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【社労士が解説】従業員の皆さま、「駆け込み有休取得」にならぬよう早めの対策を!

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目次

こんにちは。アクシス社会保険労務士事務所の大山敏和です。

本稿では、企業の従業員の方向けに、「駆け込み有給休暇取得」のリスクについてまとめています。

人事労務担当の方は、ぜひとも社内の従業員のみなさんに記事をシェアしていただき、会社全体で有給休暇取得義務についての理解を深めていただけたらと思います。

さて、みなさんは「10日以上の有給休暇を付与した従業員に対し、少なくとも年5日の有給休暇を取得させなければならないという法律(労働基準法第39条7項)」があることをご存知でしょうか?

2020年3月31日で1年を迎える、「有給休暇取得義務」。

もし遵守しなかった場合は、会社に対して罰則があるだけでなく、間接的に従業員のみなさんも会社から注意を受けることになります。そのため、有給休暇の期限が切れる年度末のタイミング※(1月〜3月など)には、多くの従業員が駆け込みで有給を取得することが予想され、懸念されています。

本稿では、駆け込み有給休暇取得のリスクや、計画的に有給休暇を取得するための対策、育休や産休を取得する際の有給休暇取得についての話をお伝えします。

※前提として、有給休暇の付与されるタイミング、期限が切れるタイミングは各会社や各従業員によって異なります。ご自身の有給休暇付与・期限切れの時期については、労務担当の方に確認しましょう。

「有給休暇取得義務」とはどのような内容なのか?

まずは、「有給休暇取得義務」とはそもそどのようなものなのかを説明します。

従業員の有給休暇は、フルタイム労働者の場合、入社後6ヶ月経つと向こう1年間で10日間の有給休暇が与えられるのはすでにみなさんご存知かと思います(労働基準法39条第1項)。パートタイマーの方であっても、勤続期間や所定労働日数によっては有給休暇を10日間与えられることがあります。

しかし、これまでは多くの会社で、権利はあってもなかなか有給休暇取得をできないという事態が発生していました。休みもなく働き詰めの生活では、心身ともに疲れてしまいますし、生産性も上がりません。

そこで、2019年4月1日から、有給休暇を10日以上付与された労働者に対して、1年間で少なくとも5日間の有給休暇を取得してもらう義務が生まれました(労働基準法39条第7項)。

こちらの法律には、違反した場合、使用者(会社)に30万円以下の罰金が課されるという罰則規定があります(労働基準法120条)。

この罰則を避けるために、従業員は期限が切れるまでに年間5日以上の有給休暇を取得する必要があり、会社としては従業員に計画的に休暇取得をしてもらわなくてはなりません。しかし、義務はあれど、すべての従業員にとって有給休暇をコツコツ取得していくのは簡単なことではないのです。

結果的に、休みを取るのを先延ばしにし続け、年度末や期末など、期限ギリギリのタイミングで多くの従業員が休暇を取得する事態が発生するのではないかと、懸念されています

「駆け込み有休取得」のリスクとは?

従業員のみなさんには、駆け込みで有給休暇取得をすると、さまざまなリスクがあることを覚えておいていただきたいです。

  • 年度末や期末など、重要な時期に短時間で多くの従業員の休暇が重なり、会社全体の生産性が低下する
  • 繁忙期や追い込みのタイミングで休暇が相次ぐことで、あと少しで達成できた売上目標に届かない、開発日程が延期してしまうような影響があるかもしれない
  • 休暇を取っているものの、実態として自宅や会社で働くといった事態が生まれ、会社としても従業員としても注意を受けるリスクがある
  • 休暇を取るために労働日に深夜まで残業をするなど、元も子もない働き方が発生する可能性がある

上記はほんの一例ですが、駆け込み有給休暇は会社にとっても従業員にとってもリスクばかりです。駆け込み有給休暇取得にならぬよう、計画的に取得するよう心がけ、注意するのが得策です。

会社が従業員の休暇取得日をコントロールすることになる可能性も

有給休暇は基本的に従業員自らが好きなタイミングで取得できます。しかし、期限内に有給休暇が取れない従業員が多い場合、会社としては計画的に有給休暇取得ができるような対策をする必要があります。

その中のひとつが労使協定による年次有給休暇の「計画的付与制度」です。

計画的付与制度は、年に5日以上の有給休暇を有する従業員に対して、労使協定であらかじめ決められた日に有給休暇を計画的に付与することが会社側に許されるという規定です(労働基準法39条第6項)。

この制度は、労使協定が成立すれば、有給休暇の5日を超える日数(有給休暇が10日の従業員は5日を残し5日間、20日の従業員は5日を残し15日間)は、休暇をいつに取るかを会社がコントロールできるというもの。

