【Next2021】人事DXに向けたデータ活用の最前線と今日から取り組む第一歩

2021.07.30 ライター: 富士 雅子

2021年6月22〜24日、SmartHR主催イベント「SmartHR Next 2021」を開催しました。テーマは「人材マネジメントが創る、VUCA時代の経営」。本セッション「人事DXに向けたデータ活用の最前線と今日から取り組む第一歩」では、1on1支援ツールを提供する株式会社シンギュレイト代表 鹿内さん、ソニーグループの人材活用に従事するソニーピープルソリューションズ株式会社 丸吉さんにご登壇いただきました。

働き方の多様化、時代背景も相まって、事業変化のスピードも加速しています。それに伴い、企業におけるデータ活用の重要性も大きく高まっています。このセッションでは、VUCA時代とされる近年でも、社会を巻き込んだイノベーションを実現するために、何が必要で何から着手すれば良いのか、解決の糸口を探ります。

■スピーカー

鹿内 学さん 株式会社シンギュレイト 代表取締役

丸吉 香織さん ソニーピープルソリューションズ株式会社

■モデレーター

佐々木 昂太 株式会社SmartHR プロダクトマーケティングマネージャー

人事データ活用の可能性とは

佐々木:このセッションのモデレーターを務めます、SmartHRの佐々木と申します。本日は鹿内さん、丸吉さんのお二人から「人事データの活用の可能性」について色々とお伺いします。

日本企業における人事データ活用の必要性は、大きく3つに分類され、人材の多様化、働き方の多様化、事業変化です。また、その変化のスピードも加速している時代背景があります。

人事データ活用の領域は、求職から入社、配属、就労、退職まで従業員のライフサイクルによって多岐にわたります。これらの前提のもと、本日は鹿内さん、丸吉さんのお二人から「人事データの活用の可能性」について色々とお伺いします。

鹿内さん:イノベーションというと少し固く考えがちですが、シュンペーターが5つイノベーションを提唱しているので、それをご紹介したいと思います。

鹿内さん

鹿内 学さん 株式会社シンギュレイト 代表取締役。 奈良先端科学技術大学院大学で博士号の学位を取得し、京都大学などの基礎研究機関で教員・研究員として認知神経科学の研究に従事。2015年よりビジネスサイドに軸足をうつす。株式会社シンギュレイトでは、「信頼」の理論をイノベーションの土台に考え、働く人たちのコミュニケーション・データのピープルアナリティクスを手がける。2021年に1on1を通じたイノベーション支援ツール「Ando-san」もリリース。

あらゆる部署でイノベーションが求められる

あらゆる部署で求められるイノベーション説明図

鹿内さん:「イノベーション」と聞いて皆さんが最初に想像するのは、研究開発や新規事業が担うようなスライド左上の新しい財貨(製品)の生産だと思います。今回は、それ以外にもあらゆる部署でイノベーションが必要だということを紹介します。

まず、左下の新しい生産方式の導入です。「プロセス・イノベーション」と呼ばれることが多いですが、これは製造だけではなくて、どのような部署にもプロセスはありますから、あらゆる部署で改善していく必要があります。そのほかにも、新しい販路の開拓、サプライチェーン、人事の場面でも、異なるイノベーションが必要です。

ピープルアナリティクスの必要性

「みえる・わかる・できる・かわる」というサイクルについて

鹿内さん:これは「みえる・わかる・できる・かわる」というサイクルです。新城健一さんが、データビジネスにはこういうサイクルがあるのではないか、と提唱しています。

「みえる・わかる」の領域が、今日の中心の話題であるピープルアナリティクスです。これを試行錯誤しながらも先進的にやっていくことが、企業の競争優位を作ると考えています。

一方で「できる」「かわる」の領域は、SmartHRさんのようなHRテクノロジーを導入すれば、簡単に行えます。なので、これが競争優位になるかというとそうではなくて、やらなければならないわけです。競争劣位を防ぐようなことかと思います。

