「自分の肝が座っているか」 抵抗に耐え得る“信念”が人を動かす——NTTドコモ・ベンチャーズ CEO 笹原優子 × 堀井美香 対談
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新しいことを始めるとき、リーダーとして周囲をどう巻き込むか。iモードから新規事業創出まで、数々の挑戦を率いてきた笹原さんから学べるのは、摩擦を恐れず向き合う覚悟の強さでした。
イノベーションを生む“巻き込む力”の源泉は?
さまざまな業界で道を切り拓いてきた女性リーダーたちの姿勢や哲学の源泉をたどり、次世代が自分らしいキャリアを描くヒントを探るシリーズ「女性リーダー列伝」。
記念すべき第1回のゲストとしてご登場いただくのは、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ代表取締役CEO&CCOの笹原優子さんです。iモードの立ち上げに携わり、MBA留学を経て、ドコモで新規事業創出プログラムの立ち上げ、社内起業家支援に従事。現在は子会社社長としてオープンイノベーションを推進しています。
インタビュアーは、笹原さんと同世代のアナウンサー・堀井美香さん。SmartHRの配信するポッドキャスト番組『WEDNESDAY HOLIDAY』でパーソナリティを務められています。
今回は「抵抗を乗り越え、イノベーションを生む巻き込み力」をテーマに、大きな組織のなかで新しい価値を生み出すために、価値観も利害も異なる人たちを、どのように巻き込んできたのか。その思考と経験に迫ります。
本対談は動画でもご覧いただけます。笹原さんの熱量やお二人の雰囲気は動画で、おさまりきらなかったエピソードや「巻き込み力」のポイントは記事で。ぜひお楽しみください!
笹原さんのキャリア年表

リーダーとしての原点。対等に扱われる大切さ
堀井さん
事業や組織を牽引する立場にある笹原さんですが、リーダーとしての意識はどのように形成されたのでしょうか?
笹原さん
若手時代の経験が土台になっています。とくに印象的だったのは、週1回の定例会議。こうした場では、課長などの上位職者が進捗を報告して終わることも多いですよね。
しかし私のチームでは、参加者全員が何に取り組んでいるかを発表することが求められました。先輩たちの優秀な仕事ぶりとくらべて「自分は何をしているんだろう」と躊躇することもありましたが、その分、発表できるものを用意しなきゃと自然と責任感をもつようになったんです。

(笹原さん)
堀井さん
入社して間もないころから、自分の考えを言語化することが求められたのですね。いわゆる「しゃべらない人は出ていってもいい」というような。
笹原さん
そうした厳しい言葉もありました。ただ、「出ていけ」という意味ではなく「あなたの意見を聞きたい、しゃべってほしい」という期待が込められていました。
上司から部下に対してというより、一緒に仕事をする仲間として対等な立場で接してくれていたのだと思います。実際、私の発言も熱心に聞いてくれて、ためらわずに話せました。
堀井さん
伸び伸びと発言できる環境のなかで、プロフェッショナルとしての意識が芽生えていったのですね。

(堀井さん)
笹原さん
そうですね。プロフェッショナル意識といえば、印象的な出来事があります。
取引先の幹部の方と上司のメールのやり取りで、私の担当領域である「UI・UX」の話題になった際のことです。上司が私を専門の担当者として紹介し、「以後のやり取りは彼女と進めてほしい」とその場で任せてくれたんです。
そのとき「私はこの領域を任されるプロだと思ってもらえているんだ」とすごく感激しました。「しっかり仕事しろよ」と言われるより、よっぽどしっかりしなきゃと思いましたね。
笹原さんの「巻き込み力」のポイント(1)
役職や経験に関わらず、メンバーを「指示を受ける存在」ではなく、一つの領域を担うプロフェッショナルとして扱われた経験が原点
他者を気にする前に、自分の肝が座っているか
堀井さん
そんな若手時代を経て、新規事業の立ち上げを数多く率いてこられました。周囲を巻き込んで、前例のない挑戦をするなかで、抵抗や反発もあったと思います。どのように向き合ってきましたか?
笹原さん
抵抗そのものより、いかに自分の肝が座っているかを大切にしてきました

笹原さん
前例のない挑戦には、現状を変えたくない人たちからの抵抗がつきものです。そのなかで自分を保つには、周りの反応を気にするよりも、その抵抗に耐えられるほど自分が信念をもてているかが重要なのだと思います。「本当に自分はこれをやりたいのか」「やりたい理由を言語化できるか」「チームのメンバーに一緒にやりたいと思ってもらえるか」。そこを大事にしています。
堀井さん
抵抗に耐えられるほど信念をもてているか、いい言葉ですね。私も部下をマネジメントする立場になったとき、「相手にどう思われるだろう」と気にしてしまい、本来の目的を忘れそうになることがありました。
笹原さん
迷いが生じることは誰にでもありますよね。そんなときは「本当に自分がやりたいことなのか」を自問するようにしています。心のなかの自分、いわば“リトル優子”に「本当にこれでいいの?」って問いかけるんです。
笹原さんの「巻き込み力」のポイント(2)
他者の抵抗を恐れる前に、「自分の肝が座っているか」を問う。困難に耐え抜ける信念があれば、チームを迷わせずに前へ進める。
「本当にやりたいの?」耳の痛い問いを投げかける覚悟
堀井さん
「本当にやりたいのか」という問いかけは、ご自身だけでなく、チームのメンバーに向けることもありますか?
笹原さん
あります。新規事業創出プログラムの立ち上げや社内起業家支援に携わっていたとき、相談にくる社員には、よくこの問いを投げかけていました。
そうすると、聞かれた本人はけっこう痛いんですよね。せっかく積み上げてきたものを壊される気がして。でも、後で大きく失敗するより、最初の段階で軌道修正できたほうが絶対にいいですから。
最近になって、「あのときは厳しかったですね」と言われました。私は普段、自己紹介で「優しい子と書いて優子です」と言っているんですが、「当時は厳しい子と書いて厳子でしたね」って(笑)。
堀井さん
上に立つと、自分の保身を考えて「まあ、いいよ」と言ってしまうことがありますよね。「本当に?」「それで行くの?」と一歩踏み込む勇気がなかなかもてない。
笹原さん
一歩踏み込むコメントって、上の立場にいる人ほど言いづらくなりがちだと思います。誰だって嫌われたくないですから。
だからこそ私は逃げずに向き合いたい。中途半端に優しい言葉でごまかすより、直接的に伝える方が思いやりだと思っています。それこそ、「優しい子」でありたい(笑)。

