こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。
コロナ禍の休業や残業の減少により、副業・兼業が注目されています。収入を増やしたい、1つの仕事では生活できないといった収入面だけでなく、自身のスキルアップや人脈を広げたい、起業の準備のためなど理由は様々です。
現状では、副業・兼業を認めている企業はまだまだ少数派のようです。少し古いですが、厚生労働省のパンフレットによると、2014年の調査では85.3%の企業が副業・兼業を認めていないようです。
国は、「働き方改革」の一つの施策として、副業・兼業を普及促進しています。
しかし、労働時間の通算や安全配慮義務、秘密保持義務、競業避止義務など、労務管理における課題も多く、またそのルールについても明確ではなかったため、慎重な企業も多くありました。
そして2020年9月、厚生労働省は、副業・兼業におけるルールをより明確にするため、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(2018年1月策定)を改定しました。
今回は、この新しいガイドラインについて解説します。
この記事で分かること
新「副業・兼業の促進に関するガイドライン」における考え方
副業・兼業の促進に関するガイドラインにおける、副業・兼業の基本的な考え方について解説します。
「原則、副業・兼業を認める」背景には、勤務時間以外の時間をどのように過ごすかは基本的に労働者の自由であるとの考えがあります。国が示すガイドラインも、副業・兼業は合理的な理由なく制限はできず、原則、副業・兼業を認める方向なのです。
しかし、使用者と労働者は、労働契約、および労働契約に付随した義務を負っているため、企業は企業側に不利益となる副業・兼業を制限できる場合もあります。
各企業において、制限が許されるのは、以下に該当するような場合に限られるとしています。
- 労務提供上の支障がある場合
- 業務上の秘密が漏洩する場合
- 競業により自社の利益が害される場合
- 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
副業・兼業者の労働時間管理のポイント
続いて、副業・兼業者の労働時間管理のポイントをお伝えします。
労働時間が通算される副業・兼業とは
まず、副業・兼業の働き方によって、労働時間の通算が必要かどうかを確認してみましょう。
以下の図のように、労働時間の通算が適用されるのは、本業、副業・兼業ともに雇用関係にある働き方で、一般の会社員、アルバイトが対象です。
会社の管理監督者や役員、自営業やフリーランサーは含まれません。

ただし、たとえ労働時間の通算の適用がない働き方であっても、長時間労働とならないように注意しなければなりません。
労働時間管理の基本
労基法第38条第1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されています。
労働基準局長通達(昭和23年5月14日付け 基発第769号)では、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合を含むとしています。
したがって、副業・兼業している場合、労働者の申告等により、それぞれの使用者が自らの事業場における労働時間と他の使用者の事業場における労働時間とを通算して管理する必要があるのです。
新しい労働時間管理「管理モデル」の導入
労働時間管理の基本は先に挙げたとおりですが、本業や副業・兼業の会社、労働者にとって、労働時間を把握して通算するのは煩雑であり、相当な負担になります。
そこで、今回提案されているのが、簡便な労働時間管理の方法「管理モデル」です。
管理モデルとは、副業・兼業の開始前に、先に労働契約を締結していた使用者Aの事業場における「法定外労働時間」と、後から労働契約を締結した使用者Bの事業場における労働時間(所定労働時間および所定外労働時間)とを合計した時間数が、単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において、各々の使用者の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定し、各々の使用者がそれぞれその範囲内で労働させることです。

また、先に労働契約締結した使用者は「自らの事業場における法定外労働時間分」を、後から労働契約締結した使用者は「自らの事業場における労働時間分」を、それぞれ自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とし、割増賃金を支払うこととされています。
この管理モデルを導入することで、労使双方の労働時間の申告、通算管理を不要にし、労働基準法を遵守しやすくする趣旨があります。
副業・兼業の開始後においては、それぞれあらかじめ設定した労働時間の範囲内で労働させる限り、他の使用者の事業場における実労働時間の把握を要することなく労基法を遵守できるようになりました。
つまり、各々の使用者が範囲内の時間で労働させるのであれば、労働基準法に抵触せず、責任を問われないようになります。
就業規則の副業・兼業規定について
就業規則の規定については、厚生労働省が平成30年1月に改定したモデル就業規則を参考にするとよいでしょう。
このモデル就業規則では「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」とし、副業・兼業の届け出や、副業・兼業を禁止または制限できる場合についても規定されています。
ただし、モデル就業規則のまま規定するのではなく、自社の実態に合ったものにしなければなりませんので、労使で十分に検討する必要があります。
副業・兼業者の健康管理のポイント
健康診断や長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックやこれらの結果に戻づく事後措置のことを「健康確保措置」といいます。
この健康確保措置の実施対象者の選定に当たって、副業・兼業先における労働時間の通算をするようには定められていません。すなわち、一つの事業所において、所定労働時間が通常の労働者の3/4以下の場合、健康確保措置の対象者にならないのです。
そのため、会社が労働者の副業・兼業を認めている場合、健康保持のため自己管理を徹底するように伝えるとともに、必要に応じて健康確保措置を実施するなど、適切な対応が望ましいとされています。
副業・兼業者の労災保険給付のポイント
これまで、労災保険給付は労災が発生した事業場における賃金分だけを元に算定されていました。これでは、副業・兼業している場合、十分な補償が受けられません。
今回の法改正により、2020年9月1日より、複数の事業場における賃金額を合算して労災保険給付を算定することになりました。また、複数の事業場で働く就業者の就業先の業務上の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して労災認定を行うことになりました。
なお、労働者が、本業、副業・兼業先の両方で雇用されている場合、1つ目の就業先から2つ目の就業先への移動時に起こった災害については、通勤災害として2つ目の会社の労災として労災保険給付の対象となります。
詳しくは、厚生労働省のパンフレット「複数事業労働者への労災保険給付 わかりやすい解説」をご覧ください。
雇用保険・社会保険のポイント
2022年1月より65歳以上の労働者本人の申出により、1つの雇用関係では被保険者要件を満たさない場合であっても、他の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が試行的に開始されます。
社会保険(厚生年金保険及び健康保険)の適用要件は、事業所毎に判断するため、複数事業所の労働時間の合算はありません。
おわりに
国の指針や裁判例からみても、企業が、原則、副業・兼業を認める方向とするのが時代のニーズなのでしょう。もちろん、副業・兼業には、労働者のスキルアップや優秀な人材の獲得、退職防止、労働者の社外からの情報、人脈を活かせるなど企業側にもメリットがあります。
現在、禁止や許可制としている企業は、厚生労働省特設のホームページやガイドライン等を確認し、自社に合った形での検討を始めていただきたいと思います。
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