1. SmartHR ガイド
  2. イベントレポート

従業員に浸透する「働き方開拓」の秘訣。スープストックトーキョーが “人事の専門用語” を使わない理由【サービス産業が抱える課題と変革推進のポイント】#03

公開日
目次

2018年9月11日、株式会社SmartHR主催イベント「SmartHR Next 2018 – HRの最先端が集結する日」を開催しました。

「SmartHR Next」は、産官学の有識者のパネルディスカッションに加え、参加型ワークショップや来場者の交流・情報交換を通じて、明日から取り組める施策を学び・いかすための「働き方改革の明日」を創る等身大の人事労務イベントです。

同イベントのパネルディスカッション第一部「働き方改革を成功に導く人事部の役割」に続き、パネルディスカッション第二部では「サービス産業が抱える課題と変革推進のポイント」と題し、働き方改革の具体的事例についてディスカッションを行いましたので、全5編にてお届けします。

#03 は、スープストックトーキョーが取り組む「働き方開拓」についてです。

  • パネラー江澤身和

    株式会社スープストックトーキョー 取締役 兼 人材開発部部長

  • パネラー梶村努

    株式会社ベイクルーズ 人財統括 取締役 CHRO

  • パネラー大久保伸隆

    元エー・ピーカンパニー 取締役副社長

  • モデレーター城倉亮

    リクルートワークス研究所 研究員

スープストックトーキョーが取り組む「働き方開拓」

城倉さん

次の取り組み事例として、スープストックトーキョーさんのお話について、江澤さんお願いします。

江澤さん

簡単にスープストックトーキョーの会社概要からお話しさせていただきます。

「スープストックトーキョー」というブランドとしては、1999年にスタートしました。なので、2019年で20年というところですが、もともとはスープストックトーキョーという株式会社スマイルズの一事業で、2016年2月に分社化しまして株式会社スープストックトーキョーとして今に至っております。

江澤 身和氏

江澤 身和。株式会社スープストックトーキョー 取締役 兼 人材開発部部長。短大卒業後、2005年、Soup Stock Tokyoにパートナー(アルバイトスタッフ)として入社。1年後に社員登用され、複数店舗の店長を歴任。その後、法人営業部にて冷凍スープの専門店「家で食べるスープストックトーキョー」のブランド立上げと17店舗の新店立上げ・人材開発の責任者を務める。これまで育成してきたパートナーは300人以上、そのうち14名が現在正社員となるなど、人を通じた組織づくりを牽引する。2016年2月、㈱スープストックトーキョーの分社化に際し、取締役兼人材開発部部長に着任。“人を大切にする“を基軸とした12の人事制度を展開、本質的な採用・育成の仕組みづくりに取り組む。現在、人材開発部を擁するブランディング本部を設立、「人」を通じたブランディングにも注力している。2017年に株式会社リフカムが実施した「Referral Recruiting AWARD 2017」においてAWARDを受賞。

これからさまざまな施策の話をしますが、私たちが一番大事にしているのは企業理念です。

私たちは「世の中の体温をあげる」という企業理念を掲げております。こちらに関しては、それぞれいろんな捉え方ができる言葉ではありますが、日々の営業や人事制度など部署や管轄を問わず、すべてのアクションの根幹にあります。

お客様はもちろん、仲間も含めて、誰かの体温をあげられているか、誰かを笑顔にできているかということを、すべての行動のものさしとして考えるのが、基本になっています。

実際に2016年に分社したタイミングで、スープストックトーキョーというブランドの中で働いている人や、ブランド自体をどう磨いていくかを、経営陣でかなり話し合いました。その際に、大きな課題としてあがったものが、ここに出ている3つです。

現場課題と人事のジレンマ

企業理念と理想から描く「課題解決の軸」

江澤さん

先ほど自己紹介でもお話しさせていただいたんですが、私は最初アルバイトとして入社しましたが、何か会社から「こういうことをやろう、ああいうことをやろう」と言われると、特に不満があったわけではないものの「その取り組みの目的は何ですか?」とか「もっとこうしたらいいと思います」と、意見を直接伝えることが多く、上司からしてみたらすぐにイエスと言うタイプの社員ではなかったんですね。

現在に至るまで色々な立場を経験し、実際に自分自身が会社の大きなものを動かしていける人材開発部という部署を任せていただいた中では、店長1人が抱える悩みを“会社の悩み”として、一緒になってしっかりと改善していくことが大事なポイントなんじゃないかなと感じています。

では大きく分けて3つの課題がある中で、これらを解決するとなったときに、一般的には「まずはこれをやって、あれをやって」と積み上げていくことが多いかと思うんですが、スープストックトーキョーで特徴的なのは、先程紹介した理念に対し一番最初に「世の中の体温をあげるにはどうしたいのか?」と具体的に理想像を描くことから始めるんですね。

