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コンピテンシーとは?背景や意味や導入方法をわかりやすくご紹介

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近年、人事評価制度にコンピテンシー(competency)を取り入れる企業が増えてきています。本記事では、コンピテンシーの概要やコンピテンシーを活用できる場面や、具体的な導入方法について紹介します。

コンピテンシーとは、優れた人材に共通する行動特性

コンピテンシーは、仕事で高い成果を出す人材に共通する行動や思考、動機を指す概念です。

社内で「あの人は仕事ができる」と言われる人たちは「勉強熱心である」「積極的に発言する」など、行動に共通する特徴があるのではないでしょうか。秀でた成果をあげる人材の行動や思考パターンに注目して、共通するポイントを見出すアプローチがコンピテンシーの出発点です。

コンピテンシーとは、優れた人材に共通する行動特性のこと

所属する企業や業種、職種、ポジションによって、求められる行動特性が異なるため、コンピテンシーに唯一の世界はありません。コンピテンシーを設定する際にはそれぞれの立場に合わせる必要があります。

コンピテンシーを設定する際にはそれぞれの立場に合わせる必要があります

コンピテンシーの具体例として、下記のような能力が挙げられます。

  • 自己認知能力
  • 素直さ
  • 業務遂行力
  • プレゼンテーション能力
  • チャレンジ精神
  • チームワーク

コンピテンシーの歴史

コンピテンシーの重要性を指摘したのは、ハーバード大学の心理学者であるデイヴィッド・C・マクレランド教授です。マクレランド教授は1973年の論文のなかで、職業的な成功は知能テストなどで予測するのは難しいと指摘。「コンピテンス」とテスト手法としての「職務コンピテンシー評価法」を提唱しました。

(参考)Testing for competence rather than for "intelligence." - McClelland, David C.

コンピテンシーが注目される背景

日本でコンピテンシーが注目されるようになったのは1990年代後半頃。年功序列から成果主義へと評価方法がシフトする流れのなかで、人事評価の公平性や客観性を担保するための概念として企業に用いられるようになりました。

一方、坪谷氏は以下の理由から、導入は必ずしも順調ではなかったと解説しています。

  • 行動項目が膨大な場合、抽出やメンテナンスの労力がかかる
  • 苦労して作成したコンピテンシーの信頼性も環境が変わると低下する

(出典)坪谷 邦生 -『図解 人材マネジメント 入門』

コンピテンシーの関連語・類語との比較表

コンピテンシーは、英単語で「資格」「能力」といった意味をもちます。似た用法で使用される「スキル」「アビリティ」などの言葉との違いは何なのでしょうか? 関連語・類語と比較してみましょう。

スキルとの違い

スキルは、活動やタスクを実行するために必要な個人が保有する技術や能力を指します。例えば語学やプログラミングはスキルとして扱われます。

一方のコンピテンシーは、個人が保有するスキルなどを使った行動特性を指します。所有する技術や能力を使って具体的な行動を起こす点が、スキルとコンピテンシーの違いです。

コア・コンピタンスとの違い

コア・コンピタンスは企業がもつ核となる強みのことで、他社よりも優れた能力や技術、特性を意味します。他社が真似できない強みは競争の優位性にもつながります。コンピテンシーも英語で「能力」の意味をもちますが「個人」を対象としているのに対し、コア・コンピタンスは「組織」を対象としている点に違いがあります。

アビリティとの違い

アビリティは、個人が保有する特定分野における天性の素質や先天的な能力のほか、努力によって身につけた後天的な能力を指す言葉です。運動能力やリーダーシップなどが当てはまります。アビリティは素質や能力そのものを意味するのに対し、コンピテンシーは得られた能力を発揮する力に該当します。

ケイパビリティとの違い

ケイパビリティは、ビジネスにおいて企業が成長するための組織的な能力や強みを指す言葉です。企業が競争上の優位を確立するための重要な能力のことで、特定の技術以外にプロセス全体にもかかわります。例として企業が有する独自の技術力や研究開発力などが挙げられます。一方のコンピテンシーは、従業員一人ひとりが特定のタスクや活動を遂行するときに必要とされる能力や知識に該当します。

コンピテンシーの関連語・類語との比較表

コンピテンシー評価を設定するときに、5段階のレベルに分ける

日本におけるコンピテンシーの第一人者である川上真史氏は、『会社を変える社員はどこにいるか』において、コンピテンシーを5段階にレベル分けしています。

レベル5:パラダイム転換行動

従来のパラ亜代務を転換し、独自の状況をつくり上げるレベルを指します。例えば、業績向上のために細かな施策の改善ではなく、そもそものビジネスモデルや組織構造から他部門を巻き込み改革を実行できるような従業員が該当します。

