「どうして今、エンゲージメントが重要なのか」慶應義塾大学 山本勲教授×SmartHR 薮田対談

2020.09.24 ライター: 大久保志朗

近年、従業員のパフォーマンスアップや離職防止のために、エンゲージメント向上の取り組みが重要視されるようになってきています。しかし、まだまだ新しい領域ということもあり、事例が多く出回っていません。そのため、手探りで取り組みを進める企業担当者も多いのではないでしょうか。

そこで、SmartHR Mag.では、「従業員との信頼の築き方」と銘打って、エンゲージメントについての研究を進める大学教授や、エンゲージメント向上に務める企業との、シリーズ連載をスタートします。

インタビュアーは、株式会社SmartHR 執行役員 VPヒューマンリソース 薮田 孝仁。2011年から組織活性化や育成、採用などに取り組んできた経験をもとに、人事の方が気になるであろうポイントを深堀りします。

第一回となる今回の対談相手は、 慶應義塾大学 商学部で教鞭をとる山本 勲教授。

労働経済学を専門とする同氏に、アカデミックな視点から、エンゲージメントが注目されるようになった背景や、エンゲージメント向上によって期待される効果を語っていただきました。

そもそも「エンゲージメント」とは?

薮田:まずはじめに、最近よく聞く「エンゲージメント」という言葉の定義を山本教授の視点から教えていただけますでしょうか。

山本教授:私が研究しているのが「ワークエンゲージメント」と呼ばれる概念です。ワークエンゲージメントは、仕事と社員、あるいは、仕事と仕事をしている人の関係がどういう状態であるかを示すものです。一言でいうと「いきいきと働けているかどうか」で、「熱意」「活力」「没頭」の3つが、きちんと満たされているかどうかによって決まります。この3つが満たされないと、生産性が低下したり、メンタルヘルスが悪化したりする結果につながりかねません。

薮田:最近、「従業員エンゲージメント」といった言葉をよく耳にしますが、「ワークエンゲージメント」とは何が違うのでしょうか?

山本教授:明確な定義があるわけではありませんが、従業員エンゲージメントは、ワークエンゲージメントよりも狭い言葉だととらえています。ワークエンゲージメントが「仕事と社員、あるいは、仕事と仕事をしている人の関係」を指しているのに対して、従業員エンゲージメントは「働いている会社と従業員との関係」を指す言葉だと考えます。ワークエンゲージメントの中に、従業員エンゲージメントが包括されるようなイメージですね。

「大事にしたいKPI」の多様化によって、マッチングが重要に

薮田:エンゲージメントが高くなることで得られる効果にはどのようなものがありますか?

山本教授:企業と従業員、それぞれのメリットについてお伝えしますね。

企業側のメリットとしては、従業員の労働生産性向上や定着率向上、業績アップ、企業価値の向上などが挙げられます。従業員側のメリットは、仕事・会社への満足度向上や、健康増進、ワーク・ライフ・バランスの実現などです。

今の時代は、経済の成熟とそれに伴う価値観の変化により、企業から単純に金銭的報酬=給料をもらうために働くだけでなく、「ワーク・ライフ・バランスの追求」や「やりがいを持って働きたい」など、従業員の「働く上で大事にしたいKPI」が多様化してきています。このため、これまで以上に企業と従業員のマッチングが重要となってきており、マッチングがうまくいけば企業と従業員のメリットが出てくるわけです。そこで、よりよいマッチングを実現するために、まずは調査をしようということで、最近はエンゲージメント調査に力を入れる企業が増えてきています。

薮田:たしかに、今は1社で一生働く時代ではなくなってきていますもんね。だからこそ、マッチングが重要になってくると。エンゲージメントの良し悪しはどのような要素によって決定されるのでしょうか?

山本教授:エンゲージメント向上のためにはどのような要素が必要なのかをまとめた代表的な理論に「JD-Rモデル(Job Demands-Resource model)」があります。日本語では「仕事の要求度-資源モデル」と言われており、「仕事の要求度」と「資源」のバランスによってエンゲージメントが決まるという考え方です。

出典:厚生労働省「仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)とワーク・エンゲイジメントについて」

エンゲージメントは、求められる仕事のクオリティやスピードなどの「仕事の要求度」が高まると下がり、スキルアップや設備の充実、良好な人間関係などの「資源」によって上がると言われています。

仕事の要求度が高くなったとしても、上司のマネジメント力が高かったり、会社によるケアが行き届いていたりするなどの資源があれば、メンタルヘルスが良くなる、エンゲージメントが上がるなどの効果があります。

薮田:特にベンチャー企業には、仕事が好きでどんどん働きたい! という人が一定数いますよね。彼らのような従業員に対して、企業側が一方的に要求ばかりするのではなく、しかるべき「資源」を用意する必要があると。

