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職場で使えるカウンセリング理論(4)コミュニケーションとは? 離職を防ぐコミュニケーションを考える【Smart相談室】Vol.7 セミナーレポート

公開日
目次
  1. コミュニケーションの落とし穴は感覚の違い
  2. コミュニケーションのプロセスから問題点を見つける
    1. 4段階のプロセスで「エラー」を洗い出す
  3. コミュニケーションエラーが起こる3つの要因
    1. 話し手の配慮で送信エラーは回避できる
    2. 受信エラーは受け手の態度によって起こる
    3. 文脈の理解で回避できる解読化のエラー
    4. 時代や文化の違いがエラーの要因につながる
  4. マネジメントに率直さは必要か?
  5. 表現を変えるためのテクニック
    1. 依頼のコツは「理由・要求・結果」を伝えること
    2. 上手な断り方のコツは「謝罪と理由」を伝えること
    3. 「ジョハリの窓」で円滑なコミュニケーションを実現
  6. アサーティブコミュニケーションの持ち方
    1. (1)自己肯定感が下がる「非主張的表現」
    2. (2)ネガティブな態度で表現する「間接的アグレッシブ表現」
    3. (3)相手との関係が悪化する「攻撃的表現」
    4. (4)心の距離が近づく「主張的表現」
    5. アサーティブコミュニケーションができない5つのケース
  7. 質疑応答
    1. Q:話すと動悸がするような相手とのコミュニケーションは、何を勉強すれば解消できる?
    2. Q:行動から入ると上辺だけの変化で、マインドまで変化を起こすのは難しいのでは?
    3. Q:社内で対立する2者の間に入ったときに辛い気持ちになります
    4. Q:上司とうまくいっていない相手に相談された場合は、どのように対応すべきでしょうか?
    5. Q:被害妄想傾向のある新人が、上司への不満を周囲に話しまくっていて、周りが手を焼いています
  8. 自分の気持ちに余裕を持ち、理論を使って他者理解を進める

2022年9月21日、オンラインカウンセリングサービス「Smart相談室」を提供する、株式会社Smart相談室主催のオンラインセミナー「職場で使えるカウンセリング理論(4)コミュニケーションとは? 離職を防ぐコミュニケーションを考える」では、Smart相談室スーパーバイザーの鵜飼柔美氏をお迎えして、相手を思いやりながらも自分を犠牲にしない、コミュニケーションの理論をお話しいただきました。

相談を受けたときのアドバイスにも活用できるようなヒントが盛りだくさんの内容をお届けします。

  • セミナー講師鵜飼 柔美 氏

    オフィスファーロ 代表

  • 進行藤田 康男 氏

    株式会社Smart相談室 CEO

コミュニケーションの落とし穴は感覚の違い

たかがコミュニケーション、されどコミュニケーション

鵜飼さん

まずは、コミュニケーションの仕組みや落とし穴について考えていきたいと思います。

そもそもコミュニケーションとは、「共有し合って伝えること」です。職場を含む対人関係の悩み、ハラスメントなどの多くは、コミュニケーションの問題をはらんでいると思います。

対立しあう二人から両方のお話を伺うと、どちらもウソは言っていないことがほとんどです。しかしどこかでボタンを掛け違えており、コミュニケーションのエラーが起こっています。

20年近くカウンセリングの現場にいて感じるのは、こういったコミュニケーションのエラーのもとには、育った時代や文化の違いによる「普通」の感覚の違いがよくあるように思います。組織や家庭生活は脈々と続いているようで、いつの間にか時代や文化が変わっていたりします。とくにコロナ禍以降、「新しい価値観」や「多様性を認める」など、考え方やものの捉え方は変化させざるをえなくなりました。そういった変化への対応力には、かなり個人差があります。

例えるならば、コロナという黒船襲来のような大きな出来事を経験して、「新しい時代に変わっていかなければ」という薩長藩士のような方もいらっしゃれば、「日本は日本のあり方で」という会津藩士のような考え方の方もいらっしゃいます。変化への対応の仕方の違いが、コミュニケーションにも影響を与えるのです。

