生成AIは人事・労務業務にどのような影響をもたらすのか!?
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こんにちは。Ubie株式会社の人事労務を担当している山岸です。
世の中で話題となっているGenerative AI(生成型人工知能・以下、GenAI)ですが、弊社でも開発エンジニアチームだけでなく、セールス職やコーポレート職など、さまざまな職種において活用が始まっており、社内業務効率化や生産性向上などの観点で推進PJが立ち上がっております。
そこで本記事では、GenAIが人事・労務領域にどのような影響をもたらすのかについて、弊社事例も交えながら紹介させていただきます。
※本記事の内容は執筆時点での情報を元に作成しております。GenAIならびにGenAIを活用したツールは進化が非常に速く、公開時点で既に古い情報も含まれる可能性がございます。
Generative AIとは?
Generative AIはAIの一種で、データセットから学習することでテキスト、画像、音楽などさまざまなコンテンツを生成できます。
わからないことを質問したらAIがさまざまな情報をまとめて簡潔に回答してくれたり、「説明資料にこういった画像を追加したい」と思ったら、つくりたい画像を文章で説明するだけで、欲しい画像を自動的に生成してくれたりします。今までであれば自分で時間を掛けるか人にお願いしていたことが、簡単な日本語文章を入力するだけで瞬時に手に入れられるようになり、大きな働き方改革につながると期待されます。
最近話題のChatGPTやBardは、GenAIを利用するためのインターフェイス(チャットボット)であり、裏側ではChatGPTはGPT-3.5やGPT-4、BardはPaLM2といった、大規模言語モデル(LLM)をベースとしています。
LLMは、文章の完成や質問応答など、自然言語の生成に長けています。しかし、複雑な数学的問題解決や高度な抽象的思考は苦手で、学習データに含まれていない情報については知識がありません。そのため、LLMの出力は学習データの質と範囲に大きく依存します。
UbieでのGenAIの活用について
社内での活用のキッカケ
GPTが社内で話題となったのは2019年7月が最初でした。
当時はまだ、ChatGPTのような一般公開されたソフトウェアがなかったため、技術に注目をしていただけでしたが、2022年末にChatGPTが一般公開されて以来、有志で利用する社員社員が増えていきました。
元々、弊社では生産性向上が全社的なテーマとなっており、職種問わず業務効率化に対する意識が高い社員が多いため、業務における活用方法などを各自が模索し、あっという間に広まっていったように思います。
しかしChatGPTは便利な一方で、履歴機能を有効にしている場合、入力情報をOpenAI社の学習に利用されてしまうため、社内機密情報を入力すると外部に漏洩するリスクが常に伴っていました。
そのリスクを防ぐためには、入力情報を学習に利用されないOpenAI API経由での利用が好ましいのですが、我々のような非エンジニアが簡単に利用できるものではありません。
社内用GPTツール「Dev Genius」を開発
そこで社内の凄腕エンジニアチームが社内展開用のツール作成PJTを立ち上げ、社員全員が安心して利用できる環境を構築してくれました。
社内ツールは「Dev Genius」と呼ばれ、社内情報を入力しても漏洩のリスクがない(但し、個人情報などは万が一のリスクを考えて利用を禁止しています)だけでなく、テンプレートや、AIの回答の結果を共有できるようになっているほか、長文を要約するためのツールなども開発されています。
ここではすべてお見せできないのですが、さまざまなテンプレートを各自が作成・共有されており、すべて自分で一から考える必要なく利用できます。
「JD(Job Description)つくります」
「JDつくります」は、職種と追加条件を記入するだけで、弊社に適したJob Descriptionを作成してくれるテンプレートです。
