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【前編】社員の期待値ギャップをなくし、魅力的な組織を作るポイント

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Z世代と呼ばれる若手社員と日頃から結果を残す優秀社員の早期離職は、採用コストや教育コスト、人員補強コストの面から企業経営に与える影響は大きく、人材不足が叫ばれる昨今の経営課題として対策が急務となっています。

そこで今回は、「若手社員・優秀社員の離職要因」「離職対策」について紐解いていきます。

若手社員・優秀社員の離職要因

Z世代と呼ばれる若手社員と優秀な成績を収める社員は、どうして離職してしまうのでしょうか。内閣府の調査によると、16〜29歳における初職の離職理由で一番多い回答は、「仕事が自分に合わなかったため」とされています。では、若手社員・優秀社員は仕事に対して何を求めるのでしょう。さまざまな調査・アンケート結果をもとに離職理由を深掘りしていきます。
※出典:平成30年版 子供・若者白書(内閣府)

若手社員は仕事に何を求めるか

一般社団法人 日本能率協会が新入社員に対して行った調査を見てみると、働く目的を「仕事を通じてやりがいや充実感を得ること」と回答する新入社員が半数を超えています。続いて「自分の能力を高めること」「社会の役に立つこと」が挙げられ、新入社員は「やりがい」や「成長」に非常にアンテナが高いことがわかります。

一方、「会社の役に立つこと」「お客様の役に立つこと」を目的とする新入社員は少なく、会社への帰属意識が低いことも確認できます。

新入社員へ仕事に求めるものは何かを聞いたアンケート調査の結果

※出典:2020年度 新入社員意識調査報告書 P34(一般社団法人 日本能率協会)

優秀社員は報酬に対するモチベーションが高い

ハイパフォーマーと呼ばれる優秀社員に目を向けてみましょう。ハーバード・ビジネス・レビューには、「ハイパフォーマーのなかで仕事に満足している人は50%未満」という調査結果が掲載されています。

また、「すべての従業員にとって、仕事の満足度を最も左右する要素は基本給で、次が賞与であった。ハイパフォーマーは、平均やそれ以下の人と比べこの2つをはるかに重視していた。 勤続年数に基づく給与、あるいは成果の優劣がほとんど反映されない報酬制度は、ハイパフォーマーの離職を促す最大の要因だ。」とも記されており、優秀社員は新入社員と同様に、仕事からどれだけ「やりがい」や「成長」を得られるかを重視していることに加え、給与や賞与などの報酬に対するモチベーションが非常に高いことがわかります。

※引用:引く手あまたのハイパフォーマーを自社に引き止めるには(ハーバード・ビジネス・レビュー)

若手社員・優秀社員の特徴

調査・アンケート結果をもとに若手社員・優秀社員の離職理由や仕事に求めることを深掘りしてきました。しかし、一番最初にお伝えした初職の離職理由「仕事が自分に合わなかったため」に関しては、捉え方を変える必要があると考えています。

皆さまは、就職活動をしていた学生時代に思っていた「やりたいこと」と現在やりたい仕事にギャップはありませんか。学生時代に思い描いた「やりたいこと」が、働く過程での経験やライフスタイルの変化によって変わった方も多いのではないでしょうか。とくに「初職」という観点においては、最初からやりたい仕事に就けることは非常に稀です。

つまり、「仕事が自分に合わなかったため」と答えているものの、本当は「自分のやりたいことが分かっていない」「自身のキャリアを明確に考えられていない」と捉えるほうが若手社員の現状に近いと考えています。

若手社員・優秀社員の特徴をまとめた表

若手社員・優秀社員の離職を防ぐために

離職対策を検討するうえで重要な前提がひとつあります。それは、若手社員・優秀社員の期待や要望にすべて応える必要はないということです。

離職対策を検討するうえでのポイント

会社が社員に提供できるものは無限ではなく有限です。そのため給与や賞与など、さまざまな要望にすべて応じることは、ほとんどの会社で難しいです。それだけでなく、ワークライフバランスやリモートワークといった要望に関しても、度合いや施策に合う合わないがあるため、提供しなければと考えると会社にとって効果的な組織施策にならない場合があります。そのため、社員の認識を会社にあわせていくとともに、自社の事業モデルにあわせて効果がでる施策を考えていくことがポイントです。この施策を考えるフレームワークを紹介します。

