なぜ今「人材マネジメント」が日本企業にとって重要なのか
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株式会社SmartHRでプロダクトマーケティングマネージャーを務めている重松です。この度、多くの企業に「人材マネジメント」の概念を理解し実践いただきたいという想いから、『初心者がゼロから始める”人材マネジメント”』という連載をスタートいたしました。「人材マネジメントの基本を知りたい」という方はぜひご覧いただけるとうれしいです。
継続的な事業成長の実現には、個人と組織の強化が大切です。しかし、「個人と組織の強化のために何をしたらいいのだろう」とお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、事業成長のための「人材マネジメント」についてを、その定義や必要性といった観点から、具体的な取り組みまでを解説します。
なぜ今人材マネジメントが必要なのか
まず社会的な背景として、日本の労働力人口が減り続けていることはご存知の方も多いのではと思います。
それにより採用はますます難しくなっていますし、従業員の離職を防ぎ、活躍し続けてもらうことの重要性が増しています。
下図は働き方改革の実態調査ですが、従業員満足度の向上や人材獲得が重要であると考える企業が非常に多くあることがわかります。
人材獲得競争に勝つためには「働きたいと思う環境の整備」「選ばれる組織づくり」がますます重要となってきます。
このため、従業員のエンゲージメントが注目されていたり、評価制度や報酬制度の見直しを検討する企業が増えていたりしますが、これらは「人材マネジメント」という考え方に内包されています。
自社の課題を解決したいとき、場当たり的な対応になってしまわないためにも、まずは人材マネジメントの全体像を理解することが大事です。
「人材マネジメント」とはなにか
まず「人材マネジメントの定義」についてご紹介します。
「人材マネジメント」はどこから来たのか
「人材マネジメント」とは、アメリカで発祥した“Human Resource Management”の日本語訳からその名称がついています。
日米貿易摩擦に代表される1950〜60年代、アメリカでは労務管理に重点を置いていた管理体制が一般的でしたが、経済の劣勢をきっかけに、マネジメントの手法から変えていく必要があると考えられるようになり、“Human Resource Management”の発祥に至りました。
須田敏子さんの著書『HRMマスターコース 人材スペシャリスト養成講座』によると、「労務管理」は統制を重視するのに対し、「人材マネジメント」は人材を活かすことを重視しています。
人材マネジメントの定義
ミシガン大学のデイブ・ウルリッチ教授は著書『Human Resources Champions」』で、人材マネジメントの4つの提供価値を下記のように提唱しました。
- 戦略を達成する
- 生産性の高い組織の仕組みを築く
- 従業員のコミットメントとコンピテンシーを向上させる
- 組織の変革を実現する
また、学習院大学 守島 基博 教授は著書『人材マネジメント入門』において、人材マネジメントの目的を「人材を活用して、会社の戦略を達成し、さらに次の戦略を生み出す人材を提供すること」と定義しています。
いずれの定義においても人材マネジメントは、「企業の理念・経営目標を達成するために、人材を活用する人事戦略」だといえます。
人材マネジメントを構成する要素
ここまで人材マネジメントの起こりや定義を見てきました。では、人材マネジメントとは具体的にどういった要素を持つのでしょうか。
人材マネジメントの要素は、
- 「基幹人事制度」と呼ばれる制度設計
- 人事評価
- 報酬
- 等級
- 人材が入社してから退職するまでの一連のプロセス
- 採用、育成(人材開発)
- 人事評価
- 配置・異動、退職(代謝)
- 組織の効果性を高める組織開発
これらの幅広い領域をカバーしています。
これらの要素を把握したうえで、一貫した制度・施策に落とし込む必要があります。施策を効果的に実行し、人材を効果的に活用することで、会社の目標達成を目指すのが重要です。
人材マネジメントの具体的な施策例
人材マネジメントは、「会社の戦略を達成するために、人を活かし組織を変える」というものですが、従業員一人ひとりのパフォーマンスを向上させるにはさまざまな取組みが考えられます。
上記の図に沿うと、自社にふさわしい人材を採用し、採用した人を適切に配置し、人材開発を通して成長を促し、公平に人事評価をし、従業員の定着率を上げ、結果として高いパフォーマンスを発揮させる状況をつくる、ということが人材マネジメントの目的となります。
具体的には、以下のような取組みを実践している企業があります。
- ミッション・ビジョン・バリューを制定し浸透を促す
