業績に繋がる「全員活躍」の組織 ~人事と現場の信頼構築がカギ~【SmartHR Agenda#2 レポート】
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働き続けたい組織となるために、企業はHRテックをどのように活用しているのか。企業の担当者から直接事例をうかがい、視聴者とともに考えるオンラインイベント「SmartHR Agenda #2 〜HRテック活用事例に学ぶ働き続けたい組織〜」。
Day2オープニングセッションⅡでは、カルビー株式会社 常務執行役員 CHRO 人事総務本部長の武田雅子さんを迎え、「⼈事部⾨から現場や経営と信頼を構築する」をテーマに単独講演を行っていただきました。
カルビー株式会社 常務執行役員 CHRO 人事総務本部長/株式会社SmartHR 社外取締役
1989年株式会社クレディセゾン入社。営業統括部門の人材育成担当、戦略人事部長などを経て、2014年人事担当取締役に就任。2016年営業推進事業部担当役員として組織風土改革を推進。2018年カルビー株式会社へ入社、2019年より常務執行役員 CHRO 人事総務本部長に就任。風土改革を推進する傍ら、2020年Calbee New Workstyleをリリースし、取材、講演依頼など多数。近年は、個を活かす人事施策や越境施策に注力。2018年、日本の人事部「HRアワード」個人の部・最優秀賞受賞。
働き続けたい組織とは?
本日は、働き続けたい組織を実現させるために、「人事は何をしたらいいのか」をお話しをしたいと思います。まずは「働き続けたい組織とは、どういう人がいるのか」にフォーカスします。
私たちカルビーでは年に1回実施しているエンゲージメントサーベイがあります。次の図はその分析に使うチャートの1枚になります。
縦軸は「能力発揮したい」、横軸は「所属をしていたい」で、左上は「本気は出すけれど、チャンスがあったら転職を考えている方たち」です。右下は、「仕事は続けたいが、そこそこ頑張ればいいかなと思っている方たち」としています。当然、人事が社員の皆さんに望んでいるのは、右上のゾーンになります。
「能力を発揮しながら会社に所属していたい」という社員を増やすには、「組織の魅力」と「仕事の魅力」を向上することが重要です。たとえば「組織の魅力」は、パーパス・MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)、カルチャー、チームやリーダーの魅力そのもので上げていく。「仕事の魅力」は、仕事の意味・意義、専門性、能力発揮、リスキルなどによって、「より能力を発揮したい」というモチベーションを上げていきます。
人事が望んでいる右上のゾーンに向けた具体的な施策、つまり働き続けたい社員に人事が提供するべきものとして、カルビーでは「貢献実感」と「成長実感」の2つを挙げています。
「貢献実感」とは、組織のなかで自分が役に立っているという感覚で、「成長実感」とは、自分が以前よりも成長している感覚です。
「貢献実感」は、自己満足だけでは貢献している実感を得られません。そのため、日常的なフィードバックや評価、コミュニケーションなどが大事になります。
「成長実感」は、自分自身をどうアップデートさせていくかです。目標設定とフィードバック、新しい仕事へのアサイン、または内省の機会をしっかり設けて棚卸しをすることが、貢献実感や成長実感につながる要素となっていきます。
ただ、人事は色々な施策を実行しても、直接社員にすべてのことをお知らせしたり、評価したりできません。経営陣や役職者を通じた施策の実行が人事の仕事ですから、「届け方」や「巻き込み方」が大事になってきます。
人事の役割4象限
では、経営陣、社員とどのように向き合ったらいいのかお話ししたいと思います。
次のチャートは、デイビッド・ウルリッチ教授の「人事の役割4象限」です。本日のオーディエンスの方たちには「釈迦に説法」かもしれませんが、このあとのお話しを整理していくうえで落としどころがわかりやすいのでご紹介します。
チャートの縦軸の上下が「未来」と「日常」、横軸の左右が「プロセスの管理」と「人の管理」となっています。
左上の「未来/プロセスの管理」には「戦略実現パートナー」として働く人事が入ります。HRBP(HRビジネスパートナー)は、ここに入ってくると思います。サポーターでもフォロワーでもなく、本当にイーブンな関係で先頭を走るマネージャーの方たちのパートナーとして機能する人事です。
左下は、プロセスの管理、かつ日常的に発生している「管理エキスパート」です。ルーチンに近いものも含め、多くのプロセスが必要な人事の業務や、シーズナルな業務もたくさんあると思います。これを早く正確にいかに効率よく実施するか、非常に重要な人事の役割です。
右下の「日常/人の管理」は、「従業員チャンピオン」です。従業員のことを一番よく理解していて、従業員の代表者(チャンピオン)として、意見を経営陣に伝え、人事施策に反映できる人事です。会社によっては労働組合が担っているケースもあるでしょう。
右上の「未来/人の管理」は、「組織変革エージェント」で、今まで日本企業の人事はここの領域は触らず、左下、もしくは下段の方に重きを置いていたことが多かったと思います。ただ、人的資本経営の話になると、上段や右上の内容がテーマになってきます。皆さんの会社はどの領域に強い人事でしょうか? もしくは、どこにウエイトを置いてお仕事をされていますか?
