スープストックトーキョーから学ぶ「共感の働き方改革」成功への13ポイント

2018.04.05 ライター: 藤田 隼

2018年2月26日、日本の人事部×SmartHR共催イベント『外食・小売り・サービス業で考える働き方改革』を開催しました。

テーマは「現場を活かす人事 ─ 業界が取り組むべき「人手不足時代」の生き残り人事戦略の最前線 ─」。ゲストスピーカーとして、食べるスープの専門店「スープストックトーキョー」取締役兼人材開発部部長の江澤身和さんにご登壇いただきました。

後編となる今回は、前回の江澤さんのお話を踏まえ、SmartHR代表・宮田がモデレーターとなって深掘りし、「飲食・小売業における働き方改革」についてのヒントを模索します。

Q.1 会社やブランドに対して「社員やアルバイトを巻き込むコツ」は?

宮田:皆さん、こんにちは。SmartHR代表の宮田と申します。本日は、皆さまを代表して、私から江澤さんに、スープストックトーキョーの働き方改革についていくつか質問させていただければと思っております。よろしくお願いいたします。

それでは、さっそく1つ目の質問です。会社やブランドに対して「社員やアルバイトを巻き込むコツ」があればお伺いしたいです。

質問の意図としては、スープストックトーキョーさんのようにアルバイトであるパートナーさん(※)の「会社への帰属意識」が高いというのは珍しいケースだと思っています。それを踏まえ、どのようにすれば社員だけでなくアルバイトを巻き込んでいけるのかヒントを探れればと思います。

(※ この記事中では、「パートナー」はスープストックトーキョーのアルバイト・パートタイマーの方を指します)

【ポイント1】情報共有の徹底でブランドを「自分ごと化」させる

江澤さん:「ブランドを自分ごと化する」というのは私たちとしても課題ではあるんですが、その中でも社員だけでなくパートナーに対しても情報をしっかりと共有することを特に大切にしています。
「この情報は社員だけが知ってればいい」と区分するのではなくて、私たちが発信していること全てを、パートナーも含めしっかり行き届かせる、浸透させるよう心がけています。

【ポイント2】インプットだけでなく、それをもとに自らアウトプットさせる

江澤さん:また、情報伝達が一方通行にならないよう、得た情報をもとにどのような行動が自分にできるのかなどを常に考えてもらうように働きかけています。研修などもそうですが、学んだ知識や情報を自分たちで飲み込み、そして自分たちで考えて自ら発するという、インプットとアウトプットをセットで習慣づけるのは大切だと考えています。

宮田:店長さんや社員さんが持っている情報と、パートナーさんが持っている情報を同等にして、それを踏まえてどう行動するのかを一体となって考えていくと。

江澤さん:はい、そうですね。

【ポイント3】「ナゼ」を大切にし行動の質を上げる情報共有

宮田:なるほど。確かに弊社でも、経営陣とメンバー間で持っている情報が同等だと、意思決定や判断も近しくなるような感覚があり、具体的な給与の額面などの一部を除く全ての情報をオープンにしています。スープストックトーキョーさんでは、具体的にどのように情報をオープンにされていますか?

江澤さん:例えば、自分たちが販売してる商品がどういう思いでできているのか、といった裏側や背景のストーリーを伝えています。

具体的には「なぜこのポスターはこのような訴求内容なのか」とか「なぜ今回このテーマのリーフレットを配布するのか」など、その「ナゼ」をしっかりと理解することで、行動の質も高まると思っています。「自分たちが携わっていること全てに意味があるんだな」と自覚することで、「だったらその先にある自分の仕事はもっとこうすべきだ」と仮説を持てますし、モチベーションの向上や意識改善に繋がってくると考えています。

なので、何を伝えるにもレクチャーするにも、全てにおいて「ナゼ」を徹底して発信するよう、我々としても強く意識しています。

宮田:パートナーさんに対して情報を伝えるのは、主に店長さんや社員さんだと思いますが、店長さんに対しても伝えることが重要という共通認識を持たれているのでしょうか。

江澤さん:そうですね。やらされ仕事で何となくやっていることって、結局裏側のストーリーが薄いので、本当にただの“作業”になってしまうと思うんですね。これでは「世の中の体温」を上げることはできません。

“作業”ではなく、みんなでいい“仕事”をしていこうと思っているため、こちらから社員に発信する時も「エリア会」などを活用し、各店長や社員とも直接的にコミュニケーションをとることを大事にしています。

宮田:なるほど。そもそもパートナーさんを率いる立場にある店長さんや社員さんを巻き込むために「エリア会」などを通して、コミュニケーションを活性化されているんですね。それ以外にも、会社を自分ごとにしてもらうため取り組まれていることはありますでしょうか?

