社員約11万人の「生身の課題」を解決に導く。ソニーのエンゲージメントサーベイの裏側

2020.11.11 ライター: 大久保志朗

近年、「エンゲージメント」という言葉が人事領域においてよく話題に挙がるようになってきています。書店やインターネットでエンゲージメントに関する書籍、記事を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

本連載「従業員との信頼の築き方」では、株式会社SmartHR VPヒューマンリソース 薮田 孝仁が、大学教授や企業人事の方との対話を通じて、従業員と企業が高いエンゲージメントを築くためのヒントを探っています。

今回は、エンゲージメント領域やピープルアナリティクス領域で最先端の取り組みを進めるソニー株式会社に取材を実施。

ソニーのピープルアナリティクスチームで統括を務める橋本 征義さん、ダイバーシティ&エンゲージメント推進部のエンゲージメント&コミュニケーションGpで統括を務める岩﨑 千春さんに、ソニーのグローバルサーベイ導入の裏側や、サーベイ運用時のこだわりについて伺いました。

約6万人を対象としたサーベイの運用体制

薮田:はじめに、橋本さん、岩﨑さんの担当業務について教えてください。

岩﨑さん:主な仕事としてサーベイのオーナー部隊となるエンゲージメント&コミュニケーショングループを統括し、世界中にいる約11万人の従業員のうち約6万人を対象にエンゲージメントサーベイ「BE Heard」を実施しています。グローバルに展開し、データをもとに各組織で適切な対話とアクションに繋げられるように促進する役割を担っています。もう一つの仕事でソニーのタレント施策をグローバルに展開するタレントCoE(Center of Excellence)チームをリードしています。

薮田:対象が約6万人……! 想像がつかないほどの人数です(笑)。橋本さんはいかがですか?

橋本さん:私はメインの仕事がソニー本社の研究開発部門のグローバルHRビジネスパートの担当をしていて、もう1つの仕事で、本社のPeople Intelligence and Experience Lab (略称:PIEラボ)を統括しています。2019年の12月までは、岩﨑の前任としてダイバーシティ&エンゲージメント推進部に所属していました。

ソニー 橋本さん

薮田:いずれもデータ分析に関わる部署のような印象を受けたのですが、ダイバーシティ&エンゲージメント推進部とピープルアナリティクスチームでは、どのような役割の違いがあるのですか?

橋本さん:サーベイを通して行う分析や、そこから生み出されるエンゲージメント向上のためのアクションはダイバーシティ&エンゲージメント推進部が担当し、サーベイの匿名回答データを他の人事関連情報と結びつけて、分析していく業務をピープルアナリティクスチームが担当しています。

とはいえ、約6万人、人事だけでも300人ほど関わっている体制なので、分析はピープルアナリティクスチーム、アクションはサーベイチームと、はっきり分かれているわけではありません。エンゲージメント向上という共通目的のために、海外グループ会社含む30社ほどの人事と連携し、ワンチームで動いています

薮田:いずれもデータ活用に関して、各地の人事のハブを担うポジションなのですね。

グローバルサーベイの導入によって、社内のコミュニティ化が促進

薮田:そもそもソニーがサーベイ起点のエンゲージメント向上施策に力を入れるようになったのはいつ頃で、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

岩﨑さん:グローバルにエンゲージメントサーベイを導入したのは2010年で、それまでは各地域で独自のサーベイを実施しており、その頻度や指標は異なるものでした。各地域の人事責任者が集って議論する中で、中長期的に社員のエンゲージメントをグローバル共通の指標でとらえて、人事戦略や施策に結び付けていくことの重要性を確かめ合い、サーベイをグローバルで統一するプロジェクトが発足しました。

当初5年越しのロードマップで描かれた計画を大幅に短縮し、2010年から正式にグローバルサーベイが導入されています。

薮田:関わるステークホルダーの数や扱う言語の数も多いでしょうし、そもそも統一すべきなのか? といった議論もあったと思うのですが、どのような点を大事にして統一したサーベイを作っていったのでしょうか。

岩﨑さん:サーベイの統一に関しては、共通の目的として創業時から語り継がれるように、社員が高い貢献意欲と自主性をもって挑戦する、そんな組織風土を作ることで会社と個人が共に成長する構図を目指すことが根底にあり、その施策の一つとして合意をしていました

オペレーション上は、サーベイはすべての設問をグローバルで同じ内容に統一しているわけではありません。いかに地域やビジネスの特性を踏まえて柔軟性を持たせつつ、グローバルで把握したい情報をしっかりとキャッチするかのバランスを大事にしました。

ソニー 岩﨑さん

薮田:地域の特性に対応できる柔軟性を持たせつつも、グローバル共通で抑えたい情報はきちんと収集しているのですね。グローバルサーベイをはじめてから10年ほど経ちますが、何かポジティブな変化は生まれましたか?

