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【テンプレート付】内定承諾書の役割は?法的効力や記載事項を解説

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目次

採用選考において、内定を承諾する意思を示す重要な書類が内定承諾書です。企業と採用合格者の双方が、採用の承諾を確認するための書類として使われます。本記事では、内定承諾書の役割や記載すべき項目、法的効力について、社会保険労務士 吉田 崇氏監修のもと詳しく解説します。

内定承諾書とは

内定承諾書は、採用内定者が企業に対して内定を承諾し、入社の意志を表明する書類です。企業によって「内定誓約書」「入社誓約書」「入社承諾書」など、名称は異なることがあります。

一般的な流れとして、企業から採用合格者へ内定通知書と労働条件通知書が送付され、内容を確認したうえで採用内定者が内定承諾書を提出することで、労働契約の予約が成立します。

ただし、正式な労働契約の効力は入社日に発生するため、内定承諾書自体には完全な法的拘束力がないことに注意が必要です。しかし、内定を取り消す場合には、企業には客観的な合理性と社会的相当性が必要とされます(大日本印刷事件、最高裁判決など)。

内定取消が不当と判断された場合、企業が損害賠償を請求されるリスクがあります。一方、内定者が入社を辞退しても企業が損害賠償を請求することは稀ですが、実際に発生した損害については賠償請求の可能性があることに留意が必要です。

内定承諾書を発行する3つの目的

(1)内定の事実を証明するため

企業と採用合格者の間で、最終的な合意を確認するために使用します。採用合格者が内定承諾書に署名することで、企業から提示された条件に同意し入社の意思を固めたことになり、企業との契約が成立します。

また、内定通知の段階で採用合格者の意向を確認し、入社人数を確定させることで、入社準備を進めることができます。

(2)入社の可能性を高めるため

採用合格者にとって、自社が第一希望とは限りません。内定承諾書を提出してもらうことは「就職活動や転職活動を終了し、ほかの企業からの内定を断る」という意味合いを含みます。
合格者の中に「入社しなければならない」という意識が芽生える効果があります。

(3)内定者と認識の相違をなくすため

内定承諾にかかわる重要な情報を書面に残し、承諾書に署名をもらうことで、内定者と認識の相違がないことの証明となります。

以下が内定承諾書のテンプレートです。テンプレートは参考例であり、実際の内定承諾書は業界や職種によって記載される項目は様々です。作成した書類は必要に応じて、社労士など専門家に確認してもらいましょう。

採用内定時に使用されるその他の書類と役割

採用通知書

最終選考を通過した採用合格者に対し、企業が採用の意思を正式に伝えるための書類です。採用合格者がその企業に入社したいかどうかは関係なく、企業側の意向を伝える目的で発行されます。求職者の入社の意思が確認されていないため、採用通知書に法的な拘束力はありません。

内定通知書

企業が、採用合格者に対し、内定が出たことを通知するための書類です。内定通知書と内定承諾書を交わすことで労働契約を締結する効果があるため、法的な拘束力が生じます。書面には「内定となった旨」「入社日」が記載されます。

労働条件通知書

採用合格者に対し、労働条件を明示するための書類です。労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条では、労働契約締結時に書面にて、採用する相手に対し労働条件を明示することを定めているため、労働条件通知書の発行は必須となります。

内定通知書や雇用契約書と兼ねる場合もあり、一般的には内定通知書の送付時に同封されます。入社後の労働条件を再確認したうえで内定承諾するかを決めてもらうことで、ミスマッチによる内定辞退や早期退職を防ぐことにもつながります。

書類名

役割と特徴

採用通知書

・企業が採用の意思を正式に伝えるための書類
・求職者の入社意思に関係なく発行
・法的な拘束力なし

内定通知書

・内定を通知するための書類
・内定承諾書と交わすことで労働契約を締結
・法的な拘束力あり
・「内定となった旨」「入社日」を記載

労働条件通知書

・労働条件を明示するための書類
・労働基準法にもとづく必須書類
・内定通知書や雇用契約書と兼ねる場合あり
・一般的に内定通知書と同封
・ミスマッチによる内定辞退や早期退職防止に寄与