また、私たち日本人の根底には「空気を読む」ことを美徳とする考え方が大きくあります。なかなか腹を割って話せず、こじらせていることも多いはずです。

コミュニケーションのプロセスから問題点を見つける

コミュニケーションのプロセス

コミュニケーションはこのような4つのプロセスに分けられます。最初のプロセスは、話し手が話したいことを伝えるために言葉を選ぶ「記号化」です。それを言葉に乗せて送り出すプロセスが「送信」。聞き手が耳や文字で言葉を受け取ることを「受信」といいます。最後に、話し手が言いたかったことの中身を受け取るという「解読化」です。この4つのプロセスを相互にやりとりすることで、コミュニケーションは成り立っています。

コミュニケーションのエラーは、この4つのプロセスのどこかで起こります。考えられる例を挙げていきます。

4段階のプロセスで「エラー」を洗い出す

最初の「記号化」のエラーには、伝えたいことを適切に表現できない、記号化のミスがあります。また、共通理解のない言語を使うことで、相手が解読できない記号にしてしまうというのも、記号化のエラーです。

「送信」のエラーには、声が小さい、早口で聞き取りにくいなど、送り手側の配慮が欠けているときに起こります。また、泣きながら笑う、笑いながら怒るといった言語表現と非言語表現の不一致が起こっているときも、受ける側は混乱します。

「受信」のエラーは、受ける側が集中して聴いていない場合や、聞き取れていないのになんとなく理解してしまった場合に起こります。

そして「解読化」のエラーは、文脈を理解せず一部だけを切り取って理解したときに起こります。全体を見ず部分だけを見て理解したり、自分の馴染みのある解読の仕方をしてしまうのも解読化のエラーです。

コミュニケーションのエラー

話し手が伝えたかったのは「羽毛のようにふわふわした柔らかさ」でしたが、「柔らかい」という言葉だけで伝えました。しかし受け取った側は、「ほにょほにょとしたゴム毬のような柔らかさ」を想起しています。

この齟齬が生まれるのは、お互いに自分の価値観や学習した経験など、自分の背景で言葉を選んだり解釈したりしているためです。

コミュニケーションエラーが起こる3つの要因

記号化のエラーは、相手に対する遠慮や怖れがあるときに起こりやすいです。文量を最小限にしたり、ふわっと記号化してしまうので、適切に表現できないのです。

評価や承認を求めるときも、少し背伸びをして伝える内容を少し曲げてしまうことがあります。

また、時代が変わるなかで、共通理解のない言語を使ってしまうのもエラーにつながります。言葉が移り変わっていくことを忘れてしまうと、「これで伝わるかな」という配慮が欠けてしまうのです。

相手との関係性もエラーの要因です。関係が良くなかったり、良くしようという気持ちがない場合には、自分本位になりがちですよね。そのため、声が小さくなったり、早口になってしまったりするのです。

話し手の配慮で送信エラーは回避できる

言語表現と非言語表現の不一致で起こる送信のエラーは、関係性ができていないために緊張したり、表情がないままお話をすることでも起こりやすいです。

年代によっても送信のエラーは起こり得ます。私は50代後半になって、耳の機能が衰えたと感じます。テレビのバラエティ番組で、若い芸人さんの早口トークを聞き逃してしまうので、我が家では日本語の番組も字幕を出して観るんです。もし身近に50代の方がいらっしゃったら、「スピードについていけているかな」と配慮してみてください。

受信エラーは受け手の態度によって起こる

受信のエラーは、別のことを考えているときや、業務に追われているときなどに起こります。自分にとって重要でない話題を曖昧なままにしてしまうのです。相手に関心が薄い場合も「そんなにしっかり聞き取らなくていいか」と思ってしまうので、聞き漏らしの原因になります。

