社労士が予想! 2021年注目の「人事労務トレンドワード」10選


新年明けましておめでとうございます。特定社会保険労務士の榊 裕葵です。2021年もよろしくお願いいたします。

2020年は新型コロナウイルスが猛威をふるい、私たちの生活に大きな影響を与えました。私たちの働き方にも、いやおうなしに大きな変革をもたらしました。2021年も新型コロナウイルスの影響を大きく受ける年になることは確定的ですので、まずは、これに関するトレンドワードをいくつかピックアップしました。

また、コロナ禍の中でも、法改正やデジタルガバメントの推進などは進められていますので、それらも交えながら2021年の人事労務トレンドワードを予測してみました。

※本稿に書かれている情報は2021年1月5日時点でのものです。最新情報については厚生労働省のWebサイトなどを参考にしてください。

(1)リモートワークの定着

2020年は新型コロナウイルス対応としてリモートワークが一気に広がりました。しかし、緊急事態宣言を受け、暫定的・一時的な対応という前提で導入を開始した企業も実務上は少なくなかったと思います。

目下、コロナ禍は長期戦の様相を呈し、2021年もリモートワークが推奨される環境が続きます。

「リモートワークを前提とした業務フローや社内インフラの再構築」、「就業規則や人事評価制度の変更」、「従業員の健康管理やモチベーション管理の在り方」など、2021年は、リモートワークを正式な社内制度として定着させるための取り組みが多くの企業で進められていく年になるのではないかと筆者は予測しています。

リモートワークが定着すれば、コロナ禍が解消した後も、リモートワーク制度は会社の財産として残ります

通勤による疲労の軽減、通勤時間が不要になることによるワークライフバランスの実現、災害やオフィスの停電等に対するリスクヘッジ、転居に伴う退職の防止、世界中から優秀な人材を採用できる可能性、福利厚生としてのワーケーション制度の導入など、リモートワークは多くの面で企業と従業員の双方にプラスの影響をもたらします。

将来的には、リモートワーク制度の有無で、採用における競争力や従業員定着率、ひいては、企業自体の競争力にも大きな差が生じるようになるかもしれません。

(2)コロナ禍対応助成金の動向を注視

雇用調整助成金をはじめ、コロナ禍に苦しむ企業を支援するための助成金制度は、2020年において多くの企業の支えになりました。

2021年も、差し当たっては多くの助成金制度が継続します。しかし、2021年3月以降は、雇用調整助成金が段階的に縮小されていく予定であることを含め、各種助成金の動向に注視が必要です。

助成金制度は従業員の雇用や生活を守るために是非とも活用して頂きたいものです。

しかし、経営者の方は、「助成金ありき」の経営に甘んじるのではなく、将来的に助成金が無くなっても経営自体や雇用を維持できるよう、助成金でキャッシュフローが回っているうちに、ビジネスモデルの再構築や、オペレーションの効率化によるコスト低減など、打てる対策を進めていただきたいと思います。

(3)出向の活用

コロナ禍の対応として、2020年は従業員を他企業へ出向させる事例が増えました。2021年もこの傾向は続きそうです。政府も、2021年からは、単純な休業に対する公的支援は縮小し、出向による雇用の維持に対する公的支援に重きを置く方針です。

代表的な例では、航空会社が挙げられます。コロナ禍で大きな影響を受けている航空会社では、客室乗務員をはじめとした従業員を、他企業へ出向させることで人件費の抑制を図っています。

出向先としてメディアで報じられているのは、ノジマ、KDDI、トヨタ自動車、パソナ、地方公共団体など多岐の業種にわたっていますが、航空会社から高いホスピタリティを持った人材を受け入れることで、受け入れ側の企業にとっても、単なる支援ではなく、様々な相乗効果が期待できそうです。

また、出向者本人にとっても、他企業で働くことで、気づきや学びも得られることでしょう。

出向のきっかけはコロナ禍であったとしても、出向元企業、出向先企業、出向した従業員本人、それぞれにとってメリットがあるとわかれば、コロナの有無に関わらず、出向は人材育成制度の一環として、定着していくかもしれません。企業間相互の交換留学のような取り組みも盛んになる可能性がありそうです。

