人事評価における納得感・公平感のための工夫【ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ人事が語る、人事評価制度 #4】
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Great Place to Work Institute(GPTW)が主催する2022年「働きがいのある会社」ランキングベスト100に選出された(中規模部門:従業員100~999名部門で第8位)、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ。
プロジェクトファシリテーションとITを軸に、経営戦略検討からIT導入までを支援するコンサルティングファームとして、企業の変革プロジェクトの成功に貢献しています。
今回はHRの渡辺歩さんに同社の人事評価制度について伺いました。全4回となるインタビュー企画、第4回のテーマは「人事評価における納得感・公平感のための工夫」です。
納得感のための工夫
入社前のコミュニケーション
ケンブリッジでは、「評価制度をYouTubeで外部に発信する」「採用面接で説明する」「オファー面談でも説明する」「新入社員研修でも説明する」といったように、折に触れて評価制度について言及しています。
先述したように、言語化されたコンピテンシー、職位ごとの期待値、日々のフィードバックによって、ファクトに基づいた真っ当な評価が渡されるのは、かなりシビアな環境でもあるので、そこを理解した上で入社してほしいと考えています。
そのため入社前に「評価によっては降格もありえる」という話もします。私自身もケンブリッジに入社して3年間1回も良い評価が出ずという経験をしたので、そういう自分の経験も出しながら、シビアな環境であることを伝えて、入念に期待値をすり合わせています。
「自分はうまくいくはず」「いい会社に入ったから評価されるはず」と期待値を上げて入社して、低い評価をもらったら、がっかりしてしまいますよね。ですから、入社前に評価制度を含めしっかり説明をしています。実際、パフォーマンスが出ずに退職していく人も一定数います。
ケンブリッジのカルチャーが合う・合わないは人によりますし、フィードバックを多くもらう環境なので、自分のスタイルを変えられない人は苦労します。特に、中途である程度成功体験を積んできて今さらワークスタイルを変えづらいという人はフィードバックについていけないケースもあります。
プレッシャーも大きい環境ですが、フィードバックを多くもらうことによって、努力すべきポイントや改善すべきポイントがわかりやすいというメリットもあります。
評価制度を公開する
また、評価制度の納得感を高めるために、評価・給与制度はすべてドキュメントにまとめて、社内の公開フォルダに保存しています。おかしいなと思ったときは、必ずドキュメントに立ち戻る、それでもやっぱりおかしいなと思ったら気軽に相談するようメンバーには伝えています。評価制度の背景や妥当性をメンバー伝えるメリットは大きいと考えています。
一方で、評価制度を公開していることのデメリットを感じることもあります。評価する側、制度を管理する人事には、ひたすら説明責任が伴います。
「なぜこの評価なんですか?」と問われたときには、皆かなり真摯に時間を割いて説明しています。「俺がこう思ったからこうなんだ!」とは誰も言わないです。
人事評価とはちょっと話がズレるかもしれませんが、ボーナスの評価では、プロジェクトの評価以外にも、全社貢献などを評価する仕組みがあります。そちらも人事評価同様に結果をお伝えするのですが、一部の人からは「なぜこの内容なんですか?」と理由を聞かれます。そういう質問や疑問に対して丁寧に説明を重ねており、その説明工数はかなり大きいです。
社内はこのように説明責任が伴うデメリットありますが、基本的には公開して良いものだと考えています。採用活動の一環で社外にも公開をしていますが、これに関してはデメリットは特にありません。
サプライズをなくす運用にしている
日々の細かいフィードバックでサプライズをなくすことも、人事評価の納得感のためには大事なポイントです。「この部分はちゃんと納得した」と互いに腹落ちすることで、評価で揉めたりするのを防ぐことができます。
とはいえ、細かいすり合わせで人事が介入することもあります。日々のフィードバックのなかで、「最近もらっているフィードバックにあまり納得がいきません」というコメントを見たら「ちょっと1回、上長と腹割って話してみたら?」と背中を押したり、ときには「メンバーがこういう風に言っていますけど、どう思います?」と、メンバーとリーダーの仲介に入ったりするのです。
また、評価シートに書いていない迷ったところや、どんな議論があったかを、口頭で補足するようにすると納得感が高まると感じています。
「この部分は、少し迷いがありましたが、この事実に重きを置いて今回はこの判断にしました」といった、文字には表れていない迷いの部分も丁寧に伝えることが大事だと考えています。
