相対評価とは?絶対評価との違いやメリット、デメリット、トレンドを解説
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人事評価の方法にはさまざまな種類がありますが、どの場合でも共通して重要になるのが「相対評価で考えるのか、絶対評価で考えるのか」という観点です。そこで本稿では「相対評価と絶対評価の違い」や「両者の長所・短所」などについてわかりやすく解説します。人事評価の基準を考える際の参考としてぜひご覧ください。
相対評価とは? 絶対評価との違いは?
はじめに、相対評価の意味と絶対評価との違いについて解説します。
相対評価の意味
相対評価とは、ある従業員の能力やパフォーマンスをほかの従業員と比較し、その序列に応じて評価する手法です。たとえば、営業部門での評価を例として挙げるならば、「営業成績が上位10%以内の担当者をA評価、上位20%以内の担当者をB評価…」というように、組織内での順位に即して評価の枠組みをつくります。
相対評価と絶対評価の違い
相対評価と対照的な方法として挙げられるのが絶対評価です。絶対評価では、ほかの従業員とは比較せず、組織が定めた基準を従業員それぞれが満たせているかどうかに注目して評価します。たとえば、「営業の売上金額が〇〇円以上ならA評価」という評価基準があったとしましょう。極端にいえば、絶対評価の場合はその基準を達成さえしていれば、組織内での順位が最下位だったとしてもA評価をします。
つまり「ほかの従業員より上か下か」に注目するのが相対評価で、「設定された基準より上か下か」に注目するのが絶対評価です。
評価基準のつくり方について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
相対評価のメリット
相対評価のメリットとしては、「評価がしやすいこと」と「評価の公平性を確保しやすいこと」が挙げられます。
評価者が評価しやすい
1つ目のメリットは、評価者にとって評価作業の負担が少ないことです。相対評価の場合は、絶対評価と比べて評価基準や目標値の細かな設定が必要ありません。相対評価で重要なのは、ほかの従業員と比較したときに、「その従業員の成績がどこに位置するのか」だからです。
そのため、相対評価では目標値の妥当性などについて、詳細に検証する手間などを省けます。評価作業自体も特定の指標に沿って従業員の順位づけをすればよいため判定が明快です。
公平に評価しやすい
評価の公平さを確保しやすいことも利点です。絶対評価の場合、その評価基準をどのように設定すべきかは簡単な問題ではありません。求める基準が厳しすぎても甘すぎても、従業員のモチベーションや会社への信頼感に悪影響が出てしまうからです。
たとえば、「会社全体が業績不振に陥っているのに、求める営業成績は以前と変わらない」という状態では、個々の従業員がどれだけ頑張っても高評価をもらうことは難しくなってしまいます。その点、相対評価ならば「全体の10%以上ならA評価」というように基準を定めればよいので、評価基準によって成績評価に出る偏りを容易に防げます。
さらに、従業員のあいだに競争原理を働かせられるのも大きなメリットです。従業員がお互いに切磋琢磨して業務に取り組むことで、モチベーションや生産性の向上を期待できます。とはいえ、成績上位者~中位者はともかく、下位者は自分の評価に落胆して、やる気を失ってしまう恐れもあるので注意が必要です。
相対評価のデメリット
上記のような利点がある一方で、相対評価には「評価が周囲によって左右されること」や「従業員個人の成長を評価に取り入れにくい」などのデメリットが挙げられます。
所属するチームや部署によって評価が変わる
相対評価はその性質上、周囲の従業員の影響を大きく受けます。たとえば、その人自身の成績はとてもよいのに、周囲の同僚がそれ以上に優れた成績を残した場合、評価が霞んでしまう事態もありえます。そうなると、本来は優秀な従業員を過小評価してしまい、不満を与えてしまう事態にもなりかねません。
そもそも何を基準にして従業員に序列をつけるかも難しい問題です。営業部門のように成績を数値化できる仕事ならわかりやすいかもしれませんが、数値化できない部門だったらどうでしょうか。「事務処理が早い人が優秀なのか」「丁寧に仕事をしてくれる人が優秀なのか」「職場の雰囲気をよくしてくれる人が優秀なのか」など評価基準はさまざまで、順位をつけるのが難しい場合もあります。