(4)同一労働・同一賃金への対応

法改正関係では、やはり「同一労働・同一賃金」が2021年の重要なトレンドワードとなります。

2021年4月1日から、中小企業においても「パートタイム・有期雇用労働法」が適用され、本格的に同一労働・同一賃金の時代がスタートします

これに先んじ、2020年10月13日、15日には、最高裁で同一労働・同一賃金に関する重要判決が出され、今後の実務を進めるにあたっての指針が示されました。

10月13日の「大阪医科(薬科)大学事件」では賞与について、同日の「メトロコマース事件」では退職金について、10月15日の「日本郵便(東京・大阪・佐賀)事件」では諸手当および休暇制度について、それぞれ、同一労働・同一賃金に関する最高裁の考え方が示されました。

いずれも、正社員とパート社員の具体的な業務内容や責任の重さ等を詳細に比較し、賞与や退職金については正社員だけが支給対象になることに不合理は無いとして、会社側勝訴の判決が下されました。一方で諸手当や休暇制度については、多くの部分で労働者側が勝訴しました。

ただ、裁判は、個別具体的な事件に対する裁判所の判断ですから、前提条件が変われば、逆の判決が出る可能性もあるため注意が必要です。たとえば、正社員とパート社員の業務内容や責任の重さが近接している企業において同様の裁判が行われた場合には、賞与や退職金をパート社員にも支払うべきという判決が出るでしょう。

各企業は、2021年、「パートタイム・有期雇用労働法」や厚生労働省の通達、そして、最高裁の判決文を踏まえ、自社の就業規則や給与規程を見直して、同一労働・同一賃金への対応を進めていく必要があります

(5)70歳までの就業機会確保

同じく法改正関連で、2021年4月1日から、「高年齢者雇用安定法」の改正により、 企業に対して「70歳までの就業機会確保」を導入する努力義務が課せられます。

努力義務の選択肢としては、下記の7種類が想定されています。

  • (a)定年廃止
  • (b)70歳までの定年延長
  • (c)継続雇用制度導入(子会社・関連会社での継続雇用を含む)
  • (d)他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現
  • (e)個人とのフリーランス契約への資金提供
  • (f)個人の起業支援
  • (g)個人の社会貢献活動参加への資金提供

絶対的な義務ではなく、あくまで努力義務にとどまりますが、実務に対する影響は小さくはないというのが筆者の考えです。

公的年金の支給開始年齢の引き上げや、老後破産への不安等から、働けるうちは働きたい、と考えている人が増えてきます。従業員からそのような声が強まれば、たとえ努力義務であったとしても、企業としては何も措置を取らないわけにはいかないでしょう。将来、仮に公的年金の支給開始年齢が70歳まで引き上げられた場合には、努力義務が絶対的義務に変更される可能性も充分に想定されます。

同一労働・同一賃金により、再雇用者という理由だけで、不合理な差別も許されなくなります(責任の度合いが下がったことなど、合理的な理由に基づく処遇の見直しは可能)。

2021年は、これまで以上にシニア従業員への対応や処遇について考えていく必要のある1年になりそうです。

(6)男性育休の「義務化」

政府内で男性育休の「義務化」についての検討が本格化しています。早ければ2021年の通常国会で育児介護休業法の改正案として提案される予定となっています。

男性の育休は、現行法のもとでも本人から請求があった場合には、使用者は拒めないため、既に義務化をされているという見方もできます。この点、今回検討されている法改正に伴う「義務化」は、「育休の取得対象となる男性従業員に、個別に育休取得を促すこと」が企業に義務化されるということです。

男性も育休を取得できる権利が法的にはあると知っていても、職場の雰囲気で言い出せないことも少なくないのでは、という点を懸念し、今回の取得促進義務化が検討されています。

年次有給休暇について、取得しにくい雰囲気の企業があることを鑑み、働き方改革法で年5日間企業側に有給休暇を取得させる義務を課したように、「絵に描いた餅」になっていた労働者の法的権利について、実際に従業員が行使できる環境を作っていくことが、近年政府が重視している取り組みであると筆者は感じています。

なお、男性の育児参加に関連するトピックとして、2021年1月1日から、子の看護休暇および介護休暇に関し、時間単位での取得を認めることが事業主に義務化されました。男性の方も、この制度を活用して、子どもが急病になった場合に保育園に迎えに行ったり、病院に連れて行ったりなど、柔軟に活用してみてはいかがでしょうか。

(7)マイナンバーカードの保険証としての利用

2021年3月から、マイナンバーカードの保険証としての利用が開始されます。いよいよ日常生活の身近なところでマイナンバーカードの本格活用が開始されることとなりました。

