組織開発、どう進めるのがベスト?人事のプロが教える結論とは
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“パーパスを実践する企業の挑戦 人手不足時代を乗り越える” をテーマに2日間にわたり開催されたカンファレンス「SmartHR Agenda #4」。さまざまなゲストをお招きし、「パーパス経営」「DX」についてのセッションを開催しました。
「パーパス経営の理解と実践」をテーマに開催したDAY1では、「人事制度に血を通わせ、組織を機能させるアプローチ "組織開発の実践"」と題し、人事制度に関する視聴者の悩みに答えつつ、「組織開発」の理論と実践をわかりやすく解説しました。登壇したのは、株式会社壺中天 代表取締役 / 壺中人事塾 塾長の坪谷 邦生 さんです。
株式会社壺中天 代表取締役 壺中人事塾 塾長
1999年、立命館大学理工学部を卒業後、エンジニアとしてIT企業(SIer)に就職。2001年、疲弊した現場をどうにかするため人事部門へ異動、人事担当者、人事マネジャーを経験する。2008年、リクルートマネジメントソリューションズ社で人事コンサルタントとなり50社以上の人事制度を構築、組織開発を支援する。2016年、アカツキ社の「成長とつながり」を担う人事企画室を立ち上げる。2020年、「人事の意志をカタチにする」ことを目的として壺中天を設立し現在。主な著作『図解 人材マネジメント入門』(2020)、『図解 組織開発入門』(2022)、『図解 目標管理入門』(2023)など。
組織開発は「関係性」に働きかける
これから「組織開発の実践」をテーマにお話ししたいと思います。皆さんにいくつかの問いを投げかけますので、チャットにご意見を書き込んでみてください。
組織とは「組んで織りなす」
では、さっそく1つめの問いです。そもそも組織とは何でしょうか。
- 当日の参加者の声
- 同じ目標、目的をもった集合体
- 同じ志をもった人の集まり
お答えいただいたチャットから、多くの方は何か1つのものを目指すチームのようなイメージをおもちのようですね。
私は、組織とは「組んで織りなす」ものだと思っています。
「組む」というのは、「共通の目的」を目指していくことです。皆さんのコメントのとおりです。それぞれが違った目的をもって動いている人をただ集めただけでは、力が集約されません。そこで、同じことを成し遂げようとしている人たちと肩を組むわけです。
そして「織りなす」とは協働、役割分担することです。一人ずつバラバラにやったほうが効果的なのであれば組織である必要はありません。
組んで織りなす、共通の目的に向かって肩を組み、協働して仕事を織りなすこと。これが組織です。
組織開発の目的は「健全さ・効果性・自己革新力の向上」
では、次の問いにいきましょう。今日のお話しのメインテーマでもある「組織開発」とは、何でしょうか?
- 当日の参加者の声
- 目的を達成するチームの機能を向上させること
- 組織の力を最大化すること
- 競争力を高める新しい付加価値をつくること
- 1+1を3以上にすること
- 個人がスキルを発揮できる組織にしていくこと
- 組織にいる人と人との関係性をよくすること
個人やチームの力を引き出して、組織の力を高めていくというニュアンスのご意見が多いですね。
私は「組織をよりよくするため、実践者の価値観をベースに、人と人の関係性へ働きかけること」だと考えています。組織開発の「目的」は、組織をよくすることです。もう少し踏み込んでいくと、組織の健全さ・効果性・自己革新力を高めることです。
では、組織をよりよくする「やり方」はどのようなものでしょうか? もっとも重要なやり方は「関係性への働きかけ」、つまり人と人との関係性をよくしていくことです。皆さんのご意見にもありましたね。
「関係性への働きかけ」の下には「技術・構造的働きかけ」「人材マネジメントによる働きかけ」「戦略的働きかけ」などの要素があり、互いに影響を及ぼしあっています。これはMBOから評価制度、等級、事業戦略、組織図の改変まで、人事にかかわるすべてのことが組織開発になりうることを表しています。
そして図の一番下には「あり方」と書いてあります。実は組織開発においては、やり方よりもあり方が大切だといわれています。どんなに他社でうまくいっている、または学術的に正しいやり方、手法をとっていたとしても、組織開発を実践する人の「あり方」が間違っていれば、それは組織開発にはなりません。
「よい組織」の構築に欠かせない「あるべき姿の設定」
3つめの問いにいきたいと思います。「よい組織」とは、どのようなものでしょうか?