制度が導入されたら、自分が休みたいタイミングではなく、会社が決めた日に休みを取ることになる可能性があります。

従業員が計画的に有給休暇を取得できていない会社の場合、現状この制度を実行していなくても、有給休暇取得義務化対策の切り札として、計画的付与実施の検討をしなければならないかもしれません。

駆け込み有休取得を防ぐためにできること

やはり、どうせ有給休暇を取るのであれば、自分の好きなタイミングで取りたいものです。

そのためにも、駆け込み有休取得を防ぎ、計画的に休暇を取るために以下のような対策を実行するとよいでしょう。

(1)生産性を向上し、業務量をコントロールする

有給休暇が取得できない大きな理由として、業務量の過多があります。

そこで、中長期的には、生産性を向上させて、気軽に有給休暇を取得しやすいような状態を作っていくことが最も大事です。

現場で働く従業員の立場からするとこれが一番難しいかもしれませんが、業務が詰まっていなくてある程度コントロールしやすい状態であれば、必然的に休暇も取りやすくなるはずです。

(2)人事労務担当に相談する

有給休暇を取りにくい理由として「あまり身体の調子がよくなくて、病気やケガになった時、有給休暇が残っていないとすると欠勤扱いになる」という点への懸念がある方も多いのではないでしょうか。そういった有給休暇取得についての懸念点がある場合は、まず会社の人事労務担当に相談することをおすすめします。

もし、人事労務担当者にも相談しにくいような事情がある場合は、産業医に相談してみるのがいいでしょう。

有給休暇取得だけでなく、広くご自身のメンタルや働き方についてのアドバイスをしてくれるはずです。

(3)半日単位でこまめに有給をとる

一緒に働くメンバーに駆け込みで有給休暇を取得しようとする人が多い場合、1日単位の有給休暇が集中しないよう、半日単位でこまめに有給休暇をとって回していくという方法があります。

ただし、「1時間単位の有給休暇取得」は、合計8時間になっても取得義務1日分の取得にはならないので注意して下さい(時間単位の有給休暇は、取得義務の対象外です)。

(4)土曜日出勤をする(非推奨)

生産性を落とさず、年次有給休暇取得の義務を果たすためには、あまり推奨されることではありませんが、時間外・休日労働に関する協定(36協定)が締結されている会社であれば、その範囲内で労働者の意見を聞きながら平日に年次有給休暇を取ってもらい、土曜日(所定休日)に出勤してもらうことも考えられるかもしれません。

ただし、有給休暇取得義務の目的は、労働者が心身ともに健康に働けるようにするためなので、あくまで最後の手段として認識し、休日を削ってまで働くようなことがないように気をつけましょう。

育休・産休と有給休暇取得義務について

対策をお伝えしたところで、育休や産休などの長期休暇に入る際にはどのように有給休暇を取得したらいいのかについて説明しようと思います。

これから育休や産休に入ることを検討している方も、有給休暇取得義務について知っておく必要があります。

(1)産前産後休業(産休)と有給休暇取得義務

10日以上の有給休暇が付与される日(基準日)からの1年間の間に産休を取る女性の場合、通常は98日間(多胎妊娠の場合は154日間)は、休業日(付与された有給休暇を行使できない日)となります。

有給休暇取得義務の5日間は、産休期間は取得できません

有給休暇取得義務日数を残したまま産休に入り、産休後引き続き育児休業に入ることで有給休暇取得義務を行使しないまま基準日からの1年間が終わることのないよう会社の担当部署にあらかじめ相談の上、産前休業に入る前に有給休暇を行使するようにしましょう。

また、基準日をまたがる期間に産休を取る場合は、基準日の前の1年間で5日間、基準日のあとの1年間でも5日間の取得義務があります。

(2)育児休業(育休)と有給休暇取得義務

育休期間中も有給休暇取得義務の5日間は消化されません。ただし、子が1歳6ヶ月になっても保育園などの施設に入れない場合は会社に申し出ることによって最長で2歳になるまで期間の延長が可能となります。育休の期間は夫婦それぞれ最長1年間となります。

育休が最長の1年間となる場合、育休の初日が有給休暇にかかわる基準日と一致する場合、有給休暇の取得義務は発生しません

また、母親の産後休業中に、父親が育休を行使し、一定の条件を満たせば、特例として子が1歳になるまでに父親は再度育休を取得できるので、この育休の開始日を調整することで、前後に有給休暇を付ければ取得義務を自らコントロールしやすくなります。

おわりに

繰り返しになりますが、有給休暇の行使は、従業員の権利です。有給休暇取得の義務化によって、空気感としても、以前と比較すると休暇が取りやすくなったのではないでしょうか。

ぜひとも、計画的に休暇取得をして、公私ともに充実できるようにしていきましょう。

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