課題解決の積み上げより、シーンを描くこと

足元にある「できていないこと」から考えてしまうと踏み出せないようなことでも、まず「一番の理想形は何だ?」ということをしっかり先に考えて、そこに行き着くためには、ストレートに何をするのかという発想で、解決していくようにしています。

働きやすさと働きがいをセットで考える「働き方開拓」

​江澤さん

この2年半は、とにもかくにも自分一人ではなく、様々な部署で分け隔てなく巻き込み、何をすべきかを考えて取り組んできました。

現場を活かす人事策

このように、とにかく乱れ打ちで試行錯誤を繰り返してきて、実際に働いているメンバーからしたら1個1個が点になってしまっているように見えるかもしれませんが、実はすべての施策は、先ほどの理想形がもととなっていて、施策として当てていったところです。

(1)メリハリをつけ生活の質を高める「生活価値拡充休暇」

(1)メリハリをつけ生活の質を高める「生活価値拡充休暇」

この4月(2018年4月)から始めた大きな取り組みとして、「生活価値拡充休暇」があります。簡単に言うと、年間休日休暇数が増えるというものなんですが、こちらは休みの日数が増えることが大きなポイントなのではありません。

実際にスープストックトーキョーで働く人々は、さまざまなことに興味関心があり、いろんな経験をしたいという考えが強いメンバーが多いんですね。社員の平均年齢も30歳で若く、まずはしっかりメリハリを持って生活を送ることを最重要視しました。この取り組みにより、飲食業界やサービス業界で“あるある”になっている、長期休暇が取れないということをなくそうと思っていました。

ただ、「じゃあ休みを取る分、人員はいないけどどうするの?」という課題が生まれてしまいます。

ここで経営陣として踏み切ったのは、社員に休みを取らせるためだけの特殊部隊を編成し、ヘルプに入る仕組みをつくったことです。人件費は格段にかかりますが、それでも従業員がメリハリを持った生活を送れるよう大きな投資をしています。

(2)複業でキャリア選択の幅を広げる「ピボットワーク制度」

(2)複業でキャリア選択の幅を広げる「ピボットワーク制度」

次に、「ピボットワーク制度」です。

ピボットワークときくと、「何だろう?」って思われる方も多いと思いますが、このネーミングは軸足を置きながら方向を変えていくバスケットボールの「ピボットターン」から来ています。

つまり、本業であるスープストックトーキョーで仕事をしながらも、複業を解禁しますということで、「生活価値拡充休暇」と同じタイミングでスタートしました。

複業を解禁すると、どうしても人材が流出してしまうんじゃないかと会社としてはすごく課題に感じることもあると思いますが、実際に辞めていってしまう人は、その会社自体に魅力がなければそもそも複業が解禁されようが解禁されなかろうが辞めていってしまうため、それなら自社の魅力を上げていくことに注力すればよいのではないかということで、複業を解禁しました。

ここで重要なのは、どちらか片方の制度だけではなく、この2つの施策をセットでやることだと考えています。

ただただ休みを増やすだけではなく、そこで生まれた余裕を活用して何をするかというところで「ピボットワーク制度」もあわせて活用するなどして、さらなる引き出しを持ち、経験を積むことで、社員1人1人の「できること」「やりたいこと」を伸ばしていくというねらいがあります。

そうした取り組みをまとめて、「働き方改革」ではなく「働き方開拓」と呼んで、1人1人が主体的に働き方をつくっていきましょうと掲げて取り組んでいます。

城倉さん

ありがとうございます、とても共感することが多いです。働きやすさだけでなく、働きがいもセットで高めていきましょうというのは、これからの働き方を考える大きなヒントなんだろうと思います。

人事制度は「親近感あるネーミング」による浸透が重要

城倉さん

梶村さんからご質問ありますか?

梶村さん

理想から現実を見据えて、推進しているのが非常に素晴らしいと感じます。制度ひとつひとつのネーミングがとても印象的です。おそらく現場の従業員の皆さまに受け入れられやすい、浸透しやすいネーミングだなと感じますが、どのように決めているのでしょうか?

江澤さん

やはり「制度」というと堅苦しいイメージがあると思いますが、決して全てが堅苦しいものではないし、本来は自分たちにとってプラスになることだったり、活用すればいいものだということを認識してほしい、もっと身近に感じてもらいたいと思っています。

そこで、人事の専門用語などは使わずに、会社内でもともと使われていた言葉や親近感のある言葉を意図的に選び、考えています。たまに若干だじゃれみたいになっちゃうときもありますが(笑)、そこも含めていかに親近感を持ってもらうために重要視しています。

城倉さん

ネーミング、大事ですよね。制度やルール設計を広めていくうえで大事なところなんですね。ありがとうございます。

イベント「SmartHR Next 2018 – HRの最先端が集結する日」の様子

人気の記事