1. 経営・組織
  2. 組織開発

SmartHRは「経営戦略と連動した人事戦略」をどのように実践するのか

公開日
目次

人事・労務にまつわるサービスを扱う企業はどのような人事施策を実施しているのか、関心を抱く方も多いかもしれません。今回は、well-workingに向けたサービスを提供するSmartHR社のCEO 芹澤さんとVP of Human Resources(人事統括本部長)宮下さんに、この半年間で実施してきた人事施策や人事の在り方についてお話を伺いました。経営戦略と人事の切っても切れない関係や具体的なアクションに向けた考え方をご紹介します。

人事戦略の策定から半年で実践した社内タレントの把握と育成体制の構築

SmartHR社の人事戦略が新たに設けられてから半年が経過しました。現在の実践状況をお話しいただけますか?

宮下さん

人材の輩出と採用の観点からお話しします。まずは社内にどのような人材がいるのかを把握する取り組みとして「タレント会議(VP・Director編)」を開催しました。CxOやVPなどが膝をつき合わせ、将来のVPやDirector(下図参照)について5時間ほどかけて議論します。

これを経て名前の挙がった対象者には、7月から約半年間の「SmartHRタレントプログラム(通称STP)」を受けていただいています。この研修はビジネスコンテストの形式を採っていて、プログラムの最後には芹澤さんや倉橋さん(SmartHR COO)に向けてプレゼンをしていただきます。この取り組みは毎年開催します。

将来のManager候補についても、部門ごとにVPやDirector、Managerが参加して「タレント会議(Manager編)」を開催しました。こちらも、名前が挙がった対象者には順次、STP研修(4か月版)を受けていただきます。この取り組みは年に3〜4回実施したいと考えています。

SmartHRの組織階層と役職を示した図

SmartHRの組織階層と役職

育成体制構築の一環では、フィードバックカルチャーの醸成を目的とした『フィードバック研修』を全社員に実施しました。「70・20・10の法則(※)」では、社員の成長の7〜9割は日々の業務から得られるとされています。刺激を与え合い、お互い高め合う文化の形成によって優れた人材を輩出していく考えです。

なぜこのような底上げをするかというと、誰もが可能性を秘めたタレントだからです。特定のスキルや特徴をもつ人だけを示す意味合いではないからこそ、あらためて人材の見える化が重要なのです。
※参考:人材育成の「70:20:10」の法則(一般社団法人 日本能率協会)

人材の見える化が重要なのですね。続いて採用状況も教えてください。

宮下さん

今までSmartHRは外部からManager以上のポジションを採用していませんでしたが、今後はハイレイヤー獲得にも注力します。実際に採用も進んでいて、組織力の強化を図っています。

さまざまな取り組みのなかで、優先度が高い施策を教えてください。

宮下さん

最優先事項は、現在・将来のタレント候補がどこにいるのかの「人材の見える化と育成」です。つぎにフィードバックカルチャーの醸成、従業員への機会提供です。社内公募や現在開発中のキャリアデベロップメントプログラム(※)を活用して積極的な異動施策を展開していきたいですね。
※個人の適性や希望を考慮しながら研修や配置を決定し、従業員の能力の最大化を支援する長期的なプログラム

会社の成長の後押しに必要な、経営と人事の最適な距離感

経営戦略と人事戦略が整合性をとるためのポイントを教えてください。

宮下さん

戦略や施策を推進するのは間違いなく人であり、その人を採用して育成、登用していくのが人事です。人事戦略は経営戦略を後押しする存在であり、企業の成長とは切っては切れないものだと思っています。そのため、曖昧な経営戦略のもとでは人材の確保や育成の方針も曖昧になってしまいがちです。SmartHRの経営戦略は非常にクリアなので、経営戦略からブレイクダウンした人事戦略を組み立てられています。

芹澤さん

会社には経営戦略・事業戦略があり、それを実現するためのさまざまな戦略がぶら下がっていくものだと思います。人事戦略に関しても経営戦略ありきですね。

7月に経営戦略の目標が修正されましたが、人事部でも何か動きはありましたか?

宮下さん

まだ完了していませんが、経営戦略の目標に合わせて調整します。基本的には人事戦略でやることは変わりませんが、手段や採用戦術には影響するでしょう。たとえば採用人数が引き上げられた場合は、採用したい人数に合わせて応募者数を広げていく作業が必要になります。人事戦略は数年先までの具体的なステップを描いていますが、ある程度の柔軟性を備えています。いま一度、ロードマップの詳細を芹澤さんと確認したいところですね。

宮下さんのインタビュー中の様子を収めた写真

VP of HRの宮下さん

ビジョンを描いて委任する。経営陣と人事責任者、人事部メンバーの役割

お話を伺っていると、芹澤さんと宮下さんの距離がものすごく近いと感じます。

宮下さん

入社してから3〜4か月は毎日芹澤さんやCEO室の方と鼎談をしていただいていましたね。芹澤さんの考えや目指す会社の姿、課題感を共有する時間になったと思います。

芹澤さん

国内外の事例を見ると、人事が経営者のすぐ隣にいる会社が強いと感じます。経営者から人事に求めることがロスなく伝達され、密な連携を維持して実行に移す状態が非常に重要であると考えています。人事の責任者は誰よりも経営戦略を理解し、それを即座に人事戦略に落とし込める存在でなくてはなりません。

経営は人事に対してどこまで権限委譲をしていますか?役割分担があるのでしょうか?

