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人事労務の基礎知識 ~給与・税金編~【飲食・小売業、人事カイカク #07】

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こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。

17年間の飲食業現場経験から、【飲食・小売業、人事カイカク】というテーマの中で、「飲食業・小売業」の人事労務を改革し、バックオフィスから経営を強めていくためのヒントを探り、提供する当連載。

働き方改革を進めるための土台をしっかりと築くために必要な「人事労務の基礎知識」を5回にわけてお送りしていきます。

「人事労務の基礎知識」編のラストとなる今回は、「給与・税金」について、よくある質問をQ&A形式にて解説します。

【Q.1】給与計算に必要な知識は?

Q. 「給与計算」を担当するにあたって、どのような知識が必要ですか?

【A.1】各種保険や税の知識のみならず、就業規則に定めた計算方法など、給与計算に関連する知識が総合的に求められます。

給与計算においては、雇用保険、健康保険、厚生年金保険、所得税、住民税、および残業代、給与支払いについての自社の賃金規定(就業規則)が関係してきます。

正しく給与計算を行うためには、これらの知識を総合的に理解していなければなりません。

■ 給与計算における残業代

まず、残業代について。採用している労働時間制度(原則の1日8時間・週40時間、1ヶ月単位の変形労働時間制など)に応じた所定外労働時間、法定外労働時間を算出します。

残業代(割増賃金)の計算は、自社の賃金規定通りとなっているか確認してください。

(関連記事  残業代の計算方法を解説! 時間外労働や深夜労働の割増率を理解しよう

■ 給与計算における保険料控除

次に、健康保険料、厚生年金保険料の控除は間違いやすいので注意です。

保険料はひと月単位で保険料が徴収されるため、賃金支払対象期間の途中で入退社したとしても、日割り計算はしません。

健康保険と厚生年金保険は、退職日の翌日が資格喪失日となり、保険料は資格喪失日の属する月の前月分までを原則翌月の給与で控除します。つまり、月途中の退職か、月末の日に退職するのかによって、保険料がひと月分変わってくるのです。

例えば、3月30日に退職すると資格喪失日は3月31日であり、前月の2月分までの保険料が控除されます。
3月31日に退職すると資格喪失日は4月1日であり、前月の3月分までの保険料が控除されることになります。

【Q.2】給与計算の注意点は?

Q. 給与計算における注意点はありますか?

【A.2】各種保険の手続きにおいて、節目となる年齢に到達した従業員については注意が必要です。

特に注意しなければならないのは、各従業員の年齢により必要な手続きがあり、それらが給与計算に関係していることです。年齢による各種保険の手続きは次の通りです。

■ 年齢による各種保険の手続き

  • 【40歳】介護保険料控除開始
  • 【60歳】定年年齢
    <健康保険・厚生年金保険>同月得喪(正社員、嘱託社員の給与に差がある場合)
    <雇用保険>高年齢雇用継続給付、雇用保険の被保険者に該当するか否か
  • 【64歳】4月1日時点で64歳
    <雇用保険>雇用保険料控除なし※31年度末まで
  • 【65歳】介護保険料控除なし
  • 【70歳】厚生年金保険資格喪失、厚生年金保険料控除なし
  • 【75歳】健康保険資格喪失(→高齢者医療保険加入)、健康保険料控除なし

【Q.3】源泉所得税額の計算方法は?

Q. 源泉所得税額はどのように計算しますか?

【A.3】「給与所得者の扶養控除等異動申告書」の提出、雇用形態による給与の支払い方法、扶養状況等により、税額を計算します。

一般的に、正社員(月給の従業員)には、「扶養控除等異動申告書」を提出してもらい、税額表(月額表)の甲欄で源泉所得税を算出します。

この源泉所得税額計算のポイントは3つあります。

■ ポイント1「給与所得者の扶養控除等異動申告書」

「給与所得者の扶養控除等異動申告書」とは、所得税の計算において、給与所得者(従業員)が控除を受けようとする扶養親族などの人数、情報を申告するためのものです。(関連記事  マル扶こと「扶養控除等(異動)申告書」の概要と、書き方のわかりづらい4項目