ピープルアナリティクスで競争優位をつくる行動データについて

鹿内さん:こちらはピープルアナリティクスで使うデータです。左側が1ヶ月や1年以上に1回というような、あまり頻度が高くない計測データです。右側に計測頻度が高いものを出しています。縦軸でいうと、下が自己申告で、上が行動データです。

皆さんに馴染みがあるのが、左下だと思います。組織サーベイやアンケートもここに入ります。その他にも、データとして捉えるかどうかはわかりませんが、組織図も実は使おうと思えば使えます。

次に、真ん中の半円は、この4象限には入らないもので、他者からの評価や360度評価などもここに含まれます。さらに右上は、僕らが大事だと思っている社内のコミュニケーション、1on1や会議でのデータです。

右上は、僕らシンギュレイトもこだわっている行動データです。今だとリモートワークで、チャットツールを導入している会社も多いと思いますが、その利用データは、実はピープルアナリティクスに活用できるんです。

右上は馴染みがないと思うので、当社のサービスを例に紹介していきます。ごく簡単にですが、僕らは1on1のサービスで、「Ando-san」というサービスを提供しています。

Ando-sanで1on1を可視化

Ando-sanのAndo-sanの図

鹿内さん:Chromeのウェブブラウザで、1on1のときにテレビ会議システムと一緒に開き、ボタンを2~3クリックすると、1on1の「話し方」を計測できるというものです。1on1が終わった頃に、「話し方」をフィードバックします。ディスカッションや、コーチングなどの面談モードの比率を見ることもできます。

これは本人にも共有しますし、社員の同意を得て人事が使えるようにもしています。マネージャーからのティーチングが多いようであれば、人事は「まだメンバーが自律的に働けていないかもしれない」と判断できるなど、組織のためにも使えるようなデータ設計になっています。

イノベーションのためには信頼、任せるのがキーワード

社会を巻き込んだイノベーションを実現するための説明図

鹿内さん:最近では、「心理的安全性」が注目されています。そこで伝えたいのは、他の人の反応に怯えることなく、自分の思ったことを言えるような組織風土にしましょうということ。逆にいうと、他の人が思ったように言ったことも受け入れる、ということでもあります。組織の中で、ハードルを低くしてつまづかないようにできる。

ただ、心理的安全性を組織のなかで整えたとしても、イノベーションは社会の中で取り組んでいくことです。その点では、社会は統制が取れる組織の中ではないので、ハードルを低くすることはできません。ハードルが高いままです。そんなときに必要なのが「信頼」だと僕らは考えています。

不確かな社会で新しい関係をつくる信頼について

鹿内さん:社会の不確実性が高くなると、信頼する力が低い人ほど、不安から既存の相手と取引をすることが多く、機会損失がすごく大きくなってしまいます。一方で、信頼する力が高い人は、不確実性が高いなかでも、新規の関係を構築する割合が高く、機会損失が低くなります。

人事データを扱うときに大切な信頼関係

佐々木:競争優位性を作っていく行動データという観点で、従業員アンケートや評価はイメージしやすいデータだと思うのですが、その一方で「社内のコミュニケーションデータ」という新しいデータをどう扱っていくかというのは大きなテーマだと思います。

ここで丸吉さんに伺います。今「PIE Lab」で取り組んでいるなかで、このようなデータを扱ううえで重要なポイントはどういったことが挙げられますか?

