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人的資本経営を成功に導く「KGIモニタリング」3つのポイント。HRBPの重要性も解説

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経済産業省主催の人的資本経営コンソーシアムが2022年8月25日に発足し、経営理論の枠を超えた人的資本経営実践への関心がますます高まっています。2023年は、日本における「人的資本経営元年」といった様相を呈しています。

本連載では、人的資本経営を成功させるためのキーファクターを3回に分けて解説。前回は人的資本経営の根幹である「事業と連動した人材マテリアリティ・KGI設定・人材戦略策定」を紹介しました。

第2回目は、人的資本経営の進捗把握に不可欠な「モニタリングの仕組みとHRBPの役割」について説明します。

そのKGI、しっかり進捗把握できていますか?

人的資本経営におけるKGI(Key Goal Indicator=経営目標達成指標)とは、「人材マテリアリティ(重要課題)が解消された状態」を指します。前回で解説した「自社ならではの人的資本経営ストーリーを遂行」するためには、設定したKGIの計画どおりの進捗と達成が不可欠です。

各社の統合報告書を見渡すと、2030年や2050年に向けた人的資本におけるKGI(目標値)を開示する企業もあるようです。しかし、単なるスローガンではなく、本気でKGIを達成するためには、KGIの進捗を正しく把握し、必要な施策の恒常的実施が必要です。

KGIの正しい進捗把握には、以下の3つのポイントが重要です。

KGI進捗把握のポイント(1):正しいKGIの定義づけ

正しいKGIの定義は、人材マテリアリティ(重要課題)が解消された状態を正しく反映していることが前提です。たとえば、「重点事業領域人材充足率」をKGIとする場合、計算式は以下のとおりとなります。

  • 重点事業領域人材充足率=(現在の人材数)÷(必要な人材数)×100(%)

この計算式の分母と分子が人材マテリアリティ(重要課題)や、事業戦略と整合していなければいけません。また、KPIとして定義すべき観点の例は以下となります。

対象事業の範囲

事業戦略では、複数の重点事業領域を設定するケースが多いため、具体的にどの事業を対象とするのかを検討します。領域ごとの人員計画がすべて完了していない場合でも、計画できている領域から順にKGIを設定していきます。

対象会社の範囲

「本社だけが対象」か、「国内・海外グループ会社も含む」かなど、対象会社範囲の決定が必要です。また、対象事業に関わる範囲が国内・海外グループも含まれる場合は、KGIの範囲も同様となります。

必要な人材数(分母)の算出担当

上記の範囲における必要人員数は、誰が(どの部署が)算出するのかを決定しましょう。

現在の人員数(分子)の算出方法

現在、当該領域に従事している従業員のみをカウントするのか、もしくは当該領域で必要となるスキル保有者のすべてをカウントするのかなど、算出の定義も決める必要があります。

KGI進捗把握のポイント(2):関連するKPIの設定

KGIを設定しただけでは、計画未達時の原因分析や達成に向けたアクションを定量的に検討できません。データにもとづいた意思決定には、KGI達成に向けた施策と、施策の達成度を表すKPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)までブレイクダウンします。

