人事労務担当者が知っておくべき「社会保険」の手続き方法
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社会保険にはさまざまな種類があり、その手続きは煩雑です。
それらの業務を効率よくこなすためにも、まずは社会保険にはどのような種類があるのかということや、それぞれの社会保険の手続き方法についてしっかり把握しておくことが大切だといえるでしょう。
とりわけ新しい従業員を雇い入れる場合には、健康保険と年金保険の申請を行わなければならないケースが多いです。
そこで今回は、それらの概要や手続き方法について詳しく解説します。
「社会保険」には5種類の保険制度がある
社会保険制度には、医療保険、年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5種類があります。
この中でも狭義の社会保険は医療保険、年金保険、介護保険の3つです。
狭義の社会保険
医療保険には健康保険と国民健康保険があり、会社勤めの人が加入するのは健康保険になります。
また、年金保険としては、会社の従業員が加入する厚生年金保険です。老後の生活を保障するための老齢年金や障害を負った場合に受け取れる障害年金、加入者が死亡した場合に遺族が受け取れる遺族年金も含まれます。
新しい従業員が入ったときに社会保険という言葉を使う場合は、健康保険と年金保険を指すケースが多いです。
広義の社会保険
これらの3つに加え、広義の社会保険としてはさらに2つの社会保険があります。
失業した際に失業手当が支給される雇用保険と、勤務中の事故や災害によって生じた怪我や病気を補償する労災保険の2つです。
社会保険の加入対象事業所は2種類
社会保険に加入しなければならない対象事業所には2種類あります。
対象事業所その1:強制適用事業所
まず挙げられるのが、強制適用事業所です。
強制適用事業所となるのは1人以上の従業員がいる法人のほか、常時5人以上の従業員がいる個人事業所、そのほか法で定められた16業種の個人事業所です。
強制適用事業所の場合、法人代表者や役員、正社員、パート・アルバイトはその意志に関わらず社会保険に加入しなければなりません。ただし、パート・アルバイトの場合には条件があります。
・1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の4分の3以上である
・一般社員の所定労働時間および所定労働日数の4分の3未満であっても、下記の5要件を全て満たす
1. 週の所定労働時間が20時間以上あること
2. 雇用期間が1年以上見込まれること
3. 賃金の月額が8.8万円以上であること
4. 学生でないこと
5. 常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めていること
対象事業所その2:任意適用事業所
強制適用事業所の対象外となっている事業所でも、従業員の半数以上の同意を得て事業主が厚生労働省に申請し、認定されれば任意適用事業所となります。
例えば、従業員が5人未満の個人事業所や、サービス業や農林水産業のような法定16業種以外の個人事業所です。
社会保険の手続き方法と必要書類
健康保険と厚生年金保険の加入手続きは、年金事務所に必要書類を提出することで同時に行うことが可能です。
書類の提出期限は、新規に社会保険に加入する場合、強制適用事業所は会社設立から5日以内、任意適用事業所は従業員の半数以上の同意を得た後です。新しく従業員を雇った場合は、採用日から5日以内です。
提出しなければならない4つの必要書類
新規で社会保険に加入する場合、提出しなければならない必要書類は4つあります。
まずは健康保険・厚生年金保険新規適用届です。次に被保険者の健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届が必要となります。
また、被保険者に扶養家族がいる場合には、健康保険被扶養者届も提出しなければなりません。最後に、保険料口座振替納付(変更)申出書を提出します。
退職後も被保険者の状態を継続できる「任意継続」とは?
退職や労働時間の短縮によって、従業員が健康保険加入後にその資格を喪失しても、要件を満たしており本人が希望すれば、被保険者の状態を継続することができます。
この制度を健康保険任意継続と呼びます。任意継続のための要件は、退職日(資格喪失日の前日)までに2ヶ月以上の被保険者期間があることと、資格喪失日から20日以内に任意継続被保険者資格取得申出書を保険者に提出することです。
任意継続のメリット
任意継続することのメリットとしてまず挙げられるのは、標準報酬月額が28万円以上だった場合には保険料が安くなるということです。
また、健康保険組合によって計算方法が異なるものの、多くの場合、それまでと同じ保険給付を受けることができます。そして被保険者に扶養家族がいる場合、1人分の保険料で家族全員に保険が適用されるというのも重要なポイントです。
ただし、任意継続できる期間は最長で2年間です。2年を過ぎると自動的に脱退するシステムとなっているので注意が必要です。
医療費の審査を行う「社会保険診療報酬支払基金」とは?
社会保険診療報酬支払基金とは、保険医療機関への医療費の支払いを行う組織です。
例えば、被保険者やその扶養家族が病院で診療を受けた場合、その医療費はまず保険医療機関から社会保険診療報酬支払基金へ請求されます。
すると、支払基金はその請求金額に間違いがないかを審査し、問題がなければ健康保険組合に対して診療報酬請求を行うのです。健康保険組合は、事業主と従業員から納められた保険料で支払基金に対して診療報酬を払い込みます。そうすることで、支払基金は保険医療機関に診療報酬を支払うというものです。
支払基金が医療機関と健康保険組合との間に入ることによって、審査や支払いをより円滑にしているといえるでしょう。
社会保険の手続は煩雑。社労士やクラウド人事労務を活用するのも手
社会保険の申請手続きは手間と時間がかかります。そのため、社会保険労務士に業務を依頼するのもひとつの方法です。
また、人事労務に関する業務を簡単にできるさまざまなクラウドサービスもあります。
そうしたツールを導入することもまた、繁雑な業務の効率化につながるでしょう。