5割以上が出社時より労働時間増加。テレワークにおける労働時間管理のポイントとは?


こんにちは、社会保険労務士の山口です。

今や働き方の主流となりつつある「テレワーク」。新型コロナウイルスの感染拡大というこれまでにない状況において、IT環境や運用ルールの整備を手探りでなんとか進めてきた会社が多いのではないでしょうか。今回は、テレワークを実施する上でもっとも大きな課題の一つである、「労働時間制度と残業」について考えてみたいと思います。

テレワークこそ、適切な労働時間管理が求められる

まず前提として、テレワークであっても労働基準法で定める労働時間の原則が適用されることを踏まえておく必要があります。通常の「1日8時間・1週40時間」制をはじめ、フレックスタイム制度や裁量労働制などの各種ルールから最適な労働時間管理制度を選択する必要があります。

また、2019年4月から施行されている改正労働安全衛生法では、「事業者は、高度プロフェッショナル制度適用者を除く全労働者について、その労働時間の状況を、客観的な方法等によって把握しなければならない」と定めています。この定めは、テレワーク実施者についても例外ではありません。テレワークというと「時間と場所に縛られない働き方」というイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、場所はともかく、時間の制約は取り払われたわけではないのです。

テレワークにおける労働時間管理の方法と課題

通常の「1日8時間・1週40時間」制やフレックスタイム制は、実労働時間を積み上げていくため、正確な労働時間把握ができる反面、テレワークとしては柔軟さに欠けるデメリットがあります。育児や介護でしばしば仕事から離れなければならない労働者にとっては、厳密な時間管理を煩わしく感じるかもしれません。

始業・終業の時間や仕事の進め方を従業員の裁量に委ねる裁量労働制は、適用できる職種や部門がかなり限定されているため、全従業員をテレワーク対象としている場合などは、あまり現実的な選択肢ではありません(企業によっては、全従業員テレワークであっても、こちらの方法で運用しているケースもあります)。

厚生労働省が2018年に策定した「情報通信技術を利用した事業場外勤務(テレワーク)の適切な導入及び実施のためのガイドライン」では、これらの働き方に加え、テレワークに使える手法として「事業場外みなし労働時間制」を紹介しています。労働時間の算定が難しい場合は、「所定労働時間または業務に通常必要な時間働いたとみなす」制度ですが、下記の二つの条件を満たす必要があります。

  1. 情報通信機器が、使用者の指示で常時通信可能な状態になっていないこと
  2. 作業が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと

常時パソコンが通信可能な状態になっており、上司の呼びかけに即答しなければならないような状況や、作業が一つ一つ細かく指示されるような状態は条件に該当しません。

業種等の制限がない為、一見するともっともテレワークに適しているように見えますが、導入に対しては慎重に臨むべきです。そもそも事業場外みなし労働時間制の前提は「使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難」であること。ポケベルもなかった時代ならともかく、現代においてはさまざまなICTツールが発達しているため、果たして労働時間の算定が困難と言えるのかという問題があります。

みなし労働を野放しにしてしまうと過重労働につながりかねないため、制度適用の可否をめぐる裁判所の判断も、近年厳格化しています。安易な導入は大きな法的リスクをはらんでいます。

最近は、中断時間を細かく管理できるテレワーク用の勤怠管理システムなども登場していますので、まずは、原則の労働時間管理ができるかどうかを十分に検討すべきでしょう。

また、裁量労働制も含めたみなし労働時間制度は、仕事のプロセス・権限を労働者に委ねる反面、これまで以上に成果を厳しく問う仕組みでもあります。大手企業では、テレワークと親和性の高い人事制度として、職務内容を明確にして成果で処遇を決める「ジョブ型雇用」の導入を進める動きが活発化していますが、日本特有の年功序列、終身雇用といった労働慣行にこの仕組みをどう馴染ませていくかが今後の課題でしょう。

5割以上が出社時より労働時間が増加したと回答

テレワーク時の残業をどのように考えるかも重要なポイントです。

連合が今年6月に行ったテレワークに関する調査では、4月以降のテレワークの状況について、「通常の勤務よりも長時間労働にあることがあった」と半数以上(51.5%)が回答しました。

出典:連合「テレワークに関する調査2020」

また、時間外・休日労働をしたにもかかわらず申告していない回答者が6割超(65.1%)に及んでいます。

出典:連合「テレワークに関する調査2020」

理由としては、「申告しづらい雰囲気だから」「時間管理がされていないから」などが挙げられています。

出典:連合「テレワークに関する調査2020」

たしかにテレワーク環境は、仕事とプライベートとの切り分けが難しくなったり、出社時と比較して残業に気づきにくくなったりすることが想定されますが、会社には安全配慮義務がありますので、できるだけ長時間労働を引き起こさないよう努めなければなりません。

筆者のクライアントでは、時間外労働・休日労働は原則として禁止とし、どうしても必要な場合は上長に申請し、承認を得た上で行うというように定めているところが多いです。

また、厚生労働省ガイドラインでは長時間労働対策として、

  • 「役職者等は、就業時間外におけるメール送付を自粛する」
  • 「深夜、休日におけるシステムへのアクセス制限」
  • 「長時間労働になりそうな労働者に対する注意喚起」

などを挙げています。

これらのルールについては規程や社内のガイドラインなどであらかじめ定めておき、周知しておくことがポイントです。規程とガイドラインの使い分けとしては、出社命令やパソコンのモニタリングなど、強制力を持たせたい項目については規程に定め、勤怠の記録方法や報告手段などは編集が容易なガイドラインにおいて日々更新していくというやり方がお勧めです。

日本のテレワークはまだまだ黎明期です。初めから完璧な運用を目指すのではなく、トライアンドエラーを繰り返し、自社に最適な制度を作り上げていく。それが人事担当者の腕の見せ所だと思います。

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SATOグループ 日本社会保険労務士法人 山口友佳

2009年、SATOグループ 「日本社会保険労務士法人」設立とともに入所。2010年社員に就任。労務相談部門責任者として中小企業、大企業に対する労務コンサルティングを担当。就業規則諸規程のコンサルティング、判例に基づいた実務的なアドバイスなど経験多数。
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