たとえば、上記の「重点事業領域人材充足率」をKGIとした場合、関連施策とKPIには下記が挙げられます。

関連施策
KPI

重点スキル保有者の採用強化

重点スキル保有者採用数

重点スキル研修の展開

重点スキル研修修了者数

重点領域における社内公募の促進

重点領域の社内公募成立数

このようにKPIを設定すれば、KGIである人材充足の進捗が遅れている場合に、KPIまで掘り下げた分析が可能です。

また、「採用」「育成」「社内の人材流動性」など、遅れている原因をデータにもとづき判断し、適切な打ち手を検討できます。

KGI進捗把握のポイント(3):計測する仕組みの整備

正しくKGIとKPIを設定したのちに、恒常的なPDCA実現に向けた計測の仕組みを整備します。

モニタリングの仕組みとして整備すべき項目は下記の3つです。

(1)モニタリングプロセスの設計

モニタリングのプロセスは、

  • 人事戦略の策定とKGI・KPIの設定
  • 目標値の設定
  • 進捗把握・ギャップ発生時の対応策検討
  • 次サイクルの戦略反映

からなります。上記4つについて、プロセス詳細実行の主体を整理します。

(2)会議体の検討

全社指標として扱われるKGIのモニタリングは、経営会議や取締役会が主な会議体となります。しかし、その他のKGIやKPIは、新しい会議体での管理がよいでしょう。

たとえば、CHROをオーナーとして、人事部門と関連部署で構成される人的資本経営委員会を設立し、KGI・KPIの進捗状況とPDCAの実施内容を議論します。このなかでモニタリングを進めます。

(3)データ収集体制の構築

グローバルで事業展開する企業であれば、各拠点からの人事データを定期的に収集する体制整備が必要です。

とくに、人事データがシステムで一元管理されていない場合は、都度データを収集するためにも、データごとの担当者と窓口を明確にします。

人的資本経営ストーリー(人材マテリアリティ・KGI・KPI)の例

人的資本経営ストーリー(人材マテリアリティ・KGI・KPI)の例

HRBPの活躍がモニタリングの成功を左右する

人的資本経営モニタリングの各プロセスで、事業と連携したPDCAが不可欠です。そのためには、事業を深く理解し、現場での施策実行を推進するHRBPの役割が重要になります。

※HRBP:Human Resource Business Partner。戦略人事のプロフェッショナル。

人的資本経営モニタリングプロセスとHRBPの主な役割

人的資本経営モニタリングプロセスとHRBPの主な役割

役割(1):人事戦略の策定とKGI・KPI目標値の設定

事業と連動した人事戦略やKGI・KPIの設定には、事業戦略から導出される将来の事業ポートフォリオの深い理解が欠かせません。将来の事業ポートフォリオから人材要件を導き出し、人事戦略への反映とKGI・KPI目標値に落とし込みます。

役割(2):施策の推進・進捗把握

HRBPの役割は、設計した人事戦略や施策を現場の事業部へ浸透させることです。また、事業部ごとの施策の進捗状況を取りまとめます。

役割(3):ギャップ発生時の原因分析・対応策検討

KGI・KPIの計画と実績にギャップが発生している場合、事業部内の原因を特定し、本社人事へフィードバックします。また、課題解決の対応策を本社と共同で検討し、実行を推進します。

モニタリング基盤の整備でデータドリブンな意思決定が可能に

モニタリングプロセスの実行には、データ集約が必要です。しかし、国内にグループ会社を多数抱え、グローバル展開する会社では、データ集約だけでも大きな業務負荷がかかります。

このためHRBPがデータ収集・進捗把握に多くのリソースを割かれ、肝心の原因分析や対応策検討まで着手できていない状況が散見されます。

このような状況を解決するために、データを効率的に一元管理し、高頻度なPDCA遂行を支援する「効果的な業務遂行の基盤づくり」が必要です。

以下の要件を満たすことで、データ収集作業の負荷を下げ、頻度の高いPDCAサイクルを実現できます。

  • 国内・グローバルのデータが集約されたデータベースである
  • KGI・KPIのモニタリングに必要な人事・人事外データを管理できる
  • KGI・KPIの進捗が比較でき、差異を可視化できる

マニュアルでデータ集計する場合の頻度は、年に1度か、多くても半年に1度が限界だと考えられます。モニタリング基盤が整備されれば、3か月に1度など、より高頻度でのPDCAサイクルを展開できるでしょう。

さらに以下の要件にも対応すれば、モニタリング基盤の高度化も期待できます。

  • 人材の状態を可視化した人材ポートフォリオを参照できる
  • 設定した人的資本経営ストーリーにもとづくKGIとKPIの関連性を参照できる
  • 現状との差異の原因を分析可能、または原因を示唆する提案がある
データドリブンな意思決定を支援するモニタリング基盤

データドリブンな意思決定を支援するモニタリング基盤

次回は、人的資本経営の最重要ポイントの3つ目である「人的資本経営だからこそ生まれる施策の設計」について解説します。

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