相手に対して遠慮や怖れがある場合、聞き返せずに正しく受信できないこともあります。

文脈の理解で回避できる解読化のエラー

解読化のエラーは、文脈を理解せず一部だけ切り取って理解することです。例えば、気持ちに余裕がないときは、「要するにどういうことなの? かいつまんで言って」というように、要点だけを受け取ろうとすることで起こりやすいです。相手を尊重する気持ちが薄いときにも、文脈を理解せず一部だけを受け取ろうとする気持ちが起こりがちです。

また、自分に馴染みのある解釈や言い方で理解してしまうことでもエラーが起こりやすいです。早合点して、自分の世界に落とし込んでしまうのです。

時代や文化の違いがエラーの要因につながる

コミュニケーションの難しさは、育った時代や文化の違いで「普通」という感覚が違うことから起こると、先ほども申し上げました。

新しい価値観や多様性など変化への「対応力」に個人差があることや、日本人の根底にある「空気を読む」習わしが、エラーの要因へとつながっているのです。

コミュニケーションのエラーが起こらないように

このようなコミュニケーションのエラーを回避する4つの方法をご紹介します。このことによって、伝えたい内容が明確になります。

1つ目は、言いたい・伝えたいという「自分の気持ちを大切にする」こと。

2つ目は、「相手の気持ちも尊重する」こと。相手がいつもわかりやすく、完璧に伝えているわけではなく、言語化や送信のエラーがあるかもしれません。相手の言葉の意味を理解しようという姿勢が大事ですね。

3つ目は、「率直で素直な表現をする」こと。相手を尊重するということと、自分の言いたいことを婉曲的に伝えるということは別です。自他の区別をつけて相手を傷つけずに率直で素直な表現方法、アサーティブなコミュニケーションを身につけたいですね。

4つ目は「日常的に良好な関係をつくっておく」こと。

組織の文化として、島国的な発想を変えていく必要があるのです。気持ちを変えるのは難しいため、まずは行動を変えてマインドを変えていくのもよいでしょう。

マネジメントに率直さは必要か?

藤田

マネジメントに関する質問をさせてください。私は何事にも率直に対応してしまうのですが、マネジメントにおいてもその傾向があります。場合によっては「このタイミングでこれを言うと指示みたいになるかな」と思い、言わないこともあります。

しかし後々問題になって「答えを教えてくれない」「藤田さんは、わかっているのに意地悪をしている」と言われることがあります。必ずしも率直に言えない場面を、鵜飼さんもご経験されたことはありますか。

鵜飼さん

私も率直なほうなので、よくわかります。でも率直さは、相手との関係性や場面、相手の特性によって発揮されづらいものだと思います。

例えば、自分は隠しごとなく率直な気持ちで言ったつもりでも、「その裏に何かあることをわかっています」という言い方をされることがあります。誰もが率直であることを受け止められるとは限らないので、相手にとって何がよいか、手を変え品を変えていく必要があるのかもしれないですね。

表現を変えるためのテクニック

良好な関係を作るための言葉のかけ方

鵜飼さん

人によって異なる「普通」に対応するためには、表現“技術”に関する共通の知識を持っておくとよいでしょう。

良好な関係をつくるためには、相手が気持ちよくなるような、あたたかい言葉をかけるように意識します。できるだけ、何が起こっているのか、自分がどう思ったかという「事象」に加え「感情」を合わせて伝えると、よりあたたかいストロークになります。

例えば、「手伝ってくれたね」ではなくて、「手伝ってくれてありがとう」という感謝の気持ちを加えましょう。仕事をたくさん引き受けてくれている人には「そんなにたくさん引き受けて、大丈夫か心配です」と感情を加えて伝えるとあたたかいですね。

そしてあたたかい言葉をもらった側は、素直に感謝の気持ちを受け取りましょう。「謙遜の美徳」と言いますけれども、「そんな大したことやってません」と返してしまうと、せっかくの相手の気持ちを否定してしまう形になってしまいますね。