弊社は全社員が採用に関わっています。しかし、過去に採用経験がない者も多いため、このようにJDのベースを作成してくれることで、あとは多少の手を加えるだけで簡単にJDを作成できます。
そのほかにも、バズる記事の作成を手助けするテンプレートや、問題が発生した際にインシデントレベルを判定してくれるテンプレートなど、コーポレート職においてもさまざまなテンプレートが次々と生み出されています。
人事・労務における今後のGenAIの活用
今後の活用が見込まれる領域
先述のJDの作成だけでなく、人事・労務領域においては以下のような活用方法が考えられます(一部例)。
- 労務
- 規程の要約
- 規程に関する質問に対する回答
- 社内ナレッジをベースとして質問に対する回答
- 採用
- 採用候補者の履歴書や職務経歴書の要約
- 採用候補者のスクリーニング
- 候補者情報の収集
- 候補者に適した質問の生成
- 面接動画の自動文字起こし → 面接内容の要約ならびに評価
- 人事
- 従業員の成果物からパフォーマンス評価
- キャリアパスの提案
- 従業員データの分析・活用
- 社員トレーニング資料の作成
- 従業員の成果物からパフォーマンス評価
人的資本経営で求められる人事情報の可視化
とくにGenAIが与える大きなインパクトとして、非エンジニアによる簡単なアプリ開発やコード生成のハードルが非常に下がった点が挙げられます。
人事・労務は社内で唯一、従業員情報をすべて管理できる部署です。一方で、従業員情報を活用するためには、統計学の知識や、情報を扱うためのPythonやR、SQLといった言語知識も必要とされ、非常にハードルが高く、サービス内で提供される統計情報などに頼るしかない状態でした。
しかしGenAIの活用により、PythonやSQLのコード生成が非常に楽になったため、SmartHRやさまざまなタレントマネジメントシステムから抽出した情報を分析し、グラフなどでの可視化が以前よりも容易になり、人的資本経営で求められる人事情報の作成にも大きなメリットがあります。
GenAI活用における課題・障害
プロンプトの質による回答への影響
GenAIは上手く活用すれば非常に便利である反面、LLMの特性を理解したうえで適切なプロンプト(GenAIが応答を生成するためのテキスト情報/命令文/指示書)を書く技術が必要とされます。
しかし、その挙動はまだ不明な点も多く、利用者のレベルによって回答のレベルも大きく左右されてしまいます。
- 日本語よりも英語で記述した方がよい
- より直近の文脈に対してやや強い重みをつけるため、後方の文脈がより影響を与える傾向にある
- 一度に大量の情報を処理させるよりも、情報を分解して順序立てて与えた方がよい。
上記のような情報も一部ありますが、実態としては不明な点も多く、また変更される可能性もあるため、常に最新情報を追い続ける必要性があります。
利用におけるハードル
どんなに便利な機能があっても、新しいプロダクトを日常的に取り込むのは非常に労力を要します。
そのため、普段から利用しているプロダクト(Google、Slack、notionなど)上でそのまま利用できるのであればよいですが、利用するためには新しいサイトを立ち上げて…となると、その時点で多くの人が離脱する傾向にあります。
SNSマーケティングの世界などでも、人がメインで利用するSNSは3つが限度で、そこに割って入るのは非常に困難という話がありますが、これはすべてのプロダクトに共通する課題と考えます。
世の中に多くの業務効率化ツール・サービスが存在するにも関わらず、すべての業務が効率化されていない原因のひとつでもありますね。
弊社でもDev Geniusを立ち上げましたが、ここから実際に運用に乗せるのが一番の難題であり、利用者数や利用頻度のモニタリング、社内勉強会などの開催によって、浸透を図っています。
ドキュメント化
GenAIは学習するにあたり、そのソースとなるテキストデータが必要となります。
GenAIに会社独自のルールを学習させて、社内用FAQチャットボットなどを開発したい場合、その独自のルールがドキュメントとしてしっかりと残っている必要があります。