- 当日の参加者の声
- 人間関係がよい組織
- 風通しのよい組織
- 構成員が自発的、自律的に動く集団
- 「ここで何かをやりたい」と思える集団
- メンバーが意欲的に働き、成長しながら成果を上げている組織
- メンバーが同じ方向を向き、信頼関係がある組織
皆さんの持論や「組織がこうあってほしい」という思いがたくさん出てきましたね。
私は「組織モデルはさまざまであり、自組織が目指す姿を定めることが大切である」と考えています。
理想の組織モデルはたくさんあります。皆さん、不思議に思ったことはないですか? ビジョナリーカンパニー、学習する組織、知識創造企業(SECIモデル)、そしてティール組織……多くの組織像が提示されているのですが、それが本当に正しい組織モデルなのであれば、なぜこんなにたくさんのモデルが次々と出てくるのでしょうか。それぞれのモデルで、同じことを言っている部分もあれば、違うことを言っている部分もあります。
ここから言えることは、どの企業や組織にも当てはまる「こうやっておけば間違いない」という絶対的な正解はない、ということです。必要なのは、自社がどんな組織を目指していきたいのかを語り合い、実践の中から見出し、共通認識を育むことです。
組織開発の2つの「やり方」
次の問いにいきます。組織開発の「やり方」はどう進めればよいのでしょうか?
- 当日の参加者の声
- ボトムアップとトップダウンをうまく交わらせて価値観を共有する
- パーパスの設定、ミッション・ビジョン・バリューの定義
- 交流の場を設け、目的と手段について共通認識をつくる
- サーベイで現状を調査して、組織の再編もしくは教育をする
- ビジョンを示すことと、対話することの繰り返し
目指すゴールや価値観などを共有したり、そのために対話するというご意見が多いでしょうか。私が考えていることを、共有させてください。
組織開発のやり方「関係性への働きかけ」には、「診断型組織開発」と「対話型組織開発」の2つがあります。
可視化から進める「診断型組織開発」
診断型組織開発の代表例は、サーベイ・フィードバックです。組織の意識調査「サーベイ」を取って組織やチームの状態を"見える化"する。そのデータに関係者が向き合い、対話する。その結果アクションプランを得て、未来づくりにつなげる。アクションプランを実行したら、またサーベイを取って可視化する……この繰り返しによって、組織開発を進めていく方法です。
診断型組織開発の特徴は「正解があること」です。サーベイには「職場のコミュニケーションは活発か」「パーパスは浸透しているか」といった項目があります。これは、その項目に対する答えがYESなら正解だということです。組織や部署におけるYES/NOの割合から現状を把握し、YESの割合を増やすにはどうすればよいか、という視点で未来づくりを考える。これが診断型組織開発のベースとなる考え方です。
対話型組織開発
これに対して対話型組織開発には、正解がありません。正解はメンバーみんなのなかにあり、対話のなかで表出してくる。それが対話型組織開発の基本的な考え方です。
対話型組織開発の代表であるホール・システムアプローチは、以下の4つの手法が代表的です。
AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)、フューチャーサーチ、オープンスペース・テクノロジー、参加者が議題を自ら提案し、主体的に対話を進める手法ワールド・カフェ。どの手法も「関係者全員を一同に集めて、話し合う」ということが共通しています。
人事担当者の「あり方」が組織開発の成否を分ける
いよいよ最後の問いです。組織開発において、実践者はどのようにあるべきでしょうか?
- 当日の参加者の声
- 紳士
- 情熱と意志の強さをもつ
- 伴走者となる
- 言行一致であり、誠実である
- 共感力と実行力をもつ
- 自分の考えをしっかりもち、他人の話をよく聞く
- ロールモデルになりたいと思われるような魅力がある
素晴らしいですね。これらはおそらく、皆さんご自身が大事にしているスタンスでもあるのではないでしょうか。
組織開発の総本山であるアメリカのNTL(ナショナル・トレーニング・ラボラトリー)では、組織開発における実践者について「人間尊重」「クライアント中心」「民主的」「社会・環境志向」という4つのあり方を定義しています。人間の可能性を信じ、自分中心ではなく、周囲の人たちやクライアントのために、一部の人たちではなくみんなで考える、社会・世の中のために、これが組織開発を実践する者に求められる「あり方」だということです。
皆さんのコメントにあった「紳士」「伴走者」「傾聴」という言葉にも通じるものがありそうです。
キーワードとなるのは「ユース・オブ・セルフ」という言葉です。これは、自分自身の気づきや価値観をツールとして使って組織開発を行うことです。組織を変革するツールは、自分自身の価値観なのです。
「やり方ではなくあり方」というのは、組織をよくするという目的に向けて実践者が正しい「あり方」であれば、どんなアプローチ「やり方」であっても、それは組織開発だということです。
SmartHRには労務管理から人事評価、サーベイまでさまざまな機能があります。こうした機能を組織開発につなげるためには、人事が実践者としての「あり方」をもっていることが必要です。あり方が正しければ、つまり組織をよくしたいという志をもっていれば、人事の取り組みはすべて組織開発になる。それが、「NTLのあり方の定義」に対する私なりの解釈です。
最後に「人事とは、人を生かして事をなす」ことだと私は考えています。そして、まずはじめに生かすべき「人」とは人事である「あなた自身」です。人事として正しい「あり方」によって組織開発を実践することとは、「あなた自身を生かすこと」につながるはずです。ご自身の「あり方」を磨き成長し続ける、そんな「意志ある人事」の皆さんの存在こそが組織を成長させる「組織開発」そのものだと、私は考えております。