移動・宿泊費は会社負担?ワーケーション制度導入ポイントを社労士が解説
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こんにちは、社会保険労務士の宮原麻衣子です。「ワーケーション」という言葉を皆さまはご存じでしょうか。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、これまでの労働慣行とは異なる「場所や時間にとらわれない働き方」が広がりました。そのなかで注目を集めているのが「ワーケーション」です。
2022年7月19日に経団連から「企業向けワーケーション導入ガイド(以下、導入ガイド)」が公表されました。その内容を踏まえて、多様な働き方の選択肢の1つであるワーケーションについて解説します。
「ワーケーションって一体なんだ?」という方も、「ワーケーションが導入されたら人事労務の管理が大変になる…」と不安を抱いている方も、ワーケーションの定義や導入時のポイントを確認し、イメージを広げていただきたいと思います。
ワーケーションとは?
ワーケーションとは、2000年代にアメリカで生まれたといわれる概念で、ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語です。
日本におけるワーケーションの解釈はさまざまですが、導入ガイドでは「普段の職場とは異なる地域への滞在とともに行うテレワーク」と定義づけされています。
観光庁が2022年3月に報告した調査によると、ワーケーションの認知率は企業側、従業員側ともに増加傾向にあり、注目度が上がっています。
ワーケーションは働く場所の自由度が高く、柔軟な働き方が可能になることで生産性向上や長期休暇の取得促進などの効果が得られると考えられています。その一方で「労働時間と余暇時間の棲み分けが難しい」「制度を利用できる従業員が限定される」「セキュリティ対策が必要になる」などの課題も浮き彫りとなっています。
テレワークとの違いは?
会社以外の場所で業務に当たることをテレワークといいますが、テレワークとワーケーションの違いは何でしょうか。
テレワークは自宅やサテライトオフィスなど、あらかじめ会社が定めた就業場所で働くことを指しますが、ワーケーションは会社が認めた任意の場所(休暇中に滞在しているホテルなど)での勤務が可能です。またワーケーションは期間が限定されており、一時的に滞在する場所(観光先や帰省先など)での勤務を指します。
一方で厚生労働省から発出されている「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」においては、
テレワーク等を活用し、普段のオフィスとは異なる場所で余暇を楽しみつつ仕事を行う、いわゆる「ワーケーション」についても、情報通信技術を利用して仕事を行う場合には、モバイル勤務、サテライトオフィス勤務の一形態として分類することができる
とされ、ワーケーションは広義のテレワークの一種と考えられています。
ワーケーション「4つの種類」
ワーケーションには、さまざまな種類があります。観光庁では、ワーケーションの実施形態ごとに「休暇型」と「業務型」を区分しています。
「休暇型」は休暇を主体とするもので、「福利厚生型」が該当します。年次有給休暇の取得促進を目的とする場合が多く、従業員は観光地などで休暇を過ごしながら業務を行います。
「業務型」は業務を主体とするもので、滞在先地域の住民などとの交流を通じて地域課題の解決策を検討する「地域課題解決型」、職場のメンバーと場所を変えてさまざまな体験を共有する「合宿型」、サテライトオフィスやシェアオフィスで勤務する「サテライトオフィス型」があります。
(出典)「新たな旅のスタイル」ワーケーション&ブレジャー企業向けパンフレット – 観光庁
福利厚生型の働き方イメージはこのようになります。
「地域課題解決型」や「合宿型」の働き方イメージは、ワーケーション誘致に積極的に取り組んでいる和歌山県での例を見てみましょう。
導入時の注意点
対象範囲の決定
ワーケーションに一定の効果があると考えられているとはいえ、人事・労務担当の皆さまは「一体何をどのように管理すればいいのか」と悩まれるのではないでしょうか。ここでは導入時の注意点を考えたいと思います。
まず、ワーケーションの適用対象となる従業員の決定です。エッセンシャルワーカーや生産工程で直接的な作業を担う方は、現場を離れられないため導入は難しいと考えられます。その他、職務の経験年数や業務の性質(生産性や職務遂行過程に問題がない業務)に照らして、適用対象を決定します。
運用に際しては、まず小規模な人数でのテスト実施をおすすめします。また、対象者のなかでワーケーションを希望する従業員に対して、セキュリティ面の研修受講を必須とすることも考えられます。
就業規則の整備
ワーケーション制度を導入する際には、就業規則においてルールを定めることが必要です。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、「テレワーク規定」「在宅勤務規定」を定めた会社も多いのではないでしょうか。ワーケーションのルールは基本的にテレワークとの共通点が多いので、以下の対応を行なったうえで、ワーケーション制度にも適用が可能です。経団連からワーケーションモデル規定が発行されているので、あわせてご確認ください
・在宅以外の勤務が許可されているかを確認する
・「使用者が許可する場所」であれば就労可能である旨を定める
・使用者の許可基準を明確化する
上記以外にも、セキュリティ管理や通信環境に関する条件設定や、緊急時の帰社に関するルールは盛り込んでおくとよいでしょう。総務省が発行している「テレワークセキュリティガイドライン(第5版)」や「中小企業等担当者向けテレワークセキュリティの手引き(チェックリスト)(第3版)」も参考にできます。
ワーケーションを利用した場合でも、会社は労働時間を適正に把握する義務を免れません。始業・終業時間をどのように報告し記録するのかを検討し、業務時間と余暇時間を明確に区別することの重要性を従業員に理解してもらいましょう。
業務怠慢や働き過ぎを避けるためにも、労使が協力して客観的に労働時間を把握できる仕組みが大切になります。労働時間管理の方法だけでなく、フレックスタイム制や時間単位の年次有給休暇制度など、柔軟な労働時間制度の導入も検討してみましょう。
移動・宿泊費は会社負担?
ワーケーションにかかる移動費や宿泊費の取り扱いについても、ルール整備を行うことが必要です。休暇型のワーケーションの場合は従業員負担で、業務型で会社指示によるワーケーションの場合は会社負担となることが一般的です。
税務面における考え方については、導入ガイドに以下のように記載されています。
ただし、ワーケーションはさまざまなパターンが想定されるため、取り扱いをその都度確認する必要があります。
出張先でそのままワーケーション移行はあり?
出張先にそのまま滞在し、ワーケーションを行うことも可能です。観光庁は、出張先での滞在を延長するなどして、業務に当たりながら余暇も楽しむことを「ブレジャー(ビジネスとレジャーを組み合わせた造語)」として、ワーケーションと同時に推進しています。
この場合の交通費の負担に対する税務処理に関しても、内容や事実関係に基づいて判断することになります。
ワーケーション先までの移動中の交通事故は通勤災害?
厚生労働省は、「会社が認めた場所への移動であれば、距離などに関わらず通勤災害にあたる可能性が高い」との見解を示していますが、労働災害や通勤災害はその都度労働基準監督署が認定可否を検討するため、個別事案ごとに判断されると考えてください。
また、労働災害の認定において「業務上か業務外か」が明確になっていることはとても重要なポイントですので、業務時間と余暇時間を明確に区別する意識づけが大切です。
おわりに
新型コロナウイルスは、長期間にわたって私たちに苦しみや困難を与え続けていますが、一方で働き方改革、多様な働き方を推進する大きなきっかけとなりました。
労働力人口の減少に直面する日本社会において、多様な人材が多様な働き方を選択できる環境整備はとても重要です。またワーケーションは従業員のワークエンゲージメント向上だけでなく、企業の発展や地方創生にもつながる可能性を秘めています。
制度導入の際は労使が納得して利用できる明確な運用ルールを定め、Well-beingな職場づくりを進めましょう。