データを扱ううえでまさに信頼が大事

ピープルアナリティクスで競争優位をつくる行動データについて

丸吉さん:この中にはPIE Labで利用していないデータも含まれていますが、一般的に、組織内のデータを扱ううえで、まさに先ほどお話いただいた「信頼」がすごく大事になると思っています。特に4象限になっているところの、右上の社内のコミュニケーションデータや行動データは、よりプライバシーを気にする方もいらっしゃるでしょう。本当に信頼関係がきちんとあるうえでないと、活用は難しいと思います。

丸吉さん

丸吉 香織さん ソニーピープルソリューションズ株式会社 People Intelligence and Experience Lab。 IT企業での人事企画、People Analytics Labの立ち上げを経て、2020年5月より現職。人事関連の分析や可視化、組織内分析用データベースの構築、それら活用のためのトレーニングを提供。また、2019年より一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会上席研究員に就任。同年、people analytics tokyoを主催し、組織内の人に関する分析のナレッジ共有やコミュニティ作りを行う。

丸吉さん:そのために、活用の仕方も、例えば「人事が把握したい」「経営側が何か見たい」ではなくて、ちゃんと社員の日々の行動に役立てる必要があります。それも信頼感の醸成にも重なりますが、利用目的が双方にとって有益なものでないとなかなか活用できないと思います。

佐々木:プライバシーの配慮や信頼性というキーワードがありました。鹿内さんに伺いたいのですが、コンサルティングや「Ando-san」のサービスを展開されるなかで、データの扱いやプライバシーの配慮においては、何がポイントになるとお考えですか?

データ取得には同意を取る

鹿内さん:「Ando-san」のサービスでいうと、1on1の会話データを取っていますが、会話の内容は分析しないようにしています。データが上がってすぐに、機械が自動的に会話の内容を削除します。ですので、自然言語処理のようなことはしておらず、「パラ言語」といわれる音量や会話の内容に関わらない言語周りの「話し方」のデータを分析しています。

ただ、それでも少し不気味だなと思う人たちもいると思うので、僕らは基本的に、社員の方からも同意を取るようなスキームを提供していて、同意をしてくれる方のデータを人事に還元するようにしています。人事と社員の間に立つような仕組みです。

人事データ活用は何から着手すべきか

佐々木:次に、「人事データ活用は何から着手するべきか?」というテーマで、ソニーピープルソリューションズさんの事例を紹介いただきます。丸吉さん、よろしくお願いいたします。

PIE Labの取り組み

PIE Labの取り組み

丸吉さん:「PIE Lab」では大きく4つのことに取り組んでいます。まず1つ目が顧客開発です。ここでいう顧客は、人事の現場のHRBP(HR Business Partner)や、その先にいる社員です。顧客開発といっても幅広く、具体的な施策になる前に、カジュアルな相談から、そもそもデータを使った意思決定はどういう順序でやるべきか、という簡単なレクチャーやトレーニングを提供しています。

顧客開発〜可視化〜分析環境構築

Developmentの事例図

丸吉さん:例えば個に最適化された学習体験を作りたい」ときは、データで学習を支える必要があり、「データで付加価値を出すためにはどういうアクションのサイクルを作ればいいのか」など、コンセプト作りの段階から企画を手伝うこともあります。

可視化しつつ可視化できる人を増やす

ビジュアライゼーションの事例

丸吉さん:データを実際に可視化する「ビジュアライゼーション」に関しては、人事組織内に可視化できる人をどんどん増やしていく活動をしています。最近、データの民主化という言葉がよく使われていますが、みんなが可視化できるような世界を目指して、環境作りをしています。

ピープルアナリティクスの流れ

ピープルアナリティクスの事例

丸吉さん:実際の分析案件になった場合、いきなり高度なデータ分析をやっているかというと、そうではありません。まず課題や要望を丁寧にヒアリングします。

そのなかで、ピープルアナリティクスで価値を出せる案件に絞り、実際の分析に着手します。そして、そこから見えた一部がアクションにつながるような流れです。

人事データドリブンのための文化

人事をデータドリブンにするために

丸吉さん:スライド左側に「幻想」と書いていますが、一般的に、人事の組織や施策をデータドリブンにする際に、このような要望をよく耳にします。例えば、「従業員のアンケートがあるから分析してよ」「何か面白いものが出てきたら教えてよ」「(データありき、分析手法ありきで)AI使ってよ」など。

でも実際は、「こういうことを実現したい」という方針が先にあって、方針を進めるためのアクションがあります。それをデータで効果測定して、最初の仮説が違ったから今度は方針を修正する。そして、こんなアクションを取っていこう、というサイクルを回していくことを念頭に置いて取り組んでいます。

信頼に基づく社会・企業の設計

信頼に基づく社会・企業の設計

佐々木:「信頼に基づく社会」、というお話もありましたが、鹿内さんはこの辺りの社員データの設計について、どのようにお考えでしょうか?

