) 厚生労働省『血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心臓疾患等の 認定基準について』P8

異常なできごとと発症との関連性については、負荷を受けてから24時間以内に症状が出現するとされているため、発症直前から前日までと短い期間に起きたできごとである必要があります。

(出典)厚生労働省サイト『脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント』

企業に求められる対応

改正前の労災認定の基準では、労働時間が重要視されてきました。

しかし改正後は、労働時間以外の要因も含まれます。それにより、今までより労災認定がされやすくなると考えられ、ハラスメントなどの精神的負荷を原因とした脳・心臓疾患が労災認定されることも想定できます。

企業としては、労災が起こらないよう事前の対策を取っておく必要があるでしょう。

【主な対策】

  • 長時間労働の原因になっている業務の見直し
  • 11時間以上の勤務間インターバルの確保
  • ハラスメント防止の研修
  • 職場環境の整備
  • 二次健康診断の推奨

など

従業員には健康診断を

定期健康診断などで二次健康診断の対象になっている従業員がいるときは、健診を受けるようにすすめてください。

対象となっている従業員は、血圧やコレステロール値などが通常より高く、脳・心臓疾患の予備軍になっていることもあります。しかし日常生活に支障がなく、自覚症状もあまりなければ、二次健診は後回しにされがちです。

二次健康診断の健診費用は、労災保険から支給され、保健指導も受けられます。早めに健診を受け、健康状態を確認することをおすすめします。

二次健康診断は定期健康診断とは違い、従業員は健診結果を提出する義務がありません。しかし結果がわからないと企業側も必要な配慮などができないため、従業員が健診を受ける前に結果を提出してもらうように説明しましょう。

二次健康診断を受けられる病院は決まっているので、以下のサイトを参考にしてください。

(参考) 厚生労働省サイト『労災保険二次健康診断等給付』

まとめ

長時間労働は心身の負担や疲労が蓄積されやすく、血圧などにも影響が出やすくなります。

本人が「これくらいは大丈夫」と感じていても、見えない血管病変などが悪化しているケースも多く、脳・心臓疾患には、一生障害が残る・死亡するなど大きな代償があります。

特に40代以降の生活習慣病が増える年代や、心身負荷の高い職場で勤務している従業員には注意が必要でしょう。

昨今は在宅勤務などが増えたことによる運動不足なども見受けられます。企業側の管理体制だけではなく、従業員の予防意識の向上にも気を配り、必要であれば仕組化を考えることをおすすめします。すべての従業員が健康に働けるよう、業務や職場環境の見直しに着手してみてはいかがでしょうか。

株式会社Flucle代表取締役/社会保険労務士法人HRbase代表。 労務管理の課題をITで解決できる社会を目指し、顧問業務クラウドHRbase PROを開発・提供している。
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