メンバーを成長に導く3種類のフィードバックと成功のコツ
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こんにちは。株式会社SmartHRでプロダクトマーケティングマネージャーを務めている埜村(のむら)と申します。
今回で『初心者がゼロから始める”人材マネジメント”』の連載は最終回です。
これまで人材マネジメントの概念や組織作りについてお伝えしてきました。最終回は「個人」に対する人材マネジメント、その中でも多くの人が触れたことがある「フィードバック」に触れていきたいと思います。
(※「フィードバック」という言葉はさまざまなシーンで使われますが、本稿で扱う「フィードバック」は、個人の成長に寄与するフィードバックに限定しています)
フィードバックの重要性
ビジネスシーンでは「上司や同僚が部下の働きを評価し伝えること」や「他者の仕事上の言動に対してアドバイスをすること」などの意味で「フィードバック」という言葉を使います。
フィードバックの内容は、フィードバックを受ける側が実際に起こした行動や経験が大きく関係します。まずはフィードバックの重要性について、デービット・コルブの経験学習モデルを軸に考えてみます。
経験学習モデルとは、実際に経験したことから学びを得る過程を理論化したもので、ビジネスパーソンの成長の多くは業務経験からもたらされることから、ビジネスパーソンの人材育成の基本的な理論とされています。
経験学習モデルの要素は次の4つで構成されます。
- 能動的実験(実践)
- 具体的経験(経験)
- 省察的観察(振り返り・内省)
- 抽象的概念化(概念化)
経験学習モデルの考え方では、まず現場でさまざまな状況に直面しながら即興的な対応を行い(実践)、その過程でさまざまな成功・失敗体験を積み(経験)、その中で成功要因・失敗要因を振り返り(振り返り)、振り返りで得られた気づきを他の場面でも展開できる自分なりのセオリーに昇華させ(概念化)、それをまた現場で実践し……ということを繰り返すことで人は成長していきます。
単に実践して経験を蓄積するだけではなく、特に「振り返り」と「概念化」が重要で、成長要因の70%を占めるとも言われています。
また、「振り返り」には、「描写」「比較」「批判」という3つの下位プロセスで見る手法があります(※1)。
- 描写:自分が振り返ろうとする出来事について事実を「描写」する
- 比較:自分の言動の意味づけを行い、異なる視点から出来事をさらに意味づける
- 批判:批判的な立場や高い次元から結論を見出し、新たな視点を有する
この「描写」「比較」「批判」を自分一人で行うことは容易ではありません。そこで周囲からのフィードバックが重要になってきます。上司や同僚がフィードバックによって「描写」「比較」「批判」の支援をすることで学習者の学びは格段に大きくなります。
ただし、いくら周囲が振り返りの支援のためにフィードバックを行っても、それを受け入れるかどうかを決める権利はフィードバックを受ける側にあります。言われたことをどのような意味で捉えるか、言われた通りにするかどうか、すべては受ける側次第です。
そこで、次はフィードバックを行う上で理解しておくべき「フィードバックの種類」とそれぞれのポイントを紹介していきたいと思います。
フィードバックの種類とポイント
フィードバックの種類は大きく3つに分けることができます。相手のためにしたフィードバックが「余計なお世話」になってしまった経験がある方は、まずはこの3つの違いとそれぞれのポイントを覚えることがおすすめです。
1.感謝
■感謝のフィードバックについて
感謝のフィードバックには「ありがとう」などの他に、「あなたのことを見ている」という承認の言葉も含まれます。
感謝の言葉をもらうとモチベーションが上がり、行動に勢いが生まれ、さらに努力を費やすエネルギーが生まれます。職場でフィードバックがもらえていないと不満を持つ人は、「自分の働きを見ている人や気にかけている人はいない」と思っていることが多く、そのような人が求めているのはアドバイスではなく感謝の言葉であることが多いです。
■感謝のフィードバックの効果とポイント
感謝のフィードバックは、仕事や人間関係に注ぎ込んだ想いや行動・時間に価値があった、無駄ではなかったと実感させてくれます。「感謝のフィードバック」を相手に伝える際には具体的に伝えることがポイントです。
ポジティブなフィードバックは「よくやった」「素晴らしい」といった曖昧な表現でされることが多い一方、ネガティブなフィードバックはとても詳細に語られることが多いです。そういった対応をされると、「本当は私のしていることに感謝していないのでは?」という疑念が生まれてしまい、フィードバックを与える人の信用度が下がってしまいます。注意しましょう。
2.指導
■指導のフィードバックについて
指導は誰かの学習、成長、変化を助けることを目的に行うフィードバックです。指導のフィードバックが行われる背景には、2つのニーズが考えられます。
1つは、フィードバックを受ける側が能力を高めたり新たな課題に対処したりするためにスキルを向上させたいというニーズです。
もう1つは、フィードバックを与える側がフィードバックを受ける側との関係で何らかの問題を見つけたケースで、ほとんどの場合それは受ける側への変化の要求となります。
■指導のフィードバックの効果とポイント
指導のフィードバックは学習スピードの加速、そして時間とエネルギーの有効活用に効果的です。指導のフィードバックが欠けていると学習、生産性、士気、人間関係などに悪影響が起こります。
指導のフィードバックを推奨している組織でも、指導する側が評価されないという理由で、指導がなかなか行われないことがあります。また、経験不足な人を指導者としてあたらせると、迷惑がられて時間の無駄に終わったり、価値のない口論や反感を招いてしまうこともあります。
3.評価
■評価のフィードバックについて
評価のフィードバックは査定、ランク付け、点数付けなどの手法により、評価される側の現状を共有するものです。
