「キャリアアップ助成金」の概要。適用要件や支給額は?

2018.08.22 ライター: SmartHR Mag. 編集部

企業の成長には人材が必要不可欠です。企業では、正社員から、パート・アルバイト、派遣社員などさまざまな人材が活躍しています。

こうした人材の中で非正規雇用者が雇用先でキャリアアップを図っていけるようにする制度が「キャリアアップ助成金」です。当該従業員にとってキャリアアップの機会となると同時に、企業にとっても助成金で人材を確保・育成できるという点でメリットがあります。

「キャリアアップ助成金」の概要についてご紹介します。

そもそも「助成金や補助金」とは?

企業経営にとって、国や自治体から受給できる助成金や補助金は大きなメリットになります。

会社の資金調達方法としては「借入れ」もありますが、借入れは返済しなければなりません。

これに対し、助成金や補助金は返済義務がない点で、企業にとっては比較的利用しやすい資金調達方法です。

補助金・助成金には、まず国が支給するものがあり、経済産業省が実施しているものと厚生労働省が実施しているものの2種類があります。また、地方自治体も、地域の経済振興のために、中小企業に対する助成金や補助金制度を実施しています。

助成金や補助金を受けるためには、さまざまな手続きをして申請しなければならないので手間や時間はかかりますが、申請が通れば目的用途において大きな資金を受給することも可能です。

助成金・補助金の種類

まず、どのような助成金や補助金があるのかについてご紹介します。

助成金と補助金の違いとは?

補助金は、国や地方自治体から受給できる資金で、返済する必要がありません。ただし、予算の関係で要件を充足していても、受給できない場合もあります。

助成金も同じように国や地方自治体から受給できる資金ですが、「助成金は要件が合えば確実に受給できる」という違いがあります。

経済産業省による「補助金」

  • 事業承継補助金
  • 小規模事業者持続化補助金
  • ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金
  • IT導入補助金

などがあります。

厚生労働省による「助成金」

  • トライアル雇用助成金
  • キャリアアップ助成金
  • 雇用調整助成金

などがあります。

地方自治体による「助成金・補助金」

国だけでなく、地方自治体からも助成金・補助金を受けることができます。

たとえば、東京都の場合、

  • ホームページ作成支援事業補助金
  • TOKYOイチオシ応援事業
  • 次世代イノベーション創出プロジェクト2020助成事業

などが中小企業向けに用意されています。そのほか、「製品改良・規格等適合化支援事業」「新・展示会等出展支援助成事業 -販路拡大サポート事業-」といったものもあります。

「キャリアアップ助成金」とは?

様々な助成金・補助金があるなかで特に人事が注目したいのが「キャリアアップ助成金」です。

「キャリアアップ助成金」とは、有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用労働者(有期契約労働者等)のキャリアアップ等を促進する取り組みを実施した事業主に対して一定額の助成金が支払われるという制度です。

非正規雇用労働者の地位や処遇の向上などが課題となっているなか、こうした取り組みを積極的に行った会社を支援し、それによって非正規雇用労働者のキャリアアップを図ろうというものです。

具体的には、非正規社員の正社員への転換や、人材育成、賃金規定の改定、健康診断制度の導入などが評価されます。

キャリアアップ助成金の各コース

従来は「正社員化コース」「人材育成コース」「処遇改善コース」の3コースが設けられていましたが、平成29年4月から7コースに変更されました。

  1. 正社員化コース
  2. 賃金規定等改定コース
  3. 健康診断制度コース
  4. 賃金規定等共通化コース
  5. 諸手当制度共通化コース
  6. 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
  7. 短時間労働者労働時間延長コース

従来の「人材育成コース」については、建設労働者確保育成助成金の認定訓練コース及び技能実習コース、障害者職業能力開発助成金とともに統合され「人材開発支援助成金」となりました。

しばしば変更されるキャリアアップ助成金制度

キャリアアップ助成金制度は、厚生労働省が非正規雇用者の処遇改善・スキルアップなどを目的としてスタートした制度です。

この制度は、働き方の多様化をはじめとした社会の変化に対応して、内容が改定される頻度が高いため、適用要件などの細かいチェックが必要になります。

制度を効果的に活用すれば、コストを国に援助してもらいながら人材確保・人材育成等が可能で、企業成長に通ずるさまざまなメリットを享受できます。

キャリアアップ助成金の「適用要件」

「キャリアアップ助成金」の支給を受けるためには、さまざまな適用要件があります。

事業主の要件

厚生労働省の「キャリアアップ助成金のご案内(P.4)」(平成30年4月1日現在のもの)によると、支給事業主の要件は下記でございます。

  • 雇用保険適用事業所の事業主であること
  • 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主であること
  • 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた※事業主であること
    ※ キャリアアップ計画書は、コース実施日までに管轄労働局長に提出してください。
  • 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備している事業主であること
  • キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主であること

