1. 働き方
  2. well-working

「仕事に私情をもち込むな」の考え方は古い?令和時代の職場における感情論

公開日
目次

皆さん、こんにちは。一般社団法人日本心理的安全教育機構 代表理事の小野みかです。今回のコラムでは、令和時代の「職場における感情論のあり方」を取り上げます。

職場では、冷静に・大人な対応が常識的に求められ、「感情」が無視されることも多いのではないでしょうか。令和に入ってからも「仕事に私情をもち込むな」といった言葉が飛び交う職場は少なくなく、従業員の間では「感情は封印するもの」「業務の効率や成果とは結びつかないもの」と考えられているかもしれません。

しかし実際には、感情は人間の意思決定に大きな影響を与え、無視できない要素のひとつです。感情は、私たちの行動やコミュニケーション、モチベーションに影響を与えるだけでなく、職場の雰囲気や人間関係にも大きく関わっています。

そこで、本コラムでは職場における感情の重要性を再確認し、それをどう効果的にマネジメントできるかについて掘り下げていきます。とくに、感情が私たちの意思決定や職場環境に与える影響と感情をコントロールする方法について、具体的にご紹介しますので、ぜひ最後までチェックしてみてくださいね。

「感情の抑え込み」が職場環境に及ぼす影響

人間は「考える動物」といわれていますが、実際には感情によって意思決定していることがほとんどです。なかでも、職場の人間関係やリーダーシップのあり方は、感情の影響を色濃く受けます。

たとえば「上司だからこうするべきだ」「部下としてリーダーの命令に従う方がよい」と頭でわかっていても、感情がGOサインを出さなければ行動に移せないのは、頻繁に起こりうるケースではないでしょうか。

感情は、ストレスやプレッシャーが高まる状況で顕著に現れます。人は自分に余裕がないと、ついイライラしてしまったり、愚痴を言いたくなってしまったりするものです。

多くの人はこれまでの経験から「仕事に私情をはさんではいけない」と思い込んでおり、感情を抑え込むことが当たり前になっています。本心ではイラっとしていても、表面上は笑顔で接している……なんて場面は、きっと皆さんも経験済みだと思います。

しかし、実際には感情を抑えることは逆効果です。感情を無視し続けると、職場で「本当はこうしたい」という思いがあっても本音でぶつかることを避けるようになり、改善や革新といったチャンスの芽を摘んでしまうことにもなりかねません。

また、本音を伝えられないことがストレスとして積み重なると、最終的にはメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性さえあります。さらに、未処理の感情はまったく関係のない場面で爆発し、周囲の人間関係に悪影響を及ぼす場合もあるのです。

そのため、令和時代における「職場の感情論」は、感情を無視するのではなく、感情を適切に理解し、対応することが求められます。従業員一人ひとりが自分の感情としっかり向き合うことで、職場における円滑なコミュニケーションや、効率的な業務遂行につながっていきます。ネガティブな感情であっても、それを適切に扱えば、パフォーマンスの向上も期待できます。

感情を抑え込むと「改善・革新のチャンスロス」「メンタルヘルスへの悪影響」「人間関係の悪化」という3つの影響を及ぼします

感情表現のポジティブな側面

では、感情を表現することが職場にもたらすポジティブな側面には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは3つのポイントをご紹介します。

1. 関係性が深まる

職場で感情を適切に表現するのは、関係性や共感を深めるための重要な要素です。たとえば、プロジェクトが達成した喜びを互いに共有すれば、感謝の気持ちや組織への帰属意識が高まり、同僚同士の信頼関係が強化されます。

また、ネガティブな感情であっても「なぜそう感じたのか?」という感情を丁寧に表現することで、お互いの人間性を尊重し合えるようになり、信頼の基盤が構築され、仕事上の協力がスムーズに進むようになります。

2. チームの結束力が高まる

「嬉しい」「楽しい」「辛い」「悲しい」といった感情表現を通じて、意思疎通がスムーズになり、チームメンバー間の結束力が強化されます。

喜びや感謝の気持ちを共有し、困難を一緒に乗り越えた経験が感情として表現されれば、チーム全体に一体感や結束力が生まれやすくなります。こうした経験は、共に成功を目指す原動力にもなるでしょう。

3. 生産性が上がる

お互いの感情が健全に表現できる職場では「自分の感情を受け入れてもらえる」「きちんと話を聞いてもらえる」といった文化が醸成され、心理的安全性も高まります。結果として、従業員のモチベーションアップにつながり、生産性の向上も見込めるでしょう。

感情を適切に表現すれば、職場の人間関係によるストレスも軽減され、プロジェクトに対する集中力や効率もアップします。

ネガティブな感情の管理

ここまで、職場で感情を表現することのメリットについて語ってきました。しかし、なかには「ポジティブな感情ならまだしも、ネガティブな感情を外に出すのはよくないのではないか」と思った方もいらっしゃるでしょう。

たしかに、ネガティブな感情は職場において、もっとも対処が難しい部分です。仕事をしていれば、怒り、フラストレーション、不安、失望、嫉妬といった感情がさまざまな状況で発生します。

具体的な場面としては、納期に間に合わなかった、期待していた評価を受けられなかった、プライベートで嫌なことがあった、といった状況が挙げられるでしょう。こうした出来事が引き金となってネガティブな感情が生まれていきます。

職場に不機嫌な人がひとりいるだけで、その感情は周囲にも伝染し、職場全体がネガティブな雰囲気になってしまうことも珍しくありません。こうした雰囲気が漂うと、ギスギスした人間関係のなかで業務を進めることになり、業績アップどころではなくなります。