レベル4:創造行動

出したい成果から逆算し、状況を変えるために工夫をして行動できるレベルを指します。例えば、プロジェクトを進行させるなかで問題が起こった際には自らのアイデアや意見を積極的に述べ、工夫して解決へと導く行動を起こせる従業員が該当します。

レベル3:能動行動

複数のやり方から最良の方法を判断し、実行できるレベル。担当業務内でより良い結果を得るために、複数の方法から、最適な方法を選び、実行できます。

レベル2:通常行動、当たり前の行動

従業員自身に与えられた業務を最低限こなせるレベル。与えられた業務をミスなくやり遂げますが、それ以上の業務は実行できません。

レベル1:受動的かつ断片的行動

自ら行動を起こさず、具体的な指示をもとに行動するレベル。追い込まれてから行動を起こします。

(出典)『会社を変える社員はどこにいるか』-  川上真史

(出典)『コンピテンシー面接マニュアル』-  川上真史, 齋藤亮三

コンピテンシーが役に立つシーン3選

コンピテンシーは企業でどのように活用できるのでしょうか。コンピテンシーが効果を発揮すると考えられる3つのシーンを見ていきましょう。

人事評価

人事評価にコンピテンシーを取り入れることで、評価者による評価のばらつきを減らせる効果に期待できます。

コンピテンシーによる評価では、優秀な人材の行動をモデルに評価項目を設定します。「項目を実施している、していない」という明確な内容が判断基準となるので、評価者が異なったとしても評価に差が出にくくなるでしょう。

人事評価でありがちな「公平感が薄い」「評価基準がよくわからない」といった不満の解消が期待できます。

目標設定

前述のとおり、コンピテンシーを人事評価に取り入れた場合、具体的な行動を実施しているかどうかが評価の対象となります。

どのような項目がコンピテンシーとして設定されているかが、適切に社内で周知されている企業では、従業員が評価アップのためにどのような行動を取るべきかが明確なため、具体的な目標を設定する助けとなるでしょう。

目標設定について、より詳細に知りたい方は以下の記事を参考にしてください。

採用

コンピテンシーは採用活動にも取り入れられます。

選考の際に応募者が見せる特定の行動や思考パターンを評価項目として設定しておけば、採用担当者による評価の違いが発生しにくくなります。

注意したいのは、「特定の資格を取得している」など、スキル自体をコンピテンシーに設定しないことです。コンピテンシーは技術そのものではなく「技術を発揮するための力」であるので、資格を所有しているだけでは判断ができません。

評価制度にコンピテンシー評価を導入する手順

ここまで、コンピテンシーで得られる効果について解説してきました。ここからは企業でコンピテンシーを導入するための手順について解説していきます。

コンピテンシー導入フロー

(1) ポジション別に求められる要素を洗い出す

コンピテンシーは、立場によって変わるものです。まずは組織のなかにどのようなポジションがあり、各ポジションで求められる要素に何があるかを洗い出しましょう。

(2) コンピテンシーモデルを作成する

要素の洗い出しができたら「どのように行動すれば高い成果を出せるのか」を明確にして、モデルを設定します。

コンピテンシーモデルの設計は、「理想形モデル」「実在型モデル」「ハイブリッド型モデル」3つのいずれかを土台として進めることが一般的です。

1.理想型モデル

「理想型モデル」とは、企業が考えるその会社に適した理想の人物像を設定したモデルです。この方式は実際には存在しない空想の人物がモデルとなるため、あまりにも現実離れした設定にしてしまうと、達成できなくなる可能性もあるので注意が必要です。

2.実在型モデル

「実在型モデル」は社内に実際にいる優秀な人材をモデルとして、その行動特性を分析してコンピテンシーを設定します。社内に実際にいる人物がモデルとなるので、他の従業員はモデルにされる人材の働きぶりを参考にできます。

3.ハイブリッド型モデル

理想型と実在型の2つのモデルの要素を取り入れた方法が「ハイブリット型」です。社内に実在する人材をモデルにしてコンピテンシーを設定したうえで、さらに企業が理想とする人物像の要素を追加していき、モデルをつくりあげていきます。この場合も、理想型モデルと同様に実現困難な内容にならないように注意が必要です。

(3)評価する項目を設定する

コンピテンシーモデルを設定したら、次は評価対象となる具体的な項目を設定していきましょう。企業が評価したい項目と、それに対してモデルとなる人物の行動を分析して内容を吟味します。