内定承諾書の法的効力

内定承諾書自体に法的拘束力はありませんが、内定通知の時点で、労働条件を通知する「労働条件通知書」が発行されている場合は、内定承諾書の提出によって、双方の合意が成立し、「始期付解約権留保付労働契約」という労働契約(雇用契約)が成立します。

ただし、日本では職業選択の自由が優先され、民法627条では、雇用契約が成立している場合も労働者が14日以上前に告知することで、理由の如何を問わず、労働契約は労働者側から自由に解約できると規定されています。

これは内定辞退にも適用されるため、内定承諾書が提出され雇用契約が成立した場合でも、入社14日前までは内定者が一方的に告知することで辞退ができます。入社14日前を過ぎての辞退は、法的には不可能ではあるものの、現実的に入社後にスピード退職となると企業側も困るため、受け入れるのが一般的です。

内定承諾書に記載すべき事項

内定承諾書の項目・フォーマットは自由です。一般的に以下の項目が記載されることが多いです。

  • 作成年月日
  • 企業名、代表者名
  • 書類のタイトル
  • 内定通知書を受領した年月日
  • 内定承諾書提出後は無断で入社を拒否しない旨
    • (注意)実際には労働者が内定辞退を行う権利を制限することはできません。このような記載は、主に内定者の意思を固める心理的効果を期待したものであり、法的強制力があるわけではありません。
  • 指示された書類は遅滞なく返送する旨
  • 住居変更などがあった場合は連絡する旨
  • 承諾書に記載された事由で内定取り消しになっても不服申立てをしない旨
    • (注意)実際には労働者が不服申立てを行う権利を制限することはできません。このような記載は、主に内定者の意思を固める心理的効果を期待したものであり、法的強制力があるわけではありません。
  • 内定取り消しになる場合の条件(内定取り消し事由)
  • 内定者本人の氏名と捺印欄
  • 保証人の氏名と捺印欄(必要がある場合のみ)
  • 入社日

内定取り消し事由とは

内定承諾書受領後は労働契約が成立していると見なされ、企業からの内定取り消しは解雇にあたるため、基本的には企業からの内定取り消しはできません。

ただし、内定承諾書に記載されている内定取り消し事由が生じた場合には、不合理でない限り内定を取り消すことができます。内定取り消しが認められる事由の例として以下が挙げられます。

  • 重大な経歴詐称
  • 内定後の犯罪行為
  • 健康状態が業務遂行に重大な支障をきたし、合理的配慮を講じても解決が困難な場合
  • 留年
  • 業務に必要な資格を取得していないこと
  • 深刻な経営状況の悪化
  • 反社会的勢力との関係が判明した場合
  • 会社の信用を著しく損なう行為があった場合

具体的な取り消し事由が内定承諾書に明記されていない場合、不当な取り消しとして損害賠償請求の対象となるリスクがあります。

内定承諾書のテンプレート

以下に内定承諾書のテンプレートをご用意しておりますので、ぜひご活用ください。なお、テンプレートはあくまで一般的なものです。自社に合わせて内容を調整してください。

             内定承諾書

20○○年○○月○○日

○○○○株式会社 代表取締役 ○○ ○○ 殿

私は、20○○年○○月○○日付で貴社より採用内定通知書を受領し、内容を十分に理解したうえで、下記の事項を誓約し、貴社への入社を承諾いたします。

1.私は、20○○年○○月○○日に貴社に入社することを承諾いたします。
2.入社までの間、以下の事項を遵守いたします。
 (1) 貴社から指示された書類は、期日までに確実に提出いたします。
 (2) 住所その他の連絡先に変更が生じた場合は、速やかに貴社へ連絡いたします。
 (3) 健康管理に十分留意し、心身ともに良好な状態で入社できるよう努めます。