相手があたたかいストロークをくれたら、素直に「ありがとう」と受け取ることが大切です。

依頼のコツは「理由・要求・結果」を伝えること

上手な依頼のしかた

続いて、上手な頼み方についてです。何かを依頼するときは、押し付けるのではなく相手が納得して引き受ける気持ちになるような働きかけをする、いわばプレゼンが必要です。

まずどうして頼みたいのかという「理由」、何を頼みたいのかという「要求」、そして引き受けてもらうとどうなるのかの「結果」を伝えましょう。人にお願いすることが苦手な方も、プレゼンだと考えてこの法則を使えばハードルが下がると思います。

上手な断り方のコツは「謝罪と理由」を伝えること

良好な上手な断り方

次は上手な断り方です。まず、「断る=相手を否定する」ではありません。「断らなければならない事情を相手に理解してもらう働きかけ」と考え、コミュニケーションを組み立てましょう。

断る気持ちがブレてしまうと中途半端な言い方になるので、まずは「決断」しましょう。次に「謝罪」です。クッション的な役割で、相手の意に沿えないことを詫びます。そして「理由」を言います。「そのときは〇〇があって、できません」と明確に断ります。ここで言葉を濁したり、察してもらおうと相手に甘えてしまうと、きちんと伝わりません。

最後に「代替案」の提示です。応じられる可能性がある他の選択肢を考えて、代替案を提示します。

断り方を知らないことが結果的にハラスメント被害に発展することもあります。若手の研修などに取り入れられるとよいと思います。

自分を知らないと相手との良い関係は作りにくい

「ジョハリの窓」で円滑なコミュニケーションを実現

4つ目は、自分を知らないと相手と良い関係をつくりにくいということです。自他の区別をつけられるようにしましょう。

自分を知るためには、コミュニケーション研修でよく紹介される「ジョハリの窓」を使います。自分も他人も知っている部分を「開放の窓」といいます。自分だけが知っていて他人は知らない部分は「秘密の窓」。秘密の窓を少し開放し、人に自分のことを伝えて「開放の窓」を広げていくと、自分のことをわかってくれる人が増えるので楽になります。

また、相手は知っていて自分が気づいていないところもあります。これは「盲点の窓」と呼ばれています。相手からのフィードバックを受け入れることによって、「盲点の窓」が減り、「開放の窓」が横へ広がっていきます。こうしていくことで、相手との関係をつくりやすくなります。

わたしの大切なもの

次に、キャリアカウンセリングで有名な宮城まり子先生から教えていただいた、自分の価値観や大切なものを明確に言葉にしておくためのワークをご紹介します。

いくつかある単語のなかから、大切だなと思うものに○をつけます。当然、たくさんある人もいれば、3つくらいしかない人もいます。これも自他の違いです。

次に、最初に選んだなかから5つに絞ります。そして、上位5つのキーワードをつなげて文章をつくってもらうんです。例えば、「自由とは責任が伴う○○である」などの文章をつくります。同じ言葉を選んでも文章のつくり方は人によって違います。以前、大阪の高校で実施した先生方のキャリア教育で、ある数学の先生は、5つのキーワードを数式でつなげたんです。数学の先生らしいですよね。

このようなシンプルなワークをコミュニケーションの研修に取り入れると、それぞれが自分にとって大切なものを確認できるようになります。すると自分のことを大事にしたり、自分とは違う大切なものを持っている相手のことを大事にできるようになるのです。

アサーティブコミュニケーションの持ち方

人間関係の持ち方

アサーションというのは、人間関係の持ち方です。例えば、他人を優先して自分のことを後回しにするストレスが溜まるタイプ。自分を優先して他の人を後回しにするタイプ。これは、自分はストレスがないかもしれないけれども、他の人にストレスを与えてしまう可能性があります。