【ポイント4】主体性を評価する仕組みづくり

江澤さん:会社として、基本的には主体性を重んじており、主体性を持って発信したり取り組んでいる方々を、評価していくような仕組みにしています。

宮田:今、「主体性」という言葉が出てきましたが、私も学生時代は飲食業のアルバイト経験があってですね、その時は、とにかく人手が欲しいということで採用基準がゆるいバイト先でした(笑)。一方、スープストックトーキョーさんでは、採用の際も、素質や主体性を重視されているんでしょうか?

江澤さん:面接については、パートナーでも社員でもそうなんですけど、「そこまでハードルを上げなくても……」と他社の方に言われることがよくあります。

パートナーにおいても、必ず理念などを面接官から話をさせていただいて、そこに対してちゃんと共感があるかを、面接の中で見るようにはしていますね。

なので、初めてアルバイトをする方についてはスキル面での心配ごとなどあると思うのですが、会社の理念に共感していない方は、結局続かないため、入り口となる採用面接時から、スキル面よりむしろ理念への共感やリアクションを見させてもらっています。

Q.2 ハードルの高い施策に巻き込むための、背中を押すコツは?

宮田:先ほど、活躍した従業員を大々的に表彰する「SSTグランプリ」やSNS機能付きの社内報「Smash」などをご紹介いただきましたが、パートナーさんたちからすると参加へのハードルが高いというか、少し勇気がいる場面もあるのではないかと感じています。それを踏まえ、パートナーさんたちを巻き込むにあたって、どのように背中を押しているのか、コツを伺えればと思います。

【ポイント5】SNS付き社内報「Smash」はアンバサダーを活用し浸透させた

江澤さん:実は「Smash」をスタートさせる時、宮田さんがおっしゃるように本当に巻き込めるのか、発信してくれる方がいるのかなど、自分たちの中でも怖いところは多少あったんですね(笑)。

なので、一番最初に導入する時に、各エリアごとにいわゆるアンバサダーのような形で、Smashを盛り上げるために社員を巻き込みました。店長などのポジションとは全然関係なく、盛り上げ上手な社員をアンバサダーに認定して、その社員がエリア内の社員やパートナーを巻き込んでいくといったように、まずは各エリアの小さいコミュニティの中で盛り上げ、パートナーを含めて、背中を押していくよう積極的に取り組みました。

宮田:そのアンバサダーは、全体で何割ほど選んだんですか?

江澤さん:大体1エリアの社員が20人ほどいるうち、その中から4~5人をアンバサダーにしたので2割強ですね。

宮田:その最初の2割を巻き込むのも結構難しいことだと思いますが、そのアンバサダー認定はどのような形でスタートしたんですか?

江澤さん:突然指名ですね(笑)。

宮田:「今日から」みたいな感じですか?(笑)

江澤さん:はい、「この子ならできる」とか「この子はそういう発信が元々得意」というのを、独断と偏見で決め打ちしました。

宮田:ちなみに「Smash」では、どのような内容が発信されるんですか?

江澤さん:私たちの「世の中の体温を上げる」という理念がひとつの共通キーワードになっています。なのでパートナーからも「今日こういうお客さまがいらっしゃって、こういうことをしたら喜んでもらえました」といった具合に、情報発信してくれる方がすごく多いですね。

「Smash」がきっかけで1日足らずでルールが改善されることも

江澤さん:あとは、そのようなノウハウだけでなく、「今このようなやり方で取り組んでいるものの、やりづらいため、どうにかなりませんか?」といったような純粋な意見も、パートナー・社員問わず最近では増えています。また、このような発信をもとに、朝イチで報告が入り、その対策をお昼時点で経営メンバーが話し合って、午後からは新しいルールに改善するようなこともあります。

宮田:凄いですね。双方向のコミュニケーションがかなりスピーディに行われていると。

江澤さん:はい、実際にそのような例もあるくらい、良質なコミュニケーションの場になってきていると感じています。

【ポイント6】「SSTグランプリ」は、例え小さな取り組みでも背中を押した

宮田:ありがとうございます。次に「SSTグランプリ」についてですが、こちらも「Smash」同様、あるいはそれ以上にハードルが高いようにも感じますが、最初はどれくらいの方が発表されたんですか?

江澤さん:この3月に実施する「SSTグランプリ」で3回目なのですが、1回目は、9店舗の取り組みやエピソードが本選で発表されました。ちなみに本選の前に2度の予選があり、1次予選は全68店舗からエントリーしてもらい、2次予選ではプレゼンをしてもらい投票、その中から9店舗が本選に進みました。

この1回目の「SSTグランプリ」では、とにかく全店がエントリーしないと巻き込みが始まらないので、お店のメンバーからすると「それ、他店でもやってるんで当たり前です」みたいな小さなことでも、エリアマネージャーが「いや、その取り組みもいいと思うよ」と背中を押しました。

宮田:2回目はどのように取り組まれましたか?