- 公平な評価とフィードバックにより成長を促す
- 従業員が一番能力を発揮できる部署に配置する
- 新しい戦略を構築できる人材を獲得するため、次期リーダーを育てる
- 長期的なキャリア開発の支援により働きがいを向上する
人材マネジメントの推進における重要な2つのポイント
実際に人材マネジメントを始めようと思ったとき、どのような手順で始めるのが良いのでしょうか。
一つ目に重要なのは、経営層と人材マネジメントの考え方の認識を揃えることです。
多くの企業で、経営層との認識をすり合わせないまま人材マネジメントに取り組もうとして頓挫する、といったことが起こっています。人材マネジメントは、会社のミッション・ビジョン・バリューや中長期の経営戦略との整合性がとれていることが重要です。
そのためにも、ミッション・ビジョン・バリューや経営戦略をしっかり理解した上で、人や組織を動かす基本思想となる「人事ポリシー」を制定し、それに基づいて人材マネジメントの各施策に落とし込まなければなりません。
「人事ポリシー」とは会社の「人」に対する考え方を表したもので、人事制度を設計する上での大方針となるものです。
「人事ポリシー」は人事だけで決めることはできません。経営層と対話しながら、認識に齟齬が生まれないように策定していき、それから人材マネジメントに反映していくことをオススメします。
二つ目に重要なのは、「どの課題を解決したいか」を明確に決めることです。
いざ人材マネジメントに取り組もうとしても、人材マネジメントの要素すべてを一度に実行するのは難しいでしょう。企業によって、配置や異動を必要しないケースや、定着率に課題を抱えていないケースなどもあるため、自社の課題を特定することが重要です。
課題を特定せずに「人材マネジメント」や「タレントマネジメント」がやりたいからといって、いきなりシステムを導入しても、多様な機能をうまくつかいこなすことができず、結局活用できないといった可能性もあります。
- 今いる従業員のパフォーマンスを最大化するためにはどうするべきか?
- 人事評価を効果的に運用し、公平な評価を実現するにはどうするべきか?
など、取り組むべき課題の設定をした上で取り組むのが良いでしょう。
組織課題を特定し、施策を推進するステップ
人材マネジメントに取り組む前に以下のようなステップを踏むことで、課題を特定し、施策の方向性を検討することが大切です。
- 従業員サーベイなどを実施し、従業員の考えを聴取する
- 人事部や経営層の想いと従業員の想いを照らし合わせ、課題を特定する
- 課題に対する制度や施策を設計し、実行する
人事部や経営層が重要視しているポイントについて、従業員へ意見を聞きながら進めていくと、従業員との期待値をすりあわせながら検討を進められます。
例えば、「評価制度がうまく機能していない可能性がある」と人事部や経営層が考えていたとしても、実際にサーベイを取ってみると、たしかに評価制度への納得感は高くないものの、思ったより問題視されていない、といったことが見えてくることもあります。
きちんと従業員の認識を把握することで、焦って制度を定めずに、時間をかけてじっくり制度を検討する、といった選択肢が出てくるとこともありえます。
人材マネジメントの第一歩は「データ整備」から
人材マネジメントは人事評価、採用、研修、人事制度など取り組む範囲が幅広く、「取り組みたいが中途半端な状態で終わってしまう」といった課題が発生しやすいです。その理由の一つが「人事データ」にあります。
人材マネジメントの推進においては、人事データが非常に重要なカギを握っています。
例えば、異動を検討する際、業務経験やキャリアの希望、過去の評価結果や性格特性などのデータが必要になります。人材マネジメントを始めるには、まず従業員に関するデータをきちんと整備し、活用できる状態にしなければならないのです。
人事データがうまく活用されない主な理由は、データが「ばらばら」で、「ぐちゃぐちゃ」で、「まちまち」に存在しているためと言われています。
- 「ばらばら」
- あるデータはExcel、あるデータは紙で保存されている
- 「ぐちゃぐちゃ」
- データはあるが、手入力によるミスがあったり表記ルールの統一がされていない
- 「まちまち」
- データの取得方法やタイミングがまちまちで、データの連続性がない
このような状態を、人事データの三大疾病として例えられています。人事データの整備は、人材マネジメントの第一歩として非常に重要な作業となるのです。
おわりに
本記事では人材マネジメントの考え方や推進方法を中心にご紹介しました。
あくまで概論となり、即効性のあるものではないですが、まず概念を体系的に理解することで、全体観を掴んでいただけましたら幸いです。
続く連載記事では、人材マネジメントの各要素についてより詳細にご紹介していきます。