「高度プロフェッショナル制度」のリスクと闇。企業には高い労務管理能力が求められる


こんにちは。特定社会保険労務士の篠原宏治です。

2018年6月29日、国会で働き方改革関連法案が可決されました。

「時間外労働の罰則付き上限規制」や「同一労働同一賃金」など、多くの制度改正があげられていますが、「高度プロフェッショナル制度」(高プロ制度)の是非が最大の争点になりました。

今回は、「高プロ制度」の概要と、同制度が抱えるリスクと闇について解説します。

「高度プロフェッショナル制度」の概要

高プロ制度は、

  • 高度の専門的知識等が必要で、時間と成果との関連性が通常高くないと認められるものとして、厚生労働省令で定める業務に従事している
  • 年収見込額が1,075万円以上である

という要件を満たす労働者について、労働基準法の労働時間、休日、休憩及び深夜労働の割増賃金に関する規定の適用対象外とする制度です。

高プロ制度が適用されれば、長時間労働の制限がなくなり割増賃金の支払い義務も生じなくなります。ただし、休日については、1年を通じて104日以上、かつ、4週4日以上の休日を与えることが義務付けられます。

高プロ制度を導入する際は、事業場に労使委員会を設置して5分の4以上による決議を行い、さらに対象労働者本人の同意を得る必要があります。

「高プロ制度」議論の争点

高プロ制度を適用すれば、極端な例をあげると、4週間のうちの24日間連続して毎日24時間休憩なしで働くように命じることも法律上可能になってしまいます。

そこまで極端ではなくても、企業に対して長時間労働や深夜残業を行わせることへの抑止力がなくなることから、長時間労働や過労死を助長することになるのではないかとの批判が出ています。

また、現在は年収1,075万円以上が要件とされていますが、法律に具体的な金額は記載されておらず、「平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額」とされているだけであるため、将来的に、厚生労働省令の改正によって収入水準が引き下げられて対象範囲を拡大されることが懸念されています。

「高プロ制度」が抱えるリスクと闇

どれだけ長時間働かせても法律違反に問われることがなく、また、割増賃金の支払いも気にしなくてよくなる高プロ制度は、企業にとって非常に魅力的な制度のようにも思えます。

ただ、高プロ制度は「労基法による長時間労働の規制がなくなる」だけであり、結果として過労死や過労自殺が発生した場合に、企業がその責任を免れることができるわけではありません。

この辺りのことがきちんと理解されずに、「過労死が合法化される」「定額働かせ放題」などと報じられていることが少なくなく、安易に高プロ制度を導入しようとする企業も現れかねず、高プロ制度の「闇」とも言えます。

「過労死しても労災認定がされなくなる」と言われることがありますが、労災(労働災害)は「業務に起因して生じたけが・病気・障害・死亡」のことであり、高プロ制度で行った長時間労働であっても業務であることに変わりはありませんから、いわゆる過労死ライン等の認定基準を満たしていれば労災認定は行われます。

また、高プロ制度は労基法の規定を除外するだけで、労働契約法第5条の「安全配慮義務」などの民事上の義務までなくなるわけではありませんので、遺族に対する損害賠償責任を免れることもできません。

「高プロ制度」で企業が注意すべきこと

高プロ制度は、活用の仕方によっては業務効率や生産性を向上させるきっかけになりますが、運用を誤れば企業の発展や労働者の成長を著しく阻害する原因にもなりかねません。

法律の規制がなくなって労務管理の自由度が高くなる分、企業には自らリスクコントロールを行うことができる高い労務管理能力が求められる制度であることを心掛けましょう。


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特定社会保険労務士 篠原 宏治

社会保険労務士事務所しのはら労働コンサルタント代表。元労働基準監督官。特定社会保険労務士。労働基準監督官として残業代不払いや長時間労働などの労働問題に関する数多くの相談対応、監督指導(臨検)、強制捜査などを行ってきた経験を活かし、「労働問題に強い社会保険労務士」として、労使双方からのご相談に対して実務的な助言やコンサルティングを行っています。社会保険労務士事務所しのはら労働コンサルタント
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