【ポイント7】グランプリがパートナーの刺激となり、内部登用にも繋がった

江澤さん:1回目の「SSTグランプリ」に出席したパートナーが「私たちも次はあの舞台に立ちたい」と意識高く積極的に臨んでくれた店舗があったり、一方まだまだ巻き込みきれていない店舗もあるため、2回目そして次の3回目も、一番近くで見ているエリアマネージャーが“背中を押す”ということを継続していきます。

宮田:だんだんと、パートナーさんの間でも「次は自分があそこに立つんだ」という心境の変化が生まれつつあるんですね。逆に、本選に出場した方はどんなような変化がありますか?

江澤さん:パートナーは特に学生の方が多いので、本選に出た方々は、「学生の自分の話を、こんなに大勢の方が聞いている」という良い緊張感で背筋がピンと伸びましたね。グランプリ後、お店に戻ってからも中心メンバーになってくれますし、実際に発表したパートナーの中から社員になったケースも、1回目・2回目それぞれで生まれているので、意欲的なメンバーを増やすことに繋がっていると感じます。

Q.3 「アルバイトのキャリア」と向き合うコツは?

宮田:ありがとうございます、次の質問です。スープストックトーキョーさんは、パートナーさんのキャリアにどうやって向き合っていますか?

質問の背景として、今後50年間で労働人口が半減するだろうと言われ、人の取り合い、つまり採用難の時代になっていくだろうと思っています。その中で江澤さんの、パートナーから始まり、社員登用、店長、そして取締役まで昇進したというのは、ひとつの代表的なサクセスストーリーとして、今後のロールモデルになるなと感じています。

それらを踏まえ、江澤さんだからこそ伝えられる「アルバイトのキャリア」との向き合い方について、是非教えていただきたいと思っています。

【ポイント8】主体的にキャリアと向き合うための「きっかけ」を与える

江澤さん:私自身、パートナーから入社して、その後もずっと同じ場所で勤め、そして今のこうした役割を担うということは、正直なところまったく考えもつきませんでした。

今、自分自身を振り返って思うところは、やっぱり「きっかけ」が、とにかくすごく大事だなと感じています。自分自身の興味を持ってることに、ちょうどいいタイミングできっかけを与えてくれると、意欲が高まっている状態なので「もっと教えてください」「もっとやりたい」というモチベーションにつながるなと思っています。

ですから、パートナーのキャリアを考えた時に、一方的に教え込む教育というよりは、どちらかというと気付きやきっかけを得てほしいなと意識しています。

自分自身、勉強があまり好きではなく、何か頭に詰め込んで学ぶというよりは、お店で体を動かしながらみんなで考えて働くほうが好きでした。

そのため、キャリアの中でもいろいろと座学を詰め込むより、自分のキャリアと主体的に向き合うきっかけをつくってあげるほうが、響くんじゃないかと考えています。

宮田:「きっかけ」、凄くいい考え方だなと感じました。具体的にどのようなことがきっかけになるのか、ヒントを教えていただけますでしょうか。

【ポイント9】自分ごとにさせる一言が「きっかけ」になる

江澤さん:これは考え方になるのかなと思いますが、私自身、あまり素直ではないというか、比較的文句の多いタイプだったと思うんですね(笑)。何かそういう「文句」がある方って、会社やチームだと煙たがられてしまうケースも多いと思います。

でもこういう方は、常に自分なりの考えのもと、仕事に臨んでいると捉えることもできるのではないかと考えています。

そういう意味では、考え方がまだ幼かったり、あまり知識がなかったりする中でも、何か気になることがあれば「いや、こうじゃないですか? ああじゃないですか?」と自分なりの考えを一生懸命伝えようとしてくれる方を引っ張ってあげるのは効果的です。

「もっとこうしたほうがいい」と考えているタイミングで、「じゃああなた自身が変えていくとしたらどう変えたいの?」と、その方を主語にして問いかけることで、ひとつのきっかけをつくることができ、「自分の意見を会社の中で聞いてもらえるんだ」「自分の考えで会社が変わっていくんだ」という信頼関係に変化していきます。

私自身も、あーだこーだ文句を言っていたのを門前払いされていたとしたら、多分今の立ち位置にはいないはずです。文句ばかりでも、ちゃんと向き合って話を聞いてくれる仲間や上司がいたからこそ今の自分がいます。この経験も踏まえ、しっかりと考えを持ってぶつかってくれる人に対して、しっかりと向き合っていくのはすごく大切だなと思います。

【ポイント10】意欲が高まっているタイミングにきっかけを与えるのが効果的

宮田:ありがとうございます。ちなみに、最初は何か全然イメージがなかったとおっしゃっていましたが、ご自身はどういったタイミングで「社員になりたい」と思い始めたのでしょうか?