橋本さん:これまで漫然と組織の課題と弱点を改善していこうという議論になっていました。サーベイとウォッチする指標をエンゲージメントに統一したことによって、エンゲージメント向上のために重要な要素に集中して「何かアクションを起こしていこう!」という機運が生まれるようになったことですね。

サーベイ自体ではなく、アクションによる組織開発が肝心

田:少し具体的な話にはなるのですが、サーベイを運用する上で大事にしているポイントはありますか?

橋本さん:現在は34問×21言語でサーベイを実施しているのですが、設問設計をする上で大きく分けて2つのポイントにこだわっています。

1つは「ソニーの大事にしている思想にあっているか」。ソニーの大事にしている考え方を、いかに感じ取ってもらえるかを意識しています。あと、ソニーの強みにしている多様性や、商品へのこだわり、技術へのこだわりなどについての質問は必ず聞いていますね。

もう1つは、グループ会社の経営者やマネージャーがアクションを取りやすいような設問にすることも心がけています。

薮田:具体的にはどういうことでしょうか?

橋本さん:例えば、同じ商品を同じ戦略で販売している会社がヨーロッパとアメリカにあったとします。サーベイをしてみると、片方の会社では「社内コミュニケーション上手くいっていない」という理由でエンゲージメントが下がっていたり、もう片方の会社では「権限移譲が上手くいかず、意見を言いにくい」こと理由で影響を与えていたりと、同じ商材・戦略でも課題は異なることが多いんです。

だからこそ、地域差や事業セグメントの違いなどの特性をふまえてデータを見られるように設計しています。いろんな切り口でた際に、各地域や担当領域、自分のチームの「生身の課題」がわかって、アクションを起こしやすいような設計にするのは大事ですね。

サーベイ対象の従業員は約6万人もいるので、中央値をとると、かなり抽象的でアクションの起こしにくい回答になってしまいます。やはり、サーベイをするのが目的ではなく、アクションを起こして、組織開発につなげるのが大事なので。

薮田:アクションが最も大事。サーベイを進める上で忘れてはいけないことですね。岩﨑さんはいかがでしょうか。

岩﨑さん:サーベイ結果を見ると、ついつい数値の解釈に時間をかけてしまいがちですが、一番大事なのはサーベイをきっかけに各組織において対話と改善アクションを継続することです。現在は調査終了後、即日からタイムリーに結果にアクセスすることができ、分析結果に加えて各マネージャーのスコアに応じて統計的にエンゲージメント向上に重要なアクション候補もクラウド上で提案されます。各組織における改善活動を支援するために、マネージャー向けトレーニングの実施やグローバルで集めた効果的な活動をサクセスストーリーとして社内で共有しています。

また、サーベイは継続的に実施することで、データの宝庫になるので、グローバルで集計されたデータをいかに有効活用して、戦略的に人事の施策につなげていくかもとても意識しています。

薮田:アクションの参考になる事例まで教えてくれたら、マネージャーや人事の立場としても動きやすそうですね。

今後は人事施策のパーソナライズ化が進む可能性も

薮田:最後に、今後世の中はどのように変化して、エンゲージメント向上のためのアクションはどのように変化すると考えますか?

SmartHR 薮田

岩﨑さん:最近は弊社でもデジタルネイティブやミレニアル世代が入社して、これまで以上に個々の価値観の多様化が進んでいます。また、新型コロナウイルスの影響でテクノロジーもますます進化していくと思っています

これまでは組織全体に対しての施策を打っていくことが多かったのですが、今後はよりパーソナライズされた人事施策を打てるような仕組みが大事になっていくんじゃないかと考えています。企業の価値観に共鳴した多様な個人に寄り添って、いかにして活躍してもらえるかが問われるのではないでしょうか。

橋本さん:エンゲージメントサーベイに関わる人には、データがわかるのはもちろん、組織開発の専門性や、経営と現場の両方がわかるバランス感覚が求められるのではないかなと。経営者やマネージャー、人事、従業員……あらゆるステークホルダーがやる気になるスイッチを押すスキルが求められていくと考えます。

関わるステークホルダーも多く、社会や組織の環境や課題意識が変わる中で、ソニーにとって大事なものってなんだろう?と考え抜くのは難易度が高いですが、多様性が活きる組織を実現するために、今後も丁寧に取り組んでいけたらと思います。

薮田:橋本さん、岩﨑さん、ありがとうございました!

SmartHR Mag. 編集長。リラクゼーションサロン運営会社、デジタルマーケティング支援会社、フリーランスの編集者・ライターを経て2019年SmartHRにジョイン。カレーとインターネットをこよなく愛する。
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