マイナンバーカードを保険証として利用するメリットは、転職・結婚・引越ししても、健康保険証の発行を待たずに、保険者での手続きが完了次第、マイナンバーカードで医療機関や薬局を利用できる点です。

従来は、健康保険証の発行を待っている間、病院にかかったら10割負担をしたり、保証金を納付したりという負担が生じていましたが、マイナンバーカードがあれば、このような負担を回避できるようになります。

また、高額療養費についても、マイナンバーカードであれば、限度額認定証の発行を受けなくても、自己負担限度額以上の請求を受けることはありません。

加えて、マイナンバーカードを用いて、薬剤情報、特定健診情報、医療費通知情報を閲覧できるようにもなります。薬剤情報と特定健診情報は、患者の同意を得たうえで医療関係者へ提供することで、より本人にマッチした医療を受けられるようになります。

(8)マイナポータル経由の電子申請

マイナンバーカードと並び、マイナポータルも、人事労務担当者にとって2021年のトレンドワードとなるでしょう。

2020年11月から、マイナポータルのAPIを利用した健康保険組合への電子申請がスタートしました。

また、マイナポータルのAPIを利用したワンストップ型の電子申請も、行政側の対応準備が完了しています。このAPIを利用すれば、従業員の入社時や退職時に必要となる社会保険・雇用保険・住民税の手続きがワンストップで完結します。

ただ、2020年内には、このワンストップ型のAPIに対応する人事労務手続きソフトをリリースしたITベンダーは筆者が知る限りありませんでした。2021年には、ITベンダー側の対応も進み、ワンストップ型の電子申請が徐々に広まっていくのではないかと予想しています。

(9)行政手続きの印鑑レス

2020年12月22日に『基発1222第4号「労働基準法施行規則等の一部を改正する省令の公布等について」』が発表され、2021年4月1日より、36協定届をはじめとした、各種労使協定届について、「使用者の記名のみで足りる」とされ、労使双方の押印が不要となりました

また、就業規則の意見書についても、労働者代表の押印は不要となりました。

ただし、今回の改正により印鑑レスになるのは、あくまでも労基署に提出する「36協定届」などの「届出書」であり、労使協定書自体は、記名押印や署名など、労使の合意がなされたことがわかる形での締結が引き続き必要である点にはご留意ください。

なお、36協定に関しては、実務上は「協定届」が「協定書」を兼ねているため、わかりにくくなってしまっていますが、2021年4月1日以降も「36協定届」に「協定書」の役割を持たせる場合は、引き続き記名押印や署名が必要となります。

(10)社労士のIT化

HRテクノロジーの進化、デジタルガバメント対応など、昨今は人事労務業務のIT化が目まぐるしく進んでいます。

そのような中、社労士業界も本格的にIT化対応に動いています。筆者も2020年は複数の支部の研修会に講師として赴き、社労士がHRテクノロジーをどのように活用していくかについて講演をさせて頂きました。

多くの社労士がIT化に取り組んでいますが、企業側と顧問社労士で人事労務業務のIT化に対する温度感やスピード感に差異があったり、企業側で導入したいと考えているソフトと社労士側が使ってもらいたいソフトが異なっていたりなど、IT化時代だからこその問題も表面化しつつあります。

これからは、単純に人事労務手続きや給与計算を社労士にアウトソースするのではなく、HRテクノロジーやクラウドストレージ、ビジネスチャットなどを活用して、どのように最適な業務フローを構築していくのか、どのようにコミュニケーションコストのミニマム化を図っていくのかが問われる時代になっていくと考えます。

2021年以降、その動きは加速化すると思われますので、顧問社労士がいらっしゃる企業においては、是非、顧問社労士と今後のIT化の方針についてすり合わせておくと良いのではないでしょうか。

おわりに

以上、私なりに予想した「2021年注目の人事労務トレンドワード」を10選でご紹介しました。

リモートワークやデジタルガバメント対応で、2021年は人事労務担当者にとってIT全般を含め、HRテクノロジーに関する知識や取り組みが求められる年になりそうです。社内において人事労務部門とシステム部門の連携も重要になってくるでしょう。

そして、法改正関係では、同一労働・同一賃金対応が最重要テーマとなるのではないかと思います。

本稿が、皆様の会社における2021年の人事労務戦略の立案や情報収集のヒントとして、少しでもご参考になれば幸いです。

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東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。「社員から信頼される会社作りをサポートする」を経営理念として、顧問先の支援に当たっている。執筆活動にも力を入れており、WEBメディアへの掲載多数。
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