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もし「サマータイム」が導入されたら・・・? 想定される残業増加や従業員の健康リスク

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さて、外の空気にも時折、秋の気配が感じられるようになりました。とはいえ、今年の夏は本当に暑いですね。

「災害級」とも言われた酷暑のせいか、例年に増して今年は熱中症対策が話題になりました。

その中でも世間をざわつかせたのが、2020年の東京オリンピックの暑さ対策として提言された「サマータイム」導入の検討です。

日本でも過去に導入されたサマータイム

「サマータイム」とは、日照時間の長い夏の一定期間の標準時刻を1〜2時間程度早め、太陽が出ている時間帯を有効活用する目的で、主に欧米諸国で導入されています。

このサマータイムですが、実はかつて日本でも採用された歴史があります。第二次世界大戦後の連合国軍占領期にGHQの指導下で実際に導入されました。しかし、残業増加や生活リズムの乱れを引き起こすといった理由で国民の不評をよび、わずか4年間で廃止されました。

サマータイムによる「労務・勤怠管理」の影響は?

さて、現代日本でサマータイムが導入されるとなると、どういった影響が考えられるでしょうか。

今回は特に労務・勤怠管理への影響を考えてみます。

(1)残業時間の増加

まず第一に考えられるのは、先述のように、過去の導入時にも問題となった「残業時間の増加」です。

やはり長年染み付いた感覚で、外が明るいうちに退社することに抵抗を覚える人も多いでしょう。結局サマータイム導入前と同じくらいに日が暮れてから帰宅し、単純に労働時間が増えたという結果になりかねません。

日照時間を有効活用するどころか、かえって労働時間を伸ばしてしまうような本末転倒なことにならないために、労働時間管理の徹底が求められます。

(2)健康リスク

今回の提言では2時間繰り上げるとされており、徐々に就寝時間・起床時間を移行していくなどしなければ、サマータイム導入初日は睡眠時間が2時間少なくなることになります。

そっくりそのまま標準時刻が早まるので、出社時間などもそのまま早まります。9時出社なら本来の7時、8時出社なら本来の6時。出社のために6時起床していたなら本来の4時に起床するわけです。こう考えると本当に早いですね……。

そうなると、生活リズムが乱れ、体調を崩す人も出てくるでしょう。

実際に、様々な健康被害が危惧されています。

一般社団法人 日本睡眠学会の報告小冊子「サマータイム ― 健康に与える影響 ―」では、下記の3つの影響をまとめています。

1. 生体リズムへの影響

2. 眠りの質への影響

3. 眠りの量への影響

更に、同報告書では、

ロシアが時刻変更を中止した理由は健康被害です。夏時間への移行時に救急車の出動回数が増え、検証の結果、心筋梗塞患者が増加していたのです。

スウェーデンからは医学論文として「夏時間開始時期と終了時期における心筋梗塞の発症頻度に関する研究」が2008年に発表されています。結論は「夏時間が始まる春には心筋梗塞が増え、夏時間が終わる秋には心筋梗塞は減る」でした。

とも記されており、単なる生活リズムの乱れだけではなく、もっと深刻な健康への影響を示唆しています。サマータイム制においては、従業員の生活リズムの乱れや、そこからくる体調不良についてもケアする必要が出てきそうです。体調不良時は熱中症にかかりやすいとも言われるため、十二分に注意すべきでしょう。

※ 参考:一般社団法人 日本睡眠学会「サマータイム ― 健康に与える影響 ―」(2012年3月発行)

(3)システムトラブル

最もデメリットや問題点を指摘されているのがシステム関係のトラブルです。

企業で使用している業務、財務、人事給与等のITシステムなどは、時間を基準に動作しているものがほとんどです。そのため、標準時間を2時間繰り上げるとなると、これらのシステムの改修、デバッグが必要となります。特に古くから利用しているシステムの場合、どのような不具合が生じるか未知数です。

これらのシステム改修を担うエンジニアの業務量も当然増加が予想されます。現にサマータイムの導入に否定的な声が多く聞かれています。

 

このように、メリットよりも、不確定要素やデメリットの方が多く聞かれる「サマータイム」。

単に、オリンピック競技の暑さ対策といった目的だけで、国民の理解を得て導入を進めるのは、なかなか難しいのではないでしょうか。

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