元々アサーションは、人権回復運動と密接に関係していました。他者の基本的人権を侵すことなく、自己の基本的人権を守る自己表現を研究したところからきているものです。アサーティブコミュニケーションが目指すのは、まず自分がどうしたいか考えたうえで、他の人にも配慮するという人間関係の持ち方になります。

自分も他人も大事にするコミュニケーションを考えると、4つの自己主張の表現パターンを勉強できます。

自己主張の表現パターン

(1)自己肯定感が下がる「非主張的表現」

1つは、非主張的(ノンアサーティブ)な表現です。これは不満などがあっても我慢し、表現しないということです。他人を優先して自分の気持ちを表現しなかった結果、解決にはたどり着きません。さらに言えない自分、解決できない自分、相手のよいようにされてしまう自分になってしまい、自己肯定感が下がります。

(2)ネガティブな態度で表現する「間接的アグレッシブ表現」

2つ目は、間接的攻撃(間接的アグレッシブ表現)です。間接的に態度で攻撃するということです。何日か前に、私がオフィスへの道を歩いていると、おばあさん方が3人、道いっぱい横に広がって歩いていました。私はそれを掻き分けて前に出たのですが、直後に一時停止したんです。すると私の後ろをついて歩いていた若い女性の邪魔になってしまったようで、「チッ」と舌打ちをされてしまいました。これが間接的攻撃です。

私は気がついたので「ごめんなさい」と謝ったのですが、相手が気づかない場合は問題が解決しないので、さらに不満が増えていくこともあります。本来は「止まったら危ないじゃないですか」などと伝えてくれた方がよかったはずです。

自己主張の表現パターン

(3)相手との関係が悪化する「攻撃的表現」

3つ目は、攻撃的(アグレッシブ)表現です。これは威圧的、直接的に相手を言葉で攻撃して要求を通そうとすることです。「バカじゃないの」など、論理的ではない言い方ですね。強い要求をするので、相手は謝るしかありません。犠牲の上に解決が成り立つので、相手との関係は悪くなります。

(4)心の距離が近づく「主張的表現」

おすすめしたいのは、4つ目の主張的(アサーティブ)表現で正しく要求をすることです。

人に配慮しながらも自分の要求は明確に表す。うまく伝えられれば、相手の気分も害することなく、問題を解決でき、心の距離は近づくでしょう。

アサーティブコミュニケーションができないとき

アサーティブコミュニケーションができない5つのケース

アサーティブコミュニケーションができない場合は、下記の5つのケースが考えられます。1つ目は、どういう言動がアサーティブなのか区別できないときです。アサーティブを攻撃だと考えてしまうと、うまくアサーティブな言い方ができません。

2つ目に、自分や自分の考えに自信が持てないとき。あるがままの自分に確信が持てないと、アサーティブな表現ができません。

3つ目に、アサーションの権利を確信できないとき。基本的人権であるという理解が足りていないときです。

4つ目は、アサーションコミュニケーションへの恐れがあるとき。否定的な結果を予想してしまうときですね。

5つ目は、適切な自己表現ができないとき。その場面やその相手との関係のなかで、適切に表現する練習が不足していると、アサーティブコミュニケーションができません。

アサーション度チェック

これは、アサーション度のチェックリストです。 ネットにもたくさん出ているので、ご自身のアサーション度チェックに役立ててみてください。

私は、8番の「権威者に気楽に接することができますか」というチェック項目に自信を持ってチェックできます。むしろ権威のある人だからこそ、懐を借りようといった感じで接することができるんです。

質疑応答

藤田

ご質問をいただいておりますのでご紹介します。

Q:話すと動悸がするような相手とのコミュニケーションは、何を勉強すれば解消できる?

鵜飼さん

それはどういうドキドキでしょうか? 相手に好かれたいからドキドキするのか、相手が怖くてドキドキするのか? 禅やアドラー心理学のなかでもあるように、相手がどう思うかというのは相手の問題で、自分がどうするかというのは自分の問題です。

もしうまくいかなかったとしても、「うまくいかないこともあるよね」と、どこかで思っておくとよいと思います。一回で完璧にやろうとする必要はありません。

Q:行動から入ると上辺だけの変化で、マインドまで変化を起こすのは難しいのでは?