計画実施の要件

先述の通り、取り組みを実施する際には、各コースの実施日までにキャリアアップ計画を作成し、所轄の労働局長の受給資格の認定を受けることが必要です。また、キャリアアップ計画期間内で適切にキャリアアップの取り組みを行うことが求められます。

対象労働者の名簿、賃金台帳、出勤簿など法定帳簿を整備、保管することも要件です。

そして、キャリアアップ助成金を申請する際には、有期契約労働者等のキャリアアップに関するガイドラインに沿った「キャリアアップ計画」を作成・提出する必要があります。

助成金が上乗せされる「生産性要件」

ぜひ、覚えておきたいのが「生産性要件」です。

労働生産性を高める取り組みを行って、効果があった事業主に対し、一定額の助成金が上乗せされる制度になっています。具体的には、規程に沿って算出された生産性伸び率が要件を満たしているかどうかで判断されます。

今後人口減少が見込まれるなか、労働力不足が懸念されています。その労働力不足を補うために、積極的な取り組みを行って成果をあげた会社には助成金をより多く給付するという仕組みです。

具体的な要件は、下記をご覧ください。

出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内 – 生産性要件とは(P.9)」

これにより、たとえば、有期雇用労働者を正社員に転換した場合には、1人あたり57万円が支給されますが、その転換によって生産性の向上が認められる場合は72万円が支給されます。

中小企業には大企業よりも多く支給される

キャリアアップ助成金の特徴として、中小企業と大企業で支給額を変えている点が挙げられます。中小企業に該当するかどうかの基準は、たとえば、飲食店を含む小売業は資本金5,000万円以下または常時雇用する労働者が50人以下、サービス業は資本金5,000万円以下または常時雇用する労働者が100人以下などです。

具体的な「中小企業事業主」の範囲は、以下のとおりです。
(ただし、資本金等のない事業主については、常時雇用する労働者の数により判定されます)

出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(P.3)」

こうした中小企業であれば、大企業よりも多額の支給を受けることが可能です。たとえば、有期雇用労働者を正社員に転換した場合、中小企業であれば上記のように1人あたり57万円もしくは72万円が支給されます。

一方、大企業の場合は1人あたり42万7500円、生産性の向上が認められる場合は54万円の支給となっています。

キャリアアップ助成金「正社員化コース」とは?

「キャリアアップ助成金」にはいくつかのコースがありますが、まずは「正社員化コース」について紹介します。

正社員化コースの概要

正社員化コースは、有期雇用労働者や無期雇用労働者を通常の正社員に転換した場合や、短時間正社員・勤務地限定正社員・職務限定正社員などさまざまな形の正社員に転換した場合に助成される制度です。

助成額は下記の通りです。

出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(P.14)」よりSmartHR作成

正社員化コースの対象従業員

正社員化コースで対象となる従業員には一定の要件があります。

対象となるのは、

  • その事業所での雇用期間が通算6ヶ月以上の有期契約労働者
  • 雇用期間が6ヶ月以上の無期雇用労働者
  • 同一業務に6ヶ月以上継続して労働者派遣に従事している派遣労働者
  • 事業主が実施した有期実習型訓練を受講し修了した有期契約労働者

等です。平成30年4月にはさらに支給要件が2点追加され、

  • 正規雇用等へ転換した際、転換前6ヶ月と転換後6ヶ月の賃金総額を比較して5%以上増額していること
  • 有期契約労働者からの転換の場合、転換前にその事業主での雇用期間が3年以下に限ること

とされています。

また、1事業所が1年度に支給申請できる人数は、20人へと拡大されました。

このほかにも詳細な適用除外要件や、対象事業主要件などがあります。申請する場合には、事前にきちんと調べておくことをおすすめします。
(細かな要件は、「キャリアアップ助成金のご案内」P.14〜P.18をご覧ください。)

キャリアアップ助成金「賃金規定等改定コース」「賃金規定等共通化コース」

次に、キャリアアップ助成金「賃金規定等コース」「賃金規定等共通化コース」について紹介します。

「賃金規定等改定コース」の支給要件

賃金規定等改定コースでは、有期契約労働者の賃金規定を改定して基本給を2%以上増額させた場合に助成金が支給されます。助成金額は、対象となる有期労働者の範囲や人数によって異なります。

たとえば、すべての有期契約労働者を対象として賃金規定を改定し、基本給を2%以上増額させた場合に、申請した人数が1~3人であれば支給金額は9万5,000円です。生産性の向上が認められる場合には12万円となります。

出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(P.29)」よりSmartHR作成

一部の有期契約労働者を対象として賃金規定を改定し、基本給を2%以上増額させた場合に、申請した人数が1人~3人であれば支給金額は4万7,500円です。生産性の向上が認められる場合には6万円となります。なお、支給対象となる事業主や労働者には要件があります。