芹澤さん

僕と宮下さんの間であれば、今年から徐々に人事の権限を宮下さんにお任せするようになり、7月からはほぼ全権を委ねています。現在は組織づくり含め、僕が何かを決めることはありません。ただ人事制度にまつわる部分は会社全体のデザインにも関わるので、CxOやVPの意見を濃く反映させるプロセスにしています。

宮下さん

私と人事部メンバーの間では、人事戦略の全体像や目標をしっかりと共有したうえで、ある程度自由に考えてもらっています。私が1人で考えるより、さまざまな意見を集約したほうがよっぽどよいものができますからね。ブレイクダウンしたとおりに遂行してもらうのは、SmartHRらしくありません。「あるべき姿に向けて動いていく」というカルチャーを体現するため、各自で戦術や施策を考えてもらい、私からレビューをお返ししています。

人事は数値化目標を立てにくい職種ですが、可能な限りの数値化も大切にしています。それがフェアな評価にもつながります。

well-workingを提唱するSmartHRのCEOが考える「人事」

人事に対する考え方は企業によってさまざまですが、芹澤さんは「人事」の在り方に関して、どのような問題意識をもっていらっしゃいますか?

芹澤さん

課題は理想と現実のギャップによって定義されます。ギャップは理想があってこそ生まれるものですから、どこに理想をもつかが重要です。課題を認識していない企業があるとすれば、それは理想の解像度が低いためではないでしょうか。人事が描いた理想を経営戦略実現とリンクさせ、そのギャップを埋めていくことが非常に重要なのです。そのうえで、僕たちSmartHRが描く理想をお話ししたいと思います。

さきほども話題に挙がりましたが、経営戦略を実践するうえで重要なのが、人と組織です。とくにソフトウェアカンパニーは、製品自体や技術によって長期的な競争優位性をつくるのが難しいんです。なので結局重要になるのは、常に競合よりも一歩先を行くものをつくり続ける組織能力です。人と組織に対する投資こそが、僕たちの競争優位性の源泉になっていると考えています。

もちろん業界によって人事の重要性や人と組織への投資の仕方も異なると思います。ただ、僕たちはこのやり方で成長していきたいです。会社のコーポレートミッションに「well-working」という言葉を掲げています。「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。」ことを提言したものですが、僕たちもwell-workingを追求し、体験する必要があります。それを型化して、ロールモデルとして世に広めていくために、人と組織に対しての感度を高めておきたいですね。

芹澤さんのインタビュー中の様子を収めた写真

CEOの芹澤さん

タレントマネジメントは企業の状況に依存する部分が多く、正解を提示しにくいと感じます。「well-working」のロールモデルをどのように提示していくべきだとお考えですか?

芹澤さん

well-workingの定義は企業によって異なりますが、プロセスをお見せすることはできると思います。SmartHRにおいて宮下さんが提示した戦略策定までのプロセスもその1つです。そのような過程の先にある理想を実現するサービスとして「SmartHR」を提供していきたいですね。

宮下さん

タレントマネジメントも手段の1つだと考えていただきたいです。目的はあくまで経営戦略の後押しなので、プロセスのなかにタレントマネジメントを組み込んでいただくイメージであるべきですね。

人事の在り方を変える。企業を超えた横のつながり

人事戦略の重要性は認識しているものの、手応えを得られていない企業も存在します。目的に応じた手段と実践の推進には何が重要でしょうか?

芹澤さん

僕があらゆるケースを網羅的に把握できているわけではないという前提ではありますが、旧来的な人事の在り方からの変革が容易ではないのだろうと感じています。日本においては、終身雇用やメンバーシップ型雇用が浸透している企業がほとんどです。しかし昨今は人的資本経営が国レベルで重要視されており、人事の在り方をガラッと変えることを求められています

一方で人事は変化に時間がかかる領域ですから、難易度は高いでしょう。その状況に際して打開策を見つけるには、人事の横のつながりが大切だと考えています。企業を超えたつながりのなかでナレッジをシェアし、新しい手法を生み出していく。ノウハウの集合によって効率的かつ失敗を最小限に止められます。そうした取り組みが今後増えていくべきでしょう。SmartHRの大型イベント「SmartHR Agenda」や「SmartHR Connect」、ユーザーコミュニティ「PARK」などもぜひご活用いただきたいです。

最後になりますが、まずはどのようなことから始めるべきか、人事に悩みを抱える企業に向けてエールをお願いします。

芹澤さん

まずは経営層が人事に対する考え方をアップデートすることだと思います。経営人事課題を特定し、人事と一緒にギャップを埋めていく流れです。あるいは、人事から経営層へ提言するパターンもありえると思います。同業他社の人事にまつわる変革事例などを見せるのもよいかもしれませんね。

宮下さん

人事メンバー自身のアップデートは必要不可欠です。現代における人事は足し算ではなく掛け算で物事を考えるべきだと思います。中長期視点で物事を捉える力やマーケティングなどの顧客志向なスキルを備えている必要もあります。

さらには、経営層は人事における「勝ちストーリー」をまず見定めることも重要だと思います。経営層の方は、人事に対して「人事はどう思うの?」「他社の事例はどうなの?」と問いをどんどん投げかけてみてください。その見解があっているか、間違っているかよりも、経営に対して人事が見解を伝えること自体にバリューがあると思います。その繰り返しが、人事のマインドチェンジになると思いますね。

人気の記事