山本教授:そのとおりです。資源を用意せずに、仕事の要求度ばかりが上がってしまうと、ワーカホリックになったり、燃え尽きてしまって仕事への意欲がなくなるバーンアウト状態になったりと、ネガティブな結果につながってしまいます。かつての日本企業のような、上司の言うことは絶対! といった文化の企業や、カリスマ社長が率いる小さい組織であれば、強いリーダーの言葉が資源になることもありますが、組織規模の拡大や人材の多様化に伴って、資源のあり方は問われていくでしょう。

「エンゲージメントサーベイ」で感覚に頼らず対策を図る

薮田:「仕事の要求」と「資源」のバランスが大事とのことでしたが、感覚だけでエンゲージメントを測ろうとするのはある程度の企業規模を超えると難しくなるのではないかと考えます。エンゲージメントを測るにはどのような方法がおすすめでしょうか。

山本教授:やはり、代表的なのは「エンゲージメントサーベイ」を社内で定期的に実施することでしょう。ある程度同じ内容の質問を用意して、月に1回、半年に1回など定点で従業員のモチベーションや職場環境などについて調査することで、変化がわかるようになり、データを元に改善のための施策が打てるようになります。

薮田:弊社でもエンゲージメントサーベイを実施していて、私も質問設計に関わっているのですが、質問の聞き方ひとつで捉え方が変わりますし、奥が深いですよね。たとえば「仕事は楽しいですか?」といった設問を聞き、「いいえ」と答えた人の回答理由は、なんとなく答えた人もいれば、「そもそも仕事は楽しむものではないから」という声もありました。質問設計の重要性を実感した出来事でした。

山本教授:日本人の場合、「内に秘めた活力」が美徳とされる国民性があるのか、海外と比較すると、ポジティブな質問をした時の回答スコアが低く出やすい傾向があるようです。一方で、ネガティブな質問については、あまり海外ともスコアが変わらない傾向があるようです。

このように、国民性によっても回答の傾向は変わるように、各企業の社風や男女比、年齢、新卒と中途の比率などの違いによっても変わります。自社にマッチした質問をよく考えて、本音を引き出すような設計をする必要があるでしょう。

薮田:質問を考えるとき、特に聞いておくとよい質問項目などはありますか?

山本教授:エンゲージメントに深く関わる「熱意」「活力」「没頭」の3つに関連した質問を1〜3問ずつ聞く方法はオーソドックスですね。他社や日本平均、海外平均との比較がしやすく、企業カルチャーが表れやすいので、抑えておくとよいでしょう。

薮田:質問の量についてはどれくらいが適正なのでしょうか。ついつい色々と聞きたくなってしまうのですが、多すぎると答えにくいですし、かといって少なすぎると、データが取りにくくなるような気がします。

山本教授:時間にして5分〜10分程度で答えられる内容がよいのではないかと思います。エンゲージメントサーベイに力を入れる企業であればあるほど、どうしても質問を多くしてしまいがちですが、100問の質問に毎月答えるのは簡単ではないですよね。質問一つひとつの答えやすさによっても、この辺りの所要時間や回答率、頻度についても変わってきます。

大事なのは「データを粘り強くウォッチして分析していくこと」

薮田:今までのお話をまとめていくと、まずはオーソドックスかつ従業員にとって回答時間がかかりすぎない質問をする。そして、運用の中で、質問内容や量、頻度をチューニングしていくということですね。

山本教授:その通りです。質問の内容にこだわるのはもちろんですが、重要なのは、得られたデータを粘り強くウォッチして分析していくことです。離職率が社内で課題なのであれば、それに関連した質問を設けて、データの変化を見て、打ち手を実行する。タレントマネジメントにも近い領域と言えるかもしれません。

薮田:例えば、離職率に課題がある場合は、ストレートに「転職を検討していますか?」と聞くパターンなどもあるのですか?

山本教授:ダイレクトに聞いた方が良い社風の場合、よくありますね。少し切り口を変えて「自分の会社を社外の人に勧めたいと思いますか?」と聞く企業もあります。このようにサーベイでいかに本音を引き出すかを工夫する必要があります。「サーベイにそもそも回答しない」というのも一つのメッセージかもしれません。ただし、質問は細かく変えすぎてしまうと、従業員が構えてしまう可能性があるので、その点には気をつけましょう。

薮田:勉強になります。本音を引き出せるような質問を設計し、粘り強くデータをウォッチし、最適な施策を打つ。

山本教授:その繰り返しですね。最近だとテレワーク環境になったことで数値にも変化が表れている企業が多いようです。エンジニアなど、テレワーク慣れしている人はエンゲージメントが上がり、初めてテレワークを経験する人は慣れていないため、数値が低めに出る可能性がありそうです。心身の健康面は仕事のパフォーマンスにも直結するので、テレワーク移行した企業の方は細かく調査してみるといいかもしれません。

薮田:山本教授、今日はありがとうございました! ぜひとも運用に活かしていきたいと思います。

山本教授:応援しています!

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大久保志朗

SmartHR Mag. 編集長。リラクゼーションサロン運営会社、デジタルマーケティング支援会社、フリーランスの編集者・ライターを経て2019年SmartHRにジョイン。カレーとインターネットをこよなく愛する。
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