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仕事を続けられたのは、勤務時間・場所をフレキシブルに選べたから。当事者が語る、仕事と介護の両立

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働き方の多様化が進む今、「オフィスか、家か」「仕事か、プライベートか」といった二元論で考えを巡らしても、一律の答えは出てきません。タイミングに応じてどちらの選択肢も取れるようにする。そんな柔軟性のある発想が個人にも企業にも求められています。そこでこの特集「働く&」では、「A or B」ではなく「A and B」を実現するための両立支援制度にフォーカス。実際にどのような効果を引き出しているのかを探ります。

第2回インタビューに登場するのは、SmartHR Mag.編集メンバーの廣嶋祐治さんです。現在、母親の介護をしながら仕事に携わっている廣嶋さん。

高齢化社会が進む日本において、家族や身近な人に「介護」が必要になる可能性は誰にでもあります。現在は介護当事者ではなくとも、将来的に家族に介護が必要になった際、離職や介護休業を選ぶことになるかもしれない……と考えている方は多いのではないでしょうか。

従業員の仕事と介護の両立を支援するために、組織や人事・労務担当者には何ができるのでしょうか。実際に働きながら家族の介護をされている廣嶋さんに、仕事と介護を両立するうえでのポイントや、支援環境があることで何が得られたのかについて伺いました。

お役立ち資料

働く& 〜両立を考える〜

積み上げてきたキャリアが断たれてしまう不安があった

廣嶋さんは、どのようなきっかけで家族の介護をすることになったのでしょうか。

廣嶋

4か月ほど前、同居している70代の母が腰椎の圧迫骨折で動けなくなったんです。クリーニング店を営み、衣服や布団といった重たいものを日常的に持つため、これまでにも4度の骨折を経験しているのですが、5度目となる今回はいよいよ布団から起き上がれなくなってしまい……。

病院に付き添って検査をしたところ、医師から手術もしくは骨を強くするための治療が必要だ、と。70代の体に手術は負担がかかると判断し、自宅で介護をしつつ通院治療を受けていくことを選びました。

会社への相談はいつごろされたんですか?

廣嶋

母を病院に連れて行ったその日です。上長に状況を報告し、時短勤務への切り替えや、最悪の場合は休職する可能性もあると伝えました。

椅子に座り話をする廣嶋さん

廣嶋さん

休職も考えられたんですね。不安はありませんでしたか?

廣嶋

もちろんありました。実は僕、3年前にも父の介護を経験していて、その際は両立の難しさから仕事を辞めているんです。その後しばらく母の店を手伝っていたのですが、頑張って積み上げてきたキャリアが断たれてしまったという残念な思いがありました。

だから、今回もいろいろ不安でした。勤務形態が変わることで収入が大きく下がったり、人事評価に影響があったりするのではないか、と。幸いなことに、上長から収入や待遇を維持する方向で今後について考えていこうと言ってもらえたことで、気持ちを切り替えられました。

話を聞く廣嶋さん

社内で悩みを共有し合える仲間がいることが心の支えに

現在はどのようなかたちで勤務されているのでしょうか。

廣嶋

母の体が夕方になるにつれて動きづらくなる傾向があるので、17時頃を目処に終業できるように調整しています。また通院がある日は、午前中に付き添いをして、午後から勤務をスタートさせています。

仕事をしながら介護と家事を両立させる生活は非常にハードですが、母の容体も少しずつ回復基調にあるため、結果的に介護スタート前とそこまで大きく変わらない働き方ができています。

介護をはじめる前と比べて、業務におけるパフォーマンスに変化はありますか?

廣嶋

自分でも驚いているのですが、どちらかというとマイナスではなくプラスの変化を感じています。これまでは場当たり的に仕事を進めることが多かったのですが、現在はかぎられた時間のなかで成果を上げる必要があるため、先々のスケジュールを考えて効率性を重視して働くようになりました。

無駄がなくなったことで、トータルで見たときのパフォーマンスは介護をはじめる前よりむしろ上がっている部分も多いと思います。

話をする廣嶋さん

現在、廣嶋さんが仕事と介護を両立できている一番の要因はどこにあると思いますか?

