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社労士が語る。withコロナ時代の労務管理の注意点とは?【8/17更新】

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こんにちは。社労士グループ「SATOグループ」にて、労務相談を担当する、社会保険労務士の山口です。

緊急事態宣言の解除後、いったんは新型コロナウイルスも収束の様子を見せていましたが、2020年8月17日現在、再び全国的に感染者数が増加傾向にあります。特に東京では感染者数が400人を超えるなど、首都圏での感染拡大に歯止めがかかりません。今後の状況次第では再度の休業要請も考えられます。

「第2波」のリスクに備えるにはどのようなことに取り組めばよいのか、「withコロナ」の視点で労務管理の注意すべきポイントをお伝えします。

※本稿は2020年8月17日時点での情報を元に執筆した記事ですので、情報が変更されている可能性があります。

【1】テレワーク下の規程整備

一度はオフィスへの通常出勤に戻したものの、このところの感染拡大を受け、再度テレワークに戻した会社もあるようです。緊急事態宣言下のテレワークは緊急避難的な意味合いが強く、制度が整わないまま見切り発車となった会社も多かったと思いますが、この機会に規程や運用方法などを見直しましょう。

テレワーク下の通勤費について

筆者のもとにもっとも多く寄せられた相談は「通勤費」に関するものです。通勤費は法律で支給が義務付けられているわけではないので、支給の有無や方法は会社の判断によります。ルールを変える場合は不利益変更にならないよう、丁寧な周知で従業員の理解を得なければなりません。

テレワークの比重が高ければ実費支給方式とするのが一般的ですが、ルール設計は会社によって様々です。具体例としては以下のような方法が挙げられます。

  • 原則は実費支給だが、月10日以上出勤の場合は1か月定期代を支給
  • 通勤手当を廃止し、代わりに在宅勤務手当として月3千円を支給
  • 通勤手当の額を全従業員の平均値である『1万5千円』に統一し、併せて在宅勤務補助を支給

支払い方法を考える際は、払い戻し時の手数料等のルールを定めるのもポイントです。

テレワーク下の労働時間管理について

テレワーク時の労働時間管理も重要な課題です。厚生労働省が平成30年に策定した「情報通信技術を利用した事業場外勤務(テレワーク)の適切な導入及び実施のためのガイドライン」では、フレックスタイム制や裁量労働制に加え、「事業場外みなし労働時間制」を紹介しています。

会社以外で働き労働時間の算定が難しい場合には、所定の労働時間を労働したものとみなすという制度で、通常は外回りの営業職などに用いられる時間管理ですが、同ガイドラインでは以下の条件を満たせばテレワークにも適用できるとしています。

  1. 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
  2. 業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと

1は少々難しい言い回しですが、要するに、「常時通信できるよう強制する場合は対象外」という意味です。インターネット等の回線の接続がされているだけで、テレワーク勤務者がパソコン等の情報通信機器から自由に離れられる場合には、「通信可能な状態」にはあたりません。

2については、業務の目的、目標、期限等の基本的な事項を指示することやその変更を指示することなどは含まれません。

事業場外みなし労働時間制は、会社にとって使いやすい制度である反面、労働時間管理があいまいになり労使紛争につながりかねない法的リスクもあります。まずは原則どおり実際の労働時間を把握できるように努め、それが難しい場合は、選択肢の一つとして検討した方がよいかもしれません。

また、今年4月から大企業への適用が始まった「同一労働・同一賃金ルール」に沿っているかも確認する必要があります。同一労働・同一賃金ルールは、給与や手当だけでなく処遇も対象です。「正社員にはテレワークを認め、非正規労働者は出社か自己都合による欠勤扱い」といった対応は「不合理な待遇差」と判断される可能性があることに気を付けましょう。

【2】従業員の雇用機会・収入の確保

厚生労働省の発表によれば、8月7日時点における、新型コロナウイルス感染症に関連する解雇や雇止め(見込み含む)は44,148人。業種別でみると、製造業が最多の7,255人。次いで多いのが宿泊業の6,889人です。この数字は労働局などが把握できた人数ですので、実際の数はもっと多いと考えられます。

雇用管理の観点からは、まずは配置の見直しや助成金を利用した休業などを検討すべきですが、出向による雇用機会の確保や兼業・副業の解禁といった選択肢も考えられます。出向については就業規則に根拠となる規定を定めておくことが必要ですので、条項があるかどうかを確認しましょう。

兼業・副業については、原則として禁止している会社が多いのではないでしょうか。「競業相手でないこと」「公序良俗を乱すものでないこと」などの条件を付け、申請・許可制度を取るのがスムーズです。なお、兼業・副業先における労働時間も通算されますので、過重労働が発生しないような配慮も重要です。「合計の労働時間が1日8時間、週40時間を超えないこと」などのようにあらかじめ条件を付けて予防しておくことも考えられます。

【3】自転車通勤の導入

満員電車での感染リスクを抑えるため、自転車での通勤が広がりつつあります。au損害保険会社の調査によれば、都内で自転車通勤をしている人の約2割が、新型コロナウイルスの感染拡大後に通勤利用を始めたそうです健康増進の効果も期待できますが、気を付けたいのが、自転車通勤は東京都の条例(東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例)の適用を受ける点です。

同条例では、一般事業者は、自転車通勤をする従業者のための駐輪場所の確保または駐輪場所の確保を確認する義務が課せられています。さらに今年4月の改正では、保険の加入確認等も努力義務として追加されていますので、規程を整備し対応漏れのないよう気を付けましょう。

【4】柔軟な勤務体制の構築

できるだけ従業員同士の接触機会を減らして感染リスクを抑えるために、テレワーク以外にも時差出勤やローテーション勤務を行うことが考えられます。筆者のクライアントでは「週休3日制」をこの春から実施しています。土日に加えて平日の1日を公休日としたところ、従業員からは「週4日で仕事が完了するように頑張るので効率が上がった」という声が聞かれました。もともとは育児や介護、通院が必要な従業員に対して適用するところが多かったのですが、コロナ禍における新たな働き方として注目されつつあります。

導入に関しては、週所定労働時間を週1日分減らすのか、もしくは週所定労働時間はそのままで1日の労働時間を増やす(8時間×週5日⇒10時間×週4日)のか、検討することになります。後者の場合は、1日の所定労働時間が法定を超える為、変形労働時間制の導入が必須です。

おわりに

コロナ禍における労務管理は、すべての人事担当者にとって未知の領域であり、負担も増えていますが、「当たり前だと思っていた」働き方を見つめ直す機会でもあります。本連載でも新たな手法や他社事例などを随時ご紹介していきたいと思います。

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