公平感を担保し、エラーを防ぐための工夫
評価者に説明責任がある、というカルチャー
ケンブリッジには、先述したように「評価者に説明責任がある」というカルチャーがあります。評価者は、職位ごとの期待値とコンピテンシーを照らし合わせて、ロジカルに回答する必要があります。
評価者は原則1名です。ただ、情報が不足している場合は周囲に情報提供を依頼したり、意見を求めたりしながら評価を作成しています。評価者には、論理的一貫性と根拠が求められ、エラーや不納得感、不公平感がないようにしています。
評価のガイドライン
評価を作成するときのガイドラインも作成し、社内に公開しています。これまでは口伝や経験則で作られていたので、2021年にガイドラインを策定しました。パワーポイントでいうと、35ページくらいです。
これは、具体的な記載内容や評価の書き方についてのガイドラインになっています。「この項目は何を書くのか」といった基礎的な内容から、「第三者が読んでも理解できるように具体的に書く」といった押さえるべきポイントなどが書かれています。
例えば、
- 「PMOとして支援」→「◯◯という役割として支援」と具体的に書く
- 状況・行動・結果のファクトを書く
- 高い評価であっても、不足している点、次の職位に向けてチャレンジしてほしいことを書く
といった注意を促しています。
これまでは評価を作成する際、自分がもらってきた評価を参考に我流で書いていたり、いくつかの流派があったりしましたが、それに対する会社としての公式見解をまとめたという感じです。
このガイドラインを作って良かったなと思っているのは、人事が旗を振ってやったというより、現場のコンサルタントが「評価作成のガイドラインみたいなものが必要じゃないですか」と声を上げてくれたことです。
つまり、現場と人事が一緒に作ったものなんです。こういうプロセスも、ケンブリッジらしくていいなと思っています。
第三者レビュー
プロジェクトマネージャーが評価者、その上長がレビューを行う
評価の甘辛については、第三者レビューを必須とすることでも調整しています。例えば、PM(プロジェクトマネージャー)がメンバーを評価するときは、PMがいったん評価を作って、それをPMの上長であるパートナーのコンサルタントに見てもらいます。
ただ、パートナークラスは評価対象者であるメンバークラスの日々の言動まで隅々見ているわけではありません。ですので、評価者であるPMに対し評価の根拠の説明を求め、客観的な指摘を与える、という役割になります。
つまり、第三者が改めて評価するということではなく、評価者があくまでメインの責任者であって、その評価内容と評価基準を照らし合わせて見たときに、妥当な内容になっているかを客観的に確認するというプロセスなのです。
同じ評価者と被評価者の組み合わせが長く続くと、評価者の評価基準がズレがち
ただ、最近は徐々に評価者の基準のズレに対する声を耳にする機会が増えてきました。甘辛調整は、これからの課題だとも思っています。
例えば、同じ評価者と被評価者の組み合わせがあまり長く続くと、その関係者間の独特な評価軸が熟成されて、評価者の評価基準がズレてしまいがちです。
最近は、あの評価者は厳しい/甘いといった意見が徐々に出始めている気がしていて、評価者と被評価者の組み合わせは、やっぱりかき混ぜなきゃいけないと感じています。
チームメンバーはさまざまな観点でシャッフルすべき
人事評価に限らず、メンバーの成長やプロジェクトを良いものにするという観点でも、チームメンバーはシャッフルすべきだと思います。さまざまなプロジェクト、さまざまな顧客、さまざまなフェーズを経験した方が良いコンサルタントに近づけるでしょう。
一方で、最近のプロジェクトは長期化、大規模化していて、最後までやり切る経験をしようとすると、自ずとひとつのプロジェクトの経験が長くなってくるというジレンマもあります。
例えば、お客さまと一緒に新しい制度の発足のタイミングを迎える、大きなシステムをリプレースして障害を乗り越えながら何とか決算を終えるなど、最後までやり切る経験もそれはそれで大事だと思っているので、悩ましいところです。
また、短いプロジェクトをいっぱいやりたいメンバーもいれば、「自分は時間をかけて関係性を構築するタイプなので、できるだけ長くアサインしてほしい」というメンバーもいます。コンサルタント個人の志向性もまちまちなので、アサインメントに対する希望の取り入れ方も、最近よく議論しているところです。
評価制度はまだまだ発展途上
総じて、「ケンブリッジのこの評価制度が最強だ」とは、まったく考えていません。むしろ運用すればするほど、難しい制度だなと感じています。
ひとつだけ言えるのは、社内での共通認識が取れている期待値・コンピテンシーがあること自体は大事な資産です。環境変化とのズレ、違和感が出てきたら随時見直しながら、共通認識としての評価基準は維持していきたいと考えています。