本日は全社に人事施策を展開するにあたり、このチャートのなかから、①「社員に対して」で水色部分、②「経営陣に対して」黄色部分、それぞれに何を大事にしていくべきか、この2つの領域についてお話しします。
「現場との信頼関係を築く」人事のあり方
まずは大前提となる内容ですが、次のパネルは「Calbee HR Policy」、社員との約束を示す、カルビーにおける人事のあり方を示したものです。
(1)全員活躍
これは私自身の人事戦略のなかでも一番のメインに据えているワードです。ここでいう「全員活躍」とは、社員にはそれぞれの強みや持ち味があるので、それらを活かして仕事をする。その結果、全員が活躍できるようになること。このときに大事なのは、チームの心理的安全性です。チームのなかでメンバーが誰に対しても恐怖や不安を感じることなく、安心して発言・行動できる環境をつくることがポイントです。
(2)Growth Mindset
「Growth Mindset」とは、すべての人財の可能性を信じることです。「成長できる」という自身のマインドセットや、相手に対しても成長を期待すること。人事は、すべての人たちが成長過程にいて「今はできていないだけで、これからできるかもしれない」という考え方で社員と向き合っています。
(3)Well-being & Happiness
これは心身だけでなく社会的な健康も含め、「組織のなかで存在感があるか」「居場所があるか」「本人も含め、周りの人たちもそういったことを感じながら仕事ができているか」を表します。幸福な人たちは、生産性も創造性も高いというデータがあります。人事はステークホルダーも含めて、Well-being & Happinessを考えることを大切にしていきます。
カルビーの人事は、このような価値観を大事にしていると全社に謳っています。施策を立案するときや、判断に迷ったときは必ずここに戻ります。
施策展開のポイント
では、人事が施策を現場に展開するときのポイントについて4つ紹介します。
(1)正しいことではなく役に立つことをする
人事の施策は正しいと思いますが、対象となる社員が「これは役に立つ」と思ってくれないとなかなか動いてくれません。なので、どうしたら実際に行動に移してくれるのかを考えることがとても大事です。
伝えるタイミングもあるでしょう。ときには、悩みに寄り添ったり、やり方を変える必要が出てくることもあるでしょう。人事が推進したい施策の背景や目的・狙いをきちんと理解してもらうまで、いろいろな方法で確実にお届けする。実は、これが意外とできていないことが多いです。
正しいことを伝えるのではなく、「相手の役に立つことを届けているのか」を今一度、考えてみてください。
(2)当事者意識を引き出す
どんなによい施策でも、やらされ感を持たれないように工夫することもポイントです。決めていくプロセスに立ち会ってもらうべく、たとえば、座談会を開いて現場の声を聞きながら、複数の施策案から選んでもらうという方法もあります。「自分はこれを選んだ」と思うことで、当事者意識を引き出すわけです。
また、人事としても困っていることがあるのなら、現場の社員に結論を選んでもらったり、一緒に考えてもらったりして知恵をもらう。上がってきた意見を施策の説明に加えてもよいでしょう。現場の社員をこちら側に引き込むことが重要です。
(3)マネジメントサイクルを回す
人事は年間で実施する施策が多く、それを回していると、なんとなく仕事をやっているような気になってしまいます。「施策を実行したら、必ず効果測定して、可能ならマイナーチェンジする」というマネジメントサイクルを回し続ける。要はやりっ放しにしないこと。これも大事なポイントです。
(4)実績を出す!