評価のフィードバックは、与える側と受ける側の認識のすり合わせと状況を明らかにすることが目的です。ただし、評価には客観的な事実を超えた推測が含まれることがあります。
例えば、目標未達の人に対して目標未達という評価に加えて、「サボっていて施策をやりきっていないのではないか」などという推測が加わることがあります。それが事実ベースではない否定的な推測の場合、受ける側はフィードバックに対して不安を感じるようになります。
■評価のフィードバックの効果とポイント
評価のフィードバックは、自分自身の現状の理解、見通しの試算などに必要です。
評価のフィードバックがないと、感謝や指導のフィードバックの言葉から自分の現状を理解しようとし、ありとあらゆる噂に耳を立てずにはいられなくなります。人は他人に評価されることに不安を覚える反面、評価に基づく居場所を必要とします。
感謝・指導・評価のフィードバックは全て必要な要素であり、3つのどれが欠けてもフィードバックはうまくいきません。
ただし、全てのフィードバックを実施していてもフィードバックがうまく機能しないことも多々あります。次に、フィードバックがうまくいかない理由について解説します。
フィードバックがうまくいかない5つの理由
フィードバックの種類とポイントを理解いただきましたが、これらを理解していても、フィードバックがうまく伝わらない、機能しないというお悩みを持つ方もいらっしゃいます。多くの場合、下記5つのフィードバックがうまくいかない原因が生じています。
1.評価と指導を一緒に行う
1つ目は、評価のフィードバックと指導のフィードバックを一緒に行ってしまうことです。
フィードバックを受ける側が、改善すべきことを学ぶつもりでフィードバックに臨んでも、自分では「期待以上」の貢献をしたつもりが「期待通り」との評価しかもらえなければ、その先の言葉は耳に入りづらくなります。
その場合、評価のフィードバックを最初に行い、数日〜1週間程期間を空けて感謝・指導のフィードバックを行うのが良いでしょう。
2.与える側と受ける側の認識が一致していない
2つ目は、受ける側と与える側のフィードバックの認識が一致していないことです。
例えば、受ける側は「感謝のフィードバック」を期待していたのに「評価のフィードバック」をもらった場合や、与える側は「指導のフィードバック」を与えているつもりなのに、受ける側は「評価のフィードバック」と受け取っている場合などです。
そのような場合は、フィードバックを与える側が以下について考えることをおすすめします。
- フィードバックを与える目的は何か?
- 相手は今そのフィードバックを求めているか?
- フィードバックの種類は混在していないか?
なお、指導と感謝のフィードバックはどちらも「必要なとき」に「その場で」もらわないと効果が薄れるため、日々いつでもできるように意識をしておくと効果的です。
3.フィードバックが間違っている
フィードバックを拒む一番の理由はフィードバックが間違っていることです。他にもアドバイスの内容が悪い、評価の仕方が不公平、自分に関する情報が古いなどの理由があげられます。
フィードバックがうまく機能していない場合は、フィードバックをする側のスキルや経験が不足していないかも確認をしましょう。
4.人間関係が悪い
コミュニケーションの大前提ですが、フィードバックは与える側が誰かによって見方が変わります。与える側の説得力のなさや信頼性のなさ、動機の疑わしさなどから、「フィードバックをあなたからはもらいたくない」「本当の原因はあなたなのにこちらのせいにしようとしていないか」と疑心暗鬼になってしまうことがあります。
5.アイデンティティを攻撃している
フィードバックを受ける側にとって自分を批判する言葉は「自分のアイデンティティを攻撃された」と感じ、反発したり逃げ出したりしてしまいます。そうすると、実りあるフィードバックに専念できなくなってしまいます。
現場におけるフィードバックのポイント
ここまでの内容で、個人の成長を加速させるために他者からのフィードバックが重要であること、フィードバックの切り口として「感謝」「指導」「評価」の3つがあることをご理解いただけたのではないでしょうか。
フィードバックがうまくいかない理由で解説したとおり、フィードバックを受ける側が求めるものを理解した上でフィードバックをすることが重要です。さらに、上司と部下という関係ではフィードバックを伝えるだけではなくそれをもとに部下に「変化」してもらうことも重要です。
最後に、現場でのポイントとしてクルト・レヴィンという心理学者の理論をもとにした態度変容の3ステップを紹介します。
変化を促す態度変容の3ステップ
もし、「四角い氷を渡されてそれを丸い形にしてください」と言われたらどうしますか?
四角い氷を綺麗な丸にするには、
- まず四角い氷をいったん溶かして水にする(解凍=アンフリーズ)
- 次にその氷を丸い容器に入れる(変化=チェンジ)
- 再び冷やして氷にする(再凍結=リフリーズ)
という工程が必要です。人の気持ちも同じです。
ともすると「変化」させようとアイスピックでガンガン氷を削るように、「なんでこうしないんだ」「もっとこうしてくれ」と要望を一方的に押し付けてしまいがちです。その結果、フィードバックした内容を実行しない、実行したふりをして効果が出ないなどの問題が起こる可能性があります。
ご想像の通り、アイスピックを使って丸い氷を作るにはとても技術が必要です。力加減を間違うと氷が割れてしまう場合もあります。
人の行動を変えたいのであれば、まず気持ちを溶かすことから始めるべきです。そのために、一方的に戦略を語る、指示を出すのではなく、相手の考え方やずっと続けてきた仕事のやり方などに耳を傾け、理解して共感することが相手を「変化」させることにつながるのです。
さいごに
フィードバックは個人の成長を加速させるとても効果的なコミュニケーション手段です。ただし、「コミュニケーション」である以上、受け取る側の状態や気持ちはとても重要です。
部下や同僚の成長を願う気持ちでフィードバックをされるのであれば、「自分が伝えたいこと」だけではなく、ぜひ「相手が欲しいもの」や「タイミング」を意識してフィードバックを行ってみてください。