医療機関で働き方改革を進める上での課題と対策とは【病院の人事カイカク #2】


こんにちは。特定社会保険労務士の福島紀夫です。

医療機関の抱える働き方の課題にせまる本連載「病院の人事カイカク」

現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大で経済や生活基盤に大きな支障が出る中、医療機関も大きく揺れています。

感染症の拡大に伴い、医療従事者の安全確保や患者増大に伴う医療崩壊という言葉が多く報道されるたびに、働き方改革はどこへ行ってしまうのだろうと不安を感じることもあります。

今後、働き方改革のあり方もどんどん変わっていくことを見越して、2回目となる今回は、現状の「医療機関で働き方改革を進める上での課題と対策」を解説したいと思います。

【1】医療業界が直面する雇用の課題

医療業界に限ったことではありませんが、現在日本が直面する雇用の課題は大きく分けて3つあると考えます。

  • 少子高齢化に伴い生産年齢人口の減少が止まらない
  • 育児や介護と仕事の両立など、従業員のニーズが多様化している
  • 雇用マッチングの機会が適正な状態であるとは言えない

あらゆる業種で人材不足が叫ばれる中、医療機関においても人材確保・定着は喫緊の課題となっています。ただ単に働いてもらうのではなく、働く意欲や能力を高め働きがいを感じてもらうなど、雇用を継続していくための環境づくりが必要です。

【2】医療業界が直面する働き方の課題

そのためには、「長時間労働の是正」や「多様で柔軟な働き方の実現」を図ること、同一労働・同一賃金の主旨に則り「雇用形態による待遇差をできるだけ少なくすること」などが、働き方改革において重要となります。

医療機関の働き方改革においては、上記に加えて、「労働時間の把握」、「勤務間インターバルの導入促進」なども欠かせません。

医療機関が働き方改革を進めないことによる負のスパイラル

長時間労働がもたらす悪循環は、負のスパイラルを起こす可能性があります。

長時間労働によるメンタル不全者が増えることで、結果的に退職者が増加。それに伴って、診療報酬にも影響が出ることも考えられ、人手が不足し、シフトが満足に組めない状態につながります。

その場合、人材確保ができない状況によって事業継続が困難になり、最悪の場合、病棟閉鎖あるいは閉院の危機に見舞われる可能性もゼロではありません。

このような負のスパイラルに陥らないためにも、魅力ある職場形成は重要です。

24時間体制による疲労の蓄積

医療従事者はほぼシフトで働いていますが、多くの場合、始業時刻前の業務開始など、勤怠には表れない業務時間が存在しています。

時間外労働による疲労の蓄積は、睡眠不足による生産性低下を招き、患者の生命を預かる仕事としてのリスクを大きくする結果に繋がりかねません。

厚生労働省が2014年にまとめた「健康づくりのための睡眠指針」においても、以下のように睡眠の重要性を説いています。

  1. 良い睡眠で、からだもこころも健康に
  2. 適度な運動、しっかり朝食、ねむりとめざめのメリハリを
  3. 良い睡眠は、生活習慣病予防につながります
  4. 睡眠による休養感は、こころの健康に重要です
  5. 年齢や季節に応じて、ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を
  6. 良い睡眠のためには、環境づくりも重要です
  7. 若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ
  8. 勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を
  9. 熟年世代は朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠
  10. 眠くなってから寝床に入り、起きる時刻は遅らせない
  11. いつもと違う睡眠には、要注意
  12. 眠れない、その苦しみをかかえずに、専門家に相談を

疲労を回復するには良質な睡眠が不可欠。寝不足が続くことで作業効率が低下し、緊急時の対応に遅れが出てしまうことも考えられます。

職場全体で、睡眠不足にはくれぐれも気をつけましょう。

勤務間インターバルの促進

前述した疲労の蓄積を回避するためには睡眠が不可欠であり、そのためには「勤務間インターバル」の導入が有効です。

勤務間インターバルとは、勤務終了後、一定時間以上の休息時間を設けることで、生活時間や睡眠時間を確保するものです。

出典:厚生労働省「勤務間インターバルとは」

この制度はまだ努力義務ですので法制化されていませんが、ヨーロッパでは時間のインターバルが定着しており、導入促進されています。

一般企業でいえば、9時から始業して22時までに終業すれば11時間はキープできますが、仮に23時まで働いた場合、次の日の始業時間を1時間遅らせることでインターバルを確保できます。

しかし、医療従事者はシフトで働いているため、そのシフトが成立しなくなってしまっては業務に支障をきたす結果になりかねません。

看護師などのコメディカルの方は、シフトを守ることでインターバルは確保できますが、医師の場合はなかなか難しい問題であることは承知しています。

しかし、医師もいち労働者として労働時間管理が求められるので、確実に休息を取れるような制度を作り上げていくべきです。

【3】医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組み

医師の労働時間短縮に向けた取り組みを既に実施されている医療機関も多いことでしょう。

第6回医師の働き方改革に関する検討会(平成30年1月15日)では、労働時間短縮に向けた取り組みの骨子案が発表され、チーム医療としてのスタンスの見直しが始まりました。

これらの項目に対して、実施しているかどうかの調査結果もありますので照らし合わせてみましょう。

出典:第16回医師の働き方改革に関する検討会(平成31年1月11日)より抜粋

既に1年前の数値とはいえ、まだまだ改善に対しての意識の低さがわかる数値であるといえます。

1年経った今はもう少し改善した結果が出ることを期待しながら、今後も労働時間管理等については意識を高めていただきたいです。

おわりに

医療従事者は、他職種と比較しても労働時間が長く、その中でも、高い集中力の求められる医師の長時間労働は社会として向き合うべき大きな問題です。

医療従事者も1人の人間。この問題の解決には、患者側の理解が欠かせないことは前回の記事でも述べたとおりです。

働き方改革は単に労働時間を削減することではなく、安全で質の高い医療の提供との両立が求められます。

新型コロナウイルス感染症対策で今はとても大変な時期ですが、一段落した後には、この一大事を乗り切った労をねぎらい、そして新たな仕切り直しとして働き方改革を推進していきましょう。

病院業界の労務課題とは? 課題と要因を解説【病院の人事カイカク #1】

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特定社会保険労務士 福島 紀夫

大学卒業後、1988年より医薬品商社にて病院、クリニックの営業に12年間従事、2000年に現職に転職。2013年、明治大学大学院経営学研究科を修了し、経営、組織、リーダーシップ理論等を学び、修士論文のテーマとして「看護師長のリーダーシップが看護師定着に与える影響に関する考察」を研究。
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