【Next2021】正解なき時代の経営に求められる人事の役割

2021.08.25 ライター: 富士 雅子

2021年6月22〜24日、SmartHR主催イベント「SmartHR Next 2021」を開催しました。テーマは、「正解がないといわれるVUCA時代に、企業はどう変われば企業成長に向けて歩み出せるのか」。そのヒントは人事と経営の関係性にあると考えられます。

本セッションでは、経営学者であり、早稲田大学ビジネススクールの入山教授と、SmartHRの人事責任者を務める薮田の対談を実施。時代の変化による経営判断に求められる人事の役割など、企業成長に必要な思考の軸について議論します。

■スピーカー

入山 章栄さん 早稲田大学大学院経営管理研究科 早稲田大学ビジネススクール 教授

■モデレーター

薮田 孝仁 株式会社SmartHR 執行役員 / VP of Human Resource(人事責任者)

経営層が人事のことを考えない会社は、人事が経営に関わりにくい

薮田:モデレーターの薮田です。SmartHRで人事として、人材マネジメントや採用に関わる部門の責任者をしています。よろしくお願いいたします。このセッションでは、早稲田大学ビジネススクールの入山先生にその知見を伺います。

最初のテーマは、「人事が経営にどう関わればいいか」です。人事は立場上「経営にどこまで入り込んでいいのか」「物事を決める時にどう立ち回ればいいのか」など線引きが難しく、役割がわかりづらい部分がありますよね。

入山さん:人事の立場や組織の大きさでも役割が異なってくるので、一概にはこうあるべきとはいえませんが、いろいろな会社の役員をやってきたなかで、なんとなく見えてきたものがあります。それは、役員会や取締役会などでは、意外なほど人事の話をしないということです。

入山 章栄さん 慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で、主に自動車メーカー・国内外政府機関 への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008 年に米ピッツバーグ大学経営大学院より Ph.D.(博士号)を取得。 同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013 年より早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授。2019 年より現職。専門は経営学。「Strategic Management Journal」など国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。著書は「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)、「世界の経営学者はいま何を考えているのか」(英治出版)「ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学」(日経BP社) 他。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のレギュラーコメンテーターを務めるなど、メディアでも活発な情報発信を行っている。

入山さん:そういった会社は、最終的に人事施策の結果は経営層にあがってきますが、それはプロセスを省いたものなので、途中にある議論や意思決定についての話題はありません。つまり、人事が経営に関わるのが難しい状態は、経営が人事のことを考えなくなってしまうことが要因です。この解決策として一番よい方法は、経営者クラスに人事専門の方や、人事の感覚がある方がいる状態にすることです。

例えば、まだ日が浅いのですが僕は「セプテーニ」という会社の社外取締役をやっています。セプテーニの取締役会には岡島悦子さんという人事に非常に詳しい方がいらっしゃいます。

彼女がいるおかげで常に人事の意識、人材育成の意識が経営層にあります。このように、経営層に働きかけて、人事の問題意識や感覚がある人をちゃんと取締役会に入れ、コミュニケーションを取っていくことが王道だと思います。

ですが、うまくいかない会社もあります。そんな時に僕が伝えたいのは、「ゲリラ人事も一つの手だ」ということです。

人事は、経営層から指示があったものを淡々とこなしてしまいがちで、思うことがあっても自発的に動けなくなってしまう傾向があります。

しかし大手企業などでは、勢いよく経営層に意見したり、経営陣を巻き込んで計画を進めたりするなど、活躍している方が稀にいます。

薮田:具体的な想像ができないのですが、「ゲリラ人事」とはどういったことですか?

入山さん:これは京都のとある会社の人事の方から聞いた話です。ゲリラとは格闘技で例えると寝技のような感じなのですが、つまり普通に稟議を通して……という正攻法ではなく、いかに人間関係を構築して、通らなそうな稟議を通していくか、という方法のことです。

直の上司には稟議を提出せず、隣の上司に相談したりするなど、一見回り道に見える方法が、案外近道だったりするようです。こういったエピソードから感じる人事の一番大変な点は、社内で柔軟な動きが求められるところだと思います。薮田さんも人事のお立場ですが、SmartHRでは実際どのような動きをされているのでしょうか?

SmartHRでは、経営会議に人事も出席

薮田 孝仁 株式会社SmartHR 執行役員 / VP of Human Resource(人事責任者)

薮田:弊社は、コミュニケーションの数をかなり増やしています。下のスライドは、弊社の定例会議の一例ですが、毎週水曜日に経営会議をしています。社員の誰もが参加して、発言することが可能で、人事メンバーもアジェンダによって参加しています。かなり赤裸々に情報をオープンにする場で、何かの起案や疑問点など様々な議論が交わされています。その内容を、通称「SKJ」と呼ばれる全社集会で全社員に話しています。

薮田が参加している会議スケジュールの一部

入山さん:SmartHRは情報の透明性がすごいですね。金曜日にある「モム会議」は何をするのですか?

