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新型コロナによる雇用調整助成金特例措置の拡大(4/10発表分)について社労士が解説

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こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。

2020年4月7日、政府は新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令しました。対象地域は、東京・埼玉・千葉・神奈川・大阪・兵庫・福岡の7都府県、期間は5月6日までの1ヶ月です。

これに伴い、企業や個人に対する支援策(助成金・補助金等)も発表されました。

2020年4月10日、特に企業で働く方にとって注目の話題である「雇用調整助成金の特例措置の拡大」の詳細が発表されましたので、今回はその内容についてできるだけわかりやすく解説します。

 

【令和2年 10月20日 編集部追記】

本稿より新しい、10月20日時点での最新版の記事について、以下のURLでまとめておりますので、ご参照ください。

この記事は執筆時点(2020年4月10日、13日の情報)での政府、厚生労働省等の情報を元にしており、変更されている可能性もありますので、最新の情報を確認していただくようお願いします。

雇用調整助成金の特例措置の拡大について

雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者に対して一時的に休業、教育訓練又は出向を行い、労働者の雇用の維持を図った場合に休業手当、賃金等の一部を助成するものです。

今回、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、2020年2月14日、2月28日、3月10日に雇用調整助成金の特例措置が拡大されました。

さらに、2020年4月1日から6月30日の間は緊急対応期間として、上乗せの措置が講じられることになり、2020年4月10日に以下のような詳細が発表されています。

厚生労働省の雇用調整助成金の特設ページには、雇用調整助成金の概要を説明する動画やガイドブック、FAQなどが掲載されています。

新型コロナウィルス感染症にかかる雇用調整助成金の特例措置の拡大

出典:厚生労働省 特例措置の拡大の概要

新型コロナウィルス感染症の影響を踏まえ雇用調整助成金の特例を拡充します

出典:厚生労働省 特例措置の拡大の詳細

(1)休業または教育訓練を実施した場合の助成率を大幅に引き上げ

緊急対応期間内において、休業または教育訓練を実施した場合の助成率が以下のように大幅に引き上げられました。

  • 中小企業:66.7%(2/3) → 80%(4/5)
  • 大企業:50%(1/2) → 66.7%(2/3)

さらに、事業主が解雇等を行わず雇用を維持した場合の当該助成率も引き上げられています。

  • 中小企業:80%(4/5) → 90%(9/10)
  • 大企業:66.7%(2/3) → 75%(3/4)

※出向はこの助成率は適用されません。

助成額は、対象労働者1人1日当たり8,330円が上限です。

この助成額は、前年度の労働保険の年度更新(雇用保険料)の算定基礎となる賃金総額等から算定される平均賃金額に、就業規則または休業協定書にて規定した休業手当支払い率(休業の場合60%以上、教育訓練の場合100%)を掛けて、1日当たりの助成額単価を計算します。

実際には、申請様式(自動計算機能付きの様式)に入力して、助成額単価を確認してください。

計画書、および申請様式は厚生労働省ホームページからダウンロードできます。

労働者へ支払う休業手当をどれくらいに設定したらよいのか?

労働基準法第26条では、休業手当は平均賃金の6割以上と定められています。

雇用調整助成金においても平均賃金の6割以上とする必要がありますが、休業手当をどれくらいに設定したらよいのか、以下を参照し決定してください。

【平均賃金を元に計算した例】

月給30万円、1月から3月の賃金を元に計算すると、

平均賃金=90万円(事由の発生した日以前3ヶ月の賃金総額) ÷91日(期間の総日数)= 9,890.10円(銭未満は切り捨て)

休業手当は平均賃金の6割としたとき、9,890.10円× 0.6×休業日数(未満の端数は四捨五入)となります。

【1日あたりの賃金を元に計算した例】

月給30万円、月の所定労働日数20日とすると、

1日あたりの賃金=30万円÷20日=15,000円

休業手当は1日あたりの賃金の6割としたとき、15,000円×0.6×休業日数(未満の端数は四捨五入)となります。

緊急対応期間中(4月1日~6月30日)の休業は、解雇等をしていない場合、中小企業は90%(9/10)、大企業は75%(3/4)が助成されますので、助成額の単価、および1人1日当たりの上限8,330円までを考慮して、休業手当を決定するとよいでしょう。