人事は営業と同じです。たとえば、就業規則の変更よりも、人事異動が何人あったとか、昇格試験に受かった人が何人いたとか、こういった実績がとても大事で、社員は実績しか見ていないものなのです。
現場と信頼を構築するために必要なのは、現場との調整や小さな改善を積み上げながら、いかに実績をつくっていくか。その結果の積み重ねで、現場から頼られたり、声がもらえるようになり、良好な関係を構築できます。数字の威力は強いです。現場の役に立つ実績を出して社内に示していきましょう。そして、頼られる人事、従業員チャンピオンを目指していきましょう。
経営陣に対してどう向き合うか?
一方、経営陣とはどう向き合えばいいのか。施策の展開ポイントをまとめました。
(1)ゴールを握る・共感する
経営陣は業績に直結する戦略実行を優先しがちですが、「会社をよくしたい」「社員にモチベーションを高く持っていてほしい」「会社も社員も成長してほしい」というゴールは私たちと一緒です。
そこで大切になるのが、まずは経営のゴールに共感することです。そこからブレイクダウンして、ゴールに早く確実に時に継続的にたどり着くために人事施策が必要なのだということを丁寧に伝えましょう。
(2)縦糸(部門戦略)と横糸(人事施策)を組む
組織において、若手の育成や女性の活躍支援など、人事の施策はついつい後回しになりがちですが、下の図のような会話で人事施策の優先順位を上げていきます。
「達成したいゴールは何ですか?」
「予算達成です」
「そうですよね。現状の体制でそれは可能ですか?」
「大丈夫です」
これが本当に大丈夫だったら、人事の出る幕はないと思います。達成できて、従業員の皆さんのモチベーションが高く、離職も少なかったら、すでによいチームですから、それでいいのです。
ただ、スコープを少しズラして「2〜3年後もそれは可能ですか?」「5年後、10年後は?」といった質問をしていくと、「育成が必要」「若手をもっとケアする必要がある」など人事課題を共有しやすくなります。ここから人事施策の優先順位を上げていきます。
「将来的に」といわれても「それはいつですか?」と約束をすれば、必ずどこかで人事の施策が必要になります。そこで「一緒に考えさせてください」と伝えましょう。
たとえば「数字をつくること」と「人を育てること」はときに相矛盾します。「これを同時にやるのがマネジメントですよね」「大変なのはすごくわかります」などと言いながら、そっと人事の施策を入れ込んでいく。自分が仕事をさせてもらえる領域をちゃんともらってくる。こうして施策の優先順位を上げていくのです。
(3)数字またはファクトで話す
ここで気をつけたいポイントは、経営陣とは数字で話をすることです。資料などを見やすくすること。経営陣は忙しいですから、直感的にわかるようなフォーマットを渡すことが大事です。
(4)マネジメントのサポートに集中
そして、いざ人事の施策が始まったら、経営マネジメントが実現するサポートに集中します。いわゆるHRBP(HRビジネスパートナー)の役割のように、経営戦略を実現するサポーターとして、組織マネジメントの効果が最大化するお手伝いに集中しましょう。
経営も人事も目的は同じです。経営の意図と人事の意図に合致点を見つけ、最終的には組織マネジメントが奏功し、実績をつくることを最大化するお手伝いをする。これができれば、意思決定のテーブルに呼んでもらえるようになり、人事は戦略実現パートナーになれます。ここを目指していきましょう。