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脱・残業体質。運送業界における労働生産性向上のポイント【トラック運送業の人事カイカク#3】

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目次

こんにちは。社会保険労務士の名古屋 清隆です。

「トラック運送業の人事カイカク」というテーマのもと、トラック運送業の人事労務の課題と対策について
5回の連載でお伝えします。

第3回となる今回は、運送・運輸業界が残業体質を脱し、労働生産性を向上させるための課題と対策について
取り上げます。

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運送・運輸業界の残業の現状

運送・運輸業界は、労働局や労働基準監督署の自動車運転者を使用する事業場に対して行った監督指導や送検等の状況を見ても残業体質の業界と言えます。

以下のような、厚生労働省によるデータからも、運送・運輸業界がいかに働き方に関して課題を抱えているかが伺えるでしょう。

自動車運転者を使用する事業場に対する 監督指導、送検等の状況(平成30年)監督指導状況 業種ごとの監督実施事業場数、労働基準関係法令違反の事業場数及び主 な違反事項

出典:厚生労働省「自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導、送検等の状況(平成30年) 」

自動車運転者を使用する事業場に対する 監督指導、送検等の状況(平成30年)監督指導状況 業種ごとの改善基準告示違反事業場数及び主な違反事項

出典:厚生労働省「自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導、送検等の状況(平成30年) 」

上記の表のような現状を踏まえて、同業界が残業体質を脱するのは容易ではないと言えます。

まず、ドライバー職には、ノー残業デー、残業の事前許可制、テレワーク、アウトソーシングなどの一般的な残業対策は当てはまりません。理由はドライバーは基本的に社外で仕事をしているからです。ドライバーが公道を運転していて、今日はノー残業デーの日だからといって、そこでトラックを置いて帰宅するわけにはいきません。また、荷主先や元請先などの関連先が多く、自社だけで業務を完結できないのも要因です。

昨今の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で荷物量が大幅に減った / 一時的に増えたなど、荷物量が予測できず、対応に苦労されている会社も多いでしょう。コロナ後の対応としても、荷物量については引き続き考慮が必要です。

withコロナ / afterコロナ時代において、これらの課題を解決するためにには「労働生産性の向上」による「柔軟な配車」が欠かせません。そのためにも、一時的な荷物量の増加に対応できる配車、荷物が減った先の集荷方法の抜本的な見直し、複数人で行っていた作業を1人で行わざるを得ない場合の柔軟な対応などが求められます。

運送・運輸業界の生産性向上のために重要な「基本三率」

運送・運輸業界の労働生産性は、小手先のテクニックでは向上しません。業界の労働生産性向上のためは、「実働率」「実車率」「積載率」の「基本三率」から考えるのがよいでしょう。

運送・運輸業界の生産性向上のために重要な「基本三率」

モーダルシフト(※)、予約システム、共同配送などは、会社規模や荷主・元請の協力によるところが大きく、自社の努力だけで早急に取り組むのは難しいでしょう。

今回は、作業時間・荷待時間削減、配車効率向上等を実現する上で、取り組みやすく、比較的早く効果が期待できる生産性向上の方法について解説します。

※モーダルシフト…トラック等の自動車で行われている貨物輸送を、環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換すること

残業把握のためにできること

残業把握のためには「時間管理の徹底」と「現場作業の内容把握」の2点が重要となります。

(1)時間管理の徹底

運送・運輸業界は「生産性」という考え方への理解が希薄で、昔は「多く稼ぎたければ多く走ろう」という業界でした

荷物が増えれば売上が上がり、時間を度外視して生産性が上がったと勘違いしてしまうケースも見られます。生産性が低い主な要因は「時間管理が徹底されてこなかったこと」によるものだと考えます。残業を減らし、生産性を向上させるためには、まずは時間管理を徹底する必要があります。具体的には運転日報の精査が必要です。

同じ運転コース、同じ荷物でも多少の個人差は当然ありますが、大きく時間が異なるようであれば何か要因があるはずです。デジタコ(※)のボタンの押し忘れ、押し間違いなどのオペレーション面でのミスが発生しないように注意する必要もあるでしょう。

※デジタコ…デジタルタコグラフのこと。自動車運転時の速度・走行時間・走行距離などの情報をメモリーカード等に記録するデジタル式の運行記録計のこと

(2)作業内容の把握

ドライバーの労働時間は、「運転時間」「作業時間」「待機時間」「準備時間」の4種類があり、その中でも「待機時間」をいかに減らすかは特に重要です。

待機時間・荷待ち時間は不要な時間であり、ゼロにしても仕事上の支障はありません。待機時間・荷待ち時間を短縮させるためには、まずは現場での作業内容と作業ごとにかかる時間を把握しましょう。