出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(P.29)」よりSmartHR作成

「賃金規定等共通化コース」の支給要件

賃金規定等共通化コースは、派遣労働者や契約社員などの有期雇用の労働者が正規雇用者と同じ内容の業務を行ったとき、正規雇用者と同様の賃金規定を適用した場合に支給される助成金です。

同じ仕事をしたなら雇用形態を問わず同じ給料を支払うというような賃金規定に改定した場合に適用されます。

受給は1事業所につき1回のみで57万円、生産性の向上が認められる場合には72万円となります。なお、支給対象となる事業主や労働者には要件があります。

出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(P.41)」よりSmartHR作成

加算額もある

賃金規定等改定コースで、3%以上の増額改定を行った場合や職務評価を導入した場合などは、一定額の加算が行われます。

すべての有期契約労働者等の賃金規定等を増額改定した場合は1人あたり1万4,250円、一部の有期契約労働者等の賃金規定等を増額改定した場合は1人あたり7,600円が加算されます。

また、賃金規定等共通化コースでは、共通化した対象労働者については、2人目以降、助成額が加算されます。

キャリアアップ助成金を利用する時のポイント

「キャリアアップ助成金」を利用する際には、いくつか重要なポイントがあります。

キャリアアップ計画について

まず、キャリアアップ計画の策定は慎重に行いましょう。キャリアアップ計画は、取り組みを計画的に実施するために計画の対象者や目標・予定期間などの概要をあらかじめ決めておくもので、いずれのコースに申請する場合でも必要です。計画を実施する前に作成して事前に提出しなければなりません。

注意しなければならないのは、この事前計画と実際に実施した内容が一致していない場合には、助成金の給付申請が通らないこともあるという点です。たとえば、事務的なパソコンスキルを育成するという計画を立てていたのに、全然違う研修を行っていると、いざ申請したときに却下されてしまいます。

キャリアアップ計画はあくまで最初の計画なので提出後に変更も可能ですが、その場合は都度ハローワークに「計画変更届」を提出しなければなりません。そのため、最初に、計画をきちんと期間内を通して考えて確実に実施できるように、慎重な策定が重要です。

必要書類を作成する

「キャリアアップ助成金」の申請には、実に多くの書類の作成・提出が求められます。正社員化コース、賃金規定等コースなどは、申請の際に、関連する規定を設けた労働協約や就業規則などを添付する必要があります。

つまり、助成金を利用して正社員採用を行おうとしたら、採用前に就業規則等を作成または変更し、労働基準監督署へ事前に届け出ておかなくてはならないのです。

たとえば、正社員化コースで正社員への転換を行う際の手続きを決めた場合は、当該内容の条項を就業規則に追加して、助成金申請前に届け出ておく必要があります。

なお、常時10人未満の労働者を使用する会社であれば、就業規則の実施に関する事業主と従業員全員の連署による申立書を添付すればよく、就業規則等の届出は必要ありません。

実施にあたっての注意点

実施に際しては、スケジュール管理の徹底が重要です。「キャリアアップ助成金」は、キャリアアップ計画書作成から実施、申請までに非常に長い期間が必要です。この期間に必要なプロセスをきちんと踏まないと、助成金を支給してもらえない可能性も出てきます。

たとえば、「正社員化コース」であれば、キャリアアップ計画を作成・提出し、就業規則・労働協約等に転換制度を盛り込んだものを届出、正社員への転換試験を実施し、正社員になった者に6ヶ月分の賃金支給を行います。そして、賃金支給から2ヶ月以内に助成金の支給申請を行わなくてはなりません。

そのため、助成金の給付を受けたいと考えるなら、最初にこうしたフローをしっかり把握して、スケジュール管理を行うことが重要になるのです。

複数コースを活用するのもアリ

「キャリアアップ助成金」の各コースは、複数コースを実施して各コースの助成金申請も可能です。

小さな会社でこれまで賃金規定や健康診断制度に関する規定などを作っていなければ、こうした規定を設けるだけでも助成金申請の可能性が広がります。

会社の業種業態や、社員の働き方の実情に合わせた仕組みを、複数のコースの中から選択して助成金を受け取れるのが「キャリアアップ助成金」のメリットです。

まとめ

キャリアアップをサポートし、企業・労働者ともに働きやすい環境を整える上で「キャリアアップ助成金」は重要な助成金となりえます。そのため、「キャリアアップ助成金」について正しく理解しておくことはとても大切です。

前述したように、この制度はしばしば改定され、要件についても細かな変更が行われています。活用を考える上では、常に最新情報をチェックするようにしましょう。

「キャリアアップ助成金」を実際に活用するためには、計画管理や届出、申請手続きなど手間がかかることもたくさんあります。手続きに不備があると申請が却下されてしまうこともあるので注意が必要です。

人材を育成し事業を大きく成長させていくためにも、「キャリアアップ助成金」を正しく理解し、必要に応じて正しく活用してはいかがでしょうか。

SmartHR Mag. 編集部

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