場合によっては、「なぜ自分があの人より劣っていると判断されたのか」と不満を抱く従業員も出るでしょう。このように、誰もが納得できる評価基準をつくることの難しさが相対評価の問題です。
個人の成長が評価されにくい
上記とも関連しますが、従業員一人ひとりの成長を評価に取り入れにくいのも欠点です。相対評価では、すでに業務に習熟しており、実績の優れた従業員が高評価を受けやすくなります。そうなると、経験の浅い従業員が成長している実感があるのに、人事評価にはまったく反映されないといった事態が生じてしまい、その従業員が不満を抱く可能性が生まれます。
また、相対評価による競争原理が裏目に出ると、同僚を仲間ではなく競争相手として捉えてしまい、自分のスキルやノウハウを共有したり、周囲をフォローしたりするのを敬遠する従業員も出てきてしまうかもしれません。
絶対評価のメリット
相対評価と比べて、絶対評価には「従業員から納得を得られやすい」「個人の成長を促進できる」などのメリットが挙げられます。
従業員からの納得を得やすい
絶対評価は多くの従業員から納得を得られやすいことが利点です。絶対評価においては、組織が従業員に求める明確な尺度を提示したうえで、各従業員を評価します。したがって、ほかの従業員の成績によって自分の評価まで左右されてしまう相対評価に比べて、混乱や矛盾が生じにくく、透明性を確保しやすいのが特長です。
また、ほかの従業員と競わなくてもよい絶対評価の場合、従業員間で課題を共有し、モチベーションを高めてチーム全体で目標達成に打ち込みやすくなります。
個人の成長が促される
相対評価に比べて、個人の成長を促進しやすいのも特長です。相対評価においてはどうしても「ほかの従業員より上か下か」という点に目がいきがちですが、絶対評価では「設定された課題を達成できたか否か」という点に注目します。そのため、自分の課題や課題達成までの距離を明確にして、人事評価を自分の成長に活かしやすくなります。
また、相対評価では周囲との比較によって評価するしかありませんが、絶対評価ならば、個人ごとに目標値などを設定可能です。それゆえ、個人の能力やその成長に応じて適宜課題を設定し、その達成の可否や取り組み状況を査定に取り入れられます。
絶対評価のデメリット
絶対評価もまた完璧な方法ではありません。絶対評価にも「評価のばらつき」や「評価基準の設定の難しさ」などの問題があります。
評価者によって評価がばらつく
絶対評価の第一の問題は、評価者の影響を受けやすいことです。絶対評価においては、定められた基準を達成できるかどうかが評価の鍵になりますが、その目標値をどれだけ高くするかは、評価者のさじ加減によるところが大きくなります。
また、達成度合いを数値化・客観化できるような課題ではない場合、どのような結果を残せば課題を達成したことになるのかも、評価者の主観に依存する部分が多くなるでしょう。これにより、評価者次第で評価基準の設定や評価判定が左右されてしまい、人事評価が不公平になってしまう恐れがあります。
評価基準の設定が難しい
上記のような問題が生じてしまう一因として、評価基準の設定が難しいという根本的な問題があります。先述のように絶対評価は原理的に、基準さえクリアすれば誰もが高評価を得られるシステムですが、実際にそうなってしまっては会社としては不都合が生じます。高評価を与えるからには、昇給や昇進などの見返りも検討しなければなりませんが、財源もポストも無限に用意できるわけではないからです。
また、評価基準が低すぎて達成者が多数、高すぎて未達成者が多数という状況では、正しい評価ができているとはいえません。適切な評価基準の設定には、過去のデータ、現在の従業員・組織の状況など、さまざま要因を踏まえた検討が必要です。
そのため、人事評価運用者、評価者の負担は大きなものとなってしまいます。
評価基準のつくり方について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
最近の傾向は絶対評価
従来、国内企業においては相対評価が主に活用されていましたが、最近の傾向としては絶対評価の普及が広がっています。これは昨今、個人の努力や成長を重視する風潮が強まった結果、相対評価の欠点「周囲によって個人の評価が左右されてしまう」「個人の成長が反映されにくい」といった点が懸念されるようになってきたからです。