鵜飼さん

交流分析の回ではエゴグラムのお話をしました。エゴグラムは、実際にどういう行動をしているかで、自我状態がテスト結果に出るというものです。

例えば、FC(楽しいという気持ち)が低いときは、楽しもうと思っても難しいわけです。そこで、エゴグラムの質問で自分が「×」や「△」をつけた行動を増やすようにしていきます。すると行動に引っ張られて気持ちが変わるとされているのです。

コミュニケーションにおいては、自分の言い方や話し方によって、相手の反応が変わることがあります。相手の反応が変わると、自分の気持ちも変わるでしょう。新しい行動を取り入れると変わりやすいことが多いので、ご提案してみました。

Q:社内で対立する2者の間に入ったときに辛い気持ちになります

藤田

質問の補足です。「傾聴が大事だと思い、話を一生懸命聞くようにしています。ただ、どちらかの味方をするわけにもいかず、双方の言い分をじっくり聞いているうちにドツボにはまり、自分もしんどくなります。うまく調整したいのですが、自分のしんどさや気持ちの整理も含めて、どう対応するのがよいでしょうか?」と寄せられています。

鵜飼さん

3つのことをおすすめします。まず、傾聴することと自分のなかに入れてしまうことは別と考えていただいて、傾聴のトレーニングをしてみてください。2つ目のおすすめは、ご自身が辛いことを吐き出す場をつくること。3つ目に、両者があまりにも激しく違う場合は、一人で担当するのではなくて、担当を分けることをおすすめします。

Q:上司とうまくいっていない相手に相談された場合は、どのように対応すべきでしょうか?

鵜飼さん

話を聴いて、その方の気が楽になって不満が解消されればよいのですが、上司との関係は変わりませんよね。「上司にもこのような思いがあるんじゃない?」と伝えたところで、その方の心のなかが不満でいっぱいのうちは、アドバイスは入れてもらえません。

「なぜ上司はその言い方をするのだろうか」「上司の意図はなんだろうか」と考えられないうちはアドバイスができないので、吐き出してもらうしかないですね。

また話を聞くことで、その方の「解読」の問題なのか、「受信」の問題なのか、上司の「記号化」の問題なのか、「送信」の問題なのかを突き止めることができるでしょう。テコ入れする場所の見極めが必要かもしれません。

Q:被害妄想傾向のある新人が、上司への不満を周囲に話しまくっていて、周りが手を焼いています

鵜飼さん

その新人の方が、誰に対しても被害妄想傾向なのか、その上司に対してだけ被害妄想傾向なのかにもよると思います。その上司だけに被害妄想傾向ならば、両者の間で何かコミュニケーションがこじれた可能性があるので、コミュニケーションの4つのプロセスのどこで何が起こったかをひも解いてはいかがでしょうか。

自分の気持ちに余裕を持ち、理論を使って他者理解を進める

藤田

ありがとうございます。最後になりますが、鵜飼さんのご講演は本日で最終になります。全7回、お疲れさまでした。総括のコメントをいただけますか。

鵜飼さん

今日までの7回を踏まえて、今日の最後に「離職を防ぐコミュニケーションとは」と副題をつけていただきました。

カウンセリングでは理論をよく使います。なぜなら、相談を受ける人が自分の経験で支援をするよりも、理論という裏づけをガイドラインに活用したほうが効果的な支援になるからです。理論をうまく使いながら、異なる文化や価値観を持つ他者の理解につなげていただきたいです。

まずは忙しさだけに追われることなく、あたたかいストロークが渡せるように、ご自身の気持ちに余裕を持ってください。心の壺に不満やネガティブな気持ちがパンパンに詰まっていると、余裕が持てません。それを吐き出すために、私たちカウンセラーを上手に使っていただけるとうれしいですね。

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