この申告書は、ひとつの給与支払者(会社)にのみ提出することとなっており、ダブルワークしている人は主な勤務先に提出します。従業員に掛け持ちを認めている企業などでは、よく理解・把握しておくほうがよいでしょう。

申告書を提出した従業員については、税額が低い、税額表の甲欄を適用することができます。

■ ポイント2「税額表」

原則として、給与に係る源泉所得税を計算するためには、税額表を使用します。

税額表には、月額表と日額表があり、それぞれ、次の給与に適用します。

  • 月額表:主に月ごとに支払うもの、半月ごと、10日ごとに支払うもの
  • 日額表:毎日支払うもの、週ごとに支払うもの、日割りで支払うもの、日雇賃金

税額表の「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」は、いわゆる課税対象額です。

課税対象額=給与総額ー(非課税通勤費+雇用保険料+健康保険料+厚生年金保険料)

上記の計算により求めた課税対象額の金額が範囲にある行と、甲欄にある扶養親族等の数の列が交わるところに記載されいてる金額が税額となります。

※ 給与所得の源泉徴収税額表(平成30年分)月額表

■ ポイント3「税額表の適用する欄」

税額表の所得税額の欄には、甲、乙、丙という3種類があり、次の人に適用します。

  • 甲欄:「給与所得者の扶養控除等異動申告書」を提出している人。
  • 乙欄:「給与所得者の扶養控除等異動申告書」を提出していない人。
  • 丙欄:日雇賃金を受ける人

賞与に対する源泉徴収税額は、「算出率表」を使って計算します。

前月中に通常の給与の支払いがない場合、前月中の通常の給与の額の10倍を超える賞与の場合は、月額表を使って求めるなど、注意が必要です。

※ 算出率表(賞与)

【Q.4】住民税は給与から天引き?

Q. 住民税は給与から天引きしなければならないのですか?

【A.4】住民税は、事業主が従業員の給与から控除し、従業員の代わりに納付する「特別徴収」とすることが義務付けられています。

毎年5月中には、6月から翌年5月までの住民税額が記載された通知書が、従業員の住所地の自治体(市区町村)から事業所宛に送られてきます。

(関連記事  「住民税決定通知書」が届いたらチェックすべき重要ポイント

給与計算において、6月は端数を含んだ住民税額を、7月以降翌年5月までの住民税額を控除しているか注意が必要です。

従業員が退職した時には、会社が行うべき手続きとして、「給与所得者異動届出書」の提出が必要となりますので、忘れずに手続きしてください。

なお、必要な各種届出書は、従業員の住所地の各自治体のホームページからダウンロードすることができます。

【Q.5】年末調整とは?

Q. 年末調整とはなんですか? 何をすればよいのでしょうか?

【A.5】給与所得者の1年間の給与総額が確定する年末に、その年に納めるべき税額を正しく計算し、それまでに徴収した税額との過不足額を求め、その差額を徴収又は還付し精算する手続を「年末調整」といいます。

一般的に給与所得者は、一の勤務先から受ける給与以外に所得がないか、給与以外の所得があってもその額が少額であるという人がほとんどです。

したがって、このような人について、勤務先で年末調整により税額の精算が済んでしまうため、確定申告などの手続を行う必要がありません。

年末調整の対象となる人は、1年を通じて勤務している人、年の途中で就職して年末まで勤務している人などです。

一方、対象とならない人は、収入金額が2,000万円を超える人、2ヶ所以上勤務している人など「扶養控除等異動申告書」を提出していない人などです。

平成29年度税制改正において、配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しが行われたことに伴い、扶養親族等の数の算定方法が変更となっています。

平成30年分以降の配偶者控除および特別配偶者控除の取り扱いについて」を確認してください。

なお、詳細は、毎年の年末調整時期に用意される、国税庁のパンフレット「年末調整のしかた」で確認をしましょう。

まとめ

給与計算には、各種保険、所得税、住民税、就業規則の賃金規定などの総合的な知識が必要です。

給与計算はミスが許されないため、給与計算の担当者には定期的な知識のブラッシュアップ、給与ソフトの活用、ダブルチェックの体制など、ヒューマンエラーが起こらないような仕組みを構築したいものです。

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