ネガティブな感情との付き合い方

では、どのようにネガティブな感情と付き合えばよいのでしょうか。

まずは、その感情が「自分に何を知らせているのか」に注目することが大切です。ネガティブな感情は単なる反応ではなく「何か期待していたことが叶わなかったとき」に湧き上がるサインです。

たとえば「なぜこんなにイライラしているのか?」と自問し、その原因を深く探ることで、感情の背後にあるニーズや欲求を明らかにできます。場合によっては、業務や職場の人間関係が直接的な原因ではなく、「出勤前に家族と喧嘩した」「本人の体調が悪い」などが理由の場合もあります。

自問のプロセスを繰り返していくと「本当は相手にこうしてほしかった」「こうだったらよかった」という自分の本音に気づけます。そのうえで、どうしたらそのギャップを埋めるかを考え、次の行動へと進むことが重要です。

感情のマネジメント方法

最後に、感情をマネジメントするにあたって効果的な手法を4つご紹介していきます。

感情をコントロールするためには、「EQ(感情知能)を高める」「冷却期間を置く」「アクティブリスニング(積極的な傾聴)」「感情を共有しやすい環境をつくる」という4つあ効果的です

1. EQを高める

ポジティブ・ネガティブに関わらず、感情のマネジメントは「自己認識」から始まります。感情が湧き上がったときに、その感情が何を意味しているのかを冷静に見つめ、適切に処理していくことが求められます。

これは感情知能(EQ)の一部であり、自己認識と自己管理のスキルを高めることが、感情の健全なマネジメントにつながります。EQ(Emotional Quotient)とは、感情知能や感情知性と呼ばれる概念で、自分や他者の感情を認識・理解し、管理する能力のこと。これはIQ(知能指数)とは異なり、感情に関する能力を測る指標です。

EQには主に以下の4つの要素があります。

自己認識(Self-Awareness)

自分の感情を正確に理解し、状況に応じてその感情を把握する能力。自分が何を感じていて、なぜそう思うのかを知ることが、感情のコントロールや適切な反応につながります。

自己管理(Self-Management)

自分の感情をうまくコントロールし、否定的な感情に圧倒されず、冷静に対処できる能力。これには衝動を抑えたり、ストレスに対処したりするスキルも含まれます。

社会的認識(Social Awareness)

他者の感情やニーズ、関心を理解し、共感する能力。対人関係の場において、他者の感情を敏感に察知したうえで、適切な対応が求められます。

対人関係スキル(Relationship Management)

他者との関係を効果的に管理し、信頼関係を築く能力です。これには、効果的なコミュニケーション、リーダーシップ、チームワークのスキルが含まれます。

EQが高い人は、感情をうまく活用し、ストレスや対立を乗り越え、よりよい人間関係を築き、仕事や生活での成功を収めやすいとされています。とくに職場においては、感情の理解と管理が円滑なコミュニケーションやチームワークに重要な役割を果たします。

2. 冷却期間を置く

感情の出発点に気づけたら、次はそれをどのように対処するかが重要になります。フラストレーションや怒りを感じたときには、すぐに口に出したり、誰かに話したりするのではなく、一時的に冷却期間を置いて冷静に対処できる状態にするのが有効です。

どうしてもアウトプットしないと気が済まない場合には、紙やノートに自分の感情を思いつくままに書き出してみるのもオススメです。

3. アクティブリスニング

職場のメンバーにイライラしてしまったときには、アクティブリスニング(積極的傾聴)を用いて、相手の感情に寄り添うコミュニケーションも大切です。アクティブリスニング(Active Listening)とは、相手の話を単に聞くだけでなく、深く理解し、共感を示しながら積極的に受け取るリスニングスキルのこと。受動的な聞き方とは違い、話し手が感じていることや意図をしっかり理解しようと努め、適切なフィードバックを返すことで、信頼関係や円滑なコミュニケーションを促進します。

また、フィードバックを受け入れる心構えも、感情のマネジメントにおいて重要です。ネガティブな感情が湧き上がる場面では、相手がよかれと思った発言やフィードバックを「攻撃」と感じることがあります。しかし、それを成長の機会として捉える視点をもつことで、建設的な対話に変わります。

4. 感情を共有しやすい環境をつくる

職場では、感情を共有しやすい仕組みづくりも有効です。たとえば、簡単に自分の気持ちが伝えられる「エモトーク」のカードのように、感情をイラストで表現したり、簡単な手紙の形式で感情を伝えたりすることで、組織全体で感情に向き合う文化を醸成できます。

おもしろい仕組みやツールを積極的に取り入れて、従業員が安心して自分の思いを表現できるようになることは、メンタルヘルス対策や円滑な人間関係の構築にもつながります。

感情を適切に取り扱えば職場環境は劇的に変わる

今回のコラムでは、職場における感情の重要性を再確認するとともに、感情を適切にコントロールする方法についてご紹介しました。

感情は、私たちの意思決定や行動に深く影響を与えるものであり、決して無視できないものです。感情を健全にマネジメントすることは、自分のメンタルヘルスだけでなく、職場での効率や人間関係の改善に直結します。また、感情を適切に理解し対処することで、チームの結束力や生産性を高められます。

これからの時代は「仕事に私情をもち込まない」ではなく「職場でも感情と適切に付き合っていく」ことが求められます。そのためには、まず職場における心理的安全性を高め、感情が適切に扱われる職場環境を作り出すことが重要です。

感情の力を最大限に活用し、より健全で生産的な職場環境を築いていきましょう。

お役立ち資料

あなたの組織は対応できている?「心理的安全性」を低下させる3つの問題

人気の記事