薮田:この「モム会議」は、経営会議に出すまでもない、ちょっとした疑問や相談などを議案として出して、みんなで揉んで考えるという場になっています。社員であれば誰でも参加可能で、誰でも議案を出せる会議です。

入山さん:これからの時代では人の流動性が高まるため、会社と従業員の信頼関係がかなり重要になってくると思います。そのなかで圧倒的に重要度が高いのが「情報の透明性」だと僕は確信しています。何がどのように決まったかというプロセスや、ボツになった理由をオープンにすることで、従業員側に意思決定の納得感が生まれると考えています。

コロナで変わった「欲しい人材」観

薮田:続いて、経営から人事への期待の変化について伺いたいです。世の中はコロナ禍にありますが、その前と今で期待値は大きく変わっているのでしょうか?

入山さん:私は特にコロナ禍の前と後とで変化は感じません。そこは同じです。薮田さんはいかがですか?

薮田:私は、人事になる前はウェブディレクターといいますか、いわゆる “企画なんでも屋” みたいな現場を担当していました。制作現場を経験してから、人事を10年している立場なので少し特殊かもしれませんが、人事の役割として大切なことは、経営陣やマネージャー、現場の社員がそれぞれ何を欲しているか、どういった課題を感じているかを抽出して解決すること、より現場の声を経営に送ることだと思っています。

入山さん:橋渡しというか、ハブ役になるということですね。

薮田:そうですね、ハブ役だと思っています。

入山さん:経営から人事への期待の変化でいうと、コロナの前からそうなのですが、コロナでさらに加速しているのが「育ててほしい人材、あるいは獲得してほしい人材像」が完全に変わってきていると思います。どのような人材かというと、それは“意思決定をして実行できる人”です。そして、そういう人材は大手企業にはあまり多くない印象です。

薮田:一般的には大手企業は優秀な人材が集まりやすいと思いますが、なぜそのような人材が生まれにくいのでしょうか?

入山さん:たしかに大手企業には優秀な人が入りますが、そういった人は正解があることを実行するのは得意でも、正解のないことに対する意思決定は苦手な傾向にあります。失敗しないように考えて行動するので、危ない橋を渡らない。リスクヘッジが得意だし、誰かの決定を待つ人材になってしまいがちです。自分自身で行う意思決定の数が多いスタートアップやベンチャー企業で働く人と比べると、雲泥の差といえるでしょう。

薮田:すごくよくわかります。人材成長のキーは、意思決定の数だと思うんですよね。

入山さん:僕もまったくその通りだと思います。

意思決定ができる人材を育てるには、失敗してもいいから打席に立つことが大切ですが、なかなか簡単ではないです。僕はビジネススクールの教員ですが、「ビジネススクールでは多くの知識を得られますが、唯一、意思決定人材だけは育てられません」と言っています。意思決定ができるのは、意思決定し続けている人だけです。こういった人材が少ないことは、大手企業や伝統企業の経営者の悩みでもあります。

薮田:経営者にとって、意思決定を委譲できない辛さもあると思います。意思決定を委譲できないのには、大きく2つの理由があると僕は考えています。

1つは「失敗したくない」。もう1つは「意思決定自体が実は楽しいことなので、それを人に譲りたくない」。そんな気持ちもあるのではないでしょうか。勇気を出していろいろなメンバーに意思決定してもらうようにすると、自分の後継者も見つかります。ですので、失敗してもいい、自分がおもしろくなくてもいい、と腹をくくって意思決定を渡していくことは重要だと思います。

入山さん:僕がリスペクトしている人事の方いわく、失敗した時の一番の障壁が「恥ずかしい」という感情だそうです。その恥ずかしさをうまく取り除く手伝いをすることも、次の失敗や挑戦を恐れない良い人材が残ってくれる大切なプロセスです。

VUCA時代に大切なのは、撤退ライン、ビジョン・バリュー、心理的安全性

薮田:次のテーマは、「VUCA時代、経営・人事判断が難しいといわれていることがあります。どうしていけばよいか?」です。VUCA時代と称される昨今、世の中の情勢が不安定で、判断を下すことが難しくなっています。

SmartHRでは一度決めたことを2ヶ月後に社内で見直し、コミュニケーションする期間を設けています。人事の役割として社員の声を拾うため、サーベイをかなり活用しています。