3.以下の事由に該当する場合、採用内定が取り消されることを承諾いたします。
 (1) 学校を卒業できないとき
 (2) 必要な資格を取得できないとき
 (3) 応募書類の記載内容に重大な虚偽があったとき
 (4) 重大な非行があったとき
 (5) 健康状態が著しく悪化し、業務遂行に重大な支障をきたし、合理的配慮を講じても解決が困難な場合
 (6) 会社の経営状況が著しく悪化したとき
 (7)反社会的勢力との関係が判明した場合
 (8)会社の信用を著しく損なう行為があった場合

4.前項の事由により採用内定が取り消された場合、異議申立てを行わないことを誓約いたします。
5.正当な理由なく入社を辞退した場合、または入社後早期に退職した場合、貴社が被った損害について話し合いの上誠実に対応いたします。


以上の内容に相違ないことを誓約いたします。


                                                                                                20  年  月  日
                                                               住所:       〒   -    
                                                               氏名:                印

内定承諾書の送付から返送・保管までの流れ

ステップ1:企業から採用合格者に内定に関する書類を送付する

採用合格者に対し、内定に関する書類を送付します。面接日から10日以内に送ることが望ましいです。内定通知書、労働条件通知書、内定承諾書、返信用封筒をまとめて送付します。

郵送するのが一般的ですが、2019年4月に労働条件通知書を電子交付することが可能になったため、送付から内定承諾書の回収までをすべてオンラインで行うこともできます。

ステップ2:合格者は書類の内容を確認する

企業から書類が届いたら、内定者は、内定承諾書と労働条件通知書の内容を確認します。内定取り消し事由も必ずチェックしてもらいます。内定承諾書に署名・押印してもらい、郵送、オンラインなどで回収します。

ステップ3:内定承諾書を回収し保管する

内定承諾書が返送されてきたら、記載内容に誤りがないかを確認し、誤りがある場合は速やかに訂正し、再度承諾を得ます。内定承諾書は法的に有効な契約書として扱われるため、後々のトラブルを避けるためにも適切に管理することが重要です。

内定承諾書を作成、回収する際の注意点

内定承諾書を作成・回収する際の注意点。曖昧な表現を避ける、承諾条件・内定取り消し事由を明確に記載、提出期限に配慮する、回収した書類の管理を徹底することに注意が必要です。

曖昧な表現を避ける

内定承諾書には、具体的で明確な表現を使用します。「令和何年何月に卒業できなかった場合」といった具体的な内容を記載することで、後のトラブルを防ぐことができます。

承諾条件・内定取り消し事由を明確に記載する

内定承諾書は、労働契約の一部として扱われます。内容に法的な不備があると、企業側に不利な状況を招く可能性があります。とくに、内定取り消し事由については、後々訴訟などを含めた大きなトラブルにつながり得るため、記載内容に漏れや誤記がないか十分に確認することが重要です。

提出期限に配慮する

内定承諾書の提出期限は、一般的に10日から2週間程度です。合格者にとって今後の人生を決める決断であるうえ、ほかの選考の兼ね合いもあります。企業側としては、なるべく早く回収したい思いがありますが、適切な期限を設定することが大切です。

回収した内定承諾書の管理を徹底する

内定承諾書は、労働契約に関する法的な証拠として使用される可能性があるため、保管・管理を慎重に行う必要があります。書類の紛失などに備え、電子データとしても保管するなど、管理体制を整えておくことが重要です。

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FAQ

  1. Q1. 内定承諾書とは?

    採用選考合格者が企業に対して内定を承諾し、入社することを誓約する書類です。提出により労働契約が成立しますが、法的拘束力はありません。

  2. Q2. 内定承諾書に記載すべき内容は?

    作成年月日、企業名、内定者の氏名、内定通知書受領日、入社の意思表示、内定取り消し事由などを記載します。具体的で明確な表現を使用することが重要です。

  3. Q3. 内定取り消し事由として認められるものは?

    重大な経歴詐称、内定後の犯罪行為、深刻な経営状況の悪化、業務に必要な資格が取得できないことなどが、内定取り消しの正当な事由として認められます。

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