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会社で起こりがちな「ハラスメント」シーン7つ。弁護士が徹底解説!

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こんにちは、弁護士法人ALG&Associate大阪法律事務所の長田弘樹です。

近年、パワハラやセクハラをはじめとして、ハラスメントにまつわる話題が後を絶ちません。どのような行為がハラスメントに該当するのか、各ハラスメントの概要は経営陣や人事担当者だけではなく、現場で働く従業員のみなさんにとっても重要な知識です。

正しい知識をつけることは、ハラスメント防止や、ハラスメント行為を見かけた際の正しい措置につながります。

そこで今回は、各ハラスメントの概要を紹介し、もしハラスメントの場面に遭遇した場合の対応について解説します。

ハラスメントの種類

ひとくちにハラスメントといっても、さまざまな種類が存在します。

以下では、具体的な内容を紹介します。 

  • パワーハラスメント(パワハラ)

パワーハラスメントとは、以下の1〜3の要件をすべて客観的に満たした言動を指します。

  1. 優越的関係に基づき、
  2. 業務の適正な範囲を超えるかたちで、
  3. 身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること

パワーハラスメントは、必ずしも上司から部下に対して行われるというものではなく、1〜3を満たす場合、部下から上司への行動もパワーハラスメントに該当するケースも考えられます。

  • セクシュアルハラスメント(セクハラ)

セクシュアルハラスメントとは、以下のように定義されます。

  1. 職場内においてほかの者を不快にさせる性的な言動
  2. 職場外において従業員がほかの従業員を不快にさせる性的な言動

セクシュアルハラスメントには、「対価型」「環境型」と2つのケースが存在します。

「対価型」は、加害者側の従業員による性的な言動に対して、拒否や抗議、抵抗した被害者側の労働者が解雇、降格などの不利益を被るケースです。

「環境型」は、従業員による性的言動により就業環境が不快な状態となり、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、被害を受けた従業員が就業するうえで看過できない程度の支障が生じるケースです。 

セクシュアルハラスメントは、異性間のみにおいて起こるわけではなく、被害を受ける人の性自認や性的指向にかかわらず、「性的な言動」であれば該当するとされています。

  • マタニティハラスメント(マタハラ)

マタニティハラスメントとは、男女雇用機会均等法によると、以下のように定義されます。

  1. 女性従業員の妊娠、出産、産前産後の育児休業請求
  2. そのほか妊娠、出産による育児休業
  3. 上記に対して、職場における当該女性従業員の就業環境が害される言動

妊娠や出産、育児休業などに起因する、解雇や減給といった不利益のある処遇は、育児・介護休業法違反となるケースがあります。

  • パタニティハラスメント(パタハラ)

パタニティハラスメントとは、男性従業員が育児休業、子どもの看護休暇、時短勤務などを希望したことや、これらの利用を理由として、会社の上司や同僚、部下などから嫌がらせを受け、職場の就業環境が害されることを指します。

  • モラルハラスメント(モラハラ)

現状、モラルハラスメントには正確な定義がありません。

ただし、厚生労働省が運営する「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト『こころの耳』」を参考にすると、“ある言動によって被害を受ける人の人格や尊厳を傷つけたり、肉体的、精神的に傷を負わせたりすることなど”と、表現されています。

  • カスタマーハラスメント(カスハラ)

カスタマーハラスメントには、企業や業界によって基準が異なるため、明確な定義は存在していません。

なお、厚生労働省作成の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によると、“顧客などからのクレームや言動において、要求内容の妥当性と照らして、当該要求を実現するための手段や態様が社会通念上不相当なものであり、当該手段・態様により、従業員の就業環境が害されるもの”とされています。

  • ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)

ジェンダーハラスメントとは、性別により社会的な役割が異なるという固定観念にもとづく嫌がらせをいいます。

「男性のくせに〇〇だ」「女性はこうあるべきだ」といった固定観念にとらわれた言動が典型例といえます。

  • アルコールハラスメント(アルハラ)

アルコールハラスメントとは、飲酒に関連した嫌がらせや迷惑行為、人権侵害行為を指します。

体質的にお酒が飲めない人に対する飲酒強要、お酒を飲めないことが理由の暴言などが典型例といえます。

  • エイジハラスメント(エイハラ)

エイジハラスメントとは、年齢や世代が違うことを理由とした、嫌がらせや迷惑行為、人権侵害行為です。

特定の年齢や世代であることを理由にして、相手が不快に感じる言動をした場合、エイジハラスメントに該当する可能性がありますので注意しましょう。

  • ソーシャルメディアハラスメント(ソーハラ)

ソーシャルメディアハラスメントとは、職場の人間関係を前提に、SNSを通じて行われる嫌がらせや迷惑行為、人権侵害行為を指します。

業務に関係ない事柄にもかかわらず、職場の人間関係を前提にしてSNSでの反応を強要することや、反応がないことに対して嫌がらせなどを行うことが、ソーシャルハラスメントにあたります。

  • ワクチンハラスメント(ワクハラ)