実際に社内から出た反応を経営陣や各部署のマネージャーと確認し、意思決定とのギャップはないか確認しています。経営層の声や会社の空気感などがテレワークでより見えづらくなっていますので、そういった情報をどんどん開示するハブの役割が人事には求められているのかなと思います。

入山さん:素晴らしいですね。SmartHRという会社でどういう未来を作っていきたいのか、どう世の中に貢献していきたいのか、そういった目線が人事と従業員で揃っていると思いました。こういった目線が揃っていることが全てだといっても過言ではなくて、揃っているその先に向かって一緒にやっていこう、と団結することがすごく重要ではないかと考えています。

薮田:まさに弊社では、価値観を合わせて決めることが大事だと考えています。

入山さん:「一緒にどういう未来を作りたいのか」という価値観を合わせる時に大切な軸が2つあると最近感じています。それは「ビジョン」と「バリュー」です。

「ビジョン」は、こういう世界を作りたいという未来。「バリュー」は、会社や組織で大事にしたい価値観や価値基準や行動規範のようなもの。例えば、「いい感じに働きたい」とか「笑顔でいたい」など、なんでも大丈夫です。もう少し詳しくいうと、「ビジョン」は動詞、「バリュー」は形容詞と考えています。

大手企業は両方必要なんですよね。スタートアップかつトップダウンの会社は、おそらくビジョン型です。テスラなどもそのような会社ですよね。

要するに、イーロン・マスクが「俺は世界を救いたい」という想いでやっていて、それに共感した人がやってくる。しかし、バリューがあるかというと……。

薮田:たしかにテスラさんのバリューが何かパッと思い浮かぶかというと、そうではないかもしれないですね。

入山さん:強いビジョンに共鳴して人が集まる会社、というものは想像しやすいですが、これからの時代は「バリューだけある」という会社も出てくると思います。明確に会社の目標は無いけれど、こういう風に働いていきたい、こういう仲間が欲しい、といった感じの会社は、特に今の若い世代に受け入れられそうです。

薮田:企業を成長させていくためにはビジョン型が適していそうですが、働き方重視ならバリュー型があっていそうですね。しかし、ビジョンとバリューのバランスは難しいですね。バリューを重視し過ぎると、事業がどうなるかわからないところもあると思います。

入山さん:僕はバリューを明示して浸透させることは大切だと思っています。トップを含めてみんなで行動する。そうすると会社に組織文化が形成されていきます。若い世代の人たちや、スタートアップ企業はバリューを大事にしているところが多くなってきましたが、伝統企業や大手・中堅企業はバリューが浸透していないケースが多いです。

そして、VUCA時代に人事決定をする上でもう一つ大切なのが「心理的安全性」です。人と異なる多様な意見を言えたり、ネガティブな情報を共有できるような環境がないと、チャレンジ自体が難しくなってしまいます。

これからの人事の分野も含めて、心理的安全性を高めるために重要なのが「管理職」にあると思います。管理職の在り方が変わらない限り、VUCA時代は乗り越えられません。僕は「管理職に管理はもう不要」と考えています

薮田:管理職なのに管理が不要とはどういうことですか?

入山さん:管理は今後テクノロジーがやってくれるので、管理職は人間としてファシリテーターになることが重要です。僕だけでなく、数多くの大手企業の人事の方も同じことを言っていて、非常に注目されている考えです。

多様な意見を受け止めつつもみんなから意見を引き出すために、まずは手放しで傾聴する。傾聴というとただ聞くだけと思われがちですが、今まで実践していないことなので、トレーニングが必要です。

薮田:弊社もはじめてマネジメントをするかた向けに1on1の講習いれています。その際に、「相手の沈黙の時間は大切にする」という話はしています。メンバーが思考をまとめていたり、緊張していたりする場合もありますよね。黙っている状況が苦しくなってマネージャーが話してしまうのではなく、考える時間を持ってもらうなど、相手に話してもらえるにすることを大切にしたいと思っています。

まとめ

薮田:今回のテーマに対する今後のヒントとしては、判断の価値基準を経営人事でまずすり合わせて、その後社員も納得できるような形ですり合わせる。さらに細かいところはみんなで話し合いながら、いろいろな声も拾いながら一緒に決める、ということが大切ではないかと感じました。

入山さん:そうですね。そして加えていえば、情報の透明性と心理的安全性が大切です。そういった考え方がさらに浸透するとといいなと考えています。

薮田:それではお時間となりましたので、今回のセッションは以上で終了させていただきます。入山先生ありがとうございました。

入山さん:ありがとうございました。

SmartHR Mag.編集部員。専門家メディアの編集者、人事労務系SaaSのマーケティング担当などを経て、2021年SmartHRに入社。オウンドメディア、ebook、動画など広くコンテンツ制作に携わる。三度の飯よりゲーム好き。
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