笹原さんの「巻き込み力」のポイント(3)
自分の保身や嫌われる不安を捨て、逃げずに向き合う。中途半端な優しさではなく、「直接的に伝える厳しさ」こそが、後で大きな失敗を防ぐことにつながる
遊び心のある言葉で、チームの空気を変える
堀井さん
ほかに人を巻き込むうえで大事にしてきたことはありますか?
笹原さん
「遊び心のある言葉」によるチームの空気づくりですね。私たちの仕事は一般のお客さま向けの事業が多いので、自分たちが楽しんで事業に取り組まないとお客さまも喜んでくれない。そう思って「エベレスト・ヒャッホー」というスローガンをつくりました。

笹原さん
高い山をみんなで楽しみながら登れたら。そんな想いを込めた言葉です。ちなみに、対義語は「高尾山ぜえぜえ」。高尾山には失礼なんですけれど(笑)。
堀井さん
スローガンから楽しくゴールを目指すイメージが伝わってきますね。「遊び心のある言葉」を使って理想の状態を共有すると、チーム内のいい空気が醸成できそうです。

笹原さん
新しいことへのチャレンジって、うまくいかないこともあって、辛い場面も多いじゃないですか。だからこそ、少しでも楽しくできるように、遊び要素のある言葉で楽しいスイッチを入れるようにしているんです。
たとえば、後輩に「今、仕事で十分挑戦していると思う?」と聞くのは角が立ちます。でも、「それはエベレスト・ヒャッホー?」と聞いたら、後輩も「高尾山ぜえぜえかもしれません」と軽く返せる。「挑戦できていません」と言うよりも、ずっと楽しい会話になりますよね。
笹原さんの「巻き込み力」のポイント(4)
「エベレスト・ヒャッホー」のような遊び心のある言葉を共通言語とし、挑戦しやすい心理的安全性を育む
完璧を求めない。“始めてみる”が何より大事
堀井さん
信念を厳しく問いながらも、遊び心のある言葉がある。そういうチームなら、新しいアイデアやイノベーションも生まれやすそうですね。
笹原さん
そうですね。もう一つ大切にしているのは「完璧を求めない」ということです。
米国への留学から帰ってきたとき、プログラムのディレクターから「どうだった?」と聞かれて、私はこう答えたんです。「完璧は存在しないってわかったよ(Perfect doesn’t exist)」って。留学前の私は、正しく、完璧に英語を話せなきゃいけない、と自分を追い込んでいました。
でも、上には上がいるし、そもそも完璧なんてどこにもない。そう気づいた瞬間に、ふっと肩の力が抜けたんです。だったら何でもいいからまず始めてみればいい、失敗しながら強くなればいい、と考えるようになりました。

笹原さん
新規事業を立ち上げるときも完璧を求めると、本当に何も始められないんです。しかも「何をやっているんですか?」と聞かれても説明できるものがない。でも、失敗でもいいから何かを生み出せば、説明もできるし、そこから修正もできる。手を動かして、失敗して、変えていく。その繰り返しがすごく大事なんです。
堀井さん
私たちもイベントをやることがあるんですが、終わった後のアーカイブや振り返りがすごく大事で。最初から完璧にPRするより、まずやってみて、2回目からしっかりつくっていくほうがいいよね、という話をよくします。まずは形にしてしまう、というのはありますよね。
笹原さんの「巻き込み力」のポイント(5)
完璧を求めず、まず小さくはじめてみる。失敗から学び、修正を繰り返すことで、チームも動き出す。

編集後記
「自分の肝が座っているか」──笹原さんの言葉で印象的だったのは、周囲の抵抗を恐れる前に、まず自分の信念を問うという姿勢でした。組織のなかで新しいことを始めようとするとき、不安や迷いはつきものです。それでも、本音で向き合い、遊び心を忘れず、完璧を求めずにまず動いてみる。その一歩が、周囲を巻き込む力になっていくのかもしれません。

本対談は動画でもご覧いただけます。動画では、笹原さんの熱量あふれる言葉としなやかなお人柄を感じ、一歩踏み出す勇気をもらえるはず。ぜひ記事とあわせてお楽しみください!
働き方やキャリアをもっと考えたい方へ:ポッドキャスト番組「WEDNESDAY HOLIDAY」もぜひ
本企画のインタビュアーである堀井さんが、パーソナリティを務めるポッドキャスト番組「WEDNESDAY HOLIDAY」。毎回さまざまなゲストを迎えて、「よく働くってなんだろう?」を問いのテーマに、個人の働き方や、組織やチームのあり方、仕事を通じた社会との関わり方に至るまでをゆるやかに語る約30分のトークプログラムです。
配信は、毎週水曜日午後5時頃。配信中のエピソードは、各種音声プラットフォームにて、無料でお聴きいただけます。お時間のある時に、こちらもぜひお聴きください。
(取材・文・編集協力: 村上広大、撮影: 鈴木 渉)