ワクチンハラスメントとは、ワクチンを接種しないことを理由とした、嫌がらせや迷惑行為、ワクチン接種の強要です。

新型コロナウイルス感染症に関するワクチン接種を背景に問題になりました。    

ハラスメントが適用される法律

ハラスメント行為に及んでしまった人は、どのような責任に問われるのでしょうか。

一般的に、ハラスメント行為を直接罰する法律はありません。各行為の性質から刑法や民法などの法律が適用されることになります。

刑事責任としては、以下の刑法適用が考えられます。

  • 身体的な傷害を伴うハラスメント:傷害罪(刑法204条)
  • 暴行を伴うハラスメント:暴行罪(刑法208条)
  • 強要を伴うハラスメント:強要罪(刑法223条)
  • 人の名誉棄損を伴うハラスメント:名誉棄損罪(刑法230条)
  • 侮辱を伴うハラスメント:侮辱罪(刑法231条)

一方、民事責任としては、被害を受けた人の名誉、尊厳、プライバシーといった人格権が侵害されたとして、不法行為責任(民法709条)の適用が考えられます。

これってハラスメント? シーン別、逆引き解説

本項では、「当人としてはハラスメント行為をしていたつもりがなかったが、相手からするとハラスメント行為に感じてしまう」、といったシーンを紹介します。

無自覚でやってしまっていた、代表的なシーンをまとめています。

シーン1「先輩従業員からのイジり」

常にハラスメントに該当するわけではありませんが、(1)優越的関係に基づいて、(2)業務の適正な範囲を超えるかたちで、(3)身体的もしくは精神的な苦痛を与える方法で行われた場合には、パワーハラスメントに該当する可能性があります。

また、イジりの内容に、性的な言動が含まれているような場合には、セクシュアルハラスメントに該当する可能性があります。

前提として、ハラスメント行為に該当しないとしても、内容によっては倫理的に問題になる可能性があるため注意しましょう。

シーン2「不特定の従業員対する、常習的な攻撃的言動」

パワーハラスメントは、特定の誰かに対する言動でなくても該当しうるケースがあります。常習的な攻撃的言動によって就業環境を害するような行為はパワーハラスメントに該当する可能性があります。

シーン3「同僚や部下に対する、しつこいメール送付や飲食への誘い」

断られているにもかかわらず、特定の人を執拗にデートに誘う行為はセクシュアルハラスメントに該当する可能性があります。

シーン4「採用面接時、結婚や出産予定の質問」

結婚や出産の予定は本来業務に関係しない事柄であるため、セクシュアルハラスメントに該当する可能性があります。

シーン5「飲み会の断りに対する『男らしくない』などの言動」

ジェンダーハラスメントや場合によってはアルコールハラスメントなどに該当する可能性があります。男性のくせに、女性のくせにといった言動は法律的にも、また倫理的にも控えましょう。   

シーン6「『君は〇〇世代だから~だね』などの言動」

特定の年齢層に対して固定観念的な意見を伴う言動は、エイジハラスメントに該当する可能性があります。悪意なく決めつけた言動をしてしまうことには十分注意しましょう。

シーン7「ワクチン接種が難しい相手に対する接種の強要」

ワクチンハラスメントに該当する可能性があります。明示的な強要のみならず、ワクチンの接種を暗に強要するような場合にも、ハラスメントに該当する可能性があるため注意しましょう。

ハラスメントの疑いがある場面にあなたが遭遇したら

もし、従業員がハラスメントを受けていると疑わしき場面に遭遇した場合には、どのような対応をすべきなのでしょうか。

ハラスメントを目撃した場合、まずは「いつ」「どこで」「誰が」「どのような行為」をしているのを見たのかを具体的に記録しておきましょう。正確に記録しておくことにより、その後の適切な対処が可能となります。記録の方法としては、録音やメモなどの方法で客観的な資料として残しておくことが望ましいでしょう。

記録したことの相談先や報告先は、大きく3つに分けられます。

相談・報告先1「同僚や上司」

ハラスメントを目撃したら、1人で悩まず、同僚や上司に相談しましょう。誰に相談すべきかは、内部の人間関係によって異なってきますが、同僚や上司などの協力を得ることでハラスメント行為が軽減されることがあります。

相談・報告先2「人事・労務課などの窓口」

同僚や上司に相談しにくいケースでは、人事・労務課などの窓口に相談するのがよいでしょう。会社には、職場環境配慮義務が課されているため、ハラスメント行為の相談により、適切な対処が期待できます。

また、会社には、相談した事実を理由に不利益な取り扱いを受けないための配慮が求められていますので、安心して相談してよいでしょう。

相談・報告先3「外部の相談窓口」

社内に相談窓口などがない場合や、社内窓口では問題が解決しなかった場合は、外部の相談窓口に相談することをおすすめします。有料、無料と相談窓口がありますが、無料のもとしては、厚生労働省「ハラスメント悩み相談室」のほか、各都道府県労働局「総合労働相談コーナー」などがあげられます。

ハラスメントは誰でも当事者になる時代

近年さまざまなハラスメント行為が問題視されるようになりました。

自身による無自覚のハラスメント行為や、思わぬハラスメント行為の被害を受けるなど、誰でもハラスメント行為の当事者になる時代です。「これはハラスメント行為に該当するのでは?」と疑問に感じたら、まずは周囲の同僚や上司、信頼できる人に相談してみましょう。

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