項目を設定する際には、「コンピテンシー・ディクショナリー」が参考になります。コンピテンシー・ディクショナリーとは、米国マックバー社CEOのライル・M. スペンサーと同じくマックバー社のシグネ・M. スペンサーによって1990年代に提唱されたコンピテンシーモデルです。コンピテンシーを「達成・行動」「援助・対人支援」など6つの領域に分類し、領域ごとに重要項目を設定しています。

(出典)i コンピテンシ ディクショナリについて – 独立行政法人情報処理推進機構

コンピテンシー・ディクショナリーを参考にしつつ、自社に適した項目が何かを考えてみましょう。

コンピテンシー領域
領域の評価軸
コンピテンシーの定義
項目記入例
達成・行動
個人が成果を達成する際の

行動を重視して評価

達成思考
指示がなくても課題への

取り組みを行っている

秩序・品質・正確性への関心
イニシアチブ
情報収集
援助・対人支援
他者から求められることに

応えるための努力を評価

対人理解
顧客へ対応するだけでなく、

積極的に提案を行っている

顧客支援思考
インパクト・対人影響力
他者に影響を与える

個人の行動や考え方を評価

インパクト・影響力
チーム内の知見を積極的に

社内へ共有している

組織感覚
関係構築
マネジメントコンピテンシー
他者をリードすることや

チームワークを高めるための

行動などを評価

他者育成
チームメンバーの業務量を把握し、

必要に応じてフォローを入れている

指導
チームワークと協力
チームリーダーシップ
認知コンピテンシー
業務の状況や問題などを

理解しようと努力する

姿勢を評価

分析的思考
必要となる専門的知識を習得して

業務に活用している

概念的思考
技術的・専門職的・管理的専門性
個人の効果性
個人の特性やスキル、

成熟度を評価

自己管理
幅広い案件に柔軟に対応する

対応力を持つ

自信
柔軟性
組織コミットメント

(参考)コンピテンシー・マネジメントの展開[完訳版] – 執筆:ライル・M・スペンサー、シグネ・M・スペンサー、翻訳:梅津祐良、成田攻、横山哲夫 

(4)社内全体に周知する

設定したコンピテンシーは社内に周知しなければ効果がありません。「コンピテンシーとは何か」という基礎の部分から、導入する目的などを従業員と共有しておきましょう。

(5)運用・検証・改善

コンピテンシーは、一度導入したら終わりではありません。企業が人材に求める要素は時間の経過によって変化していくことが考えられるため、継続的なメンテナンスが必要です。

設定したコンピテンシーは、「評価基準が適切となっているか」を定期的に会社の現状と照らし合わせて検証しましょう。検証は1年に1回の実施が目安となります。「1年でそんなに大きな変化は起こらない」という企業の場合でも、少なくとも3年に1度は検証するべきです。

問題点が見つかった場合は、会社の現状の目的に合わせて修正していきましょう。

導入に必要な労力も見越して検討しよう

コンピテンシーを活用することで、評価項目の明確化や評価者による評価のばらつきを抑えるメリットを得られます。

一方で、導入に際して分析やヒアリングなど、実施しなければいけない作業が煩雑な点は、デメリットといえるでしょう。高い成果に結びつく行動特性を見定めるのが困難な場合も多く、導入のハードルは決して低くはありません。人事評価制度へコンピテンシーの導入を検討している企業は、導入コストも含めて検討しましょう。

また、コンピテンシー以外にも、OKRやMBO、FASTの法則といった評価制度や指標を取り入れる企業が増えています。こうした制度・指標を取り入れることも公平・公正な人事評価につながります。

お役立ち資料

納得感のある人事評価を実現。組織を成長させる15のキーワード

FAQ

  1. Q1. コンピテンシーとは何ですか?

    A.コンピテンシーとは「資格」「能力」などを表します。人事評価の領域では、「優秀な人材に共通する行動特性」を指します。

  2. Q2. コンピテンシーが役に立つのはどんなときですか?

    A.コンピテンシーは、人事評価を実施する際に、評価者による評価の均一化に役立ちます。同様の効果は採用活動の場においても期待できるでしょう。

    具体的な行動が評価対象となるため、従業員が目標を立てやすくなるメリットもあります。

  3. Q3. コンピテンシーの導入方法を教えてください

    A.まずはポジション別に「どのように行動すれば高い成果を出せるのか」を明確にし、その内容に応じてモデルを作成します。その次には、モデルとなる人物の行動を分析して、評価対象となる行動を設定します。設定後は、社内での周知と定期的なメンテナンスを徹底しましょう。

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