従業員の「無断欠勤」で会社に被害……従業員への損害賠償請求は可能?
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従業員が無断欠勤をしたために、新規出店が遅れたり、お店が開けられなくなったり、取引先から契約を打ち切られたり等、従業員の無断欠勤は会社にとって頭を悩ませる種になることがあります。
しっかりバックアップ体制がとれていれば良いのですが、なかなかそう上手くはいかないでしょう。
このような無断欠勤によって会社に大きな損害が発生したと考えられる場合、はたして従業員に対して発生した損害の賠償を請求することはできるでしょうか。
今回は、法的にも事実上にも難しい問題が生ずる無断欠勤を理由とする損害賠償請求の可否について解説したいと思います。
会社が主張する損害全額の損害賠償請求はほぼ認められない
結論としては、事実上立証が困難であるため損害賠償請求自体勝訴できる可能性は低く、また、勝訴したとしても、雇用関係・雇用契約の内在的制約があるため、会社が主張する損害全額の支払いを命じる判決となることはほぼないと言っていいでしょう。
まず、立証困難という点については以下の2つの問題があります。
- 損害そのものの立証
- 無断欠勤と損害との因果関係の立証
「1.」の損害については、無断欠勤により遠方から代わりの人員を配置した旅費交通費、人手が足りないため新たに採用・研修を行った費用等が発生すればそれは損害だと思うかもしれません。
しかし、上記のような場合は、会社の人員配置や採用についての労務管理ミスと見られてしまい、損害と認められない可能性が高いです。
「2.」の因果関係についても、無断欠勤した従業員が1人いなかったために売上げが何円減少したことを立証することはきわめて困難です。
その上、会社側が損害と因果関係を立証できた珍しいケースであっても、労働契約における解約の自由や報償責任の考え方、従業員の従属的地位などの雇用関係・雇用契約の内在的制約より、会社が主張する損害から減額されることが多くなります。
実際に裁判になった類似したケースも
無断欠勤のケースではありませんが、
- 期間の定めのない雇用契約においては、労働者は解約申入れから2週間で終了すること
- 労働者は会社に対する賃金請求権を失うことによって損害に見合う負担をしたものと考える余地のあること
- 実際上、従業員に支払うべき給与その他の経費を差し引けば実損害はそれほど多額とは言えないこと
等を理由として、損害額を減額した裁判例があります(東京地判平4.9.30労判616号10頁)。
会社は従業員を使用して利益を上げているため、利益の帰属主体に損失も帰属すべきであるという報償責任の考え方や、従業員の従属的地位からくる労使間の公平を図るという点がこのような判断の根底にあるといえましょう。
なお、無断欠勤の理由が上司からのパワハラや長時間の残業を強いられたことにある等、会社にも問題があった場合は、さらに損害賠償請求が認められづらくなります。
無断欠勤による損害防止・損害軽減方法
まずは、当たり前ですが採用段階で問題がありそうな人を採用しないことが重要になります。とくに、重要な業務を担わせる従業員を採用する際には、会社も採用段階の審査を厳しくすべきといえましょう。
また、2週間の解約予告期間は任意規定ですから、解約予告期間を1か月以上に伸ばすことにより、無断欠勤という雇用契約の債務不履行責任の追及期間を伸長することも可能となり得ます。
就業規則により、無断欠勤の場合に減給処分を行う旨を定めておくこともよいでしょう。
その他、労務管理を適切に行い、1人無断欠勤をしても業務が回るように適切な人員配置を心がけることも大事です。
会社側が適切に対応しても無断欠勤による損害が発生してしまったときは、訴訟コスト、新たに従業員を採用するコスト、企業イメージの低下の有無、当該従業員の支払能力等を考慮した上で、どうしても請求したいというときに行うという感覚を持ったほうがよいといえます。
なお、従業員の親族等の身元保証人への損害賠償請求は無制限に行えるわけではなく、3年ないし5年ごとに身元保証契約を更新する必要がある等、身元保証法上の要件を充たしている必要があることにも注意が必要です。
損害賠償請求を行う前に、適切な労務管理を
無断欠勤をした従業員に対して制裁を加えるために損害賠償請求をしたいという気持ちは理解できますが、現実的には、損害発生リスクの軽減や採用コストに力を入れる方が経済的合理性があるといえます。労務管理を行う方は、このことを覚えておいたほうがよいでしょう。
もちろん、従業員の側も、どうせ損害賠償請求など来ないだろうと高をくくっていると事案次第では自分や身元保証人に対する損害賠償請求が認められることもありますので、社会人として当然ですが無断欠勤は避けてくださいね。