鹿内さん:最初に、組織が目指すべき企業としての信頼というお話をしました。信頼で大事なのが、まずは「価値の共有」です。データをどう使うのかという価値観の共有ができていること。

2つ目が「公正さ」です。これは簡単にいうと、社員自ら自己開示していくという作業が大事だと思っています。同じことをするにも、逆の運用方法が中央監視です。特定の人だけが監視的にデータを見たり、データを取得することになると、これは一種の人質を取っているようなもので、信頼の余地がなくなります。信頼することは簡単でなく、コストもかかり実現が難しいですが、目指していくべきだと思います。

ピープルアナリティクスの進め方

佐々木:少し話を戻しまして、ピープルアナリティクスの事例についても少し伺いたいと思います。丸吉さんに伺いたいのは、最初の課題や要望抽出をしたときに、どういったディスカッション、分析をされたのでしょうか?

丸吉さん:これは実際に現場の担当人事や、最後に施策をする人、つまりアクションを取れる人が主体となってディスカッションしました。

分析を通して最後のアクションにつながりそうという軸が見つかったら、それを定型レポート化し、継続的な可視化につなげていきます。さらに、色々な課題探索とデータ探索、またどの軸でデータを見るとどのアクションに結び付いていくのか、といった探索をやっています。

どのように方針を決めていくか

人事をデータドリブンにするために

佐々木:こちらの図表にある「方針を決める」というのも難しいところではないでしょうか?「PIE Lab」やソニーグループでは、この辺りはどういったアプローチで方針を決めているのですか?

丸吉さん:方針を持っているチームが今の組織では多いと思います。これを実現したいから、こういう価値を返したいから……という理想の状態や想いが先に来る場合が多いです。逆にいうと、「データがあるからよろしく」というケースはあまりないかなと思います。

鹿内さん:データで、理想のサイクルが回らないところもたくさんあると思います。まずはデータを見せて、「こういうものが見えますよ、何をやりたいですか」というヒアリングから始まる企業も多いかもしれないですね。

まとめ

佐々木:では、最後にお二人から、視聴者の皆様へまとめのメッセージをお願いします。それでは、丸吉さんからよろしくお願いいたします。

丸吉さん:「ピープルアナリティクス」や「データ活用」とだけを聞くと、手法が先行してしまい、何から手を付けたらいいかわからないという企業さんが多いかと思います。あまり難しく考えず、まずは手を付けやすいことから小さく始めてみることをお勧めします。もちろん、私自身もまだまだ勉強中なので、色々な試行錯誤は共有しながら頑張っていきたいと思います。ご一緒にピープルアナリティクス、データ活用を盛り上げていけたら幸いです。

鹿内さん:まだまだこれから始めるという企業さんも多いと思います。信頼というキーワードを出していますが、色々な人をまずは信頼してみてやってみるというところは、すごく大事かなと思います。オープンイノベーションでやるというのもそうです。企業の連携というだけでなく、みんなでコミュニティを作って、議論できて進めていくことが大切だと思っています。ぜひデータ分析で戦略人事を進めていただきたいです。

佐々木:このセッションを通じて、皆様に人事データ活用の次のアクションになるヒントが見つかれば幸いでございます。本日はありがとうございました。

SmartHR Mag.編集部員。専門家メディアの編集者、人事労務系SaaSのマーケティング担当などを経て、2021年SmartHRに入社。オウンドメディア、ebook、動画など広くコンテンツ制作に携わる。三度の飯よりゲーム好き。
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