本来、企業が個々の従業員に期待することは、「ほかの同僚を上回ること」ではなく、「自社の事業に貢献すること」です。しかし、相対評価では、従業員の意識は「会社や自分の将来のためにどのように成長していけばいいか」よりも、「同僚に勝つためにはどうすればいいか」という非本質的なことに目が向くようになってしまいます。これは相対評価の性質上、避けがたいことです。
その一方で、絶対評価であれば、個々の従業員にあわせて課題を設定し、その達成状況を評価していくことで、個人の努力や成長によりフォーカスできます。これにより従業員は、会社がほかの従業員と比較してではなく、自分個人をしっかり評価してくれているという安心感や信頼感を得られます。会社が持続的に発展していくためには、従業員一人ひとりの成長やモチベーションが重要になるため、これは大きな点です。
このような理由から、昨今では絶対評価が主流になりつつあります。
絶対評価を採用している企業例
絶対評価は企業の人事評価において、実際にどのように活用されているのでしょうか。ここでは、その具体例として、サイボウズ株式会社の取り組みを紹介します。
同社は事業の成長にあわせて、人事評価をさまざまな形に変えてきました。その変遷の歴史においては、従業員全員に順位をつけて相対評価を実施した時期もあります。しかし、この相対評価は、たとえ従業員全員がどれだけ頑張っても、必ず低評価となってしまう人が出ることから不満が多く、絶対評価へ切り替えることになりました。
どれだけ全員が頑張ろうが毎回必ずE評価が何人かでるにもかかわらずです。やっぱり「ええ~」という反応でした。
それじゃいかんとして、絶対評価を取り入れます。そのため、能力を職階に応じて定義する必要がありましたので、「階層の定義」というものをつくりました。職階ごとに能力を定義するのは、僕がいた銀行にもありましたし、一般的な評価制度と何ら変わりません。
絶対評価を運用するうえで重要になるのが、いかにして評価基準を設定するかです。サイボウズ株式会社は、この点で非常にユニークな発想を働かせ、社内価値・社外価値2つの観点から「従業員の市場価値」を設定し、それにもとづいて給与の評定を実施しています。
社外価値を端的に説明すると、「あなたが転職したら給与はいくら?」です。その従業員のスキルや属性などを加味して、転職市場における相場観、給与統計などから算出します。一方、社内価値とは、「社内における信頼度」のことです。これは「この人が抜けたら困る」という社内需給などを総合的に考えて算出します。
このように社内外2つの観点から従業員を評価することで、サイボウズは評価基準の客観性を高め、従業員が納得しやすい評価体制をつくり上げました。
人事評価に必要な3つの評価項目
絶対評価を実践時の基準としては、主に「業績」「能力」「情意」の3つの項目が必要になります。それぞれの内容は以下のとおりです。
業績項目
この項目においては、その従業員の業務における貢献度(成果)を評価します。その判断材料としては、業務の質や効率性、対応案件数、プロジェクト全体に対する貢献度などが挙げられます。
能力項目
従業員がどれだけ職務に役立つ能力を有しているかで評価する項目です。業績項目は実際に出した成果に評価が依存しますが、企業のなかには、研究開発のように短期間では成果が出しにくい業務や、成果が数値化しにくい業務もあります。このような場合、能力項目を利用することにより、業績項目で評価しにくい部分をカバーできます。
情意項目
社内においてどれだけ模範的に振る舞えているかを評価するのが情意項目です。仕事への熱意、責任感、協調性、誠実さなど、従業員の人間性を評価します。どのような人間性を尊ぶかは企業理念や企業風土などによりますが、勤務態度や人間的魅力によって職場に好影響を与えている従業員を評価するために有効です。
相対評価と絶対評価の両方を理解し、人事評価に活かす
相対評価は「ほかの従業員より上か下か」、絶対評価は「基準より上か下か」に注目して従業員を査定する手法です。相対評価には「公平な評価がしやすい」という利点があり、絶対評価には「個人にフォーカスして評価しやすい」という利点があります。
昨今では絶対評価の導入が増えていますが、絶対評価にも欠点がないわけではありません。したがって、従業員にとって納得感のある評価体制を確立するには、それぞれの特徴を深く理解したうえで施策を講じることが重要です。
人事評価の正しいあり方や失敗しない方法など、下記の記事にまとめていますのでご覧ください。
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