1. 人事・労務
  2. 労務管理

残業と同じ扱い?早朝出勤が「労働時間に該当」する3つの具体例

公開日
目次

各地で気温が上がり夏が近づいて来ましたね。少しでも涼しい時間を狙って、早めの出社を心がけている方もいらっしゃることでしょう。

また、電車遅延の可能性を予め考慮して時間に余裕を持たせたり、早く仕事を片付けるために早出したりなど、「自分の意思で始業時間より早く出勤をする」という方もいるかもしれません。

しかし「早く出勤する」ということは、定時まで働くことを前提に計算すると、本来の勤務時間より長くなるということになりますが、残業に比べて早朝出勤は厳しく管理されない風潮があるのも事実です。

今回はあやふやな認識になりがちな「早朝出勤と勤務時間の考え方」について解説します。

会社からの早朝出勤命令は「時間外労働」に該当する

まず、会社から早朝出勤・始業時刻前の出勤を命じられた場合には「(時間外)労働時間」に該当することは疑いないでしょう。

一方、「会社から明確に早朝出勤や始業前時刻出勤を命じられたわけではないけれども、始業時間に間に合わせるために着替えや始業準備を完了させるには絶対に●分前に出勤しなければならない」等の微妙なケースは、賃金が発生する(時間外)労働時間に当たるのでしょうか?

「始業時刻前の準備」が「労働時間」にあたると判断される3つの具体例

判例上、労基法上の労働時間に該当するかについてが、当該労働者の行為が「使用者の指揮命令下に置かれていると評価することができるか否かにより客観的に定まる」とされ、「(1)労働者の行為の業務性及び、(2)明示または黙示の指示(指揮)がある」ことを要件に、労働時間制を判断しています(最判平成12年3月9日民集54巻3号801頁)。

そのため、会社の都合で早朝出勤を命じた場合、会社は労働時間に応じた賃金を支払わなければなりませんし、残業規制にも引っかかることになります。また、明示的に命じなくとも、始業時刻から業務を行うためには準備が必要不可欠という場合には、黙示の指揮命令があるとして、労働時間を肯定していることに注意が必要です。

以下では、「(1)労働者の行為の業務性及び、(2)明示または黙示の指示(指揮)がある」の基準を前提に、具体的なケースにおいて労働時間該当性を個別に解説していきます。

1:始業時間までに「制服に着替えた状態で所定位置につく」必要がある場合

制服や作業着の着用が義務づけられ、かつ、着替えは事業所内の所定の更衣室で行うものとされたケースにおいて、上記判例は、(1)及び(2)を肯定し、着替えと所定場所までの移動時間は「労働時間に該当する」と判断しました。

同様に、鉄道の駅員が始業前ないし終業後に引継ぎ・準備として行う点呼(東京地判平成14年2月28日労判824号5頁)、始業前の朝礼時間(東京地判平成17年2月25日労判893号113頁)についても労働時間と認められています。

他方、入退門に要する移動時間、入浴、着替え等については業務性を欠いているとされ、社会通念上も入浴しなければ通勤が著しく困難といえる特段の事情がないとして、労働時間に該当しないとされたケースもあります(最判昭和59年10月18日労判458号4頁)。

2:勉強の一環として「1時間程度の早朝出勤」が伝えられている場合

新入社員が、業務にいち早くコミットするために、勉強の一環として「1時間程度の早朝出勤」が上司から伝えられているような場合はどうでしょう?

このケースは明らかに(1)及び(2)が肯定されますので、「労働時間に該当」します。

3:上司の出勤が早く「暗黙の了解」でその時間にあわせた出勤をしている場合

出勤後に実際に業務を行い、かつ、早朝出勤して業務を行わなければ人事査定上の不利益があるという場合には、「労働時間に該当する」といえます。

もっとも、ケースによっては、黙示の指示も認められず、単に自分の意思で早く来ているに過ぎない(そして早朝出勤しなくとも仕事は終わる)と判断される場合には、(1)または(2)が否定され、「労働時間に該当しない」ことも十分に考えられます。

例えば、単に朝早く来てメールチェックを行っているだけであれば、業務性は認められど「早朝出勤の必要性」や「指揮監督下にある」ことが否定されるでしょう。

「労働時間の概念」は広いため経営者は注意が必要

以上のように、経営者の方が思っているより「労働時間の概念」は広いです。

また、仕事が遅いから早朝出勤または残業をしているに過ぎないという理由のみによって「割増賃金を支給しない」ことは許されません。

他方で、スキルアップの意欲がなく業務命令に従わなかったり、勝手に早く来てタイムカードを切っているような場合には、一定の手続を踏んで割増賃金を支払わなかったり懲戒処分を行うことができますので、そのような行為を見つけたら、すぐに弁護士などの有資格者の専門家に相談したほうがよいでしょう。

いずれにせよ、迅速な職務遂行やいち早い成長のために、早朝出勤を活用するという会社も多いことと思います。しかし、「労働時間に該当する」ケースが多いため、あらぬトラブルを招かぬためにも、これを機に基準を認識しておくことをオススメします。

人気の記事