時間と作業内容の把握は「運転日報」と「荷待ち時間の記録」をもとに進めるよいでしょう。「荷待ち時間の記録」は平成29年7月1日から義務化されました。

平成 29年 7月1日から、 荷主都合30分以上の荷待ちは 「乗務記録」の記載対象です。国土交通省「乗務記録 A4チラシ」

出典:国土交通省「乗務記録 A4チラシ」

運転時間と準備時間は多少の削減は可能かもしれませんが、取り組み次第で大きく削減できるのが「作業時間」です。作業時間の一部も令和元年6月15日から、乗務記録の対象になっています。

国土交通省「荷役作業等の記録義務付けに関するリーフレット」作業時間の一部も令和元年6月15日から乗務記録の対象になっている

出典:国土交通省「荷役作業等の記録義務付けに関するリーフレット」

「時間管理の徹底」と「現場作業の内容把握」。この2つによって、普段見えない現場での仕事や、それに伴う無駄を把握し、改善へとつなげていきましょう。

生産性向上に、どのような仕組みが有効なのか

運送・運輸業界の生産性向上のための仕組みづくりについては、ドライバーや作業員などの「現場職」と、運行管理者、配車担当者、事務員などの「事務職」で切り分けて考えましょう。

(1)現場職の生産性向上

現場職は、前回取り上げた働き方改革と同じ3ステップで進めることをおすすめします。

  1. 現状把握
  2. 問題発見
  3. 改善

ステップの詳細については、前回の記事をご確認ください。

「時間管理の徹底」と「現場作業の内容把握」により見えてきた現場の無駄と、前回のステップ2で実施した従業員アンケートをもとに生産性向上を進めます。

例えば、従業員アンケートで「日々の勤務の中で、無駄だと感じる部分、効率が悪いと思うことがあれば教えて下さい。」という質問には以下のような回答が想定されます。

従業員アンケートの例(著者作成)

従業員アンケートの例(著者作成)

様々な回答が予想されますが、「自社の問題」と「荷主・元請の問題」の2つに分けて考えると良いでしょう。

これらの調査によって自社で取り組むべき問題が見えてきたら、「特性要因図」を利用して、行動計画(アクションプラン)を立てます。

特性要因図とは、簡単に説明すると「なぜ?」を繰り返し、「どうやってやるのか?」と改善策を決めていく手法です。

特性要因図

特性要因図の例(著者作成)

 改善策が決まれば、それを計画的に進めるために行動計画(アクションプラン)を作成します。

業務改善アクションプラン

アクションプランの例(著者作成)

アクションプランのポイントは以下の3点です。

  1. 行動プランをできるだけ具体的にすること
  2. 進捗報告を必ず行うこと
  3. 進捗報告をもとに行動プランを臨機応変に変えていくこと

できるだけ具体的にプランを決めて実践していくことが重要です。

 (2)事務職の生産性向上

運送・運輸業界の事務職の労働生産性は、現場職よりも後回しにされがちです。ドライバーは、徐々にチャート紙と運転日報からデジタコ、ドラレコ(ドライブレコーダー)にシフトしてきていますが、事務職の労働生産性向上にむけて積極的に取り組む運送会社はまだ少ないように感じます。

残業時間の罰則付き上限規制について、ドライバーは令和6年4月から始まりますが事務職は大企業が令和元年4月から、中小企業は令和2年4月からすでに始まっています。実は、事務職こそ労働生産性向上のために、真っ先に手をつけなければいけないのです。

事務職の労働生産性の向上のためには、まずは業務量の平準化を進めるべきです。運送・運輸業界の事務職は、業務量が各個人毎にバラバラなケースが多いため業務負担や残業時間が各個人毎に大きく異なるのが特徴です。

事務職の業務内容を把握していない運送会社は、真っ先に業務内容を把握して下さい。その手法は、現場職と同様に日報の作成やメールによる業務報告をおススメします。

以下は日報の例です。

業務日報

業務日報の例(著者作成)

このように、仕事の見える化を図り、業務量と業務負担を可能な限り平準化することで余裕が生まれます。

さらにIT化やペーパーレス化、一部アウトソーシングの利用による余力を現場職のバックアップに回すことで、現場職の生産性向上につながり、withコロナ/afterコロナ時代に対応できる会社へとレベルアップできます。

 おわりに

「時間管理の徹底」と「現場作業の内容把握」により見えてきた現場の無駄について、具体的に改善策を進めることが最大のカギになります。その有効な手法として、特性要因図の例やアクションプランの例もご紹介しました。

現場職と事務職の労働生産性の向上で、withコロナ / afterコロナ時代の最終的なゴール「柔軟な対応(配車と現場職のバックアップ)」につながるはずです。

そして、自社の傭車率を低くし、直請け先を増やし、荷主の分散化を図ることで運送・運輸業界のwithコロナ / afterコロナ時代のリスク対策にもなります。

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