しかし人は、忙しいときなどはどうしても目先の業務に追われてしまい、ドキュメント化を怠ってしまう生き物です。そのため、結果的に自分の手を動かして回答をしないといけないことになってしまう可能性があります。
とくにエンジニア職以外の職種の場合、ドキュメントを残す習慣自体がそもそもないこともあります。そのため、まずはドキュメントをしっかりと残すという訓練が必要となるかもしれません。
今後の人事・労務に求められる力
最後に、ここまでの話をもとに、今後の人事・労務に求められる力について言及しようと思います。
言語能力
ここにおける言語能力とは、主にGenAIが理解できる言語を使用できる能力となります。
先に『プロンプトの質による回答への影響』『ドキュメント化』でも述べたように、GenAIが理解しやすいプロンプトを記載したり、学習しやすいドキュメントを残す必要があります。
そのためには、冗長的な文章ではなく、簡潔で短い文章で説明する能力や、主語と動詞を意識した文章の作成能力などが求められます。
また日本語LLMの研究も進んでいますが、現状は英語圏の進歩が最も速く、学習ソースも英語が最多であるため、プロンプトの記述も英語が最も精度が高く、一定の英語力は必要となるでしょう。
営業力・人間力・マーケティング力
GenAIはすでにアメリカにおいて、弁護士試験や医師試験に合格できるレベルにまで達しています。
たとえば社労士の業務においても、社労士の知識量よりもGenAIの情報量の方が多く、GenAIに質問した方が、適切な回答をより早く手に入れられるようになるでしょう。
もちろん法律において、士業など特定の国家資格の所有者にしか許されない業務は多く存在するため、GenAIによって仕事がすぐに奪われるわけではないですが、その大部分はGenAIに置き換わる可能性もあります。
これは社内においても同じで、社内における一般的な労務相談(有給・勤怠の法的な見解など)や、各種申請方法の問い合わせ対応、入退社時のマニュアル的な対応(提出書類や返却物の問い合わせ対応)などは、GenAIに置き換わる可能性が非常に高いです。
このような世界になると、人間が担うべき業務量は大きく減ることになり、数少ない枠を取りに行く必要性が発生します。そのため、最終的には「自分を売り込む営業力」や、「人に信頼される人間力」、「自分を必要とする場所を見つけ出したり、つくり出したりするマーケティング力」など、最後は「人間力」が重要となる時代が改めてやってくるのではと考えています。
ラーン・アンラーン・リスキリング力
上記2項目にも通じる部分ですが、GenAIの活用が当たり前になる世界においては、今まで人事・労務に求められていた役割やスキルとは、まったく違うものが求められるようになる可能性があります。
今までの人事・労務像にとらわれることなく、また人事・労務という領域に閉じることなく、世の中の潮流を掴みながら、常に新しい情報のキャッチが求められます。
究極的には各職種の専門性(専門知識性)はGenAIが担い、人間はインターフェイスとしてGenAIを上手に使いこなすことが必要とされるかもしれません。
ツールは目的達成のためのHowとして使用しよう
GenAIの進歩は非常に速く、1年後には我々の業務が大きく変化している可能性も否定できません。また法規制なども同時に進んでおり、不透明な部分もまだまだ多く残ります。
しかしさまざまな企業がプロダクトへのGenAI活用を検討しているのは事実で、意識せずとも普段の業務のなかでGenAIが活用されることは間違いないでしょう。
そうなった際に取り残されないためにも、まずは「ChatGPTなどの身近なプロダクトに触れておく」、「ドキュメント化などGenAI活用の有無に関わらず業務に有用なことは動き出しておく」、「GenAIが当たり前になった世界においてのキャリアについて考えておく」ことは必要になると思われます。
GenAI含めて、ツールはあくまでも目標を達成するうえでのHowでしかありません。
会社や自分にとっての目標は何かを常に頭に置き、目標達成においてGenAI活用が最適なHowであると判断したら、「よくわからないから」と迷わずに活用してみてはいかがでしょうか。
人事・労務領域 効率化すべき業務チェックリスト