コロナ禍に伴う「標準報酬月額の特例改訂」についてのよくある質問を社労士が解説


こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。

毎月発表されている総務省の労働力調査によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により休業した労働者は、令和2年4月に過去最多の597万人、5月は423万人、6月は236万人と推移しています。

休業で給与が受けられなかったり、報酬が著しく下がったりしたにもかかわらず、健康保険・厚生年金保険料はそのままの額では、手取りが少なくなり、生活が困窮してしまうこともあります。

そこで、一定の条件に該当する場合、健康保険・厚生年金保険保険料の標準報酬月額を通常の随時改定によらず、特例により翌月から改定可能になりました。

今回は、この「標準報酬月額の特例改定」の基本を確認したうえで、「コロナ禍に伴う標準報酬月額の特例改訂」について、よくある質問をQ&A形式で解説します。

「標準報酬月額の特例改定」について

下の図をご覧ください。

左は通常の随時改定、右は今回の特例改定を示しています。

出典:日本年金機構パンフレット「事業主の皆さまへ 標準報酬月額の特例改定について」

まず、標準報酬月額、随時改定についておさらいしておきましょう。

標準報酬月額とは、報酬に応じた健康保険・厚生年金保険料を決定したり、保険給付の計算の際に用いたりするもので、被保険者の報酬をいくつかの幅(等級)に区分して決定されます。

昇降給等により報酬が著しく変動し、標準報酬月額が2等級以上の差が生じたときは、通常の随時改定(月額変更届)にて、標準報酬月額が決定されます。

報酬が変動した月以後引き続き3ヶ月の報酬で、随時改定の要件に該当するか判断し、4ヶ月目に改定して新しい標準報酬月額となります。

保険料が翌月の給与から控除される場合、実際には、5ヶ月目となる月の給与から保険料が変更になります。

今回の特例改定では、休業したことで報酬が著しく下がった月の翌月から標準報酬月額が改定可能になりました。図にあるように、4月支払いの給与が著しく下がったとき、5月から改定となります。これによって迅速に報酬に合った保険料とできるのです。

【Q1】対象となる被保険者は?

【Q1】標準報酬月額の特例改定の対象となる被保険者は?

【A1】次のすべてに該当する方が対象となります。

  • 新型コロナウイルス感染症の影響による休業があったことにより、令和2年4月から7月までの間に、報酬が著しき低下した月が生じた方
  • 著しく報酬が低下した月に支払われた報酬の総額(1ヶ月分)が、すでに設定されている標準報酬月額に比べて2等級以上下がった方
    ※固定的賃金(基本給、日給等単価等)の変動がない場合も対象
  • 改定内容に本人が書面により同意している方

「本人の書面による同意」とは

対象となる被保険者本人がこの特例措置を正しく理解していること、変更後の標準報酬月額により傷病手当金、出産手当金、年金額が算出されることへの同意も含まれます。単に、保険料負担が軽減しただけではないことを十分に説明する必要があります。

【Q2】保険料減額となる対象期間は?

【Q2】保険料減額となる対象期間は?

【A2】令和2年5月から8月分の保険料が対象となります。

令和2年9月分からの保険料は、定時決定により決定された標準報酬月額となります。

ただし、7月または8月に特例改定が行われた方には、定時決定が行われないため、今回の特例改定に限り、休業回復した月から継続した3ヶ月間の平均報酬が2等級以上上昇した場合には、固定的賃金の変動の有無に関わりなく、必ず通常の随時改定(月額変更届)の届出を行います。

【Q3】どのような手続きが必要ですか?

【Q3】どのような手続きが必要ですか?

【A3】手続きに必要な書類は以下の通りです。

  • 月額変更届(特例改定用)
  • 申立書

※ 同意書の提出は不要ですが、必ず事前に被保険者本人の同意を得ておきましょう。なお、同意書等の書類は届け出日から2年間保管します。

申請に必要な書類は、以下の年金機構ホームページからダウンロードしてください。

【事業主の皆さまへ】新型コロナウイルス感染症の影響に伴う休業で著しく報酬が下がった場合における標準報酬月額の特例改定のご案内

届け出は、管轄の年金事務所への郵送(窓口での提出も可能)です。ただし、事務センターでは受け付けないので注意してください。

また、e-Govからの電子申請も可能です。e-Govでの電子申請では「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届(特例 / 厚生年金保険70歳以上被用者月額変更届(特例)電子申請用送付書」から申請します。

月額変更届(特例改定用)・申立書は、PDFもしくはJPEG形式ファイルにて電子添付します。

※GビズIDを利用した電子申請は対応していません。

【Q4】いつまでに届け出が必要でしょうか?

【Q4】いつまでに届け出が必要でしょうか?

【A4】令和3年1月末日までに届け出があったものが対象となります。

受付期間内は遡及して申請が可能ですが、申請により保険料が遡及して減額される場合、被保険者へ適切に保険料を返還する必要があります。給与事務が複雑になることや年末調整等への影響を考慮し、改定をしようとする場合はできるだけ速やかに提出するとよいでしょう

【Q5】健康保険組合、厚生年金基金も手続きが必要ですか?

【Q5】健康保険組合、厚生年金基金も手続きが必要ですか?

【A5】加入している健康保険組合、厚生年金基金も同様に手続きする必要があります。手続き、様式については、各健康保険組合、厚生年金基金にご確認ください。

【Q6】特例改定に該当する月(急減月)が複数あるときは?

【Q6】特例改定に該当する月(急減月)が複数あるときは?

【A6】急減月とは、令和2年4月から7月までの間の1ヶ月であって、休業により報酬が著しく低下した月として事業主が届け出た月を指します。

複数月にわたって特例改定の要件を満たしている場合、本人の書面による同意を得た上で、どの月を改定月としても構いません。選択した月から、その前月の報酬により標準報酬月額が決まります。なお、同一人について特例改定を複数回届出することはできません。

おわりに

この「標準報酬月額の特例改定」は、通常の随時改定とは異なり、本人が希望しない場合は届け出しないことも可能です。

注意したいのは、保険料が安くなるというメリットだけでなく、保険給付におけるデメリットもある点です(標準報酬月額により、傷病手当金、出産手当金、年金額が計算されるため)。

被保険者に十分に説明し、理解していただいた上で届け出るかを判断する必要があるでしょう。

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特定社会保険労務士 羽田未希

17年間の飲食業現場経験を持つ、異色の女性社会保険労務士として飲食業・小売業などサービス業を得意とする。パート・アルバイト活用、人材育成のコンサルティング、労使トラブルを未然に防ぐ就業規則作成、助成金申請など、中小企業の人材活用のサポートを行う。著書に『店長のための「稼ぐスタッフ」の育て方』(同文舘出版)がある。
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