施策検討のフレームワーク - 4つの魅力

人が組織に求める魅力は「目標」「活動」「組織」「待遇」の4つといわれています。「目標」は、会社のミッションやビジョン、理念、事業戦略などの方向性です。「活動」の魅力は、会社の事業内容や具体的な仕事から得られるやりがいや成長。「組織」は、組織風土や組織の雰囲気にあたります。また、「〇〇社長がいるのでこの会社に入社しました」のように、組織に所属する個人の魅力も組織の魅力に該当します。4つ目の「待遇」は、報酬や会社のブランドです。

この4つのうち、「目標」「組織」で差別化を図る必要があります。なぜかというと、さまざまな会社と人材を取り合う時代のなか、どう差別化するのかを考えたときに、「活動」「待遇」で差別化を進めることは非常に難しいからです。

たとえば、SmartHRは労務やタレントマネジメントに関するサービスを提供していますが、周りを見渡すと同じく労務システムやタレントマネジメントシステムを提供する会社は多く存在し、「活動」で差別化を図ることは難しいです。「待遇」も予算があるなかで青天井にやり切ることは現実的ではありません。

こうした状況のなかで差別化しやすいのは、「なぜこの事業をやっているのか」「どのような方向を目指したいのか」という「目標」や組織風土、そこに所属する人と「組織」の魅力です。

人が組織に求める魅力「目標」「活動」「組織」「待遇」の4つを説明する表

施策検討のフレームワーク - 事業モデルと組織づくり

「目標」「組織」で差別化を図るためには、土台として事業モデルとリンクした組織づくりが重要になります。楽天グループとデロイト トーマツ グループの行動指針を参考に組織づくりについて説明します。

楽天グループ

皆さんもご存知のとおり、Eコマースや通信、金融など、さまざまなサービスを展開する楽天グループは、私たちユーザーが各種サービスを使うことで会社としての価値を得ています。こうした事業モデルにおいては、「サービス」や「サービス提供の仕組み」の価値を高めるために、さまざまな事業部や部署が連携しながら、お客さまが感じたよかったところ、悪かったところをサービスや仕組みに還元し、改善していくことが重要です。

こうした事業モデルを踏まえて行動指針を見てみると、「常に改善、常に前進」「仮説→実行→検証→仕組化」からは、人によってばらつきのないサービスが提供できる仕組みづくりを目指していることがわかります。また、「スピード!!スピード!!スピード!!」からは、仕組化から生み出されたサービスをスピーディーにお客さまに提供する考えが明らかで、事業モデル、そしてビジネスの成長にあった行動指針が設定されているといえます。

楽天グループの成功のコンセプト

楽天グループ株式会社 コーポレートサイトをもとに作成

デロイト トーマツ グループ

デロイト トーマツ グループはコンサルティング会社であり、お客さまはコンサルタントの専門知識やプロジェクトの進め方に価値を感じて対価を払います。したがって、事業の価値を伸ばすためにはコンサルタントの専門性を高めていく必要があります。

行動指針を見てみると、「品質」や「プロフェッショナルとしての行動」「能力」「公正な業務執行」が置かれ、コンサルタントの専門性を高めるための行動指針がしっかりと設定されていることが確認できます。

デロイト トーマツ グループの行動指針

デロイト トーマツ グループ コーポレート情報をもとに作成

自社の組織づくりの進め方

楽天グループとデロイト トーマツ グループの行動指針を例に事業モデルとリンクした組織づくりを説明しました。この例を参考に「お客さまが何に価値を感じて対価を払っているか」を軸にした4象限のフレームワークで、自社の組織のあり方を考えてみましょう。商品や仕組みに対してお客さまが対価を払っているという方は図の4象限左側、従業員一人ひとりの専門性という方は右側です。

商品・仕組みであれば、楽天グループなどでもさまざまな部署が連携して情報を交換しながらプロダクトに価値を還元しているように、横連携がしっかりできなければ実現できない事業モデルのため、組織風土が大切になります。一方、従業員一人ひとりの専門性は、競争を煽ったり、成長を半ば強制するような仕組みとそれに見合った評価制度や報酬設計が重要になってきます。

縦軸は事業ドメイン数です。事業が増えてくると、自社が何をしている会社なのかが社員に伝わりづらくなることがあります。このことに注意しながら会社のミッションや事業戦略で方向性を明確にした組織運営が重要になります。

4象限のフレームワークを示した図

ここまで、若手社員・優秀社員の離職要因や離職対策のポイント、事業モデルと組織づくりのフレームワークを紹介してきました。若手社員・優秀社員の離職を防ぐためにはもうひとつ、社員のエンゲージメントを意識することも非常に重要です。後編では「離職とエンゲージメントの関係性」について解説しています。ぜひご覧ください。

後編はこちら

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