廣嶋

勤務する時間・場所をフレキシブルに選べるのが大きいと思います。リモートワークが認められていなければ、仕事を続けるのは難しかったでしょうね。

また、社内のメンバーが精神的にサポートしてくれることも心強いです。介護が大変な日は業務がなかなか進まず、自分を責める気持ちが湧いてくるのですが、そんなときでもメンバーが過剰に気を遣うでもなく、よい意味で普段どおりに接してくれるので気分が和らぎます。

それだけでなく、Slack上に介護に関する雑談チャンネルがあるのも頼もしいです。介護の話題って特性上ポジティブに話せない内容も多いので、「こんなことを話したら相手を嫌な気持ちにさせてしまうのでは?」と考えることも少なくありません。

とはいえ、自分が抱える辛さや大変さを誰かに聞いてほしいときもあるので、そういった気持ちを自由に吐き出せて、しかも共感してもらえる場があるのは本当にありがたいと思います。また、困りごとがあった際にはアドバイスをもらえるのも大きいです。場合によっては、僕自身が父や母の介護を通じて経験したことをお伝えする機会もあります。

そのような雰囲気は、SmartHRに所属するみなさんが意識してつくりあげているものなのでしょうか?

廣嶋

そうだと思います。弊社は、たとえば新しい制度をつくる際も経営層が一方的に決めるのではなく、社員一人ひとりの意見を取り入れながら整えていくスタイルです。その根底には、社員の困りごとをコミュニケーションを通じて少しでも減らして生産性を上げようとするカルチャーがあると思います。

企業と個人が歩み寄り、介護をしながら働けるように

仕事と介護を両立する社員を支援したいと考えている企業は、どのような仕組みや制度から整えていけばよいと思いますか。廣嶋さんの経験を踏まえて、これがあると助かるというものがあれば、教えてください。

廣嶋

介護をしていると通院の付き添いや介助などでたびたび中抜けする必要が出てくるので、勤務する時間や場所をフレキシブルに選べるのは介護当事者にとってありがたいと思います。

ただ、これが会社から一方的に条件を提示されるような方法だと、介護当事者としては大きな不安がつきまとうはずです。「勤務時間も業務量も半分にしてください、その代わり給与も50%カットします」といった特例的な扱いをされると、働きづらいと感じる人もいるのではないかと個人的には思います。

お話をする廣嶋さん

廣嶋

とはいえ、介護前と完全に同じパフォーマンスを発揮できる人はほぼいないはずなので、介護前と働き方が変わることで給与面や待遇にどのような影響があるかをあらかじめ相談させてもらえると、介護当事者も安心して働けると思います。

あと、制度面だけではなく、組織として介護の問題をどう扱うかを考えることも重要だと感じています。制度はすぐには整えられないことも多いと思うんです。でも、会社の風土として乗り越えられる側面はあるはず。プライベートなことや生活上の困りごとも、ある程度カジュアルに相談できる雰囲気が社内にあるのが理想的だと思います。

仕事と介護の両立支援をすることが企業にもたらすメリットがあるとすれば、どのような点でしょうか。

廣嶋

僕自身は、現状の働き方を許可してもらえたことでロイヤリティが高まり、もっとこの会社に貢献したいという気持ちが強くなりました。これは介護当事者にかぎった話ではなく、さまざまな事情で働き方を変えざるをえない社員がいると思うんですよ。同じように対応してくれるだろうという信頼感が土台にあることで、長く働ける安心感が生まれるのではないでしょうか。

お話をする廣嶋さん

仕事と介護の両立支援をしたいと考えている人事担当者に、廣嶋さんから伝えたいことはありますか?

廣嶋

そもそもの話として、介護当事者になりうる「介護予備軍」が社内にどの程度いるのかを把握している企業は少ないのではないでしょうか。人数や規模を把握しないと手は打てませんから、従業員サーベイなどで積極的に情報を取り、介護予備軍の方に資料を渡したり、現状使える社内制度を告知したりすることも大切だと思います。

また、これから実際に介護をはじめる方にとっては、人事担当者と直に話せる機会があるとより安心できるはずです。人によっては働き続けることに引け目を感じたり、降格させられるのではないかと不安を覚えたりすることもあると思うので、人事の方から「安心して働き続けてください」というメッセージを発信してもらえると、従業員の心理的安全性を担保できると思います。

介護にかかわる社内制度について案内する際、人事担当者が気をつけるべきことはありますか?

廣嶋

ほとんどの人が介護未経験者のはずなので、現状の制度を事務的に提示されただけでは今後の働き方がイメージできず、困ってしまうケースもあると思います。「この制度やこの働き方を選んだ場合はこうなりますが、〇〇さんはどうしたいですか?」と、人事担当者が複数の選択肢を提示したうえで寄り添ってくれると介護をする側としてはとても助かります。

仕事と介護の両立を考えている人のなかには、人事を「社員の処遇を決める怖い人」といったイメージを漠然と抱いている方も少なくないはずです。そういった垣根を取り払うことが、まずは何より大事かもしれません。

取材・文:生湯葉シホ
撮影:関口佳代

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