(2)教育訓練の加算額の大幅な引き上げ、e-ラーニングも可

上記期間内において、教育訓練が必要な被保険者の方に対して教育訓練を実施した場合の加算額(対象被保険者1人1日あたり)が以下のように引き上げられました。

  • 中小企業:1,200円 → 2,400円
  • 大企業:1,200円 → 1,800円

また、自宅でのインターネット等を用いた教育訓練もできるようするなど教育訓練を範囲拡大するとともに、教育訓練の受講日に訓練を受けた労働者を業務に就かせてもいいことになりました。

ただし、教育訓練が助成対象となるかは事前に雇用調整助成金の特設ページにあるFAQでの確認や、労働局やハローワークへ問い合わせすることをお勧めします。また、この教育訓練を実施したときの加算は、雇用保険被保険者のみとなりますので、注意してください。

(3)生産指標の要件を緩和

生産指標の確認は、計画届の提出があった月の前月と対前年同月比で10%の減少が必要条件でしたが、上記期間内においては、これが5%の減少となります。

※生産指標とは、販売量、売上高等の事業活動を示す指標のことです。売上が減少したことがわかる確認書類は、「売上簿」や「営業収入簿」、「会計システムの帳簿」など、既存書類のコピーの添付でも可となりました。

(4)支給限度日数にかかわらず活用できるように

緊急対応期間内に実施した休業は、1年間に100日の支給限度日数とは別枠で利用できるようになりました。

(5)雇用保険の被保険者でない労働者(パート・アルバイト含む)も対象

緊急対応期間内において、雇用保険の被保険者ではない労働者も休業の対象となります。

具体的には、週20時間未満の労働者(パート・アルバイト(学生も含む)等)などです。

※厳密には、雇用調整助成金とは別の「緊急雇用安定助成金」として支給されます。

(6)事後提出が可能な期間を6月30日まで延長

既に休業を実施し、休業手当を支給している場合でも、2020年5月31日までは、事後に計画届を提出することが可能となっていましたが、この期間が同年6月30日までに延長されました。

(7)短時間休業の要件緩和

短時間休業については、従来、事業所等の労働者が一斉に休業する必要がありましたが、事業所内の部門、店舗等施設ごとの休業も対象とするなど、活用しやすくなりました。

(8)休業規模の要件の緩和

対象労働者の所定労働日数に対する休業等の延日数の割合(休業規模要件)についても以下のように緩和されました。

  • 中小企業:1/20以上⇢1/40以上
  • 大企業:1/15以上⇢1/30以上

(9)残業相殺制度が当面停止に

支給対象となる休業等から時間外労働等の時間を相殺して支給すること(残業相殺)が当面停止となります。

(10)風俗営業等関係事業主も申請、受給可能に

これまで厚生労働省関連の助成金は、風俗営業等関係事業主は対象ではありませんでしたが、今回対象となりました。

雇用調整助成金の申請書類が大幅に簡素化

雇用調整助成金の申請書類を簡素化します

厚生労働省 「雇用調整助成金の申請書類を簡素化します」

新型コロナウイルス感染症に係る雇用調整助成金の特例措置に関する申請書類等については、大幅に簡素化し、事業主の申請手続きの負担を軽減するとともに、支給事務の迅速化が図られました。

具体的には以下の項目です。

  • 記載事項の半減(自動計算機能付き様式の導入や残業相殺の停止等)
  • 記載事項の簡略化(休業等の実績を日ごとではなく合計日数のみで可とする)
  • 添付書類の削減

また、出勤簿や給与台帳でなくても、手書きのシフト表や給与明細のコピー等でもよいとするなど、事業所にある既存の書類を活用して、添付書類を提出できるようになります。

助成金申請にあたっての注意点は?

これまで経験したことがない経営難の状況下で、助成金が受給できたら企業は助かると思います。

ただし、労働者に給与や休業手当を先に支払っておく必要があり、資金繰りに助成金をあてにするのはリスクがあります

今回の雇用調整助成金の申請の簡素化により支給決定に申請後1ヶ月程度を目指しており、通常の助成金よりも早く処理されるとは思いますが、申請数が今後も増えると予想されるため遅れることもあると念頭に置いてください。

以前と比べて各段に申請しやすくなった雇用調整助成金を活用することで、労働者の雇用を守り、ぜひこの難局を乗り越えていただきたいと思います。

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