江澤さん:そうですね。パートナーで入った時はフリーターだったのですが、経営や店舗運営を学んでみたいなと思ったタイミングで、ちょうど働いていたお店のSV(スーパーバイザー)から「社員にならないか」と声をかけて頂き、自身の意欲が高まっていたタイミングだったというのがひとつのきっかけです。

何より、一緒に働いていた社員の方たちが個性的で、私としては一緒に働いていてすごく面白いと思える方々だったため、これからもこの人たちと一緒に、もっともっと働いていきたいなって思ったのも大きな動機でした。

Q.4 退職者向け施策と人材流出リスクのバランスは?

宮田:ありがとうございます。次の質問です。

働き方にまつわる様々な取り組みの中で「バーチャル社員」について、退職された方でも割引が使えたり、いつでも復帰できたりする制度とのことですが、逆にこの制度を推奨しすぎるとカジュアルに辞められる雰囲気が人材流出のリスクに繋がりかねないのではないかとも感じるのですが、このあたりについて、どのようにバランスを取っていますか?

【ポイント11】引き止めることよりも大切なのは「その社員の人生にちゃんと寄り添って相談に乗れているか?」

江澤さん:正直なところ、退職意向のある社員を無理に引き止める必要は無いと思っています。弊社も退職を希望する社員とは面談していますが、その時に大切にしているのは、引き止めることよりも、むしろ「その社員の人生にちゃんと寄り添って相談に乗れているか?」ということです。

スープストックトーキョーで働き続けることが、その人にとってプラスになるんじゃないかと思うならば、全力で止めますし、逆に退職して新たな世界を知るほうがその人にとってプラスになるんじゃないかと感じるのであれば、むしろ卒業していくことに対して背中を押すこともあります。なので、そもそもが無理やり引き止めること前提に考えていないんですね。

そういう意味では、いろんな経験を積んだ方が、またスープストックトーキョーで働きたいと思った時には、いつでも帰ってきていいよと言えるので、そこはすごくいい距離感やバランスを保てているんじゃないかなと思っています。

【ポイント12】会社主導で卒業メンバーとの交流やつながりを

宮田:ちなみに、「この人たちに戻ってきてほしい」という方を集め、交流会などを開催されたりしていますか?

江澤さん:まだ「バーチャル社員」自体が始まって1年なんですね。まだまだいろいろできるかなとは思っているんですが、正直なところこの1年間ではその交流会のような機会は設けることができていません。

しかし「バーチャル社員」制度以前の、卒業メンバーとの交流やつながりは、個人個人ではあったりするため、これのバーチャル社員版として、この先1年で会社主導での交流をもっと増やしていこうと思っています。

Q.5 働き方改革が順調な要因は?

宮田:ありがとうございます。働き方改革の取り組みの結果、採用費が9%削減されたとのことですが、その中で私が一番凄いなと感じたのは、退職者数が前年比で35%も減ったことです。これらの取り組みが順調にいっている最大の要因は何でしょうか?

提供:スープストックトーキョー

【ポイント13】成功のポイントは「帰属意識」の向上

江澤さん:一般的に、アルバイトさんって、自分のお店には属しているものの、ブランドや会社に属しているという感覚は基本的に薄いと思うんですよね。

一方、「Smash」や「グランプリ」などのエンゲージメント施策を始めたことで、パートナーにとって会社が“自分ごと”に変わっていきました。

また、去年からパートナーの卒業式を、エリアごとに2月から3月にかけて実施していて、そこに社長の松尾と私が参加して、直接卒業証書を渡し、「ありがとう」と伝えに行っています。そのほか、エリア会だったり、店舗の飲み会に参加をしたりしたことで距離感が縮まり、帰属意識が向上したように感じています。これにより共感が生まれ、結果的に「体温を上げる」ことに繋がりました。

宮田:なるほど、一連の施策の成功の共通点は、ブランドに対する「帰属意識」の向上だったんですね。

それでは、そろそろセッション終了のお時間ということで……、江澤さん、どうもありがとうございました!

江澤さん:ありがとうございました!

藤田 隼

SmartHR Mag. 2代目編集長。ソーシャル系スタートアップでSNSマーケティングや自社メディア運営に携わり、2015年よりメディアに特化した事業会社で複数サイトのディレクターを経験した後、SmartHRにジョイン。ウェブ解析士。
他の執筆記事はこちら

インタビューの関連記事

インタビューの新着記事

飲食・小売業の人事労務特集

SmartHR スタートガイド

人事労務メルマガ配信中

プライバシーポリシーに同意の上、ご登録ください